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11-5 ラーム伯爵(前)

前後編になる関係上、きりのよいところで切りましたので、少しだけ普段より短めです。

「シルドラ、解放してよい。ベルディソなら大丈夫」


「ええ、すぐそこにテルマがいるのにこれ以上ジタバタする気はないですよ。わたしも命が惜しいですから」


 シルドラも黙ってラーム伯爵(仮)の首に回した腕をゆるめた。ナイフだけは依然としてすぐに仕事が出来る位置に置き続けているが、テンションもワンランク下がっている。伯爵(仮)も首をさすりながら身体の力を抜いた。


「うしろの馬車はどうなっているかな?」


 ぼくはテルマに一応確認した。ラーム伯爵の帰路用に、二人ほど使用人(おそらく用心棒)を乗せた馬車がうしろをついてきていたはずだ。


「もう黙らせてる」


 テルマさんが処置済みのようだ。


「ヨーゼフ、いちおう拘束して、馬車を見ていてくれる?」


「わかりました」




「それで、わたしはなにを話せばよいのかな?」


 扉の壊れた馬車の中、という一風変わったロケーションで、ドルニエ貴族の子息とギエルダニア貴族の会話が始まった。チラッと、場所を変えることも考えたが、適当な場所を思いつかなかった。拠点に連れていくというのも一案だったが、そこまで手の内をさらすタイミングではないと思い直した。


「最初はあなたが伯爵であることを確認して、ウチの家にちょっかいを出さないようクギを刺すだけのつもりだったんですけど……いまはどこまで話題を広げるべきか迷ってます」


 伯爵(仮)が魔族であるとわかった今、今回のことを単純にギエルダニアの跡目争いとだけとらえると、流れを見失う可能性がある。


「じゃあ、せっかくだからわたしから先に質問してもいいだろうか? ド・リヴィエール伯爵家に手を出すな、という趣旨は理解できるんだが、それは学生に過ぎないきみがぼくに伝えるようなことなんだろうか? 伯爵家はそんなにきみを頼りにしているのかい?」


 なんとなく、だけど伯爵(仮)の物腰や関心は、この人は突っこんだ話が出来る人、という印象をぼくに与える。少なくとも、しかたがないから子供の相手をしてやる、という雰囲気はない。少しずつタネをまいて、どこまで食いつくかで判断しようか。


「今回のことは、すべてぼくの意思です。伯爵家はなにも知りません。姉のことがありますから、近衛騎士団にいる兄にひとこと警告はしましたが、それだけです」


「それはまた……どうしてそんなことになるのかな?」


 ぼくは、ダメでもともと、というつもりで、一段階突っこむことにした。


「それは話の流れによってまたあとで、ということでお願いします。まずは、ぼくがいまここで、誰と話しているのか、教えてもらえませんか?」


 伯爵(仮)は微笑を浮かべた。


「わたしはギエルダニアの伯爵、ヨッヘン・ラームだよ。だが、きみはそれを聞きたいのではあるまい?」


「もちろん」


「だが、わたしは確かにヨッヘン・ラームだ。少なくともここ二十年と少し、ベルディソという名前は使っていない」


 頭が混乱してきた。ヨッヘン・ラームだけどベルディソ? ベルディソだけどヨッヘン・ラーム?


「それは、二十年前にラーム伯爵に成りかわった、という理解でいいんですか?」


「いや、違う。わたしは二十数年前にヨッヘン・ラームを名のってボスマン公爵にそう小さくない恩を売った。その代償として伯爵位を手にしたのだよ」


「それは……なにか長期的な目的のために? ギエルダニアをどうしようと?」


 物語的にはあまりよい流れではないかもしれない。ありがちなのは、魔族が五十年、百年単位の時間をかけてひとつの国を食い破っていく、とか。ひょっとしたら、この場でつぶす、という選択肢も……。


「目的は長い時間が必要なものだったけど、そんなにたいした話ではないよ。人間社会に興味があったから、それを観察しようとしただけさ」


「……は?」




 そのあとの話をまとめるとこうだ。魔族であるベルディソさんは、魔族の社会と比べて「生産」という行動が大きな意味を持つ人間の社会におおいに興味をひかれていたらしい。しかし、魔族の世界から観察するだけではなかなか理解が進まず、思い切って領主の仕事を弟に押しつけ、比較的アクセスしやすかったギエルダニアにやってきた、と。キャラとしては、欲しい知識のために何でもやる「学者バカ」系統だな。そしてたまたまその時のギエルダニアは権力抗争の真っ最中で、形勢が芳しくなかったボスマン公爵の逆転劇に多大な貢献をしたらしい。


「魔族は、なにか必要なものがあれば、他者から力で奪い取るだからね。誰かが生産のまねごとをしてみても、誰かに力で奪われるのがオチなんだよ」


「ベルディソは同族の中で変わり者。たぶん、本気で誰かと戦ったことがない」


 テルマがボソッと口を挟んだ。平和的な学者肌の魔族と言うことですか?


「それは、いくら本気を出したってきみみたいな化け物には勝てないからだよ、テルマ」


「わたしはごく普通」


 いや、それは絶対に違うと思う。でも、「変わり者」とか「化け物」とか平気で口にして、互いにそれを流しているところを見ると、このふたりはそこそこ親しかったのだろう。


 そういえば、ラノベ的に主人公が政変に巻きこまれて活躍してしまい爵位をもらう、というのもあったな。おそらくベルディソさん(当時)は、人間と比べればチートな力を使って皆が認める活躍をしたのだろう。だからこそ、新参でありながら伯爵位をえて、公爵の懐刀ふところがたなとなっているワケだ。どうやら、(仮)はこれ以降はつけないでよさそうだ。




「それで、伯爵はなぜユルゲン皇子を積極的に後押ししているのですか? 伯爵の話を聞く限り、だれが皇位を継いでも人間社会の観察が続けられれば問題はなさそうですし、わざわざドルニエまで手を伸ばして工作、というのがピンとこないんですけど?」


「たしかにそのとおりなんだが、さすがにいまのわたしの立ち位置はボスマン公爵に近すぎるんだ。ハンス皇子が皇位を継げば、ボスマン公爵は中枢から遠ざけられる。当然わたしもまきぞえを食う。もともと根無し草からたまたま貴族になったに過ぎないから、そうなると爵位を維持できるかどうかが微妙なところだね。できれば冷や飯を食いながらよりも、左うちわで観察を続けたいじゃないか。ちょっとの努力でラクが出来るならその方がいいと思わないかい?」


 あれ、ちょっとこの人ダメな人かも。そして、微妙に共感できるところがさらにダメかも。


「理屈をこねてもけっきょく怠けられる方向に流れる、というところはアンリさまそっくりでありますな」


 ナイフを握ったままのシルドラが、ニヤニヤ笑いながらぼくを見た。レイハナの時にぼくが本番ではなにもしなかったことを、いまだにネタにしていやがる。


「ぼくは怠けてないから! 身動きが取りにくいだけだから!」


「それに、後継者争いの行方が微妙になりすぎているのだ」


 ん? 話がちょっと込み入ってきたか?


「というと?」


「ちょっと前までは、なんだかんだでハンス皇子が皇位を継ぐことになると、おおかたの人が思っていた。それが、ユルゲン皇子がちょっと盛大に空手形を切ってね。グラつく貴族がけっこう出てきた。なまじ勝ち目が多少なりともでてきてしまっただけに、いまは彼も欲が出てきてしまっている。皇位を手にできないことが明らかになったときに、すんなりあきらめがつかないかもしれないんだ」


 あー、なるほど。これは聞いておいてよかった情報だ。


「あきらめきれずに力づくで、という可能性が出てきたと?」


「ご名答。じっさい、それをときどき口にするようになってきているとか。さすがに危機感を覚えたボスマン公爵が必死にいさめているようだけど、どうなることやら」


「ただ、それはそれで観察すべき人間社会の側面ではないんですか?」


「その場合、かなり国が荒れる。それくらい拮抗しているんだ。そうなると、ドルニエを含めて他の国が手を伸ばしてくるだろう? 食い荒らされて社会自体が壊れてしまうじゃないか。観察どころではなくなってしまうよ」


「その場合は、拠点を移してまたはじめから、というわけにはいかないんですか? ギエルダニアという国じゃなくて、人間の社会に興味があったのでしょう?」


「そう言われてしまうと反論しにくいが、わたしも二十年以上ギエルダニアに暮らしていて、ほんの少しだが国に愛着もわき始めているのだ。陰謀ごっこで話が終わるのであれば、それですませたいと思うくらいにはね」


 あれ、これ、ぼくが考えていることと、ちょっとアウトラインが似てないかい?



お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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