第七章 宝者 ~side暁~
『ん……』
『向日葵!!!!』
小さく声をあげて目を細く開く向日葵に、安堵からつい俺は勢いよく抱きついてしまう。
『きゃっ…!な、はぁ、なに…暁か…』
『向日葵!よかった…。もう、いつも助けられなくて…力になれなくて、本当にごめん』
『………』
『こんな俺、だめすぎて……情けなくて…』
ポカッ
突然、頭に軽い衝撃が走り顔をあげると、本当にほんの少しだけ眉を下げ、困った顔をしている(たぶん向日葵のことをよく知っている俺以外の人が見たらただの真顔に見えるだろう)向日葵の顔がそこにあった。
『そんなことない。助けられないとか、そういうの思わなくていい。暁は笑ってた方がいい。笑って。』
『……!で、でも』
『笑って。暁の笑顔は、良い。』
『……………はぁ、向日葵には敵わないなぁ、ほんと。いつも俺の方が助けられてばかりだ』
『…?何を言っているの?私は思っていることを言っているだけ。というか、早く。笑って。』
『…はは、そっか…そっか…。ありがとうな』
『…?うん。』
ありがとうの意味が分からなかったのだろう、不思議そうに顔を傾ける向日葵が愛おしくてついつい頭を撫でてしまう。
『………なに?』
『いや、なんか、なんとなく?』
『そう。』
向日葵は俺に頭を撫でられながら、何食わぬ顔で窓から夜の景色をぼーっと眺めている。
『どうしたの?』
『うん、綺麗な星空だと思って』
『そうだね。晴れてたからかな?今日は一段と綺麗だ。』
『そう、ね。』
『うん』
『……ねぇ』
『ん?』
『………手、頭じゃなくて、手がいい。』
『?』
『頭じゃなくて、手。』
『??』
『だから……手。』
『あ!ああ!よしよしじゃなくて、にぎにぎ?』
『………にぎにぎ、へんなの。……でも、それ』
『はは、そっか。はい。』
『……暁の手、あったかい。』
『うん。向日葵も』
『……そっか。』
『うん。』
『あったかいな。』
『うん。』
『……ねぇ』
『うん?』
『………まだ、ちょっと体がしんどい。から、寝る』
『わかった。大丈夫?ゆっくり休んで』
『うん。……手…』
『わかってる。繋いでるよ。向日葵が眠っても、ずっと』
『うん。』
『起きるまでずっとね』
『うん。』
『おやすみ。』
『おやすみ。』
当たり前だけど、とても疲れていたのだろう。すぐに寝息が聞こえて来る。向日葵が横にいる幸せと、この幸せがいつ消えてもおかしくない不安とで心がわちゃわちゃして、より一層手を強く握りしめる。
『大丈夫。今の俺達には、神様がついてる。大丈夫。大丈夫。』
呪文のようにそう呟き、俺も向日葵の横に体を倒す。
『俺ももっともっと頑張るから。死んでも絶対守るから。……だから、俺の笑顔なんかより、もっともっと眩しいあの笑顔をまた見せてくれよな、向日葵。』
眠っている向日葵を抱きしめると、安心感からか今日一日の疲れをどっと感じ、俺もすぐに眠りについた。