11-9 算段
あっというまに前回の投稿から二週間……。情けない気持ちで一杯です。なかなかペースがつかめません。
とにかく、いろいろな手を打たなきゃならないのに時間がない。リシャールも、かなり余裕をもって切り出してきたつもりだろうが、イネスの婚姻によるぼくの不在期間が、彼の頭からはすっぽり抜けているのだ。
「みんなに、学舎の行事の準備を手伝ってもらわなきゃならなくなった。迷惑なのは承知のうえで、どうかお願いしたいんだ」
たのみごとをするときは常に心がけているとおり、ぼくは皆に頭を下げた。こういうときに礼節を忘れるやつは最低だからね。
「どしたの、アンリ? たのみごとかあっても、最後までそれを説明しないで、どうにもならない状況を作ってからなし崩しにぼくたちを巻き込むキミが?」
ローラの突っ込みに愕然とする。あ、あれ? ちょっと、認識の違い? そういえば、最近たのみごとというものをした記憶があるようなないような……。ま、いいか!
「リシャールたちが騎士課程の単独遠征でメルビル森林に行くんだけど、それに巻き込まれたんだ。二ヶ月後からだいたい一月ぐらいになる」
皆のあいだに、スルーかよ、という空気が流れたが、その空気を含めてスルーだ。
「ただ、どうにもキナ臭いところがあるんだ。メルビルの調査は、二年前の遠征で死者を出してる。普通なら希望しても却下しておかしくない。なのに学舎は、特例的な編成まで指定してリシャールたちにやらせたいみたいでね。慎重にいきたいんだ」
「アンリくん、それは調査をさせたい、というより、させなきゃならないんじゃないか?」
ふむ……。
「ビットーリオは、具体的にはどんな感じだと思う?」
「まず、犠牲者の親族などから、二年前の件について学舎の責任を問われている場合だ。学舎としてはリシャールくんたちに、学生の遠征として問題なく完遂できるレベルだということを証明させなければならない状況になっている可能性がある」
「亡くなったのは、アグスチーニ男爵の長男、ニコルさんですね。少なくとも事故の直後には、あまりそういう騒ぎにはならなかったはずですが……」
ただ、嫡子を失ったショックは、軽いものではないよな。ちなみにいまの補足、ソースはもちろんリュミエラ・ノートだ。
「それから、その失敗で学舎の教練水準に疑問の声が上がっている場合。寄付金の額に影響するようなら、学舎も放置できないだろうね」
確かに、王宮から出る資金だけでは、貴族の子弟が多くかよう学舎の施設や教育内容を満足なレベルに維持することは難しい。父様もなにがしか出している。五人分だからバカにならない額だろう。
「もうひとつ考えなきゃいけないことがあるでありますよ」
突然シルドラが割って入った。いつものようにボケをまじえたトーンではない。
「いまのメルビルの状況が、学生の手に余るものだと仮定して、それを関係者が知っていたらどうでありますか?」
「学舎に汚点をつけたいか、リシャールくんたちのうちの誰かが狙われているか、だね」
学生がターゲットになっている可能性は、正直あまり高くないと思う。四人ともいくぶん主流から外れたところにいる家の子供なのだ。だが、ウラはとる必要がある。
より深刻なのは、もうひとつの可能性だ。あの不自然なパーティー構成も、学舎が投げつけられた無理難題をなんとかかわすためのものだとしたら納得がいく。学年最強に近い布陣でなければダメだと、学舎が理解しているからこその無理押しということだ。
「それじゃ、メルビルの最新の状況、ここ最近の学舎運営の状況、同じくここ最近の貴族間の主な揉めごとについてカデルに調べてもらうことにする。ぼくがいない間の窓口はリュミエラにお願いするよ。なにか重大案件が出てきたら……そうだな、ラーム伯爵に拠点の整備を早めてもらって、それを使う。それで間に合わない話なら、申し訳ないけどテルマ、お願いできる?」
「ん」
「それと、もうひとつリュミエラにお願いしたいのは、ぼくのいない間のもろもろの下準備。物資の調達とひとの手配だね。荷駄役二人、斥候と魔法使い一人ずつは最低必要だと思う」
「どのぐらいのランクの方を? 荷駄はともかくあとの二つは、高位の冒険者だとけっこう出費がかさみますよ? たとえばシルドラさんなら両方こなせますから費用を抑えられますが……」
「リシャールたちは普通の学生だよ? シルドラといっしょだと頭がおかしくなっちゃうよ」
「どういう意味でありますかっ!?」
あ、やべっ……。
「あの、ほら、学生レベルじゃシルドラの戦闘はレベルが高すぎてさっ。戦いかたがわからなくなっちゃわないかな、って……」
「怪しいであります」
シルドラはジト目だ。ここはスルーにかぎる。
「リシャールたちは正攻法の戦い方しか学んでないんだ。シルドラに限らず、身内は戦闘に関して水準が高すぎるんだよ。総合課程で戦いの心得もないはずのぼくに、そんな人脈あるはずないもの。それに、幸か不幸かぼく以外はみんなB級なんだよ? 正式に雇ったらお金がかかりすぎて大変だよ」
それに、戦闘素人のはずのぼくが、そんなハイレベルをいきなり引っ張ってくるのも説明が難しい。そんなツテがあるはずがないのが、学舎でぼくが占めているポジションだからだ。といってリュミエラの言うとおり、そんなレベルの冒険者をギルドに紹介してもらったら、それこそ学生が払えるレベルを大きく超過した額の請求が来る。
「もしこの件にウラがなければ、リシャールたち四人でほとんどの状況には対処できると思う。そこそこの水準の斥候と、そうだな……そこそこの魔法使いがいてくれれば、不安はもっと減る。ギルドにDランク希望で依頼を出せば足りるんじゃないかな。少なくともカデルから結果が上がってくるまではそのつもりで準備をお願いするよ」
「わかりました」
さて、ウラがあったときにはどうしたものか。可能性はそう小さくなさそうだし、適当なレベルの魔法使いが見つからない可能性もある。これまで自分にしか使ってこなかったパフ系の魔法をこっそりリシャールたちにかける必要があるような局面が来るかもしれない。ジルにでも手ほどきを受けておいた方がいいか……。泥縄もいいところだが、シュルツクに出発する前にいちど訪ねてみよう。
「このあいだ言われた件、引き受けてもいいよ。ただ、条件がある」
翌日、ぼくはリシャールに原則承諾の返事を返した。今のうちにクギを刺しておかなきゃならないこともある。
「助かるよ。で、条件ってなにかな?」
「まず、物資の調達や人繰りを含めて、事前の準備はすべてぼくに一任して欲しい。かかる費用もだ」
「もちろん。むしろ、そうしてくれたほうがありがたい」
「ぼくは自分が必要だと思うことをする。なにを手配して、誰を助っ人に連れていくか、リシャールたちに相談するつもりはないし、異論を受け付けるつもりもないよ?」
ウラが出てきた場合など、相談することで逆に混乱させる可能性もある。独善的と言われるかもしれないが、なにが必要かを見る経験値がぼくとリシャールたちでは大きく違う。
「わかってる。そこであれこれ言うつもりなら、最初からきみに頼まない」
リシャールならそう答えるだろうと言うことはわかっている。ここまでは最初から問題なし。だから、最後のポイントが一番重要になる。
「アンドレアとパウロにもそれは徹底してほしい。あのふたりにとって、ぼくはただの知りあいだ。三回生以降はほとんどつきあいもない。ぼくがそこそこ剣を使えることすら知らないはずだ。当然、ぼくが同行すること自体にも、ぼくのやることにも疑問を持つだろうけど、リシャールが、きみの責任で二人を黙らせてくれないといけない」
リシャールのリーダーシップが問われることになる。だが、彼にはそれができると、ぼくは思っている。フェリペ兄様は交流行事の時に強烈なリーダーシップで皆をまとめていた。あの時の兄様に今のリシャールが大きく劣るとは思っていない。しかし……。
「やってみるよ」
兄様にリシャールが劣るとすれば、ここだ。兄様に比べて、いくぶん自分への自信が弱い。ここは彼が一皮むけるかどうかの分かれ目と言っていい。……まあ、別にリシャールを成長させてやる義理があるわけでもないんだけどね。
「やってみる、じゃダメだよ。やると約束してくれ」
リシャールは少し逡巡したが、すぐに顔を上げた。
「わかった。約束する。アンリのやることには、誰にもなにも言わせない」
「あと、自由研究が免除になるよう、教官に言っといてくれよ。このままじゃ、何のトクもない」
「うー、わかった」
「その言葉、受けとった。交渉成立だね」
ぼくはリシャールと握手した。ちなみに、マルコの名前は一度も出てこなかったが、いろんな意味でぼくもマルコのことは信用しているのだ。彼はリシャールをリーダーとして高く評価しているし、ぼくのことは友人としてよく知っているしね。たぶん、ぼくがなにをやろうと知らぬ存ぜぬを貫いてくれるだろう。
お読みいただいた方へ。心からの感謝を!




