愛との邂逅
ふとおかしなことに気がついた。俺はウェアウルフを両断する力はなかったはずだ。
レベルが1から3に上昇していた。正確には既にLv2だったことに気が付かずに戦っていたらしい。
スキルも増えている。
イカれた悪鬼
リミッターを外し120%の能力を引き出せるが、身体は悲鳴を上げる。
殺人予告
対象をひとりに絞る代わりにステータスが向上する。(極大)
身体が悲鳴を上げようと俺に痛みは感じない。
そして殺人予告。これは使い方次第ではかなり使える。
称号も追加されていた。
人間を恨みし者
人間族への攻撃(大)
モンスターを恨みし者
魔族への攻撃(大)
これなら俺はそう簡単に死なないだろう。だが油断はできない。
そうして小さな村にたどり着いた。
「ようこそ!サヴィーレ村へ!」
村人のひとりに声をかけられたが俺は無視して宿屋に足を進める。
「いらっしゃいませ!1日の宿泊料金は15キールです!宿泊のご期間は?」
俺と同い歳くらいの碧い髪をした少女。スィーレと…同じ髪の色だ。
「……2日。」
「かしこまりました。では105号室へどうぞ!」
俺は鍵を受け取り部屋に入る。
それなりの部屋で家具などは寝具だけ。俺は疲れた体を休めていると、
コンコンッとノック。
「どうぞ」と一声かけるとさっきの受付の少女だった。
「失礼します。お客様、だいぶやつれてましたので、これをどうぞ!」
パンと水の入ったコップ。
「…なぜ俺に?他人だろ?」
「確かにそうですが、なんとなく放っておけなくて。それに人間、優しくないといけませんからね!愛は世界を救うんです!」
「…くだらないな。そんな愛だの優しさだの、いくらあったって生きていけない。」
少女は俺に向かって怒りを顕にした。
「そんなことないっ!あなたは何もわかってない!いつかこの村にも救いが来るわ!」
「救い?」
「この村は…山賊に囚われているの。定期的に食料と女性を奪い去って、代わりに壊れた女性を置いていく。……みんな自殺するわ。」
……。
「そうか。」
そう一言口にして、少女を追い払う。
1週間ぶりにものを食べた。何の味もしない質素なパンだったが美味いと感じた。そしてその夜。
「オラ!早く食いもんよこしな!オンナは…お前!来い!」
山賊か?よりによって俺がいる時に来ないでくれ。
俺が下に降りるとすでに山賊は村を去っていた。
「アイラちゃんが…」
「アイラ?」
ん?そういえばあいつの姿が見えない。
「この宿の女の子だよ。あの子が笑ってるから俺達も頑張れたんだ。……けど!」
なんであの女が気に入らないか分かった。
スィーレに似てるんだ。
髪の色も、愛や優しさを語ることも、纏う雰囲気すらも、だからなんだ。
「そうか。」
だけどあいつはスィーレじゃない。俺には関係ない。
「アンタ、冒険者だろ?アイラちゃんを助けてくれ!この通りだ!」
おっさんが土下座するとほかの奴らも土下座して頼んでくる。
「悪いが俺は冒険者なんかじゃない。ただの…旅人。廃人だよ。ほかを当たってくれ。」
人間なんて他人を頼って自分では動こうとしない。こいつらだってそうだ。俺に任せて祈ってるだけだろう。
「……なら俺たちで助けに行こう!アイラちゃんがいなきゃ死のうと思ってたんだ!死んでも助けてやる!」
「「おおおお!」」
え?
なぜ?なんでこいつらは他人のために命を捨てれるんだ?
スィーレ。君ならこんな時どうする…?
『あの子を…助けてあげて。今のあなたなら出来る。』
「ッ!スィーレ!」
確かに俺の頭の中にスィーレの声が響いた。そうだよな。君ならそう言うだろう。
「待て!」
鍬などを持ち、戦おうとする村人を止める。
「気が変わった。あの娘を助けてやるよ。山賊の住処は?」
「あの山の中腹に洞窟がある。その中です!」
それを聞き、瞬時に走り出した。
「は、速え…」
「あれならアイラちゃんを助けてくれるかもしれない!」
「ここか…」
洞窟の入口付近に二人、山賊がいた。恐らく見張りだろう。
俺はズカズカ進み、こちらに気づいた山賊を、瞬殺した。
中に進むと喧騒や笑い声が聞こえる。覗きみると、台の上にアイラが縛られ、少し奥に檻がありその中には裸の女が数人。その姿は母さんと姉さんを連想させられ吐き気がした。
「さぁーメインディッシュだぞ!アイラぁ…てめえを喰うの楽しみにしてたんだぜ?オラ!泣き叫べ!」
「私は屈しない!必ず愛が救ってくれるわ!」
山賊の棟梁に服を引き裂かれ、肌を顕にするが、恥ずかしがるどころが睨むアイラ。
ズガァ!
俺は入口の扉を蹴り破る。
「優しさなんてあったか?愛で今お前は救われるのか?」
「ああ?誰だガキ!」
俺は構わず進む。
「世界はそう甘くない。敵はモンスターだけじゃない。今のように人間も人間を襲う。そんな世界で愛を語るのか?」
「死ね!」 「ガキが!」
山賊が一斉に飛びかかる。だが、俺は歩を進める足は止めない。
「イカれた悪鬼…発動!」
俺の力が跳ね上がったのを感じた。
そこからは蹂躙劇。三十はいる山賊を一人一人殺していく。
1度も俺に攻撃は当たらず、次々と死んでいく。腹に穴が開き、頭を吹き飛ばす。
1分もすると棟梁だけになっていた。
「あとはお前だ。好きな死に様を言えばそれに沿った殺し方をしてやるよ。」
棟梁は武器を捨て、俺に交渉する。
「俺と組まねぇか?俺たちが組めば一国を落とせるぞ!」
「必要ない。」
剣を見ると既に砕けていた。剣を捨て、俺は拳を強く握る。
「なら金だ!溜め込んでるからいくらでも…」
「必要ない。」
「なら…」
「俺はお前らみたいな女を犯す奴らはひとり残らずぶち殺すってたった今決めたんだ」
殺人予告発動!
「死ね!」
顔面を打ち抜くと胴体と永遠にサヨナラした頭は岩にぶち当たり、血の雨を降らす。
「……ほら。愛も優しさもありました。」
震える声でアイラが言った。
「どこに?」
アイラは微笑んだ。やっぱりスィーレとかぶる。
「あなたです。あなたは強いことの本当の意味を知っている。だからあなたは愛であり、優しさそのものなのです。」
「……お前の思う強いってなんだ……?」
「もちろん優しいってことです。強さは優しさですから!」
ッ!……この女、スィーレの生き写しのようだ。まるでスィーレを見てるみたいだ。
「……そうか。…そうか……。」
「約束通り、アイラは助けた。もちろん報酬はあるんだろうな?」
俺は村長らしきジジイに問う。
「少ないですけれど、これが私たちに出せる最高のものです。」
金貨5枚と銀貨12枚。それが報酬らしい。だが、
「こんなにいらん。これだけ貰っていく。」
金貨1枚と銀貨5枚だけ貰い、村を出ようとすると「おーい!旅人さーん!」と呼び止められた。
「ハァ…ハァ、旅人さん。私もついていきます!」
「断る。黙って宿主でもしてろ。」
「断ってもついていきますもんね!あ、名前教えてくださいよ!」
名前…ロトワはあの時死んだ。俺の名前はーーー
「名前はロストだ。」
ロトワの中にスィーレの頭文字を入れた俺はな今日からロストを名乗ろう。
「よろしくお願いしますね!」
「……断る。」
それでもアイラはついてくるんだろうな。
スィーレ。少しだけ、寄り道するよ。
それとアイラは少しだけ、ほんと少しだけは信じてもいいかもしれない。スィーレに似てるからね。