11-13 シュルツクの夜
前回の投稿でブックマークが100を超え、総合評価も300に達しました。何度も更新をとぎらせたにも関わらず、です。皆様のおかげで、まだまだ頑張れそうです。本当にありがとうございました。
ギエルダニアの皇都シュルツクについたド・リヴィエール伯爵家ご一行様は、皇宮の中にある離宮に宿泊する。そして、わりと負担の軽い三男坊であっても列席が求められる一連の式典は、五日後から始まることになっており、それまではそこそこ放置状態である。怪しい策動をするとすればここしかない、といえる。
離宮では個室が与えられているので行動はわりと自由ではあるのだが、なにせここは皇宮である。どのように魔力感知が仕掛けられているかわからないため、転移での出入りは避けるべきだというのが、仲間内の一致した結論だった。そのため、シルドラにお願いしてシュルツクに先に跳んでもらい、ラーム伯爵にぼく個人に招待を前もって出しておいてもらい、正面から皇宮外に出られるようにした。ビットーリオやローラも伯爵邸に世話になることになっていたので、これはこれで都合がよかった。もともと式典がすべて終わったあとにお邪魔することにはなっていたが、
「なんでギエルダニアの貴族から学舎の学生であるアンリに招待が?」
ロベールやフェリペ兄様が「???」状態であったのはやむを得ない。ぼくに妙な動きが多いことはわかっていても、異国の貴族がぼく個人に正式な招待をしてくるに至る経緯は想像のはるか外だろう。申し訳ないが、適当にごまかすしかない。
「ニスケス侯爵のところでお目にかかったんです。妙に話が弾んで、シュルツクでもお目にかかりましょう、という話になったのですが、まさかこんな形でご招待をいただくとは思っていませんでした」
「ふーん、よくわからんが、余裕を持って戻ってくるんだぞ?」
ニスケス侯爵を免罪符のように使ってしまったが、現状、伯爵家とまったく関係ないところで人脈ができるとすれば、学舎の中以外はここしかない。二人とも首を傾げながら外泊を認めてくれた。この辺、不審な行動をしつつも家に迷惑をかけたことはない、という実績が効いたね。
「無理をお願いして申しわけありませんでした、伯爵」
「気にしないでくれ。シルドラがいきなりやってきたときは驚いたがね」
ぼくと伯爵は、伯爵が約束どおり用意してくれていた屋敷に向かっていた。ちなみに、彼に連絡をつける際に、シルドラが門衛とひと悶着あったらしい。そりゃそうだよね。
「あまり急かすようなことをするつもりはなかったんですが、ちょっと事情が変わりまして……」
「そのあたりはあまり詮索しないでおこう。丸一日あればなんとかなると思うが、それでいいかい?」
「充分です。ありがとうございます」
屋敷の引き渡しがすんでいなかったため、以前伯爵が約束してくれていた魔方陣の設置はまだだった。教会などというシャレにならない障害が急に出現したため、無理を言って作業を急いでもらうことにしたのだ。
「まあ、ぼくが無理せずにできることがあれば力になるから、期待せずにいつでも相談してくれ」
あ、あいかわらずアテになるのかならないのか、わからない人だな。
用意されていた屋敷は商業街の外れにある、思ったよりも大きな物件だった。入り口にはすでに門衛が配置されている。そして、出迎えてくれたのは四十代半ばとおぼしきナイスミドルだ。
「いらっしゃいませ、アンリ様。ペトルと申します。以後、お見知りおきください」
カルターナで会った「ラーム伯爵(自称)」だった。目が合ったときにチラと笑みを浮かべているし、ぼくが彼を覚えていることもわかっているようだ。
「お世話になります」
ぼくは片目をつぶって応じておいた。ペトルさんも小さく頷く。儀式はこれで終わりだ。
「屋敷の管理に最低限必要な用人はわたしの信頼するものをおいてある。あとはペトルと相談してくれ。それじゃ、わたしは作業にかかるよ」
そう言い置いたラーム伯爵は、シルドラを連れてホールの奥の部屋に消えていった。
案内された二階のラウンジでは、すでにビットーリオとローラが飲み物を手にくつろいでいた。
「先にやらせてもらってるよ。いや、なかなか居心地のいいところだ」
「アンリは知らないだろうけど、この辺は便利なわりに静かで治安も悪くないから、けっこう人気があるんだよ。ボクもこの辺だと知りあいに会うこともあまりなさそうだし、ありがたいね」
ローラもちょっとほろ酔いでご機嫌だ。あまり強くないはずだが、大丈夫か?
「うん、ぼくも思ったより立派なんでちょっとビックリ。タダほど高いものはないし、気を引き締めてかからないと。二人はいつ着いたの?」
「四日前だよ。ビットーリオは酒場通いだったみたいだけど、ボクは……ちょっと実家に行ってきたんだ」
ああ、それはそうなるよね。別に勘当されたわけじゃないし。
「父上も歓迎してくれたけど……ちょっと泣かれちゃった。『すっかり女の子だな』って」
あいかわらず、シャバネル伯爵は直球で善い人だ。ローラが「女の子」をすでに通りこしてしまっていることも、想像すらしていないだろう。
「……というわけで、ケンカを売る相手は教会になりそう。ちょっと慎重に行かなきゃだけど、時間の余裕もそうない。それに、目標の立て方を間違えるとシャレにならない」
雑談をそこそこで切り上げて、ボクは二人に数日前に入った情報を共有した。
「もうひとつ頭に置かなきゃいけないことがある」
ビットーリオが腕利き冒険者モードだ。
「これまで、ぼくたちは他人のケンカにこっそり横槍を入れるだけだった。でも、今回はケンカの当事者になってしまう可能性がある。うまく教会の思惑をつぶすことができても、こちらが敵としてハッキリ認識されてしまったら、アンリくんとしては負けだろう?」
「そうなんだよね……」
そう、問題はそこだ。如何にして教会からは敵と認識されないままに横っ面を張れるか。何を達成することで何を得るか、それをうまく選ばないと後々に尾を引く影響が残ってしまう。
「教会のツテ、なんていうものもなかったよね、ボクたちには。英雄さんを特定することも難しいんじゃない?」
ローラも難しい顔をしている。
「そこは、カデルたちに期待するしかないかな。中途半端にそちらに人手を割くよりも、遠征の現場で何が起こって、それをどう解決するか、そっちに集中するべきだと思う」
「アンリは、何が起こると思っているのかな?」
「リシャールの戦闘力は、普通に森で出てくる脅威が相手であれば問題ないはずなんだ。ほかの三人も彼に大きく引けをとるわけじゃない」
「なら、アンリくんは何を心配する?」
「そんなことは、教会側だって予想できるし、ちょっと探りを入れれば誰が参加しているかもわかる。それでも当日なにかが起きるとすれば、普通では倒せない相手が出てくるってことじゃないかな」
「それって……ひょっとして……魔族?」
ローラは微かに表情をこわばらせた。
「まさか、教会が魔族と通じているってことかい?」
「考えたくはないよ。でも、それなら脚本が成り立つんだ。魔族には普通の物理的な攻撃が比較的効きにくい。属性のついた攻撃なら多少はマシだけど、リシャールがそこまで魔力を使いこなしているとは思えないよ」
「そして、魔族に効果のある攻撃といえば……聖剣か」
さすがにビットーリオは年の功だ。すぐにそこに発想が行ったか。ローラも合点がいったようだ。
「聖剣なら教会、ってことか。だけど、それを学生に持たせるの?」
聖剣は、前回の魔王討伐の際に英雄が使用した剣だが、特殊な属性を持った剣……らしい、という程度の情報しかない。教会が門外不出としていっさいの情報の提供を拒んできているからだ。一説には、剣を打つときに四つの属性をあるバランスで付与すると偶然に近い確率でできあがる、ともいわれているが、真偽のほどは定かではない。
「あり得る可能性として、魔族を相手に苦戦するリシャールたちを英雄さんが救う、という構図が考えられるんだけど、その英雄さんはホンモノの英雄じゃない。能力はそれなりに高いのかもしれないけど、それでもタダの高等学院の学生だよ。聖剣が言われるとおりのものなら、それなしに魔族をどうこうできるとは思えないんだ」
「そこはとりあえずそうだとしよう。それをすることで、教会はなにを得るんだい?」
「結果として、学舎は二度連続して同じ場所で遠征を失敗する。失敗を救ったのは高等学院の学生だろ? 力関係に変化は起きやすいよね」
「それはそうだが、そんなに大きな問題かい?」
「救った学生は英雄だ。高等学院は英雄を育てた学校になる。その実績をもとに、教育制度の改革に持ち込むんじゃないかな」
「どういうふうに? いまの高等学院って女の子が多いって聞いたけど、それは教育内容が貴族令嬢向き、っていうところにも原因があるんでしょ?」
「それを大きく変えるのさ。いまの学舎の騎士課程では強い騎士は育たない、ということになれば、学舎の教育内容をもっと騎士向きに変えれば、という話に持って行きやすい。それでおろそかになる総合課程、魔法課程を高等学院が吸収すれば、高等学院は教育機関としてより大きな影響力を持つことができる。そして、そのバックには教会がいるって寸法なんだけど、どう?」
ビットーリオもローラもしばし考えこんだ。そして、ローラが顔を上げる。
「わかった。結論は早いかもしれないけど、とりあえずそういうことだと仮定して動いた方がいいね。あとは、動きながら考えよう」
確かに、それ以上はいまは踏み込めない。ローラの踏ん切りはありがたい。
「了解した。酒場で面白い話を持ってそうなヤツを見たんで、ぼくはちょっと出てくる」
今はこれ以上は三人で方向を絞り込めそうにないし、どんな情報でもありがたいので、ぼくは頷いてみせる。ビットーリオは立ち上がると、ローラになにごとか耳打ちした。そして急に顔を真っ赤にするローラに手を振って、ラウンジを出て行った。
「じゃ、今日は休もうか。ぼくも到着早々だし」
「う、うん。そうだね」
ぼくとローラは二人で連れ立ってラウンジを出た。ラウンジに入る前にペトルさんに教えてもらった寝室の前に来ると、ローラがうしろからぼくの袖を引っ張ってきた。振り向くと、ローラはさっきよりもさらに顔を朱くしている。
「あ、あのね……」
「どしたの?」
「き、今日さ……、一緒に……寝ていい?」
そう言うとローラは耳まで朱くして顔を伏せた。ぼくは萌え過ぎで卒倒しそうになるのをこらえて、何度も頷いて見せた。
お読みいただいた方へ。心からの感謝を!




