表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/205

14-4 アッピアの歴史の謎

吟遊詩人の歌と病んだアッピアの謎の関係は……?

 拠点のための物件は、ロケーションについてのペドロの助言もあってわりとあっさりメドがついた。活気がない国の繁華街の常で、パッとしないわりに周辺部は治安があまりよくない。顔役の力が低下して街に対するグリップが弱まっているからだ。そこで、あえて下町の中心部に目を向けてみると、家の主が商売をたたんで去って行ったために空き家になっている手頃な物件を数件ピックアップできた。


 ペドロの意見も取り入れて、その中の一つに決める。そこから先は、実際にそこを管理してくれるというペドロの考えを充分に踏まえなければならない。ぼくの勝手な意見で混乱させてもよくないので、彼の思うとおりにやってもらうことにする。


「要するに丸投げってことですよね!?」


 ちょっとだけペドロがキレた。なぜだろう?




 拠点探しが意外とあっさりメドがついたので、これもペドロに思いどおりにやってもらうつもりだった王太子関連の情報収集に手をつけることにした。決してペドロから、そっちの丸投げは勘弁してくれとか、せめて道筋をつけていってくれとか言われたからではない。


 王道である酒場での聞き込みから始めてみると、ボルダンでペドロが言ったとおり王太子の評判は悪くない。というより、いまの王の受けが悪い。奢る酒の量を増やしてみると、ちょっと耳寄りな話が出てきた。


「先代が人族至上主義とやらにこだわるようになってから、すべてが悪いほうに転ぶようになっちまったんだ、この国は……」


 べろんべろんの酔っ払いのじいさんは、呟くようにそう言うとテーブルに突っ伏した。




「あの吟遊詩人の歌が真実だとして、先代の王が森人族との関係を壊したとすると、先々代まではよい関係が築かれていた、ということだね。ベルの言う『百年くらい前』は、その先々代の若いころにあたる。森人族とのロマンスがあっても不思議じゃないし、森人族が王との親密な関係から国の防衛の強化に協力したと考えると、話がいろんなところで符合してくる」


「そこまで国がうまくいっていたのなら、先代はどうしてその関係をぶっ壊したんでしょうね?」


 ペドロの疑問は当然だ。時間が長く空いていたならともかく、先代は先々代の統治を見ていたはずなのだ。


「自分の前の王と同じことをしたくなかった、なんて単純なことじゃないよね?」


 ローラも考えこんでしまっている。


「うん。森人族との関係は、すべてではないにせよ、先々代の統治がうまくいっていた一つの要因だったはずだよね。同じことはイヤだ、というだけで、それを捨てるだろうか? ぼくは捨てないと思う」


「先々代と同じ相手を好きになって、手ひどく拒絶されて、とか……」


 一瞬の静寂のあと、みながいっせいにベルメイリアを見た。


「な、なによ!?」


 みなの無言を見て、ぼくは代表して共通見解を伝える役割を負った。


「ベル、きみ、意外と女の子だよね?」


「意外ともなにも、わたしは女の子だってば!」


「そ、それはいいとしてさ、なら、なにをどう調べていくのかな?」


「いいとして、じゃない!」


 ローラの渾身のスルーをベルメイリアは許さなかった。




「これ以上は、先代や先々代の時代のことを追いかけてみないとどうしようもないんじゃないですか?」


 ペドロが話をうまく戻してくれた。


「そうだね。特に先々代だ。あの酔っ払いのじいさんにしたって、たぶん先代のことしか知らない。先々代がどういう統治をして、森人族とどういう関係を持って、どういう人生を送ったか。これを調べるところから始めるしかなさそう。ペドロ、そんな感じでどうかな。エマニュエルがうまく興味を示してくれれば、彼をこっちに送るよ」


「ああ、あの坊やなら頼りになります。やってみましょう。途中経過の報告とかはどうすればいいですか?」


「ベル、それはお願いできる? 報告を届けてくれたら、すぐにこっちに戻ってかまわない」


「了解。それぐらいはやらないと信用してもらえないものね」


 わかってるじゃないか、なかなか。この件を通して、ベルメイリアが意外とピュアでマジメな本質を持っていることがわかってきたのは収穫だ。




 話がひと区切り突いたところで、ぼくは食堂の外に風に当たりに出た。ローラが腰を浮かせたが、それを目で押さえる。テンプレが来るとすれば、ぼくがひとりになったタイミングでのはずだ。


「本気かい?」


 来たよ来た来た! テンプレが来た!


「なんのことです?」


「昔のことを掘り返してみても、楽しい話は出てこないよ?」


「だから、あなたはなんのことを言っているんです?」


「誰も幸せにならない行動を見ているのがイヤだっただけさ。忠告はしたよ。あとは勝手にすればいい」


 言いたいことだけを言って、テンプレは……いや、吟遊詩人は去って行った。やはりテンプレ恐るべし。この方向で調べていけば、何かに突き当たるという確信が生まれてしまった。




「どこに行ってたんだい?」


「外で方向性の確認。ぼくたちは間違った方向に進んでないことがわかった」


「アンリさんの言うことはときどき意味不明ですよね。まあ、それで損をさせられたわけでもないですからかまいませんが……」


「アンリの意味不明な発言は気にするだけ損だよ。すごく奥行きが深そうなことを言っていても、実はなにも考えていなかったりさ」


 ひ、ひどい……。




 翌日から、ぼくらは先々王の情報を集め始めた。だが、想像以上の困難に、丸二日たつころには音を上げかけていた。とにかく、情報のカケラのようなものも出てこないのだ。


 街には小さな図書館があるが、そこには先王以前の統治について書かれたものはなにもない。先王の物語すらほとんどない。街に何件かある古書を扱う店も同様だ。少なくとも、容易にアクセスできる範囲には記録というものが存在していない。


 記録がダメなら記憶、ということであちこちで話を聞こうとしたが、これがまた記録以上にやっかいだった。どうやら、現王の統治になってそれ以前の治世については「なかったもの」として扱うようになったらしい。飲ませて酔わせたじいさまも、シラフの状態では先王についての批判すら「言ったおぼえがない」の一点張りだ。


「きついな~。これ、正攻法じゃダメだ」


「正攻法以外になにか心当たりがあるんですか?」


「たぶん、王室にはなにかあるだろうね。王宮の中の書物このようなところに行ければ……。ペドロ、なんとか王宮に食いこむ方法を考えてみてくれる?」


「損のある話じゃないですから、やれと言われればやりますが、結果は保証しませんよ。まったく伝手がないところから、書物庫に潜り込めるようなところまで食いこむには、どれだけ時間と金がいるか想像もつきません」


「だよなぁ。でも、それはそれでとりあえずやってみて。急かさないからじっくりね。あとは……場所から攻める、か?」


「アンリ、どういうこと?」


「この国はまだ滅びていない。あの歌が真実なら、森人族はいまもどこかを守ってる。その守っているところを探すんだ。そうすれば、森人族から話がきける可能性がある」


「言うのは簡単だけど、どうやって探すのさ?」


「もちろん簡単じゃない。だけど、森人族だって、やみくもに守っているわけじゃないさ。攻められる可能性があるところだから守ってるんだ。あの山脈で、ボルダン以外にまとまった数の兵が戦える状態で越えられるところなんか、そんなにないはずだよ」


「しかしアンリさん、地図があるわけじゃないし、あれだけ険しい山脈を余さず調べるなんて出来ないでしょう?」


「うん。それは森人族も同じだよね? たぶん、根拠があるんだ。どこかに軍が越えようと思えば越えられる場所があることを知っているんだ。昔に攻められたことがあるのかもしれないし、ひょっとすると自分たちがかつて攻めたのかもしれない。だからそこを守り続けるんだよ」


「でも、記録はないんだよ?」


「ローラ、記録がなくなっているのは攻められたアッピアだ。攻めたほうには記録か記憶が残っているかもしれない」


「女王国、ってことですか?」


「そうかもしれない。でも、その記憶があれば、ボルダンにこだわり続けるんじゃなくて、そちらもまた試してみるんじゃないかな。ぼくは、森人族がその昔に攻めたんじゃないかって思ってる」


「だからキリエ、ってこと? キリエだってわたしの従姉妹だから、他の集落のことは知らないと思うわよ?」


 そこまで黙って話を聞いていたベルメイリアが口を挟んできた。


「彼女が知っているとは思っていないよ。でも、ベルが知らない同族の伝手を彼女が持ってる可能性もあるでしょ? キリエさんは女王国にいるわけで、女王国の仮想敵、というか狙いはいつもアッピアだったわけだし、アッピアについて違った見方をしてるかもしれない。それに、ひとりでは調べきれないことも、二人なら何か思いつくかもしれない。ベルとキリエって、意外と仲良さそうだし」


「良くないわよ!」


「そう? ならいいけど、アッピア側からどうにもならなければ、相談してみてよ」


「わ、わかったわよ。どうせわたしはアンリ様に逆らえないんだから、言われたとおりやります。やればいいんでしょ?!」


「そういうこと。お願いね」




 なんとかベルメイリアを納得させることは出来たものの、時間がかかる作業であることは間違いない。時間切れにならないことを祈るしかない。




お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ