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Unholy Kingdom -ゴーストになった僕-  作者: 乙×平
第一章 光と影の姉弟
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第三話 メイド少女とお勉強∼オーラと魔法


 現世のお父様、お母様、お元気でしょうか。僕はゾンビやオカマミイラやスケルトン等のアンデッドがうじゃうじゃ居る国に連れて行かれ、そこを管理するスーパー偉い神様に『戦え……戦え……』と脅迫されています。

 ちなみに僕は死んだまま異世界転生(『転生』してないよねこれ)したのでレベル1のゴーストらしいです。チートもハーレムも無いようです。まる。


 やったねケイちゃん! SAN値が減るよ!


((……嘘だろ……))


「ケイ様!? 如何されましたか!? 何処かお体の具合でも、」


((無いよ! 僕の体無いよ! 霊体だよ!))


「はわわっ。そうでした申し訳ございません! 申し訳ございません!」


(><)みたいな顔をしながらシャンタちゃんがぶんぶん頭を縦に振って謝罪する。まるでテーブルの角に頭をぶつけるくらいの勢いだったので、流石に危なっかしかった。


((あ、いや。もう怒ってないから、謝らなくていいから))


「ほ、本当でございますか?」 


 ちょっと上目遣い。潤んだ瞳。まるで捨てられた子犬みたいな表情だ。さっき体は無いと言ったばかりだけどシャンタちゃんのそんな顔を見ていると胸がきゅんとするような感じを覚える。


 いや、本当、この子が居てくれて良かったよ。アイドネア様とオカマミーだけだったら不安できっと潰れていた。


((ほんとに大丈夫だから。それよりも他の事を教えてよ。例えば――魔法とかこの世界には在るの?))  


「はい。確かにございますが……そうですね。魔法の説明をさせて頂く前に【オーラ】の説明をさせて頂きますね♪」


((【オーラ】? って何?))


「はい。簡単に申しますと霊的な力でございます」


 ああ、ファンタジーで言う所の『魔力』的なやつかな。『マナ』とか『MP』とかゲームなんかでよく見るけど、似たようなものなんだろう。


「【オーラ】はあらゆる物体に宿ります。人間を始めとした生物。ケイ様のようなゴーストを始めとしたアンデッドにも同様となります。更には剣や盾などの武器。大地や木々、建物などにもオーラを内包しております。その量に大小の違いはあれども、例外はございません」


((へえ、面白いね。じゃあ家具なんかにもその【オーラ】は宿っているんだ))


「左様でございます♪ ケイ様は不思議に思われないでしょうか? ケイ様は霊体であるゴーストの筈ですが、物理的に接触できない筈の地面を歩き、また今こうしてソファにお座りになっています」


((そう言えば……))


「それはケイ様のオーラと、床や家具に宿るオーラが干渉し合う事で引き起こされているのです」


((オーラを介して、霊体と物体が干渉してる訳だ))


「左様でございます♪ ただシェアルには【篝月(かがりづき)】がございますので、建物や大地、家具などに宿るオーラの量が、他のそれよりもかなり多くなっております。ですからオーラの少ない死霊の方でも物体に干渉し易くなっているのです」


((へえー成程))


 歩いたり座ったり、自分が幽霊だと言う事を忘れる程に物体に触れる事が出来るのは、そういう理由があったんだ。流石はアンデッドの国。


((そう言えば【篝月(かがりづき)】って具体的に何なの? あれのせいでオーラが多くなる、みたいな言い方だったけど))


「【篝月(かがりづき)】はアイドネア様が創造された、巨大なオーラそのものであり、それから発せられる光も同様でございます。ですからあの光を浴びた物体には少量ですがオーラが蓄積されていきます」


((え? 篝月の光を浴びるだけでオーラを得られるって事?))


「左様でございます♪」


 ヤバくない? 自動MP回復の光を放つお月様って事でしょ? 


((ちょっと気になったんだけど。具体的に、その篝月のオーラの量ってどれくらいなの?))


「えぇと、そうですね――通常、アンデッドの皆様はオーラを補充しなければ滅びてしまいます。生き物が捕食してエネルギーを摂取するのと同じ、と思って頂ければお分かり頂けるでしょうか?」


((うん。人間もご飯食べなきゃ死んじゃうしね))


「篝月はシェアルに住む全てのアンデッドが飢える事が無い程度のオーラを発生させている、と言われおります」


((つまり、アンデッドはシェアルに居るだけで飢えから解放されると?))


「左様でございます♪」


((ちなみに篝月ってずっと空にあるの? その……アイドネア様が疲れて一時的に消してしまうとかは……))


「? ずっとシェアルの上空にございますよ? 消えた、などと言う話はお伺いした事がございませんね」


 マジか。年中無休24時間営業であるコンビニ様で食料をずっと無料提供するようなものでしょ? そんな物を作り出したアイドネア様って、凄い。語彙力が無くなるほど凄い。


((それで、そのオーラと魔法はどういう関係があるの? 魔法の説明の前にオーラの説明をするって事は、何か関係があるんだよね))


「はい! 左様でございます♪ 魔法は四種に大別されます。【魔術】、【霊術】、【神術】、【呪術】。この四つでございます。勿論、四つとも異なる特徴がございますが、どれもがオーラを消費する事で発動させるという仕組みなっております」


 成程、やっぱりオーラ=MPって考え方でいいみたいだ。


((それぞれどんな魔法なのか順に説明してくれる?))


「かしこまりました♪ ですがその前に、場所を移してもよろしいでしょうか?」



 ***



案内されたのは大神殿の裏側にある広場だった。


 神殿の裏口の重々しい金属製のドアを開けると開けた場所に出る。

 整備された道や植木、小さな池まである。覗き込んでみると【篝月(かがりづき)】の光を反射して碧く光る水面の下に、魚が泳いでいるのが見えた。透明で綺麗な水だ。

 草木や花、芝など自然も多い。多数の信者達が居る大神殿とは違い、殆ど――というか人っ子一人居ない。

 視線を遠くに向けると噴水とベンチ、それに煙突から煙を上げる家屋が一つ。他にも複数の家屋が目についた。


 公園かな? にして人が全然見当たらないけど。あとかなり広い。高い柵で覆われたこの空間は、下手な高校の敷地と同じくらいある気がする。


「ここは【ヴィンガルフ】と呼ばれており、黄泉の使者の方々の為に作られた拠点でございます。憩いの場としてもご利用頂けますし、使者様専用の商店もございます。シェアルの店舗では通常販売していない特別な道具や武器を取り揃えておりますので、是非ご活用下さい」

 

((へぇ……))


 先を歩くシャンタちゃんに生返事しながらキョロキョロ辺りを見渡す。

 そう言えば煙突のある家屋から鉄を打つような音が聞こえている。鍛冶屋だろうか。

 

「それから向かって右奥が公園、左奥が鍛練場がございます。ただ今向かっておりますのは鍛練場ですね。使者の方々が技術を磨く為に設けられた場所でございます」


((ほう))


 という訳でやって来ました鍛練場。広さは――400メートルトラックのグラウンド場と同じくらいかそれ以上の広大さだ。そんな広い空間を包むように立派な城壁が聳え立っている。鍛練の際、周りに被害が出ないようにする為だろう。

 鍛練場の中には半壊し、崩れかかった家屋が点在し、草木が無秩序に繁殖していた。

 最も特徴的なのは鍛練場中央辺りに生えている馬鹿デカい樹木だろう。幹が直径5メートルくらいあり、高さは四階建てのマンションくらいある。枝葉も大きく広がり、頭上から注ぐ【篝月(かがりづき)】の碧い光を遮ぎって地面に巨大な影を落としていた。けど巨大な樹木の陰や、高い城壁の陰を払うように、碧い炎が灯った篝火が点在している為、思ったよりも暗くは無い。

 馬鹿でかい樹木を中心に、四方を高い城壁に囲まれた廃墟群、って感じか。


「それでは始めましょうか」


 鍛練場の中央辺りに差し掛かると、シャンタちゃんが向き直った。

『ん、んんっ』と可愛らしく咳払いをしてから喋り始める。


「魔法は【魔術】、【霊術】、【神術】、【呪術】の四つに大別され、その全ては【オーラ】を消費する事で発動します。ここまではご理解いただけましたか?」


((うん))


「それではまず【魔術】からご説明致します。魔術は魔法の中でも最も基礎的な分類となっております。その特徴は術者が持つオーラを物理的な力に変換し、様々な効果を及ぼす事でございます」


((例えば?))


「【魔術】は三種類の系統がございます。【放出】、【硬化】、【循環】の三つです。【放出】はオーラを矢や突風のように放ち、対象を攻撃するのが主な使い方となります」


 言うや否やシャンタちゃんは掌を巨大な樹木へと向ける。薄手の長い白手袋の先に淡い青紫色の光が収束し――甲高い音を響かせながら解き放たれる。


 ヴァイオレット色の光は尾を引きながら樹木へと高速で飛翔し、幹にぶつかると砕け散るような音を立てて霧散した。


((おお……!))


 感動の余り間抜けな声が出た。

 すごい! マジックアロー的なやつじゃん! ってか木固いな! 傷一つ付いて無いように見えるんだけど!

 

「このような具合でございますね。魔術に置ける、或いは魔法における最も基本的な分類と言われております。応用次第でオーラの矢を複数同時に、或いは連続で射出する事なども可能です」


((凄い! 凄い! 他には!?))


 ちょっと興奮していたらしい。シャンタちゃんは少し驚いたような顔をしたけどすぐにいつものスマイルを浮かべて説明を続けてくれる。


「では次に『硬化』ですが。こちらは体内のオーラを用い、体の一部、或いは全身、または武具などを文字通り硬化させ、より頑強な物へと変える、と言う術になっております。他にもオーラによる刀剣生み出す事も可能ですし、空中にオーラの足場を設置・固定すると言った事も可能となります」


((え何それ! 超見たい!))


 僕の反応(リアクション)がよっぽど良かったのかクスリ、と上品に微笑むシャンタちゃん。彼女の感情を表すように黒い翼がパサ、パサと控え目にはためいた。


「それでは――それっ」


 可愛らしい掛け声。同時に小さな手に刃渡り30センチ程度のオーラの刀剣が生み出された。

 握り(柄)の部分と刀身しかないシンプルな構造。淡く薄色に光るオーラの剣からはリィィン――と鈴虫の音と耳鳴りの音を足した割ったような幻想的な音色を発している。


「ケイ様。恐れ入りますが、その辺りに落ちている小石を拾って、ボクに向けて投げて頂けませんか?」


 試し切りか!? やるやる!


((分かった。ちょっと待って))


 地面に視線を走らせる。草木も廃墟も荒れ放題の鍛練場には素足で歩きたくないような大小様々な瓦礫や石が散乱している。その中から適当なサイズの小石を拾った。

 霊体だから石拾うのって無理じゃない? って思ったけど問題無かった。そう言えば篝月のお陰でシェアルにある物体は、たっぷりオーラを内包していて幽霊でも触れるんだっけ。


((いくよー))


「はい! いつでもどうぞ!」


((ほいっ))


 5メートル程離れた所からアンダースローで、ゆっくりとシャンタちゃんに小石を放る。

 シャンタちゃんは大きく振りかぶって、


「えい!」


 可愛らしい掛け声と共にオーラブレードを一閃!

 剣線が白と紫の美しいグラデーションを描く!


 すかっ。

 ミス! シャンタは小石にダメージを与えられない!

 更に態勢の悪いまま足を木の根に取られてしまった!

 

「あわわわっ!?」


 顔から地面へ突っ込むシャンタちゃん。結構勢いよく倒れてしまったせいだろう。

 うつ伏せに倒れてしまったメイド少女のお尻を隠していた短いスカートがペロンと捲れ、下着の大半が見えてしまっている。

 

 うん。うん――――――ピンクか!!


 転生してすぐにパンチラッキースケベか。ついてるね。

 なんて余裕ぶってるけど心臓が在ったらバクバク言ってると思う。こんな可愛い子のパンチラとか。ドギマギして当然でしょ。


「いたたた……えへへ、失敗しちゃいました」


 顔だけこちらを向けたシャンタちゃんは、いつもの笑顔を浮かべていた。罪悪感と焦燥感に駆られてマッハで顔を背ける。


「? ケイ様? 如何されましたか?」


 ちらりと横目で見るとシャンタちゃんが肩越しに僕を上目遣いで見上げていた。パンツ丸出しである。腰をこっちに向けたままである。実に刺激の強い光景だと僕は思い、


((……スカート))


 と、絞り出すような声を放つ。


「スカー…ト……」


 シャンタちゃんの視線が、ゆっくりと自分の下半身へと向けられる。

 そして愛らしい桃色のパンツが丸出しだった事に気付くと、ボンっ、と音が聞こえるような勢いで童顔を紅潮させた。


「……う」


((『う』?))


「うやあぁーんっ!!?」


 しゅば! と音と残像を残してシャンタちゃんの姿が掻き消える。


((え?))


 呆然としてると今度はビュン! と音を立てて僕の眼前へとシャンタちゃんが空中から急着地。一瞬で消えたり出たりする挙動不審のシャンタちゃんに、思わずびくりと後退りしてしまう。


「ご覧になりましたか」


 何が、と聞き返すのも躊躇う、有無を言わさぬ迫力があった。

 両手の平を股辺りに添えて直立不動の『メイド立ち』をしたまま、顔は俯き、頬は真っ赤のままだったけど、優しくて明るい彼女とは思えない程、只ならぬ気配を放っていた。


((……えっと、ちょっとだけ))


「具体的にお教えて頂けますか」


 えぇ……。何か拷問でも受けてる気分なんだけど。でもはぐらかせるような空気でも無いし。正直に答えた方が良いのかなぁ。


((……その……パ、下着の色は、分かった))


『うや、うや……』と謎の呻き声。俯いたままのシャンタちゃんが更に顔を真っ赤にしている。直立不動かと思った小さく、細い体が時計回りにぐらぐらと揺れていた。


「ほ、他には何かご覧になりましたかっ」


((え? いいや、無いよ。色が分かったくらい))


「そ、そうですか……」


 はうぅっ、と深い溜息。ようやく落ち着いたらしい。 


「その、取り乱して申し訳ございませんでした。あと、その……粗末な物もお見せしてしまったようで」


((いやいや! 謝るのは僕の方だから! 不慮の事故とはいえ、その、見てしまって、ごめん))


「? ケイ様が謝罪される必要はございませんよ?」


((え、でも))


「そ、そうです! お勉強! お勉強の続きを致しましょう! 次は【循環】の魔術でございます!」


 まあ、恥ずかしい事には変わりなかった、って事なのかな。

 頬を赤らめたまま、無理矢理話題を変えるようにシャンタちゃんは魔法講座を再開する。


 でも、うん。死んだまま転生したり。偉い神様の元で勝手に戦わされる事になったり。散々な目に遭ってるけど――今、ちょっとだけ、死んで良かったと思っている自分が居ました。まる。



 ***



 その後、シャンタちゃんとのお勉強会は滞りなく進行した。

 魔法の中でも【魔術】と【霊術】の大体の説明を受けたところである。

 ちなみに【循環】の【魔術】はオーラを用いて肉体の基礎代謝を向上させるという地味な物だった。けど傷を負って大量出血した時などにオーラを血液の代わりに循環させたり、自然治癒の能力を向上させたりと、結構凄い事も出来るらしい。

【魔術】において【放出】は射撃攻撃。【硬化】は近接攻撃と防御。【循環】は補助や回復、と言った具合に役割が分かれているようだった。


 次に【霊術】。これはゲームなんかでよく見る『精霊魔法』的なやつ。『光』『影』『火』『水』『風』『地』『氷』『雷』『樹』の9種の精霊の力を借りて、術を発動させるというものだった。


((【魔術】は術者が自らのオーラを練り上げて放つから詠唱は要らない。対して【霊術】は火や水なんかの精霊に『魔法を行使』してもらうから、どのような魔法を放つかそれを詠唱で表現する必要がある、と。そういう事?))


「左様でございます♪ ただ、【魔術】は無詠唱ではありますが、オーラを正しく【魔術】として行使する為には集中力も必要になりますし、高度な術ほどオーラを練り上げる時間と消費も大きくなります。また【魔術】の威力自体が術者のオーラ量に大きく依存するので、ごく普通の人種や亜人種が放つ【魔術】などは牽制や護身程度にしかなり得ないと言われております。対して【霊術】は術者ではなく精霊達が魔法を行使するので、術者のオーラ量に関わらず一定の効果が期待できます」


【魔術】はゲームで言う所の『魔力』的なパラメーターにもろに影響を受けるけど呪文詠唱が要らない。対して【霊術】は詠唱が必要だけど誰が使っても一定の威力になる、そんな話だった。 


「あと【霊術】は術を行使する環境でも大きく威力を左右されます。この鍛練場には草木や水。篝月の光、それに篝火の炎等がございますので殆どの霊術が平均的な効力を発揮しますが、氷と風の霊術だけはここでは大した効果を発揮できません。シェアルは地下空間故に風が無く、また地熱より暖かい土地となっているからです」


((それって、暗い所では光の霊術は極端に弱くなるとか、そういう事?))


「その通りでございます! ケイ様はご理解が早くて大変助かります!」


 いやいやいや。褒め過ぎでしょ。


((じゃあ【神術】は? 多分神様の力を借りる魔法だと思うけど))


「仰る通りです。より正確に表現するなら【神術】は神々が起こした『奇跡』を一時的に再現する魔法です。例えば、アイドネア様の力をお借りした【神術】でしたら一時的に【篝月】を召還する、と言ったものがございますね」


((え? 何それ、凄くない?))


「【神術】は神々の奇跡の再現、でございますから。どれも強力な効果となりますね。ただその分オーラの消費量も莫大となり、個人での【神術】使用は現実的ではないと言われています。大体は複数の術者によって【神術】は行使されます。それともう一つ、【神術】を発動させる為には対象の神に対して敬虔的でなければなりません。祈りや貢物、つまり信心深さに対する見返り・褒美として【神術】は授けられるという事です」


((今の僕には、無縁そうだ……))


 アイドネア様は凄い神様だし、信仰に値する神様だとは思うけど……そこまで信心深くはなれない。

 元々、『本気』で神様を拝むような文化も無かったからなぁ。


((じゃあ【呪術】は?))


『呪』術、なんて言うくらいだからきっとおっかないやつなんだろうけど。

 僕の予想を裏付けるようにシャンタちゃんの表情が僅かに曇る。

 俯いたかと思うと何か言いたげにこちらをチラチラと横目で伺い始めた。


「ケイ様は、その――」


 やがて、意を決したように。慎重に言葉を選ぶように。シャンタちゃんが口を開く。


「生きている者が、生者が憎いですか?」


 ――――――うん? 生者が憎いか? だって?


((え、その質問、今必要なの?))


「あ、申し訳ございません! 不躾な事を聞いてしまいました!」


((いや、いいけど。ちなみに生きている人が憎いとは思わないよ))


 そもそも死んだばかりで僕自身、アンデッドの自覚が殆ど無いしね。


((っていうかそれと【呪術】がどう関係するのさ))


「えぇと……【呪術】は、その、アンデッドのみが扱う事が出来る魔法なのですが。その力は術者の、生者への恨みや妬みで(・・・・・・・・・・)増加する、という特性を持ちます。と言うよりもアンデッドの、生者に対する『呪い』を【魔法】という括りに当てはめたような形です。効果も様々のようですが……その……おぞましい物ばかり、とお伺いしています」


((……ありがとう。もういいよ))


 説明しながらシャンタちゃんの顔がどんどん申し訳なさそうになっていく。それが見ていられなくて早々にこの話を切り上げた。【呪術】の説明は、いまいちピンと来なかったけど、アンデッドしか使えないという事と、ろくでもない魔法だというのは理解できた。


((【神術】と【呪術】は僕には縁が無さそうだから、【魔術】と【霊術】に絞って学んだ方が良さそう))


「そう、かもしれませんね。そう致しましょうか」


 ようやく、シャンタちゃんの顔が和らいだ。

 ――そっか【呪術】が使えるようになるって事は生き物を恨むのと同じ事で。それって今目の前にいるシャンタちゃんも憎む、って事に繋がるのか。シャンタちゃんはここシェアルでメイドをしているし、いい子だし、生きている物が嫌いになってもシャンタちゃんが嫌いになるなんて、そうそう無いと思うけど

。シャンタちゃん本人は自分が嫌われる事を恐れているのかな。


((あのさ。【放出】の【魔術】って魔法の基礎って言ってたよね? 詳しく教えてよ))


「はい! お任せ下さいませ!」


 その証拠にちょっと僕がお願い(・・・)しただけでパァ、っと顔を綻ばせる。

 こっちもつられて笑顔になってしまうようなシャンタちゃんの笑顔。

 僕は彼女の笑顔にいつも癒さ、



「あ~居た居た! ケ☆イ☆く~ん☆」



 耳障りなオカマヴォイスが全て台無しにした。

 眉間に皺を寄せながらいやいや背後を振り返ると、鍛練場の入口で手を振る人影が見えた。。

 黒の神官(ミトラ)帽。黒のケープ。同じく黒のロングカーディガン風の前開きコートに紺色の前掛けを着用した、黒づくめの神官服を着たミイラ。自称大神官のセティさんだ。

 脇を閉め、握り拳を作り、開いた腕をぶんぶん振りながらこちらに走り寄っ、


 キモいから女走り止めて。


「お勉強中にごめんなさいね」


((いや別に構いませんが))


 野太い声のオッサンが無理矢理女を真似たようなキッツイ声に思わず辟易する。

 いや良い人なんだけどね。大神官っていう役職がどれだけ凄いのか知らないけど、謙虚だし、気遣いも出来る優しい人だと僕は知っている。こうして話している時も包帯の隙間から覗く真っ赤な目は^^の形をしていて声色もとても優しい。


 オカマでミイラでなければどれだけ良かっただろうか。


((それで僕に何か御用でも?))


「そうそう! ケイちゃんに朗報よ♪」


 え。嫌な予感しかしないんだけど。


「実はアナタにプレゼントがあるの♪ 大神殿にいらっしゃい♪」


((それはいいですけど。何をプレゼントしてくれるんです))


 アンデッドな国で貰える物って何だろう。僕の世界の常識はきっと通用しないだろうなぁ。

 分かった! しゃれこうべの盃とか!

 ……違うか。ま、ロクな物じゃないに決まってる。期待するだけきっと無駄だ。


「心配しなくても、本当に良い物よ。アンデッドなら皆、望んでやまない物」


 胡散臭いという感情が表に出てしまったらしい。セティさんは僕を宥めるように言った。


((なら勿体ぶらないで教えて下さいよ))

 

 少しそっけなく言った僕の言葉。それの何がおかしいのかキモ上品にセティさんはクスクス笑う。

 そして言うのだ。


「肉体よ」


((……え?))


 言っている意味が、すぐに理解できなかった。

 呆然とする僕に、セティさんは言い聞かせるようにはっきりと言う。

 僕の目を見ながら。



「アイドネア様が用意してくれたの。アナタ専用の、生身の肉体よ」


次回の投稿は1/16(木)予定です。

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