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Unholy Kingdom -ゴーストになった僕-  作者: 乙×平
第一章 光と影の姉弟
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第十一話 裁定騎士アコース(後編)

 それはいつもの学校の帰り道だったと想う。


 夕焼けに染まる街並み。 

 海から流れる冷気と潮の香り。


 そこは、経営不振で閉店し、シャッターが閉まったお店ばかりの商店街だった。


 最近どこも不景気だねぇ、と目の前を歩く『   』は言った。


 僕は、しょうがないよ、と言った気がする。


 でも悪い事ばかりじゃないよ、と『   』は言った。


 くるり、と『   』が振り向く。


 振り向いたのは、女性だ。

 ダッフルコートに身を包んだ、二十歳くらいの女性。

 肩口まで伸ばした栗色の髪。

 男子受けしそうな、たれ目の二重瞼。

 アイドルグループに居そうな、愛嬌のある顔立ち。

 

 僕の大切な、とても大切な人だ。


 ――ここに、二枚の旅行チケットがあります。クロスワードパズルの景品でございます――


 へえ。温泉か何か?


 ――ぶぶーっ。外れ、正解は~~何とっ、ヨーロッパF国の一週間の旅! ――

 

 人生のラッキーを全部使い果たしたんじゃない?


 ――そんなのどーだっていーの! 大事なのは、ここに、旅行チケットが二枚あるって言う事――


 ふーん。友達と言って来たら? 


『   』の言いたい事は分かっていたけど、僕は興味が無さそうな振りをしたのを覚えている。


 実際海外に旅行なんて陰キャな僕には向かないと思ったし、僕が行くと一緒に居た人もつまらないだろう。

 そんな事を考えていた。

 でも、『   』はそんな僕の考えなんてお構いなしにこう言ったのだ。

 飛び切りの笑顔を添えて。


 ――私はケー君と行きたいの!―― 


 こら、くっつくなうっとおしい!


 ふざけてじゃれついてくる『   』を引き剥がす。


 でも僕は、そんな『   』の温もりが、優しさがにとても好きだったんだ。



 本当に、大好きだったんだ。



 ***



 闇に沈んだ意識が浮上する。

 そこは夕焼けに染まる商店街では無く、闇に満ち、岩肌で覆われた大きな空間だ。

 そして離れた処に佇むのは、黒い騎士。


 意識を、失っていたのか。

 でもまだ、この身は無事だ。止めは刺されなかったらしい。


「――貴公。まだ戦う意思はあるか?」


「……神殿に戻って、シャンタちゃんの料理が食べたいです」


 軽口を叩く。僕に余力があると思ったのだろう。

 アコースさんはバイザーの奥で「…ふ」と笑みを漏らした。


 ええと、これは。ひょっとして僕が態勢を立て直すのを待ってくれてるのか?

 なら、今の内に武器を――あった、夜空の短剣タンザナイト・ダガー

 すぐ足下に落ちていた相棒に手を伸ばし、掴もうとして、


「ぎっ!?」


 鳩尾、背中から破滅的な痛みが襲った。

 同時に胃袋から何かがこみ上げる感触。我慢できずに血反吐を吐き出した。


 あ、これ、死ぬんじゃないのか…?


 右手のグローブを見ると、二つ在った筈の指輪が一つも無い。

 突き刺し、押し倒し、放り投げのコンボで厄除けの指輪は二つとも壊れたようだ。

 文字通りの絶体絶命か。いや、一度死んだ身なんだけど。


「呼吸を整え、循環の魔術を使うと良いだろう。痛みは堪えるほか無いがな」


 言われるがまま深呼吸をし、循環の魔術で体の傷を癒す。 

 アコースさんからの殺気は――無い。慌てずに、集中しろ――いや、オーラが全然足りない。

 

 サイドパックからネクタルを取り出し、途中咽返しながらもケチらず全て飲み干す。

 オーラを補充しつつ、まともに動けるようになるまで循環魔術で回復したけど――結果残りのオーラも心もとなくなってしまった。


 そうして少し落ち着いてきた時、唐突にアコースさんが口を開いた。


「貴公。もう充分だ。降参せよ。これ以上は本当に死ぬぞ」


「…どうせ一度死んでる身なので」


「そういう意味ではない。この剣は我が魔術によりエンチャントを施さずとも民話級の霊格を持っている。生身の体もろとも、貴公の霊体すらダメージを与える事が可能だ。それはつまり、ゴーストである貴公を完全に滅ぼす事を意味している」


「それは、嫌だなぁ」


 立ち上がり自分の体をまさぐる――うん。取り敢えず目に見える範囲での怪我は、塞がったか?

 

「というか、降参って、試練は失敗って事ですよね? そうなったら僕、どうなるんです?」


「使者にまつわる記憶を消され、地上へと追放される」


「……え? 何で、そんな」


 だって僕は、黄泉の使者にとっても、アイドネア様にとっても必要な存在の筈だ。

 なのに、どうして僕を手放すどころか追い出すようなペナルティを。


「使者の使命は、貴公が想像するほど生易しいものではない。この試練を乗り越えられぬような弱者には、はなから無理と言えよう。そして一つ思い違いをしているようだが、使者の同胞達の情報や、何より星魂録(スピリット・レコード)の存在は絶対に他者に知られてはいけない事柄だ。関係の無い者の記憶に、留めておく理由もあるまい」


 ……そういう、事か。使者達の技能やプライバシー。それに星魂録(スピリット・レコード)の情報を地上に持ち出される事を恐れての判断か。そしてこの試練に合格出来ないような者に、この先使者の使命が務まる筈もない。そういう事なのだろう。


 だったら尚更、ここで引き下がるわけにはいかない。


「決着を、付けましょう」


「貴公…正気か? 肉体は治癒したようだが、もうオーラも殆ど残ってはいないだろう。その状態で、私と戦うと言う事か?」


「そうです」


「貴公……ああ、貴公。もしや厄除けの指輪はもう残っていない事に、」


「気付いていますよ」


 言いながら夜空の短剣(タンザナイト・ダガー)の宝玉に指を添え、充分に時間を置いてから切っ先へと滑らせる。

 菫色の光を放つオーラの刀身が形成されると、その先端をアコースさんに向けた。

 これ以上ないくらいの、戦闘への意思表示だ。


「貴公。その決死の覚悟、どこから来るのだ? およそ、少年のものとは、まるで思えん」


「…僕には、大切な人が、居るんです。貴方の剣に貫かれて、それを改めて思い出せた」


 さっき、アイドネア様に封印されていたと思われる記憶が、少し戻った。

 これは推測だけど――オーラを纏ったアコースさんの剣に貫かれた時、その衝撃・余波で霊的である記憶の封印が弱まってしまったんじゃないかな。


「記憶がどうにも曖昧で、顔は何とか思い出せたんですが、名前や、僕とどういう関係だったのかまでは思い出せないんですが――どうにも僕自身は彼女にベタ惚れだったみたいで、今もこうしてその記憶にしがみついています」


「貴公。アイドネア様によって異世界から連れて来られた、と聞き及んでいたが。その記憶は貴公の前の世界のものであろう。その大切な人、とやらがこの世界に居る筈は無いと思うが」


「普通に考えれば、そうです。けど、アイドネア様が約束してくれました。僕が死に、この世界に来る今際に。アイドネア様に尽くせば、その先に、大切な者と再会出来るだろう、と」


 ひょっとしたら僕のように、この世界に転移・転生している可能性も、ゼロではない。


「…そういう、事か。許してくれ。どうやら込み入った事を聞いてしまったらしい」


「構いませんよ。むしろ誰かに話せてすっきりしました」


「ならば…」


「はい」


 アコースさんの殺気が膨れ上がる。短剣を握る手に思わず力が籠った。


 第三ラウンドが始まる。


 先に仕掛けたのはアコースさんだった。


 踏み込みからの袈裟切り――突き――払い切り。

 素早い三連撃を何とか見切り、紙一重で躱していく。

 残りオーラが少ない為、加速魔術を使った高速移動は可能な限り控えなければいけない。


 そして僕が勝つには――接近戦も魔法戦も、手札が不足している。

 それが、先の二つの戦いで十分に分かった。


 つまり僕がこの試練に合格するには――やはりアイドネア様の像に掛けられた使者の証を奪う以外に無いのだろう。


 一度は諦めた道だけど、何かしら攻略のヒントがある筈だ。

 

 大ぶりの横薙ぎが迫る。

 懐に入り、反撃をしようかと思ったが、嫌な予感がして加速魔術で大きく後退した。

 つい今しがたいた空間を、左手で持った鞘で薙ぎ払われる。

 びゅん、と空気を裂く音に思わず顔を蒼くした。

 隙あり! と色気を出して反撃していればあの鞘に叩かれ、それだけで終わっていただろう。


 一旦、距離を取りアコースさんを観察する。

 何か――何か突破口を見つけないと、本当にじり貧になってしまう。

 オーラが無くなった僕は、MPが尽きた魔法使いと一緒だ。


 後退しながら、遠目からアコースさんを観察する。

 彼はオーラの刃を展開した夜空の短剣(タンザナイト・ダガー)を警戒しているのか、ゆっくりと僕との間合いを詰めてくる。

 その後ろにはアイドネア様の石像と使者の証が見えた。

 第一ラウンドの時には、石像から取り外せず、かと言って使者の証(ペンダント)の紐部分を切り裂く事は出来なかった。


 もう一度、加速魔術ですっとんで良く調べてみるか。証自体に、或いは石像の方に何かしらの仕掛けがあるのかもしれない。


 思案していると、背中が壁にぶつかった。

 これ以上は退がれない。僕は追い詰められないように、アコースさんから視線を外さないまま壁沿いに右へと移動する。アコースさんの左奥の方にアイドネア様の石造が良く見えた。


 ――と、僕の視線を遮るようにアコースさんが横に動いた。


 ――? 何だ? アコースさん、石像を庇うように動いてるな。


 そう言えば、アコースさんは僕と石像の間に立つように位置取りをしている気がする。

 まるで僕から守るように。

 いや、でもそれはおかしい。使者の証は傷つくような物じゃない、とアコースさんは言っていたし、現に僕も夜空の短剣(タンザナイト・ダガー)で紐を切断しようとしたが切れなかった。

 だからアコースさんが僕から石像を守るように位置取りをするのは――意味が無い筈なんだ。

 

 ――いや、待てよ。


 そこで、一つの可能性を思い付いた。

 ひょっとしたら僕の思い違いかもしれない。でも今までのアコースさんの行動からして、試してみる価値のある仮説だと思った。

 そしてもしも、その仮説が正しいなら。


「――【霊光連弾チェイン・レイ】!」


 魔術を放つ。オーラを機銃のように連射するものだ。それを、加速魔術で横に移動しながら(・・・・・・・・)放つ。


 アイドネア様の石像に向けて。


「っ!」


 するとどうだろう。今まで魔術を徹底的に回避し続けてきたアコースさんが、敢えて僕の魔術の射線上に立ち塞がった!


 ドドドドドンッ!


 剣の刀身を縦代わりに、オーラの連続射撃を受け止める。


 やっぱり! アコースさん! アイドネア様の石像を僕から守っている(・・・・・)

 見えたぞ! 勝ち筋が!


「重たき者【ノーム】よ! 我が敵に大地の逞しさを示せ!」


「っ…させんっ!」


 唱えているのは地精ノームの霊術【坤剛隆起グラウンド・ピーク】。石や岩の地面を急速に隆起させ、対象を攻撃する。これを、あの石像に向けて放てばどうなるか。

 アコースさんは言った。使者の証は、彼の剣をもってしてもその紐一つ断ち切る事は出来ないと。

 けど、証が掛けられた石像自体・・・・の頑丈さには、一言も言及しなかった!

 つまり、使者の証は、アイドネア様の石像を破壊する事で手に入れる事が出来るんだ!


 だからアコースさんは、魔法の流れ弾で石像が壊れないように、ずっと石像を守るように動いていたんだ。


 アコースさんが霊技の構えを取る。

 三度目の鎧通し。当たった事は無いけど、恐らくあの速度で剣を突きこまれれば、僕は昇天間違いなしだ。


 アコースさんが地を蹴った!

 タイミングは――術の発動と彼の剣が突き刺さるのと――同じか!

 石像を破壊出来ても、それを僕が回収出来なければ意味が無い!

 

坤剛隆起グラウンド・ピーク!」

 

 だから、僕は、自分の足下に向け、術を発動させた。

 茶と灰色の霊術陣が浮かび上がり、オーラが地精ノームに吸収される。

 もうこれで、オーラ殆ど無くなった。使えて精々、加速魔術一回分程度。

 けど、それで充分だ。


 眼前に迫る、菫色の輝きを放つ切っ先。

 それが僕を貫く直前、


 隆起した地面が、僕を空中へと跳ね上げた。


 同時に加速魔術を発動。勢いとバランスを制御し、部屋の奥で鎮座する石像へとかっ跳ぶ!


「なっ!?」


 思惑に気付いたアコースさんが急転換し、僕を追いかける。

 けど、遅い!

 

 浮遊していた肉体が落下を始める。

 短剣タンザナイト・ダガーを剣先を下に向け、両手で握りしめる。

 そしてオーラ刃の切っ先を、真下のアイドネア様の石像へと向けた!


「貫けえぇええぇぇぇぇぇっっっ!!!」 


 落下の勢いを利用した渾身の突き。


 菫色に輝くオーラの刀身が、石像の頭部に深々と突き刺さった。

 固いものを貫通する。確かな感触。


 ごめんなさい、神様。僕は今、とても不敬な事をしました。


 懺悔の言葉を胸中で呟く。

 

 次の瞬間、アイドネア様を模った石像は頭部から瓦解し、崩れ落ちた。



 ***


 

 小さな神は、自分の中で何かが砕けるのを感じた。


「ほう。試練を乗り越えおったか。大したものよ」 


 大神殿の最奥、神の寝所にてアイドネアは一人呟いた。


「めでたい事じゃが――記憶の封印も少し弱まりおったか。アコースの奴も余計な事をしよる。あんな生意気な鼻垂れ小僧相手に何を本気になっとるか」


 ――ごめんなさい、神様。僕は今、とても不敬な事をしました――


 石像を通して、少年の心の声が伝わってくる。


「ふん。全くじゃ。作り物とは言えワシを象ったモノに刃を向けるなど、普通のアンデッドではありえん」


 そう。普通ならありえない。この世界に住むアンデッド達は、黄泉神アイドネアこそ自分達の上位の存在であり、また世界を創造した偉大なる神だと理解しているからだ。只の石像と言えど、それに刃を振るう事などありえない。


 ありえないが、彼は異世界からやって来た人物であり、例外的な存在だ。

 だからこそ、この結果なのだろう。


「使者を務めるには充分過ぎる能力じゃのう。じゃが――」


 アイドネアは嘆息する。


「封印した記憶へのあの執着――あれは少し、不安じゃの。真実を知った時、果たしてどうなるのやら」


 そう言うと再び、少女の姿をした神は大きくため息を吐いた。



 ***



 砕け散った石像の中から使者の証であるペンダントを拾い上げる。それをアコ-スさんに見せつけるように掲げて宣言した。


「僕の勝ちです!」


 彼は、微動だにしなかった。

 同じタイミングで部屋を隔離していたオーラの壁が消滅し、その向こうからエルザヴェータさんが姿を現した。


「ノワ! 大丈夫!?」


 彼女にしては珍しく、少し焦った様子で僕向かって走り寄ってくる。

 僕の元へと駆け寄った彼女は、僕の体に大した怪我が無いのを確認すると安堵の息を漏らした。


「何とか無事、みたいね」


「いや、指輪が無かったら少なくとも二回は死ぬくらいの致命傷を食らったけど」


「えぇ…? …そんな大けがを負ったら、あの指輪でもダメージを軽減しきれないわよ? ちょっとアコースさん? 裁定の為だとは言え、少し大人げないんじゃないかしら?」


 エルザヴェータさんがアコースさんへと詰め寄る。これまた彼女にしては珍しく、僕の為に少し怒ってくれているようにも見えた。

 そしてそれに対しアコースさんは、哄笑で答えた。


「くっくっく――ハァッハッハッハッ!!」


 何がそんなに可笑しいのかと思うほどの大声。

 エルザヴェータさんもアコースさんの様子を怪訝に思ったのか眉をひそめた。


「ちょっと。アコースさん? 笑う所ではないでしょう? ちゃんと説明するべきではないかしら」


「くっ――くくっ――いや、失礼した。ケイ=イズモ殿も――いや、今はノワ殿か。ノワ殿もどうか許して欲しい。決して貴公を嗤った訳ではない。私の完全な敗北だ。それが可笑しかったのだ」


「? 負ける事がおかしい? でも、合格の為には、」


「合格できるように作られて無いのよ。この試練は」


 エルザヴェータさんが僕の言葉を遮って、とんでもない事を言った。


「…は?」


「だから。この試練は、普通じゃ合格できないの。それ程難しく設定されてるの。戦っていて気付いたでしょう? 貴方、万が一にでもアコースさんに勝てると思った?」


「無理に決まってるじゃん」


 影精シェイドの霊術を直撃させられれば致命傷を与えられたかもしれないけど、そもそも当てられる気がしない。接近戦でもこちらの手が殆ど読まれていて、勝てる見込みも無かった。

 だからペンダントを奪い取る方法を選んだんだけど。


「分かってるじゃない。言っておくけど。使者の中でも彼、戦闘能力だけ(・・)は上から数えて3本の指には入るくらい強いのよ?」


 その3本の中には、エルザヴェータさんも入ってるんだろうなぁ。

 っていうか今の発言、アコースさんに対して若干棘が入っていませんでしたか?


「待ってよ。それじゃ最初からアコースさんに戦って勝つ見込みなんて無いじゃん」


「だからそう言ってるのよ。使者の証を奪い取るのだって、アイドネア様の石像を破壊するしか手段が無いのよ。貴方良く壊したわね? 普通のアンデッドなら恐れ多くて壊す(・・)という発想自体が出て来ないわよ?」


「いやいやいやいや。それじゃ証を手に入れるのも不可能じゃん」


 提示された2つの条件が最初っから達成不可能とか、この試験どうなってるの?


「ノワ殿。終わった後だから話せる事だが。この裁定、合否の判断は私が提示した2つの条件とは実際に異なる」


「え? どういう意味ですか?」


 使者の証を奪い取る。もしくはアコースさんに勝つ。

 それが合格の条件だと、戦いの直前にアコースさんは言った。

 だけど実際はそうじゃない、と?


「この裁定は試練を受ける者の能力――何よりもその心の強さを測るものだ。無理難題を強いられながら、それに対して諦めず、どれだけ食らいつけるか――それを試し、黄泉の使者に相応しいか判断する。故にこの試練は裁定の儀と呼ばれている。そしてその点、貴公は能力、心の強さ、共に申し分ないと判断した」


 ちょっと待ってよ! それじゃさっきのアコースさんとの死闘、あれ自体がゲームで言う所の『負け確イベントバトル』って事!?


「特に我が盾を影精シェイドの霊術で貫かれた時は本当に驚いた。正直なところあの時点で及第点だったよ」


「は!? え!? でも、あの後、本気を出して切りかかって来ましたよね!?」


「だから私も言った筈だ。『今より裁定者としてではなく、一人の戦士ととして、戦わせてもらう』と」


 言った。確かにそう言っていた。

 裁定者としてではなく(・・・・・・・・・・)と言った。それはつまり、


「……まさか、盾を破壊した時点で僕、試練には合格していたんですか?」


「だからそう言っている」


「はああぁぁぁっっ!?」


 じゃあ、ついさっきまでの死闘に、何の意味があったのさ!? 僕が痛い目をしただけじゃん!?


「……アコースさん? 少し大人げないのではないかしら?」


「…いや、正直、すまないと思っている。我が盾を破壊するなど、エルザヴェータ殿でも出来なかった事だ。恥ずかしい話だが……つい、熱くなってしまった。どうか許して欲しい」


「大人げないですよ!」


「…すまない。本当にすまない」


 謝るアコースさんは本当に申し訳なさそうで。

 さっきまで僕を追い詰めていた黒い騎士と同一人物とは、とても思えなかった。


 

 ***



 かくして、試練を終えた僕は晴れて黄泉の使者の一員となった。

 でもこれからが本番。今やっとスタートラインに立ったという所なんだろう。

 

 僕にはノワの――この体を提供してくれた少年の村を助けるという使命がある。


 そしてその先にはきっと、



 ――私はケー君と行きたいの!―― 



 脳裏に、女性の笑顔が浮かぶ。

 記憶の中に存在する僕の大切な人。


 そう、この先に、彼女が居る筈なのだ。


 だから僕は恐れないし、止まらない。

 

 きっとどんな困難も乗り越えて見せる。




読了お疲れ様です。これにて第一章の前半部分終了。後半へと続きます。

が、書き貯めのストックも無くなり、PVも総合ポイントも全く伸びず(実力不足ぅ…ですかね)モチベーションがかなり下がっているのが本音。

モチベに繋がるので、少しでも気に入られたのなら感想やブックマーク、宜しくお願いします。別に批判や誤字脱字の指摘でも構いません。お気軽にどうぞ。


そして次回の投稿は未定です。ひょっとしたら『じょとボク!』シリーズの続きを書くかもしれません。

どちらにせよ少し休憩を頂きます。

こんなダメダメな作者ですが、宜しければこれからも宜しくお願いします。

それではまた。

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