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11-22 司教の暴走www

結局、休暇中はこれひとつしか仕上げられませんでした。あすには、その休暇も終わりです

「だいじょうぶですよ-。敵意はありませんから-」


 侵入者の女、いや、ナターリャ・スミルノフ司教は見た目どおりの脱力系の声で、両手を上げたままニッコリと笑みを浮かべながらそう言った。ぼくはそれに対して、我を忘れて思いきり突っ込みを入れる。


「いやいやいやっ、どの口でそれを言うんスか!? 結界ムリヤリ破って家に無断侵入してる時点で、敵意ありまくりじゃないスか!?」


「だからこうやって両手を上げてます-。 武器も持ってませんよ-」


「あなた魔術師でしょうがっ! 両手上げてても武器持ってなくても、魔法ぶっ放せばすむ話でしょ!?」


「あー、そういえばそうですね-。じゃ、手を下ろしますー」


「いや、そういうことを言いたいんじゃないから……」


 さらに脱力していると、ぼくの横のテルマの魔力がさらにふくれあがり、臨界点に近づいていっている雰囲気がしてくる。すると、スミルノフ司教が彼女に視線を送り、ニッコリと笑う。


「あ、そちらのかた-。そんなに魔力を使わなくても、わたしなんかいつでもパパッと吹き飛ばせますから-。ホント敵意ないんで-、もうちょっと様子見てもらえれば助かります-」


 そんなわけにいくはずないっしょ、と思っていると、テルマの魔力が少し落ちついた。あれ?


「どうやって結界を破った?」


「あなたが張ったのですね-? とてつもなく強力でしたー。 ただ、属性の相性は悪くなさそうだったので-、属性の比率を変えながらー。魔力の拡散を赤ちゃんの掌ぐらいに押さえて少しずつ穴を開けたんです-。ひとつでも違う属性の魔力が隠し味で使ってあったら-、もっと苦労したと思いますー」


 急速に殺る気を収めているテルマが横で「納得」という感じで頷いているが、いろいろツッコミどころが満載である。

 まず、魔力をそれだけ収束させることはぼくに出来ない、とはいわないが、メチャクチャ神経を使わなければならない。魔法に関してほかの工夫を加える余裕なんてあるはずがない。しかも、ぼくの場合はひとつの属性の精霊とのコミュニケーションだけだ。この目の前のポヤポヤ司教さまは、複数、おそらく四属性すべてを使い、その混合比率を絶えず細かく変えて、イメージとしてはドリルで板に穴を開ける感じで超強力なテルマの結界を破ったとおっしゃっている。もうバケモノと言っていい。さらに、結界破り対策のティップスまで頂いてしまった。意味不明だ。


「ちょっと考えてみる」


 え? ちょっと、テルマさん? 戦意がゼロになっちゃってませんか?


「お手伝いしましょうか-?」


「お願い」


 こちらの迎撃態勢からひとりの中心人物が離脱した瞬間だった。 


「えっと、結界の話はともかくとして、不法侵入の件についてはどうなってるのかな? そもそも何が目的でここに来たのか、教えてほしいんだけど?」


 毒気が抜けて崩れそうになる気持ちを必死で立て直しながら、スミルノフ司教に問いかけた。このままズルズル流れていってはいけないのだ。横ではローラが剣を握り直して油断なく相手の気配を読もうとしている。


「そうですね-、伺ったのは、こちらの家に大事な用事があったからです-。この家の主はあなたですかー?」


 彼女はフワフワした笑顔を崩さない。


「そうだけど……一面識もないぼくになんの用事が?」


 なおも彼女は表情を崩さない。そして、その表情のまま強烈な闘気をたぎらせた。殺意とか敵意ではなく、純粋な闘気だが、ローラがそれに反応してぼくに身体を寄せる。それを見た彼女は、さらに闘気を一段階レベルアップさせた。それでも笑顔は浮かべたままだ。はっきりいって怖い。


「わたしのローリエくんを返してください-」


 すこし間の抜けた感じのセリフとともに、魔力がふくれあがる。ヤバい。彼女はヤバいタイプの人だ。そのヤバい人がテンパりきっている。いまの彼女は話が絶対通じない。かといって、魔法を撃たせてしまうと、防いだとしても周囲への被害は避けられない。


 穏便に収めることをあきらめ、物理での制圧を決意して前に出ようとした瞬間、ローラがぼくの前に両腕を広げて立ちふさがった。


「ナターリャ、アンリを傷つけることは、いくらナターリャでも絶対に許さない!」


 スミルノフ司教の表情に張り付いていた笑顔が消える。次の瞬間、あれほどたぎっていた戦意が魔力と一緒に一気にしぼんだ。


「そ、そんな……ローリエくん……」


 アブノーマルな司教さまは、力なくその場に泣き崩れた。いったい何だというのだ……。




「そうだったのですかー……。わたしが教会に魂を売り飛ばしている間に、ローリエくんは少女をすっ飛ばして女にされてしまったのですねー……。自業自得ですかぁ」


 柔らかな口調で吐き出される露骨な表現にローラが頬を赤く染めてうつむいた。


 いま、ぼく、ローラ、ビットーリオ、エマニュエル、そしてガブリエラを送り届けて戻ってきたリュミエラは、一気に戦意を失ったスミルノフ司教を囲むようにしてラウンジにいる。ぼくは、ローラとの出会いから今までをかいつまんで話したのだが、それに対する彼女のリアクションがこれだった。


「教会に魂を売りとばしたって……あなた司教でしょうが……」


 いろいろツッコミどころが多い彼女のリアクションに、迷った末に最初にこう突っこんだ。


「関係ないのですよ-。わたしは自分の目的のための研究の時間と設備と資料とお金のために教会を使おうと思っただけで、ルミナリオ教会なんかになんの関心もなかったのです……」


「念のために訊くけど、目的って?」


「ローリエくんを本当の男の子にすることですー」


 ガタッという音がしたのでそちらを見ると、顔を真っ青にしたローラが腰を浮かして逃げる体勢に入りかかっていた。気持ちはわかる。この人はとってもヤバい人だ。自分の目的が最優先で、そのために利用できるものはなんでも利用する、善悪という基準を持たない人。警戒心と親近感が同時にやってくる。ちなみに、ほかのみんなはドン引きしている。


「ナ、ナターリャ……ぼくが女の子だって、知ってたの?」


 おそるおそる問いかけるローラに、スミルノフ司教は満面の笑みで頷いた。


「あたりまえですぅ。ローリエくんのことはなんでも知ってますよー。六歳までお尻に蒙古斑があったこととか、心の目で見えてましたしぃ……」


 あんた、何者だよ!?


「わー!! やめてやめてやめて!!」


 ローラが青くなったり赤くなったり忙しい。要するに、女の子であることを隠そうとしてた子供時代のローラの努力は、スミルノフ司教に関してはすべて無駄だったということだ。


「エマニュエル、そんな魔法ってあるの?」


「なんで魔法の話をぼくに訊くのさ? 知るはずないじゃん」


 それもそうか。


「でも、驚きましたね-。護衛をしてくださったかたがたが、みなアンリさんの手の人たちだったとは……。アンリさん、優秀な仲間をお持ちですねー。わたしに譲ってくれませんかぁ?」


 とんでもないことを言いだす人だ。バカなことを、と思ってシカトしようとしていると、リュミエラが誰に問いかけるでもない感じで割りこんできた。


「アンリさまは、譲るとかそういうことはお考えにならないでしょうけど、その仲間のひとりになることは歓迎なさるのでは?」


 あれ、悪くないかも?


「あなたは……そうですか、アンリさんに付き従う存在ですか……。これはまた、別の意味で逸材を抱えてますねー。昼も夜もまんべんなく支えていらっしゃるんでしょうねー。こんな美しいかたがいるなら、ローリエくんはわたしに……」


 どこまで見通しているのかわからない謎なコメントだが、バカなことは言わないでほしい。


「なに言ってるんだよ!」「それはない」


 ぼくの反応はローラの抗議とかぶった。それを見てスミルノフ司教はため息をつく。


「ダメですか……。でも、そちらの方のおっしゃることは悪くない考えですね-。好きなときにローリエくんを愛でることができますし……」


「冗談じゃないよ!」


 これは、少し突っこんで話す価値ありか?


「今回みんなにあなたの護衛依頼を受けてもらったのは、あなたがいまカルターナにやってくる目的が探れたらな、と思ったからだよ」


 スミルノフ司教は表情はポヤポヤのままだったが、ほんの少し視線が強くなった。


「ああ、それは英雄さんになるらしい子のめんどうを見るためですー。めんどくさい仕事ですが、教会に養われている以上断れませんでしたー。なんか任務がありそうだとかで-、武器の整備と本人の強化をやらされることになってます-。まったく、司教が国外に出張してまでやることじゃないですよねー」


 あっさりと口を割ってくれた。教会の秘密を守ろうという意識はいっさい感じられない。


「あの……しゃべっちゃってもいいの?」


「お知りになりたいのではー? ローリエくんをかすめ取ったアンリさんに親切にするいわれはありませんが、クソ教会とローリエくんのお仲間のどちらを取るかと言われれば、ローリエくんを取るに決まってますよ-」


 ぶっちゃけやがった。しかし、難しい人だが、こちらに引き込めればけっこう頼りになりそうな気がする。ぼくに対するプラスの感情が今のところないのが問題だけどね。


 ぼくはさらに一歩踏みこんでみることにした。裏目に出るとけっこうマズいが、賭に出る価値はあると思ったのだ。


「ものは相談なんだけど……あなたの今回の仕事に関わることで、協力を頼めたりはしないだろうか?」





お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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