B・S『最後の食卓』(ベタ・シリアスギャグ)
さて、今月最後のトッピングです、B・S。
どうぞ召し上がれ。
トントントントン・・・
ガラガラガラ・・・
「帰ったぞ~」
「あら、お父さん、お帰んなさい・・・お疲れさまでした。早かったですね」
「ああ・・・今日は遅く帰るわけにいくまい」
「ええ・・・」
「しかし今日は疲れた、先に風呂に入る」
「・・・はい」
・・・・・・
「慎一は?また勉強部屋でこもりっきりか」
「ええ」
「真面目にやってるんだったらなんの問題はないんだが・・・どうせそういうわけでもないんだろう」
「今日はワタシが呼んでまいります」
「ああ・・・」
「慎一~夕飯できたから~!はやくでてきなさ~い」
・・・・・・
「綾子は?」
「今日も残業があるらしいですよ。でもだいたいもうすぐ・・・」
「何も今日まで・・・最後の最後まで働き詰める必要もないのに」
「でもあの娘らしいですよ、そのほうが」
「まあ、悪いことではないがね・・・ん?」
「やっと降りてきた・・・慎一、お父さんが帰ってるんだから、あなたもはやく降りなさい」
「・・・」
「もう、返事なさい」
「まあ・・・いい。いつものことだ」
「・・・姉さんは?ずいぶん遅いじゃないか」
「もうそろそろ帰るわよ。でも良かった、これでそろって綾子を迎えられるわね」
「まあ、座れ・・・」
「・・・」
「どうだ、勉強のほうは・・・?」
「・・・」
「慎一・・・黙ってないで、ちゃんと答えないと。ワタシがいうのもなんですけど、なんというか・・・」
「まあいい、嘘をつかれるよりはマシだ。この出来損ないも、嘘をつかないところだけはどうにか人様に顔見せできる長所だからな」
「・・・」
「いつまでもこいつの尻拭いばかりはしてられないんだ!そろそろ真面目にやらんか」
「それがねえ、昼間っから遊んでばっかりでどうにもこうにも・・・」
「ベラベラ喋るんじゃねえ」
「慎一!母さんになんてことを!これ以上ひどいことをいえば手を上げるからな、覚悟しておけ」
「手なんて出したら近所で赤っ恥かくの父さんの方だぜ」
「貴様、次から次に・・・もういい、尻を出せ!ご近所さんに知れ渡るように、わざわざ庭先でひっぱたいてやる」
「お父さん、やめてください・・・今は昔と違って、体罰は問題になるんですから」
「ウルサイ、そんな理不尽な!言葉でわからんやつは体で教えるんだよ、慎一!はやく尻を出せ」
「尻ってどっちの尻だよ」
「このやろう!」
ペシッ!
「こんなバカ息子に育てたつもりはない!」
「お父さん・・・やめてください・・・慎一!いい加減になさい」
「こんな家に生まれてこなけりゃよかった」
「慎一!そんな・・・」
「貴様!母さんを悲しませることは絶対許さん」
「だいたい何なんだよこの家は!」
「何をいうの!ほかの家となにも変わんないじゃない」
「ウルサイ!この家はな、呪われてるんだよ!俺は自分の血が怖くてしょうがないんだ」
「この罰当たりが!ご先祖様になんてことを」
「知るもんか、俺の気持ちは俺にしか解んないんだよ」
「!!!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ガラガラガラ・・・
「遅くなりました・・・」
トントントン
「母さんただいま・・・え?慎一、父さん、どうしたのそんな顔をして・・・」
「ん?ああ・・・まあ・・・な」
「なんでもないよ、少し、受験の事で・・・姉さんは心配いらないよ」
「そうよ綾子、今は慎一もピリピリしている時期だからね」
「・・・ゴメンね、こんな時に」
「お前はあやまる必要はないんだ、だいいちこのバカ息子が努力を怠っているだけで」
「悪かったよ姉さん、今日は俺のことで時間を奪うべきじゃないよ。父さん、母さん、明日からもっと真面目にするから」
「当たり前だ、いったい何浪するつもりだ」
「お父さん、慎一もそう言っていることだし、今日のところはこれくらいに・・・」
「ああ、つい、スマン・・・」
「まあ、私としては、みんなが揃っていることが何よりの幸せよ」
「綾子・・・」
「は~、ほんといい娘に育ってくれました」
「もう、面と向かっては照れるじゃないの」
「まあ、何度言っても無駄かもしれんが・・・」
「お父さん、今日はほどほどにしてくださいね」
「しかし。今日しかないんだからな。あの男、あの日以降は一度も姿を現さんで・・・」
「ゴメンネ、父さん、でもあのひと、いつも父さんのことを気にかけているんですよ」
「なんだ!アイツに気にされる筋合いなんてないぞ」
「なかなかね。新しい商売だから・・・ウチに寄る時間もなくて」
「いいのよ、綾子」
「良くはないだろう!訳のわからん商売をしよって。海外出張も多くて家を空けることも多いんだろう・・・それが一番の心配なんだぞ」
「・・・。父さん・・・もちろん、でもね、今が彼、一番大変な時期らしくて・・・もうすぐ落ち着いたら海外へ行くことは絶対にないって約束して貰ったし・・・それにね、それが私にとってのプロポーズの承諾の条件だったから。守れないんだったら離婚届を突きつけてやるんだから」
「綾子、嫁ぐ前の夜に縁起でもない!」
「いいのいいの。そんなことしたら泣いて謝るってもう解ってるんだから」
「糞っ、やっぱりあの時簡単に承諾してやるんじゃなかったんだ、あんな、ケツの青い野郎!」
「まあまあ、お父さんだって若い時代があっての今じゃありませんか。いろいろと多めに見てやってご覧なさいな。男のひとなんて、少し見ないあいだにすぐにたくましく成長しているもんですよ」
「そりゃあ、そうなることを願うさ」
「・・・・・・父さん、母さん」
「!」
「?」
「やっぱり私の事本当に思ってくれてるってよ~く解った。嫁ぐ日の前に、こうしてそれを実感することができるなんて、私、日本で一番幸せな娘だって思った。父さん、母さん、そして慎一も・・・今までこの家で一緒に生きてこさせてくれて、本当にありがとう・・・急な結婚、私のワガママを、受け入れてくれて・・・本当にありがとう。明日から姓もおウチも変わってしまうけど、私はいつまでもこの家の家族だからね」
「・・・綾子。ワタシもありがとうね」
「姉さん、きっといいお嫁さんになるよ」
「まったく、出来が良すぎるのも困ったもんだ。急にお腹が痛くなってきた・・・間が悪いがちょっとトイレに行ってくる」
「・・・」
「お父さんったら、涙ためてらしたわよ」
「えっ?父さんが?まさか」
「いいえ。結婚何年目だと思ってるの?お父さんの泣き所くらい心得ているわよ」
「えっ?あの父さんが・・・泣くの?」
「時にはね。あ、これは慎一には内緒が良かったかな~」
「へ~、でも私も初耳だよ・・・」
「ありゃりゃ。母さんとしたことが、口が滑っちゃったわね」
「はははははははは・・・」
「はははははははは・・・」
「はははははははは・・・」
・・・・・・
「グスン・・・グスン・・・クックックッ・・・ヒ~ヒ~ヒ~・・・・・・」
完
登場人物
父 上条晴一。中小企業会社員、勤続35年。
この家の厳格な父。頑固で厳格、融通が利かない性格だが、時に情にモロくなる。
頭頂部に第二の肛門が乗っている、なおクッキリと青く、蒙古斑が広がっている。
母 上条素子。優しくしっかりものの母。家族を縁の下で支えている。
頭頂部に第二の肛門が乗っている、やはりクッキリと青く、蒙古斑が広がっている。
綾子 しっかりものの長女で、嫁ぐ前夜。最近は家族への感謝の気持ちをどう表そうかと悩んでいた。
頭頂部に第二の肛門が乗っている、クッキリと青く、蒙古斑は広がっており、近頃特に色味を増したようである。
慎一 浪人生。出来損ないの長男。粗暴で不真面目、しかし心根はよい。
頭頂部に第二の肛門が乗っている、大人になるに連れ、蒙古斑の青みは増してゆくようだ。
さて、しんみりいたしましたところで、今月は閉店でございます。
さて、来月のオススメピザもどうぞよろしく。
closed