プロローグ
ー僕の存在する意味ってなんだろうー
僕、都雲 詞は、いつものようにぼーっと夜風にあたっていた。
僕は昔から、夜の景色や、空気や、音が好きだ。
夜は、いろいろと自由な僕でいられる気がする。
そして、その自由な僕を受け入れてくれている気がする。
孤児院で育ち、引き取り手すらなかった僕は、
家族も、夢も、将来も、未来も
なに一つ持ってなくて、成人してから
ただただその日生きるためだけのお金を
適当に稼ぎながら、全く意味のない人生を送っていた。
今日もそんな生活を送ってまた、
いつものように夜がきた。
『今日も…良い夜だ』
夜になると、今日も朝から夜になるまで
ちゃんと頑張って、生きたなぁ、と思う。
そんな自分を褒めたくなると同時に、
また今日も、いつもと変わらない1日だったなぁ。
また今日も、いつもと変わらないんだなぁ。
いつまで、これなんだろう。
いつまでも、これなのかな。
いつまでも、このままなら
僕はなんで、生きているのだろう。
僕はなんで、死なないのだろう。
……今日こそ、死んでもいいかな。
そんなことを考えてしまって、
今日こそ、ああ、今日は本当に、
そうだな。
『死のうか。』
その時、頬を優しく撫でていた夜風が
少しだけ、熱を帯びた気がした。
《なぁなぁ、お主、死ぬのか?》
……声?
《なぁなぁ、お主じゃお主
妾はお主に話しかけておるぞ》
……声?だよな?
『誰か、いるの?』
《ああ。やっと気づいたか。
都雲 詞。お主、今死のうとしていたのか?》
『…なんで僕の名前を知ってるんですか?
あと、貴方はどこにいるんですか?』
《お主の名前は以前から知っていた。
あと、妾はお主の目の前にいるぞ》
『……夢かな』
知らない声、見えない姿、そして何故か
その相手が僕の名前を知っている。
夢か、それか、あれ?
僕もう死んだんだっけ?これは死後の世界的な何かか?
いやでも僕死んだっけ?あれ?死んだんだっけ?
《お主、なにをぐるぐる考えておる。
ちなみに、お主はまだ死んではいないぞ》
『え?僕、今考えていたこと声にだしていました?』
《いや?》
『え?でも今僕が死んだのかなぁって考えてたこと
分かったじゃないですか』
《ああ、妾にはそれくらい容易いことじゃからな》
『……は?』
《まぁまぁ、細かいことは後じゃ!都雲 詞!
単刀直入に言う!
妾の代わりに神様になってはくれないか?》
…………………
…………………ああ、夢か。
《夢ではない!!現実じゃ!
お主、毎日のように死のうとしてはやめ、
死のうとしてはやめ、の繰り返しの日々じゃろう。
生きる意味も見失い、己を一人ぼっちだと…
そんなお主だからこそ、頼みたいのじゃ。
妾の願い、聞いてくれはくれまいか!》
『………貴方は、誰なんですか?』
《妾は神じゃ》
『へ?』
《言ったじゃろう?
妾の代わりに神様になってほしいと》
『いや、いやいやいや、あの、なにを?』
《頼む。妾の代わりに、神様に》
『あの』
《お主しか》
『ちょっと』
《お主を待っていた》
『おい』
《妾は》
『おい!』
《妾は、あの娘を助けたいのじゃ!》
『………あの娘?』
《頼む。その命、捨てる前に
妾に力を貸してほしい。
捨てるなど、勿体無い。
妾にとっても、あの娘にとっても
一番は……お主にとっても。》
『………』
《詞、お主の生きる意味を、存在の意味を、
妾がお主に教えてやる。
だからお主も……》
『夢でも、死後の世界でも、
とうとう頭がおかしくなってるだけでも、
もしかしたら……現実の世界でも。
どうせこんな人生なら…』
どうにでもなれ。
『わかりました。』
それまで頬を撫でていた風に、
急に体全体をすっと包まれた気がした。
《ありがとう》
そして僕は、次目覚めたとき、
見たこともない、小さな小さなさびれた村の
“神様”になっていた。