第一章 神様
『まぶしい…』
今まで眠っていたのだろう。
あの夜、あのまま外で眠ってしまったのだろうか。
ということは、やはりあれは夢…?
徐々に視界が開けてくると、そこには
いつもの見慣れた景色が…景色……
『……なんだ、ここ?』
目の前には、見たこともない、
朝日に照らされた自然の世界が広がっていた。
『なんだ、これ?どこだ?』
そこにはビルも、道路も、家も、なにもなくて
ただただ木々が朝日に揺れているだけの
素朴で、不思議な、どこか懐かしさを覚えるような
そんな空間に、僕は一人で佇んでいた。
ふと足元を見下ろすと、
『……』
……足元を見下ろしたことで気づいたのだが
なぜか服装も変わっている。
着物のように手元が大きく開いた長袖に
足が見えないほど長い丈の、
何の模様もない真っ白なワンピース…ではないと思いたいが
『…ワンピース…だよな?』
どうしてこんな見たこともない場所にいるのか、
どうしてこんな身に覚えのない格好をしているのか、
まさか本当に、
『神様…になったのか?』
………………
…………いやいやいやいやいや。
21にもなってこんなことを考えるなんてどうかしている。
とりあえず出来る限り今の状況を確認してー
そう思って足を踏み出した時だった。
『こぉーとばあぁああああ!!』
ガクンッ!!!!
名前を呼ぶ声とともに、足をなにかにぎゅっとおさえられー
『うわっ!』
そのまま前から地面に盛大に倒れこんでしまった。
『いったたたた…』
『おぉおおお!これはしまった!申し訳ない!
痛いか?い、痛いか?
……痛いの~痛いの~とんでけ~!!』
『…あの…君、誰?』
足元を見ると巫女さんのような格好をした
7歳くらいの幼女が、僕の足に抱きつきながら
おろおろと心配そうにこっちを見ていた。
『……君の方こそ大丈夫?お母さんは?迷子になったの?』
『おお!喋ったぞ!
この様子だと妾のことも見えているようだし、
うむ!大成功じゃ!!』
………なんだこの噛み合ってなさすぎる会話は…
『あの、話聞いて…』
『詞ぁああ!やったのじゃ!詞!神様じゃぞ詞!』
『………え?』
『昨日の夜話した通り、お主は無事神様となったのじゃ!』
『………え?』
『いやぁ、こんなことをしたのは
さすがの妾も初めてじゃったからな!
どうなることかと思ったが、良かった良かった!』
『あの…一体どういうことかな?
君、なんとかごっこみたいなのしてるの?
神様ごっこ?悪いけど僕今ちょっとそれどころじゃ…』
『神様ごっこじゃと?なぁ~にを申すか!
お主はごっこじゃなく、紛れもなく神様様じゃ!!
昨日約束したじゃろう?
妾の代わりに神様になると』
『はい。夢のなかで?』
『だから夢じゃないのじゃ!
お主はこの村の本物の神様になったのじゃ!』
『……どういうこと…ですか?
それじゃあ貴方は本物の……?』
『もちろん!本物の神様じゃ!
ででーん!!偉いのじゃ!!!』
……神様がこんなバカそうなやつなわけー
『無礼じゃぞ!神様にむかってバカそうとは!』
『え?』
『忘れたのか?お主の心は全てお見通しじゃ!』
『………本当に本物の…』
『神様じゃ!!!!!』
にわかには信じがたいが、どうやらこの
少しバカな
『陽気と言ってほしいのぉ!』
……陽気な少女が
『ただの少女ではなく、可愛くて可憐で愛らしく
さらに美しさも兼ね備え、どこかミステリアスな雰囲気ももっていて、さらに』
そんな!少女が、
『おい!最後まで聞かぬか!まだあと三時間は自己紹介できるぞ!』
神様……らしいです。
そして、僕はこの本物の神様の代わりに
今日から本当に、神様となってしまったのでした。