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10-2 二つの脚本

またまた、人手不足の中での計画立案です。

「整理しながら話を進めるね。まず、今も言ったようにぼくらの出番は攻撃を受けたときの避難の支援、それとレイハナ奪回が確実に行われるための支援の二本立てだ。どちらも舞台裏の仕事だし、表舞台で動いている人たちの協力は得られないと思う。時間的にもほぼ連続しているようなものだから、全員で両方に当たるのは難しいんじゃないかな」


 最近は、こうして基本的な方向を最初に出せば、あるていど勝手に議論が進んでいくから非常にラクだ。これでなくてはいけない。


「時間的に連続している、というのはどういうことだい? そこはシャナ殿下に話を通しておけば、けっこう融通がききそうだけど?」


 最初に突っ込みを入れてくれるのは、今回もビットーリオだ。本当に役回りをよく心得ていてくれる。これで変態じゃなきゃな。


「シャナ殿下がいくらうまく時間を計算した計画を書いても、実行に移すのは現場だよ。話を聞く限り、前線にいる二人の脳筋王女がそんなに辛抱がきくとは思えないんだよ。撤収が終わったら間髪を入れず出ようとするんじゃないかな。それに、その場にシャナ殿下はいないから、抑える人間もいない」


「シャナ殿下に前線に来てもらっておけばいいんじゃない?」


 ローラ、きみは引きこもりというものを甘く見ている。こんな、彼女にとって些末な案件でポリシーを変えるようなら、それは引きこもりじゃないんだ。


「賭けてもいいけど、どう焚きつけてもシャナ殿下は王城から出ないよ」


「そ、そうなの……?」


「そうだ。これは間違いない。異論は認めん」


 ぼくはローラに向かってきっぱりと言い放った。


「よ、よくわからないけど、わかった。納得はしてないけど、わかった」


「よろしい。話を戻すと、無理に全員で当たる計画を作ると、いざというときに全体が崩壊する可能性があると思うんだ。だから、最初からレイハナ撤収組と、レイハナ奪還組の、完全に二手に分かれたシナリオを作ろうと思ってる」


「しなりお、とは何でありますか?」


「け、計画ってことだよ。文脈で察してくれよ、シルドラ!」


 シナリオって単語を使ってみたかった、なんて言えるはずないじゃないか。だって、なんとなくカッコいいじゃないか。この世界にない単語だってことは忘れてたんだよ!


「すると、どういう組分けで、具体的に何を行動目標にするのですか? いつものとおり、二手に分かれると人数的に厳しくなりますが?」


 おお、やっぱりリュミエラは頼りになる。それとなく話を戻してくれた。


「さっきも言ったとおり、ひと組目はレイハナの住民の避難の支援。支援といっても、女王国軍の協力は期待できないから、実際上すべてを抱え込む覚悟でかからなきゃならない。まず教会があてになるかを調べて、あるていど頼りになるなら教会を前面に立てるし、あてにならないなら、教会の代わりになるものをでっち上げる。具体的には『聖女様』だ。そのときになったら、リュミエラ、お願い」


「わ、わたくしが聖女、ですか?」


「人をその気にさせる話術と、人を集めるカリスマが必要なんだ。聞いたよ。リュミエラ・アンドレッティをめぐって、国王と皇太子が恋のさや当てを演じていたんだって?」


 いきなり場がシーンとなった。ここにいる誰もが、リュミエラの令嬢力れいじょうりょくについて疑問を持っていない。だが、こんな雲の上的な話にまで関わっていると考えている者もいないのだから、衝撃を与えるのは当然だ。というか、一般人にはふつう、そこまで想像が及ばない。


「ど、どこでそれを!!」


 リュミエラは真っ赤になってワタワタし始めた。彼女が慌てて取り乱すシーンも最近は滅多に見ない。新鮮だ。


「カトリーヌ姉様に聞いた。自分が五の手を打つところを一つですませ、五しか気配りが行き届かないところを十も十五もやってのける、って懐かしそうに言ってたよ。聖女役にはうってつけだと思うよ」


「わ、わかりました。わかりましたので、どうか話を先に……」


 視線が集まり続ける中で、リュミエラは顔を赤らめたまま、小さくなって話題を移そうとしている。うんうん、すごく可愛く見えていい感じだ。このぐらいにしてあげよう。


「次に、聖女様と言えば、侍女が必要だ。護衛も兼ねるから……」


「はいはい! ボクがやる!」


 たしかに、はじめからローラを指名するつもりではいたけど、この前のめり感は半端ない。響きからして女の子らしい役回りが、ピンポイントで彼女の感性を震わせたらしい。だがローラ、あくまでもこの場合は、きみは武装侍女だからな? 微妙にイメージが違うぞ?


「わかったわかった。ローラに任せるよ」


「やったね!」


 演劇会の役決めのノリだが、これでローラはやることはきっちりやる。なにせ、もと英雄様だからな。


「あと、金回りのことを含めて、実務的な仕切りでエマニュエルに行ってほしいんだけど、いい?」


「了解。商売ネタがあったら、ついでに拾ってきていい?」


 こいつはブレないな。


「任せるよ。あと、遊撃隊みたいな役まわりでローザに行ってもらおうかな。もめごとの調停も、時に腕力がいるし」


「わ、わたしに役回りをいただけるのですか?」


 ローザが涙ぐんでいる。基本的に軽い扱いが多かったのを気にしていたらしい。なんか、彼女も少しずつキャラが立ってきたな。




「そうすると、残りはレイハナ奪還組だね? 具体的には何を考えているんだい?」


「うん、ビットーリオ、それなんだけど、きみとヨーゼフ、それにフレドは今からアッピアの傭兵にもぐり込むか、ギルドの人狩りに応じて、アッピアの軍勢にまぎれこんでいてほしい。どうかな?」


「ああ、それは悪くない考えだね。自然な形でレイハナにもぐり込むことが出来る。だが、その三人だと小回りはきかないよ? アッピアの奴らをうしろから何人か殴り倒すぐらいが関の山だ」


 いや、それはさすがに謙遜しすぎだろう。ビットーリオの立ち回りは基本的に信用している。ヨーゼフとフレドもディスインフォメーションをやらせれば一流だし、十分にアッピアの軍勢を弱体化できる。




「ア、アンリ様、わたしが入っていないでありますよ……」


 ビットーリオたちの動きについてあれこれ話し合っていると、シルドラが心底情けない感じの声で言った。見ると、訴えるような表情に、目が潤んでいる。


「わたしも一緒に暴れたいのです!」


 ニケも追い打ちをかけるように騒ぎ出した。だからニケ、暴れるのは基本ナシだって言ったじゃないか。


「今回、シルドラとニケは特別なんだ。さっきみんなを二つに分ける、って言ったけど、二人には両方で活躍してもらわなきゃならない」


「どういうことでありますか?」「暴れていいのです?」


 活躍、という言葉に、シルドラの気分はすぐに上向きになった。基本シルドラは最前線であれこれやっているのが好きなのだ。ニケは暴れられればどうでもいいみたいだが。


「アッピアの軍勢が寄せてくるまでは、リュミエラたちと一緒に行動してもらう。たぶん、動きの邪魔になる不満分子とかいるから、そういうのをこっそり取り除くのが主な仕事になるかな」


「了解であります!」「わかったのです!」


 二人とも、気分はさらに上向いたようだ。


「リュミエラたちが住民と一緒にレイハナを引き払ったら、二人はレイハナに残る。軍勢が攻め寄せてきたときには、どこかに身を隠していてほしい。レイハナが占領されたら、ビットーリオたちと合流して後方を攪乱しつつ、住民不在の街の略奪を出来るだけ防ぐ。女王国が反攻で動き出したら、タイミングを合わせて指揮官をる。こんな感じだけど、出来そう?」


「当たり前であります! うう~、みなぎって来たであります!」


 シルドラ完全復活だ。めでたしめでたし。この人も、ユルい人だがやるときはやるし、大丈夫だろう。


「いつ暴れるのです?」


 そ、そうか、たしかにはっきり暴れる機会はないな。


「指揮官を始末したら、そのあと暴れていいから。ただし、人型のままでね? 猫になると目立ちすぎるから禁止」


「合点なのです!」


 大丈夫……だよな?




「ところで、アンリは何をするの?」


 ローラが秘孔をいきなり突いてきた。いや、別にやましいところはないよ?


「ぼ、ぼくはさ、学舎があるから、ずっと向こうに張り付いているわけにいかないし、基本は情報の整理と女王国との連絡かな。ここにいてシャナ殿下と情報共有したり、急な計画の修正をしたり、いろいろあるよ。万一の時のために、テルマにはこっちに待機してもらうつもりだし」


 学舎があるから、というのはホントだぞ? イネスの婚約みたいに特別な理由がないから、長期休暇は無理なのだ。それに、シャナ殿下と情報をシェアして計画を微修正していくことだって、必ず必要になる。


「大丈夫だよ。こんな感じでも、アンリはやるときはやってくれるさ」


 おおい、エマニュエル、きみ、いつの間にそんなに褒め殺しスキルを上げた?


「心配ない。なにかあればすぐにわたしが連れて行ける」


 テルマさん、退路を断たないでくださいます?


「頼んだでありますよ、姉さん!」


 シルドラもこんな時だけ、姉妹の信頼感を前面に出さないで!




 こちらの動きの大枠が決まったところで、問題は教会だ。使えるものなら、活用するのがいちばんいいのは当然だしね。


「ヨーゼフ、レイハナで教会がどんな活動をしているかわかる?」


「さすがに、一つ一つの街の教会がどうか、なんてことは、オレにはちょっと。ただ、だいたいの地方の教会組織は、布施をどうやってかすめ取るかと、ビルハイムの本部をどうごまかして蓄財するか、しか考えていなかったと記憶してます」


 全然ダメじゃん。


「ち、地方の組織はどういう構造になってるのかな。その、レイハナぐらいの街だと?」


 せめてどこかにとりつきやすい部分があれば……。正義感に燃える地区長補佐とかさ。


「レイハナぐらいだと、司祭が一人と、あとは修道士と修道女が何人か、ですね。司祭がいちばん好き勝手やりやすい規模だと思って間違いないです」


 詰んだ。既存の教会は使えないと思っておいて間違いない。いっそのこと、リュミエラを教祖にして新興宗教を立ち上げたほうが早いかもしれない。


お読みいただいた方へ。心からの感謝を!


教会ネタはどう発展させていこうか、じつはまだ少し迷っています。

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