第四章 神の懺悔
『まず、お主は、なぜ生け贄というモノがつくられたと思うか?』
『生け贄…ですか…。そうですね…やっぱり、作物を育てる雨が降らなかったり、獲物がなかなか取れなかったり。そういう良くないことが起こらないように、神様を喜ばせるために生け贄をー…とか、そういうのですか?』
『ああ。その通りじゃ。お主の申したとおり、ことの発端は雨不足じゃった。そして村の者が、神を喜ばすために、村に雨を降らせるために、最初の生け贄を用意したのじゃ』
『最初の、生け贄?』
『……ああ…この娘の前にも…何人か…生け贄…が…な…』
『そう…だったん、ですね』
とても苦しそうな、辛そうな、なにかを堪えるような顔をしていた詞だったが、どうにか重たい顔をあげ、続きを話始めた。
『……それで、妾は、生け贄なんかもらっても何も嬉しくない。そんなことは二度としてほしくない。それを伝えようと、その生け贄を捧げられたあと、何も状況を変えなかった。そうすれば、神は生け贄を喜ばれなかったから、雨を降らしてもらえなかったのだと、もしくは、神など存在しないのだと、このどちらかを人間は考えると思ったのじゃ。………だが、人間はそう考えなかった』
『……まさか…』
『ああ。お主の考えておる通りじゃ。……妾のその間違った選択の結果、人間は“まだ生け贄が足りないのだ”と、そう考え、さらに生け贄を用意した』
『……』
『だから妾は慌ててしまった。とにかく早くこの生け贄たちを助けなくては、そう考えて、雨を降らしてしまったのじゃ。…後のことも考えずに……』
『…そうか…人間たちは、生け贄が喜ばれたから雨を降らせてもらったと、勘違いしてしまったのですね…』
『……その通りじゃ…。そのあと何度も人間たちに妾の考えを気づいてほしいと、試行錯誤したのじゃが、やはり何をしても上手くいかなかった。それでとうとう我慢ができなくなり、生け贄として捧げられた娘の命を、助けてしまったのじゃ』
『……それが…この女の子、なのですね』
『そうじゃ。そうすると、最初こそ気味悪がっていたものの、ある時、“このまま生け贄を続けていたら、村の女が少なくなる。もしかすると、この娘は神が生け贄専用に与えてくれたものなのではないか”と言い出す者がでてきたのじゃ。』
『…なるほど…』
『それからこの娘は、神に与えられた生け贄専用の娘と考えられ、何度も生け贄としてひどい目にあわされー……。
……だから、全て妾が原因なのじゃ。もっと妾がしっかりしておれば……』
『でも…悪いのは人間です…詞はずっと心を痛めてきたんでしょう?』
『いや、妾が悪いのじゃ。こんなの神様でいる資格などない。こんな、人間を傷付けてしまう神など……』
『そんなこと………あれ?』
もしかして、詞が僕に神様になってほしいというのは、神様としての資格がないと、自分を責めているからなのか?
それなら、僕の方がなにもできるわけないじゃないか。僕はただの人間でー
『詞、もし自分を責めて僕に神様という役割を託そうというつもりなら、それはー』
すると詞は急いで首を振った。
『あ、いや……それはちょっと違うのじゃが……妾がお主に神様になるよう頼んだ理由は…』
そのとき、
『向日葵ーーーー!!!返事してくれ!向日葵ーーー!!』
と、少年らしき大きな声が響いた。
向日葵?なんのことだろうと思わず目をぱちくりとさせていると、そっと詞に耳打ちをされた。
『向日葵…« 命名 向日葵 »、これがこの生け贄の少女の本来の名じゃ』
『え、では命名 贄は…?』
『生け贄専用の娘に向日葵など似合わぬ…そう奴らが勝手に、まるで自分たちがしていることを正当化させるように、心を傷めなくてすむように、そんな身勝手な理由でつけられた、"生け贄専用の娘として"の名じゃ』
『…………』
僕がその所以にあっけに取られていると、先程男たちが帰っていった場所から、今度は少女と同じくらいの歳の男の子が駆け足で現れた。