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忘れたのは風詞  作者: めるめめめのの
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第五章 向日葵と暁

『向日葵っ!』

突然現れたその少年は、気を失っている少女を見るやいなや一目散に彼女に抱きついた。

『向日葵っ…!向日葵!!

…はぁ、っ息は、あるな…はぁ……っは…

ごめんな…また、守れなくて…』

あっけに取られている僕の横で、詞がおもむろに頭を下げる。

『暁…すまない。また、力になれず……

また、彼女をこんな……』

そう言って少年にふれると、少年はゆっくりと顔をあげる。

『いえ、そんなこと…いつもありがとうございます。

向日葵を助けてくれて。』

そして優しく詞に微笑む。と、僕と目があい、一瞬不思議そうな顔をして詞に尋ねる。

『あ、れ?あの、この方は?』

『そうじゃ!!こいつはの、なんと!神様なのじゃ!!!』

『……………』

今度は少年があっけに取られている。……等と流暢なことをいってる場合じゃない!下手したらまた打たれるかもしれない!そんなことを考えて少し怯えた時間はーーー

一瞬だった。

『かっ、神様ーーーーーー!!!!!??』

急に大声を出されてびっくりと固まっていると、少年は勢いよく立ち上がり頭をがばっと下げる。

『あの、ああの、俺は火夜(かや) (あかつき)といいます!!

 その、あの、彼女をどうか助けてください!!

 俺ならなんでもやります!!ほんと!なんでもです!

 あ!あの、彼女は俺の幼馴染みで、その、あの、大切な人で、

 それで、俺は、向日葵がほんとに……』

『……っぷ、くくく』

彼のマシンガントークにあっけに取られていると、

急に詞が吹き出し、笑い始めた。

『はは、そんなに畏まらなくても大丈夫じゃ。

なんせ、優し~い神様だからの。のぅ?神様?』

『え?あいや…その…や、優しいかは分からないけど

そんな気を遣わないでください。

それに、その……その彼女を助けたいと思う気持ちは同じですから。』

『な、なんて素敵な方なんだ……神様なのに、こんな、偉そうにせず穏やかで…て、あ!こ、これは、神様は偉そうな人だとおもっていたという訳ではなく、あ、というか、神様は人じゃないですよね!えと、偉そうな方だとおもっていた訳ではなく、その!あ、あれ?なんの話だっけ?あ、でしたっけ?あ、じゃなくて……』

『……っぷ、はは』

彼の慌てっぷりに我慢ができず、今度は僕が吹き出してしまった。

『ああああああ神様!!失礼致しました…!!あ、あの俺、ほんとに、神様に急にお会いできて、どうすればいいのか分からず…変なことを…言ってしまったりして、ほんと、申し訳ありません!!』

『っく…ははは、お主、神様は笑っているだけなのに、なぜ謝るのじゃ。ほんと、お主は面白い奴よのぅ、暁』

『あ、えと、そう、なの、か、な?えと、じゃあ、笑って頂きありがとうございます神様!』

『ははは、君、暁くん、でしたっけ?本当に面白いですね。あ、いい意味で、ですよ?暁って名前がぴったりですね。

なんだか君が来たとたん、夜が明けたみたいにまわりが明るくなりました。』

僕が笑ながらそう言うと、暁くんは瞳をうるませー……

『うわぁああああん!!なんてお優しい方なんだ!!!

俺、俺、向日葵が生け贄にされはじめてから、何度も神様を呪ってしまいました!!!神様なんてきっとひどい奴なんだって思って……俺、俺……もう死んで詫びますーーーー!!!うわぁああん!!!』

そう言い、走ってどこかへ行こうとしたところを

詞に足をひっかけられー……ド派手に顔から転んだ。

『お前なぁ…お前がいなくなったらこの娘はどうするのじゃ。お前が死んだら誰が向日葵を守るのじゃ。』

『いっつ……で、でも!そっ、そうですよね!俺がこいつを守ってやらないと!でもでも!顔が痛いですまじない師様!!』

『お前が馬鹿なことをするからじゃろう…全く。』

暁くんは顔をさすりながら立ち上がり、僕に頭を下げる。

『あの、ほんとにほんとに!向日葵のことをよろしくお願いします!俺もこの命をかけて、精一杯彼女を守ります!だから、どうか、向日葵をお守りください…!お願いします!!』

一もちろんです!!一と、満面の笑みで彼の言葉に答えてあげたい。あげたいのだけれど……僕は本物の神様ではないのだからそんなことが言えるはずがなくー

『その、それはー』

『当たり前じゃ!!!』

『!?』

ぼくが自信なさげな言葉を発してしまうと感知したのか、すかさず詞がはち切れんばかりの笑みで答える。

『神様に任せておけば大丈夫じゃ!必ず彼女を救ってくれるじゃろう!な?神様?』

『あぁあ!さすが神様です!!!俺、俺…もう!ほんとに嬉しすぎて……』

満面の笑みの詞、嬉し泣きする暁くん、そんな2人を前に自信のない言葉を発せられる訳もなくー

『ま、任せておいてください…』

ぎこちない笑顔でそう答えるのが、僕の精一杯だった。


『……さて、それでは今度こそ、とりあえず安全な場所に移動しておくか…』

詞がそう切り出す。

『そうですね。とにかく向日葵を休ませてあげないと。』

『あの、さっき聞きそびれましたけど、安全な場所って、今からどこに行くんですか?』

『暁、いつものように暁の家で構わんじゃろ?』

『はい!もちろんです!向日葵のためにいつでも寝台だけは綺麗にしてありますよ!』

『寝台"だけ"って…いいかげん他のところも綺麗にする習慣をつけるようにじゃな…』

『す、すみません!どうも昔から掃除の類は苦手でして…と、早く休ませてあげなきゃですね!……よい、しょっと!行きましょう!』

暁くんが向日葵と呼ばれる少女を背負い、僕らは森を背に歩き出した。

ーと、


カサッ


『?』

背後から何か音が聞こえた気がしてふと止まり、後ろを振り向く。

が、何も見えなかった。

『?どうかしたのじゃ?』

『あ、いや、なんでもないです。行きましょう。』

一気のせいかー

僕はすぐに前を向いて歩き出し、こうして僕たちは森を後にした。







無人になった森に、彼らが行った道を見ながら目を丸くして佇む少女が1人、小さく呟いた。

『ーーー詞?』

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