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11-14 ローラとの時間

たまに内容を艶っぽくしたくなることがありまして、今回はピンクっぽくはじまり、ピンクっぽく終わります。R15にはおさまっているはずですが、想像力を刺激する文章になっているかどうか……。


「知らない天井だ……」


 うっすらと開けた目にうつる天井の高さ、色、描かれた紋様もんよう、そのすべてが記憶のどこを探しても存在しない。ぼくはいったいどこにいて、どこに行こうというのか?


「知らない天井に決まってるじゃないか。昨日初めてこの屋敷に来たんだから」


 肩の辺りからローラの声が聞こえた。


「お約束なんだからほっといてよ」


「あのね、意味わからないんだけど……」


 耳もとでそう言ったローラがぼくの頬をつつく。その拍子に、毛布に隠れていた彼女の肩が剥き出しになった。あの鋭い剣筋を生み出すとはにわかには信じられない華奢きゃしゃな肩だ。アゴに軽く当たった腕も、そこにあるはずの研ぎ澄まされた筋肉を感じないほど柔らかい。毛布の下のぼくの腕には、さらに柔らかい何かが押しつけられている。息を吸いこむと、いつもの彼女の爽やかな香りに混ざる仄かな汗の匂いを感じた。

 全身に感覚が戻ってくる。首を回して横を見ると、ローラがぼくをたしなめるように睨んでいた。ぼくの脚には細く伸びやかに引き締まった彼女の脚が絡んでいる。


「そろそろ起きよう? ぼく、身体も拭きたいし……」


 そう言って身じろぎした彼女の太腿がぼくの中心部を撫でた。


 おやじクサくもギャップというものにとことん弱く、しかも血気盛んな少年であるぼくは、そのまま身体を回してローラに覆い被さってしまった。




 軽く水を浴びて身支度を調えてからラウンジに入ると、ペトルさんがお茶を出してくれた。窓の外を見ると、日はずいぶん高くなっている。


 はじめの一杯を飲み終えるころになって、ローラがラウンジに入ってきた。ゆったりめのブラウスに細身のパンツと、いつもの彼女の装いだ。

 目があうと、ぼくを睨みつけるようにしたが、少し頬が赤らむ。ラウンジを見回し、少し迷ったあと、ロングソファに座っているぼくの隣に腰を落とした。すぐに、彼女のぶんのお茶も運ばれてくる。


「もうお昼になっちゃうじゃないか。まったく……」


 カップを口もとに運びながらローラが軽くブウたれた。腕が軽く触れるが、そのままだ。もう、汗の匂いは感じられない。


「ごめんごめん。かんべんしてよ」


「別に怒ってないっ!」


 ぼくの腕に触れる彼女の感触が、少しだけ強くなった。




 ビットーリオが昨晩から戻らなかったこともあり、ぼくとローラは商業街に出て昼食をとることにした。さすがに食事の用意ができるほどには、屋敷の体制は整っていない。


「ビットーリオはどうしたのかな?」


「え、えと、どこかで酔いつぶれてるんじゃない? とことん呑む、とか言ってたし」


 ああ、ローラに耳打ちしたのはそういうことか。今夜は帰ってこないから、とか言ってローラを焚きつけたんだろうな。でも、ぼくからも感謝しておこう。そろそろ慣れてきたローラ、可愛かったし。




 昼食のために選んだ店は、ペトルさんのアドバイスに従って、商業街の目抜き通りの中程にあるこじゃれたレストランだ。個室を使える、というのがポイントだ。いちおう皇族とかかわりのできるぼくの立場もあるし、ローラも人目はできれば避けた方がいい。


 ぼくもローラも、軽めの卵料理を頼んだ。サーブされてきたのは、前世で言えばオムレツのような感じだ。フワトロに仕上がった生地に細切れの肉の燻製と炒めた野菜がいい感じで絡んでいる。味もかなりのレベルだ。屋敷からそう遠くないところにこういう店があるのはありがたい。


「問題は、教会にどうやって食いこむか、なんだよなぁ。女王国の国教会ならなんとでもなるんだけど」


「常識で考えれば、ひと月ちょっとで人脈なんて言えるものを作ろうっていうのがムチャだと思うよ。その線はあきらめた方がいいんじゃないかなぁ」


「あきらめからは何も生まれないんだよ、ローラ」


「アンリのその、深いようで実は何も語ってない言い回しはもうはいいから」


 ひどい。全否定されてしまった感じだ。


「でもさ、いずれにせよ英雄さんにはたどりつかなきゃならないし、どこかに食いつかなきゃならないことは間違いないんだよ。おまけに、三日たったらぼくはろくに動けなくなっちゃうし」


「カルターナでも、いろいろ動いてくれているんだよね? みんなに期待するしかないよ。アンリはじきに動けなくなっちゃうし、ぼくだって、知りあいの多いシュルツクであまり目立つことはしたくないよ。一日や二日、慌ててもたいしたことはできないんじゃないかな。アンリもちょっと落ちつこうよ」


 ローラに諭されてしまった。いや、本来のローラは文武いずれも並ぶもののない俊才だった。ただ、ぼくのまえで思いっきり素をさらしてくれているだけなのだ。


 たしかに、ビットーリオとローラにシュルツクにきてもらったのは、本当になにかあったときに土地勘のある二人が大きな助けになると思ったからで、シュルツクでなにかの目的を達成しようと思っていたわけではない。いくら新しい情報が気になるとはいえ、準備不足の状態で欲張ると、思わぬ失敗をする可能性がある。これまでのぼくは、いろいろなムリを慎重に準備を重ねることでクリアしてきたわけで、こういうときこそ初心に立ち帰らなければならないのかもしれない。


「了解。一本とられちゃったね。食後のお菓子、おごるよ」


「え、ここ、割り勘だったの!?」


 ローラは冗談抜きの悲鳴を上げた。本当に大丈夫だろうか……。




 昼食を終えて屋敷に戻ると、ラウンジではビットーリオとラーム伯爵が、思いっきりくだけた雰囲気でくつろいでいた。だいぶ手前から笑い声が聞こえていたし、けっこう話が弾んでいるようだ。


「おお、アンリくん。魔方陣は設定し終わったよ。けっこう凝った術式を組み込んでしまったが、おかげできみやビットーリオくんでも一人で行き来できるようになっている」


 なんと! それはとてつもなくありがたい贈り物だ。これは、本気で彼の役にたたなきゃならないな。


「ありがとうございます、伯爵。なんだか、ぼくのほうがトクばかりで申しわけありません。お約束、落ちついたらじっくりと果たさせてもらいます」


「うん、期待しているよ。きみがいま抱えている厄介ごとが片付いたら、改めて相談させてもらう」


 事前にムリなお願いをしたこともあって、ラーム伯爵には、遠征の話は概略伝わっている。力になるとは言ってもらっているが、そこまで甘えるのは申し訳ないし、あとが怖い。


「アンリくん、相談がある」


 ビットーリオが間違いなくアルコール入りのドリンクを傾けながら言った。


「ここまで聞いた話をもとに考えてみたが、ぼくたちにシュルツクでできることはほとんどないだろう?」


 やはり彼もそこに思い至っていたか。


「そうなんだ。さっきローラとも話したけど、準備が充分じゃないままで、この三人で短期間だけ慌てて動いても、たいした収穫はないよね。それどころか、とんでもない失敗をするかも」


 ビットーリオはウンウンとうなずいた。


「それでだ。伯爵がとんでもない魔方陣をプレゼントしてくれたことだし、ぼくはカルターナに戻ろうと思う。ここと違って向こうは、人手は一人でも多いにこしたことはないだろうしね」


 たしかに、四、五日をかけて戻るならともかく、一瞬でカルターナに戻れるならばそのほうがいい。情報収集でもとっさの判断でも、経験豊富なビットーリオの存在は間違いなくプラスになる。いや、一人で行き来できるなら、いっそぼくもローラもいちどカルターナに戻ってもよくないか?


「ぼくとローラも戻ろうか?」


「いや、それはやめておいたほうがいいだろう」


 ラーム伯爵が割ってはいった。


「設定に自信はあるし、試験動作もすんでいる。どこか見知らぬところに飛ばされるようなことはないだろうが、何ごとにも絶対はない。向こうにアンリくんが帰って、こちらに戻るだんになって魔方陣が作動しなかったりすれば、きみは一番大事な式典に間に合わないことになるよ。そこのところは、慎重に考えたほうがいい」


 これはぐうの音も出ない。高機能の魔方陣に舞い上がってしまったが、もともと人間の身には過ぎたオーバーテクノロジーのようなものだ。動作不良の確率も、ごく小さい、というだけでゼロではない。式典に出られないようなことがあれば、多くの人に迷惑をかけてしまう以上、リスクは犯してはいけないだろう。


「わかりました。ぼくはこのままここに残ります。それじゃビットーリオ、よろしくね」


「じゃ、じゃあ、ぼくもカルターナに戻るよ。向こうは人手が必要なんでしょ?」


 ローラがおずおずと申し出るが、ビットーリオは首を横に振った。


「いや、ローラは逆にここにいてくれないと困る。アンリくんに魔方陣を使わせるわけに行かない以上、連絡役は一人、絶対に必要だ。もちろん、アンリくんが王宮に戻ったあとは、カルターナにすぐに戻ってきて欲しいけどね」


「わ、わかった。ぼくは明後日までここにいればいいんだね?」


「そうだ。よろしく頼むよ。といっても、突発事態がなければ特段気を張る必要はないだろうから、のんびりしてくるといい」


 ビットーリオのいうことはとことん正論だ。正論なのだが、ちょっと違和感が出てきた気がするな……。




「アンリくん、わたしも本宅のほうでちょっと急ぎの用務があってね。これで失礼するよ」


 ビットーリオがカルターナに戻ってしまうと、ラーム伯爵も早々に帰っていった。

 おかしなところはなにもないのだが……これは、おぜん立てをしてくれている、と思ったほうがいいのだろうな。みんなの前でぼくの騎士であることを第一に、ふだんいろいろガマンしているローラに、思いっきり甘えさせてやれ、ということか。


「じゃあローラ、改めて出かけようか」


 ぼくは所在なげにボーッと天井を見ている彼女に声をかけた。


「え、え? 何しに行くの?」


「お店を覗きながらブラブラ歩こうよ。そのまま夕食も食べちゃおう」


「あ……、う、うん!」


 ローラは顔をほころばせ、勢いよく立ち上がった。


 その日の午後は、完全にデートだった。いろんな店を冷やかして歩き、ローラが試着してかなり気に入っている雰囲気だった少しフェミニンな服をプレゼントし、もうひとつのペトルさんオススメの店で夕食にする。最初は二人の距離感をはかりかねていた彼女も、食事を終えて店を出るころには自然と腕を組んでくるようになった。ローラはぼくと同じくらいの身長なので少しバランスは悪いが、彼女は気にしていないようだった。




「アンリ、ありがとう。楽しかった。ぼくはきっと、きみとこういうふうに過ごしてみたいとずっと思っていたんだ。初めて会ったときから、ね。また当分頑張れそうだよ」


 ロングソファでぼくの隣に座っているローラが、フウッとため息をついてそう言った。午前中よりもハッキリと身体をぼくに寄せてきている。


「まだ終わってないよ。明日は一日、ゆっくりできるよ」


「そっか……、嬉しいな。買ってもらった服、着てもいい?」


「もちろん。あ、そうだ!」


「なに?」


 ぼくは高い高いハードルを勢いにまかせて一気に越える構えに入った。


「お風呂、一緒に入ろうか?」


「え、ええっ!? ほ、本気?!」


「うん。ダメ?」


「ダ、ダメじゃないけど……その……」


「行こう!?」


 すべては勢いだ。ぼくはローラの手を取って立ち上がる。


「う、うん、わかった。わかったけど、……どうしよう……自信が……」


 ブツブツ言いながら、ローラは頬を真っ赤に染めつつ立ち上がった。




 初めてこの屋敷に入ったときは、三つの寝室が用意されていたわけだが、結局、ぼくが王宮に戻るまでそのうちの一つしか使われなかった。




お読みいただいた方へ。心からの感謝を!


どんなもんでしたでしょうか? 次回からは通常運行に戻る予定です。

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