ACT,0 宿命と運命
あたしは目の前に横たわる異質なものに向かって、金色の光りを纏わせた杖を翳した。
それはまだ、死んではいない。いや、決して死することのない、冥府の王。
再び目覚める前に、早く蹴りをつけなくちゃ………。
あたしは後ろを振り返り、静止している彼等を見た。
「みんな……約束……破ってごめんね………」
彼等は長きに渡ってあたしと旅をしてきた、かけがえのない仲間たち。一人一人の顔をしっかり頭に焼き付け、最後にあたしの行動を制止するため、必死に叫びを上げていたアステラを見た。
ふふっ、最後くらい笑顔でいてほしかったのに、よりによって怒り顔……。ほんと、貴方には助けられてばかりだったけど、出会えて本当に良かった……。
あたしは唇をキュッと噛み締め、込み上げてくる切ない感情をぐっと押し込めた。
静止した時間が正常に進み始めた時、彼を含めた六人の記憶からあたしは消える。でもそれは、あたし自身の願い……。
さあ、もう悔いはない!
あたしは前を見据え、全ての精霊王の力を宿した杖に調べを紡ぐ。
『この地にたゆたう全ての精霊よ
時の狭間に眠りし白銀の王よ
我が元に集いし力を解き放ち
冥府の扉を開け
開錠 最果ての地!!』
冥王の頭上に展開する巨大な魔方陣。あの先にあるのは、一筋の光芒も届かない永遠の漆黒。この魔法を発動させれば最後、あたしもあの闇に吸収される。
でも、怖くなんか、ない。
あたしは杖を地面に突き刺し、それに向かって叫んだ。
『時は満ちた! 冥府の王ハデスよ、汝の在るべき場所へ還れ、我が汝を誘わん!!
精霊の子守唄!!』
極光を放つ魔法陣からは凄まじい強風が吹き荒れ、あたしの金色の髪が舞い上がる。そして、上空から降り注ぐ極光は、冥王の巨大な巨躯とあたしの身体を包み込んで行く。
この世界と、お別れの時間。
最後にあたしは振り返り、もう一度アステラを見つめた。
「ずっとずっと……愛してる………」
一粒の涙が頬をつたい落ち、あたしたちはこの世界から消えた。
何百年―――いや、何千年後……
冥王が再び目覚める時、あたしの意志を受け継いだ誰かが、あたしと同じ道を辿ることになる
今日という日を迎える日がやってくる
それが、金色の女神として産まれた貴女の『宿命』
でも……
でもね………
願わくば、貴女があたしと同じ『運命』を辿りませんように………
N330年4月6日。
この日、精霊の力を借りた七人の英雄によって冥王ハデスは封印され、ステラクロスに平和がもたらされた。それは後に聖魔戦争と呼ばれ、後世に語り継がれていった―――
時は流れ
N1330年4月6日
世界を平和か終焉か―――そのいずれかに誘うとされる一人の少女が産声を上げた……