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15-6 エリーゼとの夜

ついにエリーゼがアンリと夜を過ごします~。


運営からの指摘に従い、改稿を施しました。

 ベアトは例の件についてもう少しニスケス侯爵と話すとかで、侯爵夫妻と一緒に実家に戻っていった。これはもちろんぼくとエリーゼを思っての口実だ。ローラもベアトがいないという理由で拠点の方に行っている。これもまた彼女の気遣いだ。ぼくとエリーゼは三階のラウンジで彼女の侍女であるニーナがリュミエラとともに淹れてくれたお茶を頂いている。お茶をセットしたあと、空気を読む達人であるリュミエラはニーナを促して早々に部屋に下がってしまった。


「ベアトもそうだったけど、エリーゼも堂々としていて、ほんとうに『主役』という感じだったよ。自然にああいう感じでふるまえるのはすごいな。子供の頃から場馴れしてるから?」


「ベアトリーチェさんに比べたら、わたくしなどまだまだですわ。今日も、ベアトリーチェさんがいてくださったからこそ自分をしっかり保つことができたようなものですの。これからおそばでしっかりと学ばせていただかなければ、と思ってしまいました」


 エリーゼは品の良いしぐさで口元にカップを運ぶ。少し頬は赤いが、表情は大人サイドの彼女だ。たしかに、社交の場における降るまいにおいてはベアトに一日の長があるかもしれない。だが、それはSとAプラスの違いくらいである。騎士としての彼女の力を加算すれば、総合力ではむしろエリーゼが上回るかもしれないのだ。


「エリーゼはエリーゼだよ。自分でもそう言っていたじゃない。ベアトと同じことをする必要なんかないさ。ベアトだってエリーゼの代わりなんかできないんだから」


「アンリさんにそういっていただけるのはほんとうに幸せ。でもそれに甘えていては、いつか嫌われてしまうかもしれませんもの。ベアトリーチェさんのすばらしさを間近で見ると、自然とそう思ってしまいますの」


「その前に、ぼくが呆れられないよう頑張らなきゃね。今日も、エリーゼを助けていたのはいつもベアトだったし」


「そんなことは……。アンリさんはいてくださるだけでわたしを支えてくださってますもの」


 これだけまっすぐに気持ちが向かってくるのは、普通はちょっと重い。エリーゼのすごいところは、独特の存在感でその重さが心を浮き立たせる高揚感に変換されてしまうところだ。エリーゼに見つめられると目がそらせない。そして、目をそらさなくても圧迫感を感じない。心地よいだけだ。


「エリーゼ、隣に座っていい?」


 エリーゼはコクンとうなずいた。頬は赤さを増している。


 ぼくが彼女に触れるか触れないかの位置に腰を下ろすと、エリーゼが躰を寄せてくる。彼女は昼に招待客たちを魅了したドレスのままだ。薄手の生地を通して彼女の腕から体温が伝わってくる。インフルエンザの患者かと思うぐらいに熱い。手を握るとすぐに指を絡めてきて、そのままぼくの手を胸におし抱く。手の甲にダイレクトに胸部装甲を感じる。動かせずに固まっていると、彼女のほうからぼくの手を胸に押しつけた。ホゥッという吐息が聞こえる。




「アンリさん……わたくし、アンリさんにわたくしの淹れたお茶を差し上げたいのですけど、よろしい?」


 短くない沈黙に続いて、エリーゼが俯いたままその言葉を口にした。教会に深く帰依している人々にとっては、初夜は新婦から誘いを受けることによってはじめて迎えられるものだ。人によっていろいろ言いかたは工夫したりするらしいが、いまのエリーゼの言葉は、部屋に来て、という意味であろう。


「いただいていい?」


 エリーゼはコクンと頷き、ぼくの手をいちど離し、あらためて片手をぼくのほうに差し出した。ぼくは立ってその手を取り、彼女を立ち上がらせる。ぼくたちは手をつないだままで彼女の部屋に向かった。




「いただいたこのお部屋、とても気に入っていますの。とても使いやすくて、まだ二晩めなのに以前から自分の部屋だったような気がしますわ」


 エリーゼは手際よく湯を沸かしてお茶を淹れながら、はにかみ笑いでそう言った。


「気に入ってくれて良かったよ。聞いたと思うけど、この三階には使用人でも限られた人しか入れないようになっているから、羽根を伸ばして過ごすといいよ」


「うれしいです! わたくし、本当は枕が変わると寝られないくらい、知らない場所で過ごすのは苦手なんですの。実は、枕だけはいつものを……」


 肩をすくめながら笑うエリーゼは、それでも手を止めることなくお茶を淹れ終え、ぼくの前にそっと置いた。


「どうぞ、召し上がれ」


「すごく手際がいいよね。おしゃべりしながらでも全然手が止まらないんだもの」


「お茶は大好きなのです。いつも自分で淹れていただいてますの」


 そう笑ったエリーゼを隣にいざなうと、彼女はスッと静かに座り、ぼくのほうにもたれてきた。体重を感じながらお茶を頂くと、香りも味わいもすばらしい。


「すごくおいしい」


 そう言ってぼくはカップをエリーゼに差し出してみた。すると彼女はカップに手を添えて一口飲み、ぼくのほうに押し返してきた。同じ場所から一口飲んで彼女を見ると、いつもの子供に戻ったような笑顔ではない、蕩けたような笑顔でぼくを見る。そしてカップを取って卓の上に置き、ぼくの頭を抱き寄せた。






「これが……ひとつになるということなのですね……」


 まだ少し荒い息を懸命に整えながら、ぼくの腕の中のエリーゼは笑みを浮かべながら呟いた。これもいつもとは違う、妖艶さも感じる笑みだ。この子はいったいいくつの表情を持っているのだろう。


「つらかった?」


 ぼくの問いにエリーゼは首を振って、ぼくの胸板に指を這わせる。


「わたしも……その……最初はつらいと伺っておりましたの。でも、全然……。きっと、アンリさんのおかげなのですわね」



「エリーゼが頑張ったからだよ」


 そう、エリーゼは頑張った。いじめとも言えてしまうほどしつこいぼくの愛撫を、時には半狂乱になりながらもすべて受け止めた。


「あの……でも……恥ずかしいですわ。ずいぶんとはしたない声を出してしまったでしょう? 自分でも驚いてしまいましたの。でも、止められなくて……。軽蔑なさった?」


「とんでもない。すごく可愛かった。ぼくしか見られないエリーゼを見るのは嬉しかったよ。誰にもみせちゃダメだからね」


「絶対に見せませんわ! ひどい、アンリさん……」


 エリーゼがプイッとそっぽを向き、ついでにぼくに背中を向けた。僕は背中越しに彼女を抱きしめた。






「アンリさん……」


 エリーゼはぼくに背中を向けたまま手を伸ばして指をぼくの頬に這わせる。少しのあいだ気を失っていた彼女は、意識を取り戻すとすぐに顔を背け、後ろを向いてしまったのだ。


「アンリさんはわたくしをどうしてしまうのかしら……?」


「ぼくはエリーゼを愛しているだけだよ?」


「だって……わたくし、この部屋に入る前の自分と違いすぎますの……。殿方とのことに興味がなかったわけではないのですけれど、そういうことって、黙って殿方に包まれていればよいものだと……。なのに、あんなに……恥ずかしくて消えてしまいたい……」


「消えたらぼくが困るよ。それに、求めてくれるって、嬉しいんだよ? 『好き!』と言ってくれたときにぼくがどう反応したか、繋がっているときに感じなかった?」


「え……その……ピクッと……わたしの中で……あ、いやだ! なに言ってるの、わたくし!」


「そういうこと。だから、もっと素直になってもいいんだよ」


 ぼくは後ろからエリーゼを抱き締めた。



《この部分改稿中》



 いまひとたびの嵐のあと、息を整えたエリーゼが眠りに落ち、そしてまもなく窓からは朝の光が差し込み始めた。



お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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