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14-2 アッピアの近況

女王国から見たボルダンって、こんなにヤバかったんですね~(無責任)

 レイハナを出て馬車で一日半、ぼくたちは国境の街ボルダン、正確に言えばそのふもとに着いた。


「たしかにこれはすごいな……」


 女王国側から見るのは初めてだが、攻めるに難く守るに難い、悪夢のような立地である。急峻な山道の先にそびえる砦は、規模としてはさほどでもないが、しっかりと行くてを塞いでいる。そのすく先に街があるのだが、そのさらに先は平原が広がっている。つまり、女王国はボルダンを落とすために厳しい山城攻めを強いられるにもかかわらず、アッピア側からは平城攻めでいい。しかも女王国側からは山道で補給もままならない。


 あのような厳しい立地に砦を築くには、大きな苦労があったことだろう。犠牲者も少なくなかっただろうし、長い時間をかけたことはずだ。黒部ダムとか青函トンネルとか、そういった難工事が思い起こされる。考えるだけで首がチリチリしてくる。


「十日ぐらいで終わったみたいよ」


「なんで何も言ってないのに、ぼくの考えてることがわかるんだよ、ベルメイリア!?」


「ちょっと考えてることを覗いて」


 こいつも感応持ちか……って、あのチリチリか! そういえば、マイヤと話しているときによく同じようにチリチリがきた。ようやく首根っこを捕まえたぞ。これであいつに好き勝手に心を覗かれないですむ。


 そうではなく。


「十日ってなに? 模型でもつくったの?!」


「いや、あの砦」


「十日っていうのも意味わからないんだけど、なんでベルメイリアがそれを知ってるわけ?」


「同族が魔法で資材を運んで、魔法で組み上げて、という話を聞いたことがあるの。当時はけっこうこの国と関わりがあったらしいわ。王宮の要職についていたこともあるみたい」


「それって、何人か集まったにしてもすごくない?」


「魔法技術的に、昔の方が豪快だったことは確かね。繊細さは進化しているけど、魔力量にものを言わせて、ということができるものは減ってると思う)


「知り合い?」


「そんなわけないでしょ。百年近く前の話だもの」


「百年前?! そりゃだめだな。期待したのが悪かったけどさ」


「付き合いのある集落のものたちじゃないしね。その当人だって、生きてるとは思うけど、消息なんか気にしたことないわ」


 惜しいな。繋ぎをつけられれば良い人脈なのだが……。




「ペドロ、いる?」


 ぼくは、ペドロたちの表の事務所にズカズカと入っていった。


「あ、お久しぶりです。二日前にちょうど……」


「あら、ペドロくん、久しぶりねぇ~。元気そうじゃない!」


「ゲエッ!! カ、カ、カ、カーライルさん!」


 顔面蒼白になったペドロは、恨みがましい視線をぼくに向けた。『なんというやつを連れてくるのだ?』という無言の抗議がはっきり読み取れる。カーラさんと言わない時点で、ペドロがぼくと同じ側にいることもよくわかった。すまない、ペドロ。一刻も早く仕事を完遂して解放されたかったんだよ。


「裏街の顔役なんて、ペドロくんには似合いすぎて面白くないわね~。ちょっとカツを入れてあげようかしら~」


「あ、あのですね、ジュゼッペが最近退屈そうなんですよっ。二階の部屋で女を連れ込んで寝てると思いますのでっ、鍛え直してやってくれないかな、なんて……」


「あら、それは困ったわね。どこか思い切り仕合える場所は?」


「ち、地下に道場が……。アンリさんもたまに使って……」


「ペドロッ、あのっ、二日前に何かあったっ?」


 今のぼくはリアンだ。必死にアイコンタクトで訴えたら、ペドロもどうやら思い出してくれたようだ。


「あ、ああっ、シルドラ姐さんが手紙をおいていきました。これです」


 ペドロはデスクの引き出しを開けて手紙を取り出す。カーライルさんはジュゼッペを優先することにしたらしく、奥の階段を上がっていった。ぼくとペドロはほぼ同じタイミングで安堵のため息をつく。


「アンリさん、どういうことです? まさか女王国のギルドが手配でも?」


「それだったら絶対に連れてこないよ。少なくともギルドでは特に問題にもなっていなかったよ。ギルドでたまたま話が出たときに居場所だけ伝えたら、カーライルさんが顔だけみたいって。キリエさんが、ぼくが逃げないようにカーライルさんへの同行をギルドの依頼にしてくれちゃってさ」


「相変わらずか、あの女狐は……」


 ペドロが自分の椅子に体をぐったりと沈みこませる。ぼくもソファに腰を下ろして渡された封書を見る。ベアトの封蝋があった。


 手紙の中身は、予想通りエリーゼとの結婚披露パーティーについてが中心だ。根回しは概ね完了し、パーティーの具体的な準備に入っているらしい。ぼくに対するメッセージは三点だ。


 まず日取りについて、カルターナに戻る予定が変わらなければ、その二日後に行うことになるとのこと。いくつか予備日を想定しているらしく、問題があれば調整するので折り返し伝えてほしいとある。明後日ぐらいにシルドラがこちらにくるらしい。二日後という日程は厳しいが、ぼくにのんびりするヒマをあえて与えない、というベアトのスパルタ的配慮だろう。


 カルターナを出るときに、帰着日をいちおうちょうど三十日後としてある。段取りとフェイルセイフが完璧で、さすがのベアトの仕事だ。幸か不幸か問題もない。あと十日とちょっと。サプライズがなければ予定どおりに帰ることが出来るだろう。


 次に、招待者について。ベアトとの式でぼくが招待リストに入れてもらったひと以外に希望があるか、と訊いて来ている。前回は関係を勘ぐる人もいるかと思ってあえてジルを外したが、今回は入れてもらうことにする。あと、ベアトに抜かりはないと思うが、念のためにナターリャも加えておく。


 三番目はエリーゼの現状で、聖騎士としての任務を完璧にこなしつつ着々と女としての自分も磨いていると伝えてくれた。ベアトはそのパワーに敬意を表しつつも、彼女の気持ちが張り詰めているのを感じているらしく、それを切らないためにできれば予定を動かさない方が良い、との意見を添えている。


 甘い言葉なといっさいない、ビジネスレターのような手紙だが、そのあちこちにぼくやエリーゼへの気配りが見える。押しつけがましいところがなく、慣れてくるとじつに心地よい。


 ペドロに紙とペンをもらって、簡潔に返事をしたためる。予定通りカルターナに戻るつもりであることと、ジルとナターリャをリストに加えることを伝え、帰ってエリーゼに会うことを楽しみにしている旨を彼女に伝えてほしいと付け加える。ビジネスには透明性が重要なので、エリーゼへの伝言もベアト経由だ。別建ての手紙なんていうのはルール違反である。




「ペドロ、王都のヘレスベルグで最近面白いネタってない?」


「そうですねぇ、女王国がここのところ動かないのをいいことに、ドルニエの西を少し掠め取ろうなんて考えるバカが出てきたくらいですね。あとは、きわめて穏やかに滅びつつあります」


 ちょっと耳を疑った。アッピアは女王国相手に防戦に四苦八苦するていどの国力しかない。気候が悪いから農業が育たず、国の基盤が固まらない。ドルニエとの経済力の差は大きいうえに、食糧のかなりの部分をドルニエ経由で賄っている。まさに「緩やかに滅びつつある」のだ。ドルニエに喧嘩を売るなど、喧嘩の結果以前に自殺行為だ。


「わざわざペドロがバカと言いつつそれを出してきたってことは、ただのバカじゃないってこと?」


「言ってるのは王太子なんですけどね、それ以外は結構まともなんですよ。国王のポカを救ったり、売り上げ税を減らして商売にカツをいれて逆に税収を増やしたり。王太子がそう言うならって、その気になっている輩も結構いるらしいです」


 それはなかなか興味深い。可能性としてはとりあえず三つ。まず、本当に国の中しか見えてない場合だ。目先のことをうまくやって調子に乗ってしまっているということである。つまり、本当のバカ。これだと話はまったく面白くない。勝手にやってくれというところである。


 次に、誰かが王太子を踊らせて失脚させることを考えている場合。この場合も王太子はただのバカということになるが、後ろにいる人間がドルニエの誰かと握っていたりすると話が面倒になる。


 三つ目は、王太子か、そのバックのいずれかがドルニエに完膚なきまでに負けるところまでを計算している場合。アッピアの生存をドルニエの支配の下で確保しようとしているとすると、これはなかなか面白い。責任をとって処分されるのは国王。王太子は生存を許される可能性があるし、場合によっては従属国としてのアッピアの当地を任されるかもしれない。今は膠着状態とはいえ、のど元に女王国の剣を突きつけられている状況を考えると、選択肢としてナシとは言いきれない。


「ペドロ、ヘレスベルグに拠点を作ったとして、きみが信用する人間に管理させる気はある?」


 女王国と違って、アッピアにはボルダンという一応の根拠地がある。そこを仕切っているペドロにとって、ヘレスベルグにぼくが直接拠点を持つことは、今後ボルダンが素通りされる可能性が出てくるということだ。それはぼくとペドロの関係にヒビをいれかねない。


「ヘレスベルグにも手を伸ばせということなら、ちょっと考えていいですかね? すぐにハイと言える状況にはないんです」


 さすがペドロだ。ぼくの言いたかったことは伝わったらしい。ぼくがただ管理させるためだけの人間をペドロに出させることはあり得ない。それはギブアンドテイクを成立させない。ペドロの一方的な払いだ。ビットーリオから聞いていたように、彼が守りに入ることを考えているとすればなおさらだ。


「もちろんだよ。ちなみに、ぼくは明日ヘレスベルグに向かうけど、バレリオさんに付き合ってもらおうと思う。いいよね?」


 バレリオさんはもともとバルデの腹心で、ここでペドロを当初から支えている。彼をつれていくということは、この話にバルデを巻き込むということ。そして場合によってはボルダンが素通りされる可能性があるということ。


「わかりましたよ! 相変わらず強引にやってくれやがりますね、アンリさんは!」


 なんのことでしょう?



お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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