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11ー8 青天の霹靂w

プライベートでなかなか時間がとれない状況で、またご迷惑をおかけしました。

 王立学舎では、八回生になるとカリキュラムにずいぶんんと余裕ができる。そのかわり、一年の三分の二ほどをかけて自由研究を行い、総合課程では論文のようなものを提出しなければならない。


 大学の時はぼくは経済学部で、ゼミでは財政政策関係の論文を提出した。例によってそこそこそれっぽいテーマを選んで、ソコソコの出来のものをだし、ソコソコの評価をもらっていたわけだが、経済を含めて国の成り立ちが全く違うこちらでは、当然ながらその焼き直しは無意味だ。だが、なるべくならその時の遺産を活用して時間を節約したい(手を抜きたい、とも言う)。


 それで思い付いたのが、「予算」の概念だ。この世界、国の支出は王、そして王の指示を受けた各分野の専門家である側近が立案する政策による。その原資は王の資産だ。税収はそれを補填はするが、支出と収入の間に直接の関係はない。そもそも、収入の一部は現物だ。収入を予測し、それをもとに一年の政策を運営していけば、王家の財政基盤は安定するし、政策運営における王家の存在感も高まる。いや、知ってるよ? 予算が政策を縛ることで、勝手な施策ができなくするようにするんでしょ? でも、王権が絶対のこの世界でそんなこと言えるわけないじゃん? そういう結論に持っていくというだけの話だ。王を支えてこその貴族だし、無難な結論にしてこその「目立たない生徒」だし、持っている知識でラクをしてこそのぼくだ。



「それがどうしてそんなシンドイ思いをしに行かなきゃあならないんだよ!?」


 ぼくは目の前のリシャールにむかってブチ切れていた。


「え、いや、それはそれでやったらいいんじゃない?」


 リシャールは、当然ながらぼくの真意を全く理解せず、そうのたまった。まあ、ラクを求めるぼくの心を、この真面目で前向きな男に理解しろというほうがムリか……。




 災いは、春から夏に変わろうとする、ある日の夜に訪れた。突然マルコといっしょにぼくのところにやって来たリシャールは、彼ら騎士課程の生徒にとっての卒業研究とも言える、学生による単独遠征にぼくの同行を求めてきたのである。


「アンリなら大丈夫だと思うんだ」


「最初から最後まで何が大丈夫なんだか全っ然わからないんだけど! 特に、騎士課程じゃないぼくが巻き込まれなきゃいけないあたりが!」


「騎士課程にも、ぼくに勝ったアンリより強いやつはそういないよ」


マルコもウンウンと頷いているが、おまえら、ひとの話を聞いてるか?


「そういう問題じゃないだろ? それに、いつの話を持ち出すんだよ!? まず、勝ってない。そして、かりにそうなら、騎士課程のやつらは、七年も何やってたんだよ?! ぼくは学舎でまともに剣振ってないんだぞ!?」


リシャールは、マルコを見た。マルコも頷いて見せる。


「イネス様と引き分けたアウグスト殿下の指南役、アンリだったろ?」


おい、情報管理どうなってる?


「……誰が喋った?」


「アレハンドロ男爵。ほろ酔いの時に聞いた」


こんど一言言わないとダメだな。リュミエラを口説いたことも含めて、飲んだときの脇の甘さがひどすきる。しかもマルコに口止めもしていない。場合によっては、父様やアレハンドロ侯爵にご注進だ。


「だからって、戦ってナンボのお前たちといっしょにされてもなぁ……」


ここでマルコが再びボールをリシャールにパスした。


「いや、さすがにアンリに盾になってくれとか言うつもりはないよ」


「当たり前だ!! 死ぬわ!」


「まあ、ちょっと話を聞いてくれ。ぼくも最初からアンリに頼ろうと思っていたわけじゃない。アテにしてたやつがお家騒動で学舎をやめちゃったんだけど、騎士課程にはその穴を埋められる人材がいないんだ」


やめたやつのことはぼくも知ってる。それで、リシャールがぼくに期待する役回りも想像がついた。仕方がないから、話だけは聞いてやるか……。



リシャールの話はある意味予想どおりで、遠征にあたっての兵糧や武器の管理、外部からの助っ人の調達など、後方支援を中心に総合調整をぼくに頼みたい、というものだった。学舎をやめたやつは、騎士課程には珍しく、前に出るよりも少し引いたところから全体を見ることを好むやつだった。この役どころをそいつに頼もうとしたリシャールの目のつけどころは合格点だ。アテが外れてぼくに、というのも、他に適任者が騎士課程にいない以上、わからないではない。いくら後方支援とはいえ、最低限は戦えないとイザというときにあっさり倒れてしまう。

予想外だったのは、遠征の中身だった。


「メルビル森林の調査に行くことになっている」


「止めとけ」


メルビルは、カルターナの東、徒歩で一日半ほどの位置にある大森林だ。周辺部から森の中心部まで普通に探索して四日ほどかかる。さまざまな生物が魔化して棲息しており、処理は困難とは言わないがそれなりに手間取る。ぼくは四年ほど前に皆といっしょに、中心にいた巨大熊を仕留めて帰ってきたが、あまり騎士と相性のよいところではない。そして、二年ほど前にやはり遠征で行った騎士課程のグループが、死者も出して撤退してきている。


「ぼくだって気は進まないよ。明らかにぼく向きの課題じゃないし」


ふむ、リシャールの判断力に問題があるわけじゃないのか。


「じゃあ、なぜそんなことに?」


「普通は上位の序列にいるものは組が分かれるんだけど、今回、ぼくはマルコのほかにアンドレアとパウロと組むように指示があった。その上で、メルビルに行くように言われたんだ」


アンドレア・ペタッキとパウロ・モーラは、学舎入学以来の不動の二番手、三番手だ。パーティー間の実力差を小さくしようとするなら、絶対に同じ組にはしない。しかもリシャールと組ませる? なんとなく話が見えかけてきた。


「メルビルでの先輩たちの失敗の記憶を、リシャールがいるうちに打ち消しておこう、というところか?」


噂を聞く限りでは、リシャールのあとは五年下のロザリア・アンベルンまで突出した生徒はいないらしいからな。まあ、リシャールと違って、あの子は座学も別の意味で突出しているようだが。


「総合課程のアンリがすぐにピンと来るぐらいなら、間違いなくそうなんだろうな」


「だからって、ガチガチの騎士ばっかり揃えていっても、結果が大きく変わるとも思えないんだが、そのへんどうよ? 教官には言ってみたのか?」


「正式には言ってない。最初の指示の時に遠慮したいというようなことを言ったんだけど、聞く耳を持たない感じだった」


リシャールの表情もいまひとつ冴えない。ぼくには冗談めかして話をふってきたが、けっこう状況を深刻に受け止めているようだ。そして、それは正しい認識だと思う。マルコもそうなのかどうかは、見ただけではわからないが……。

多少距離をおいていることをベアトには見抜かれたが、それでもぼくもリシャールやマルコをよい友人だとは思っているし、つまらないことで失いたくはない。とても不本意だが、ひと肌脱がなければならないかもしれない。


「二、三日考えさせて。それから、外部の助力はどれくらい使えるのか、教えてくれるかな?」


少なくとも、斥候、魔法使い、二人くらいの荷駄役は必要に思える。学生が中心にならなきゃ無意味だとはいえ、三分の二を学生でとか言われると、いきなり詰む。まったく、学校もムチャだ。


「助かる。いい返事を待ってるよ。それから、外部の人間は半分を超えてはならない、というのが規則になってる」


リシャールとマルコは、ふざけた調子を完全に消して頭を下げた。


リシャールはそのまま自室に戻り、マルコとはその後は遠征の話にはいっさい触れずに無駄話をして夜を終えた。だからといってマルコが何も考えていないわけではないだろう。おそらく、リーダーとしてのリシャールにすべてを委ねているのだ。そして、ぼくはそれを正しいスタンスだと考えている。




一夜明け、ぼくはリシャールが持ち込んでくれたやっかいごとについて、本格的に考え始めた。


実のところ、助力すること自体はほぼ決めている。最大の要因は、やはり二人の友人を失いたくないということだ。二人とアンドレアたちの力を低く見積もっているわけではない。彼らは騎士になる人間としては十分強い。だが、実際にあの森に入ったものとして言えることは、騎士、それも経験を積んでいない学生だけのパーティーには多少荷が重いということだ。しかも、外部の人手を使うことを真剣に考えていた様子はない。リシャールがいても不測の事態は起こり得る。ぼくがいれば大丈夫、などと言うつもりはないが、対応できる事態の幅は間違いなく広がる。それだけでも成功率は上がるはずだ。


ただ、問題はイネスの結婚がらみで一週間後から約一月ぼくが不在となってしまうことだ。遠征まではまだ二月ほど間があるが、ただでさえアンドレアたちとはこれまでのつきあいが希薄なのに、十分に意思疎通をするヒマがない。あの二人とは仲が悪いわけではないが、いきなり総合課程のぼくが紛れ込むことを快くは思わないだろう。彼らにとっては、あくまでもぼくは頭でっかちの文官候補生だ。


また、学舎がここまでメルビル調査にこだわる背景は一応おさえておく必要があるだろう。リシャールの説明した内容は、どう考えてもおかしい。


外部から誰を助っ人として引き入れるかもやっかいな問題だ。手近に人材はいるが、いわゆる調査任務に素人のはずのぼくが、あまりに適材適所の人材をスカウトしてきても、四人の騎士候補生たちは不思議に思うだろう。ギルドかフェリペ兄様にでも紹介を頼むのでなければ、納得できないのではないか。


最後に重要な要確認事項がもうひとつ。仮にリシャールたちに力を貸すとして、ぼくはそれとは別に自由研究をしなければならないのかどうか。それは、是非とも避けたい事態だ。手を抜く予定の研究とはいえ、騎士課程の遠征だって卒業のための課題なのだから、時間の節約のためにもなんとしても代用する方向でまとめたい。リシャールに口添えさせてでも、その結論は確保せねばなるまい。



お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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