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15-7 エリーゼとの初めての朝

まったりドッキリのデイタイム!


運営からの指摘により、改稿を施しました。

 目が覚めると、至近距離にエリーゼの笑顔があった。見慣れた、透明な子供のような笑顔だ。


「おはようございます、アンリさん」


「おはよう、エリーゼ。よく眠れた?」


「はい、とてもよく眠れましたわ。だって、お腹がすいてしまってますもの」


 それは昨夜の運動のせいではないかと思うのだが、それは言わないでおこう。


「じゃあ、食堂に行こうか。何か作ってくれるかもしれない」


「大丈夫です。まだ朝食の時間のはずですわ。わたくし、夜更かししても寝坊はしたことがありませんの。さアンリさん、起きてくださいな」


 エリーゼはシーツをサッと抜き取って身体に巻くと寝台から跳ね起きた。ときどき体育会系の子だ。そして寝室からぼくを追い出す。そしてようやくぼくの頭がはっきりしてきたころ、身なりを整えた彼女が現れた。初めて見る普段着姿のエリーゼはいつもよりも活発に、そして……どこかエロく見える気がした。




「ヒヒヒ、今朝はもっと遅いお起きかと思ってましたよ~。目にクマとかできてませんか~」


「おはようございます、ナターリャ様。昨日はご出席ありがとうございました」


 下品な一発をかましかけたナターリャにエリーゼが素直な挨拶を返し、ナターリャが「およ?」という表情を浮かべる。そして給仕の使用人に声をかけ、厨房の手前で調理人たちと話している彼女を見て、コソコソとぼくのそばにやってくる。


「なにがあったんでしょうか~? エリーゼちゃんは下品なギャグには過剰に反応する初心な子だったはずなのですが~」


「なにがあったもなにも、普通に初夜を過ごしたという他には特に?」


 この人に対しては、このあたりをまわりくどく話しても意味がない。ストレートに返すのが吉だ。


「だとすると、それが原因だとしか思えませんね~。それにしても、一夜にしてものすごい変化です~。ちょっとした動きから溢れる色気といい、肩から力が抜けた自然な雰囲気といい……ああ、姿勢が変わってますね~」


「姿勢が?」


「エリーゼちゃん、いつも無意識にあの胸が目立たないように気を使っていたんです~。でも、今日のあの子にはそんな気づかいを感じません~」


「エリーゼはいつもピンとした姿勢だったと思いますけど?」


「アンリさんもまだまだですね~。エリーゼちゃん、心のどこかで胸を突き出しているように見えるのが怖くて、いつもほんの少しだけ背筋が伸びきっていなかったんですよ~。それに、人前で揺れないように注意してましたしね~」


 すげえ観察眼だな、ナターリャ。たしかに、昨夜エリーゼは自分の胸を「好きになることに決めた」と言った。そのあたりからの変化だろうか? 目立たないような気配りをしなくなった……。いや、むしろ好きな部分として積極的に主張すら……。


「よほど激しく胸を責めて悦ばせたんでしょうね~。で、嫌いな部分が好きな部分になったと~。どうなんですか~?」


 くっ、なんという洞察力だ。おおむねポイントを押さえてしまっている。


「ろ、論評は差し控えます!」


「二ヒヒ、まあいいです~。いずれにせよ、これでエリーゼちゃんの兵器としての危険度は跳ねあがりましたね~。男を知ってなお清らかさを失わないベアトリーチェちゃんと、押し隠していた色気が噴き出したエリーゼちゃん。独り占めに対する風当たりは強いと思ってくださいね~」


「なんのお話ですの?」


 ぼくとナターリャは声に反応して同時に背筋をピクンと伸ばした。


「あ、いや、ナターリャが今朝のエリーゼはいちだんと綺麗だって」


「え、あの、ありがとうございます。でも自分ではわかりませんので、そのようにおっしゃられても戸惑ってしまいますわ」


「なにをしていたの?」


「厨房のかたにご挨拶と、この家でのお仕事の流れを伺ってましたの。勝手なことをしてご迷惑をかけてはいけませんし、ベアトリーチェさんが気をつけていらっしゃることがあれば、それを台無しにしては申しわけありませんから」


 ううむ、ぼくは厨房のみんなと、食事の好みについてのコミュニしかとっていないというのに、なんという気配りだ。


「アンリさんも見習うといいです~」


 あんたもな!




 ぼくは朝食のあと、エリーゼが家の使用人すべてに挨拶に回るのにつきあった。丁寧な接し方と柔らかい物腰にみな好感を持ったようだ。自分にこれが出来るか、非常に不安になるとともに、自分が貴族の子供としてけっこう甘やかされて育ったことを実感する。


「良いかたばかりで、とても嬉しいです。わたくしもここでの暮らしに早く慣れなければいけませんわ」


 使用人まわりを終えて二階のラウンジでロジェにお茶を出してもらう。


「みなエリザベート奥様をお支えすることを楽しみにしていますよ。なんでも気楽にお言いつけください」


「お、奥様……そうですわよね……。不思議な気がしますわ。ついこの間まで学院でお友達と話して、学んで、剣を振って、の生活でしたのに。頑張らなきゃいけませんわね」


 もはや定番ポーズの「こぶしを握ってムンッ」がでた。これをやると少し子供っぽくなるところが可愛いのだ。


「エリーゼは立派に切り替えていると思うよ。ぼくなんか、あまりに立場が変わりすぎて切り替えるのをあきらめちゃってる感じ。昨日まで、本当にベアトリーチェに頼りっぱなし。情けないったら……」


「ベアトリーチェさんと並んでいるアンリさん、お似合いで素敵ですわよ。わたしもああいうふうに見えるようになれば……あら、そういえばベアトリーチェさんは?」


「ベアトは何日か実家に戻るって言っていたけど……ロジェ、なにか聞いてる?」


「はい。ベアトリーチェ奥様からは、一週間ほどはおふたりでゆっくり過ごして欲しいと伝言を承っています。ローラさんも同行しております」


「そんな……ベアトリーチェさんにそこまで気を使わせてしまって、申しわけありませんわ」


 エリーゼはシュンとした表情になる。身体全体が小さくなったような気がするのは、全身で感情表現をする彼女のクセが変わっていないと言うことだ。変わっていないところがしっかりとあってちょっと嬉しい。


「そういえば、ベアトリーチェは聖騎士団への出仕は?」


「一週間お休みを頂いていたのですけど、昨日お父様から、もう十日くらい休むといいと言われて……身体が休みになれてしまわないとよいのですが……」


 それは、例の件の余波を考えてのことだろう。戻るまでに騒ぎの芽を潰す、ということか。まったく、ぼくってヤツはまわりの人におんぶにだっこだな。ぼくもカデルたちを使って要注意人物をピックアップしておくとしよう。


 ただ、それなら一つやっておきたいことがある。


「ロジェ、ベアトリーチェに伝言をお願い。三日ほどエリーゼと過ごさせてもらう、と。それと、そのあと一週間ほどぼくにつきあって欲しいってつけ加えて。二人を連れて行きたいところがあるんだ」


「かしこまりました」


「アンリさん、どこに行くんですの?」


「一緒に領地に帰ってみようと思ってさ。エリーゼはまだシャルロット様には会ってないよね? ベアトも妻としては初めてになるし、いい機会だと思うんだ」


「素敵! いちどお邪魔したいと思っていましたの。こんなに早くうかがえるなんて!」


 いちどは二人を連れて里帰りをする必要があるから、時間のあるときにやってしまうのがいい。それに、アレックスくんの様子を見ておきたい。


「それから、剣の稽古はぼくでよければ少しつきあうよ。逃げまわるくらいは出来るから」


「嬉しい! ローラさんが『昔、アンリに逃げまわられた』と不満をおっしゃってましたわ。いちどお相手をお願いしようと思ってましたの。今すぐよろしい? 着替えてきますわね」


 うわ、でた、体育会系エリーゼ。呼び止めようとしたときにはすでにラウンジから姿を消していた。




 庭の一角の木に囲まれた広場のような場所で、ぼくはエリーゼと半時ばかり剣を合わせた。結論から言えば、いいのこそもらわなかったが、防戦一方だった。入団二ヶ月弱で「見習い」がとれる逸材相手によくやったとも言えるが、妻を相手に逃げまわったという言いかたをするとかなり格好悪い。


 言い訳をすれば、着替えてきたエリーゼがヤバかった。下は膝下までのレオタード、上はスポーツブラのようなものの上に丈の短いTシャツもどき。動くと揺れるわ、おへそは見えるわ、太腿はむっちりだわで剣どころじゃない。こういう恰好をためらいなくするところが、また体育会系だ。最近けいこ不足のぼくはただひたすら凌ぎ続け、ついにへたり込んだ。


「降参。さすが 聖騎士さまだ」


「アンリさんは、すこし鍛錬不足ですわね。でも、それでわたしが勝ちきれないのですから、すばらしいと思いますわよ。またお相手くださいませね」


 初めてまともに見るエリーゼの剣は綺麗で巧みだった。基本は練習用に殺気のない攻撃をしてくるが、ときおり実戦的な一撃を織り交ぜてくる。剣に関する限りはローラやシャーリー王女に一歩譲るし、リシャール相手だと力で押しつぶされるだろう。だが、間違いなくその三人よりも魔法の素養が高いエリーゼは、ひょっとしたら総合力でこの三人を……上回りはしないかもしれないが、並ぶのではないか。




「アンリさん、ゆうべわたしに腕枕をしてくださいましたわね? お返しをさせていただいてもよろしい?」


 エリーゼはへたり込んだぼくの横に少し横座りの感じで腰を下ろし、自分の太腿に手をあてた。もしかして……そこをぼくに貸してくれるというのだろうか?


「いいの?」


 エリーゼは上気した頬をもう少し染めてコクンと頷いた。


 ぼくは身体を横に倒して彼女の太腿に頭を乗せ、ホゥッと息をついて目をつぶって感触を愉しむ。固すぎず柔らかすぎずの絶妙なさじ加減だ。エリーゼがぼくの頬を撫でるタッチも心地よい。ぼくはお礼を言おうとして彼女を見あげる。が……見えなかった。


(うわお……)


 上方はTシャツもどきの生地が完全に隠してしまっていた。そして、ぼくの目にはその下のスポーツブラみたいな肌着に包まれた胸部装甲が丸見えである。かすかにこもった汗の香りが彼女の花のような香りに混じり、かなりヤバい。





 この日、鍛錬につきあうといいこともあるということ、また、エリーゼは持っていきかたによっては野外もアリだということが明らかになった。非常に大きい収穫だった。ゲームでフラグを立てるって、こんな感じなのかね。



お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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