B・G 『天使と悪魔』(ベタ・ギャグ)
さあ今月3枚目のトッピングは、大人気ベタ・ギャグですよ。
こぞって召し上がれ!!
ユサは万男を激しく憎んでいた。
ユサは自分を美人過ぎる市議だと思っていたし、脳内ビジュアルの完成形はまるっきり女装子の地井武男の完成形だった。
一方 万男の方は脳内、チョビひげ生やしたホラン千秋ではっきり完成を迎えた。
ユサはその点で地球一のパラノイアである。
というのも、実際の見てくれが「ホラン過ぎるユサ」であったし、“見た目地井さんぽ”なのは「さんぽ請負人過ぎる万男」の方だったから…
という訳で今日もふたりは散歩した。
歩いたら足跡にキレイな花が咲く…
ユサはまるでストーカーだった。
万男の後方をぴったりとマークするユサのその足取り、憎しみは度を超えていた。
ユサのふところにキラリと光るモノがある…
「ぴちょん…ぴちょん…ソレって刃物だよねえぇ」
ユサの脳内白装束が語りかける…ユサの理性の棲家・左脳を支配する天使だった、もちろん輪っかを付けた地井 武子だ。
「うひゃひゃひゃ…なんのことかしらね?」
ユサの脳内黒服はしらを切る…ユサの衝動の棲家右脳を支配するのは悪魔である、デーモン閣下メイクのホラン智明だ。
「あんたさあ…夕べ一生懸命肉を叩いてたわよねえ…顔中の血管浮き出させて…どれだけ必死なのってカンジよねえ…」
みるみるデーモン姿のホラン智明、血の気が引いていく…痛いところを突かれたようである…
「なんなわけ?刃渡りぼろっぼろなんだけど?それってまさか菜切り包丁じゃね?」
「用途!」
智明はへなへなと地に伏せた。
ペンは剣より!
天使の一撃。まるで悪魔である。
「あんた…骨付き肉を叩くってのはどうなのよ?中華の鉄人じゃないんだからね。いっつも骨付きの鶏の胸肉カタマリで買ってきてばっかでさあ、好き過ぎるにもほどがあるんじゃない…馬鹿?ほんっと好きよね…胸肉」
その一言は追い討ちとはいかず、智明を勇気づけていた!ユサが胸肉に固執する理由、それは味ではなくただ安いから!
智明は一番触れられたくない痛いセリフを聞かずにすんだその運命にキッスした。
おかげで傷口に塩を塗るような危機は回避できそう…
このあたり、武子、やはり天使?
「うひゃひゃひゃ…ホ、ホームセンター行ってくる…」
「あんたさあ…」
「!?」
「砥石を買うつもりじゃないでしょうねえ??」
やはり悪魔!
じりじりと智明を追い込む 武子の言葉責め、時すでに、SM倶楽部の女王様を凌駕しているのだった。
「うひゃ…買ってきた砥石をまっぷたつにしてやるのさ!うひゃひゃひゃ…」
下手な言い訳…悪魔なのにぃ??
「砥石を買うくらいならその代金で新品の包丁が買えんじゃないの…あ。」
「うひゃ…」
的確なアドバイス!やはり天使は本性をあらわした。
その瞬間に、ユサは悪魔の笑みを浮かべている…
「うひゃひゃひゃ…」
同時に智明は腹を抱えた!
新米ダメッコ天使、智明の「全盛期シャロン・ストーン(新世紀エヴァン・ゲリオーン)」を彷彿とさせる卑猥な視線が武子の秘部をジンジン刺激するから…オシッコ漏らしそう!
ユサは後方を振り返り、ホームセンターを目掛けてその一歩を踏み出す…!否、待て。
ユサは想いだしていた!憎っくき眼前の獲物、万男を探し当てるまでの血を吐くような苦労を…ユサはボロボロに刃こぼれした菜切り包丁に視線を落とし、歯痒さで発狂寸前こらえる、対曙戦で披露した、伝説の「土俵際の若乃花」みたく!
「ダースベイダーのお面買ってくるね~…」
「なんで今、そのチョイス!!」
天使は何故、数ある覆面の内ダースベイダーを愛したのだろう…アイアンマンとテリーマンが両隣に並んでいるというのに…
そもそも、ユサが万男を憎むのは、万男の特殊能力、その道端の足跡に咲く花が、寄りによってユサの一番きらいなラフレシアだったからに他ならぬ。
運命とはこそばゆいものだ。
万男が捻り出す植物が、不気味の権化ラフレシアなどではなく、例えばカワイイの代名詞ポーチュラカなどであったとするなら…?
その運命においてユサは、万男のストーカーではなく、単なる熱烈なイチ追っ掛けとして活動していたに違いない…
ところで、万男のその能力、ユサの気持ちひとつで、反転することくらい容易であった。
万男の意識が、吐き出す物体を思うままに仕立て直せることくらいお手の物だということは世界基準で周知の事実であった。
つまりラフレシアというのが今の彼自身の意思表明であり気分の顕われだということが、更にユサの乙女心を踏みにじり、よって凌辱にわななく娘をすなわち、比較対象の世界中に存在しない、圧倒的な殺意へと奮い立たせた!
しかし。
実をいうと、ユサはかつては純粋に万男を追っていた。
それは追っ掛けという程には到らないレベルではあったが…
かつて万男の足跡に転がってゆく円谷塩ビ人形コレクションを拾い集めたものだった…
彼女自身世代という訳ではないが、ととさまの、そして歳の離れたアニの影響で、それはそれは夢中で拾い集めたものだった。
万男は「歩くギャラクシー」と呼ばれ、常に街中の小中学生を引き連れて闊歩していた。
ユサの勉強机には、未だにプースカのフィギュアが
いくつも並んでいる。
ユサは、当時の万男の幻影を追っているだけなのかもしれない…
転換期となったのは、あるクレームからだった。
夕方を過ぎれば子供たちは帰っていく…
しかし万男は、夜中歩きつづけている…
そして決まって「貞川家の庭」を…
貞川は怒っていた!
「やめてもらえんかね!」
貞川はきっと、嘘をついていたんじゃないかと思う。
塩ビの人形を食糧にしていたから…
きっと、見栄をはっていたのだろう。
塩ビの人形は、フライパンで炒めると食えるらしい。
ある時炒め油を切らしていたために、家にあるマキロンを熱したフライパンに投入したのだ!
マキロンの煮汁はイヤな色彩をしていた。
貞川は未だに大量のストックを押し入れに入れていると思われる…
マキロンの煮汁をスプレーにいれて、除草剤として有効利用しているのだ。
円谷の塩ビに、食べられないところはない。
「この偏食基地めっ!!」
ユサは怒り心頭で大声を上げた!!
ユサの天使と悪魔が会話する…
とはいいながらも、ユサの歩いたその後方には、それはカワイイ合鴨のコドモたちが連なっていくのだ。
公正な目からすると、ユサは万男と同罪であって、ユサの抱えるストレスも結局は痛み分けでしかなかったのだ…
では何故、合鴨のコドモたちはユサの後を歩く?
雛は、はじめて見たものを親と認識してしまうからである。
それは「刷り込み」とよばれる珍現象でとてもいたいけだ。
「うひゃひゃひゃ…殺しちまいなよ…」
デーモン閣下メイクのホラン智明が天使に囁く…
「ぴちょん…ぴちょん…誘いに乗ってはダメ!あなたは失意を殺意だと錯覚しているだけなの!」
輪っかを付けた地井 武子が必死で抵抗する。
背後まで迫っている…射程距離!殺してしまえば殺せる距離だった。
そもそも…どうしてユサは「ホラン過ぎるユサ」である自分の見てくれを、「さんぽ請負人過ぎる万男」である…と取り違えるようになったのか…?
…どうして、「さんぽ請負人過ぎる万男」である万男の見てくれを、本当は自分であるのに「ホラン過ぎるユサ」であると取り違え、錯覚するようになったのか!
それは…きっと、ユサが産まれたときに、はじめてみたものが万男だったから。
それがため、ユサを万男だと、万男を「ホラン過ぎるユサ」であると捉え、認識するようになり、殺意のタネが撒かれたのだろう…
それは「刷り込み」…
そしてポーチュラカではなく…ラフレシアを憎むようになったのであろう。
こんがらがった…悪意に満ちた…運命の…糸。
「それを断ち切るの!」
ユサは勇気を振り絞り、万男の喉元を…運命の錯綜のその源泉を…断ち切るの!!!
スパーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!
ぐにゃ~ぐにゃ~に~揺れ~る~景色~万~男の喉元~が~肉体~が~裂け~~大量の~~血液が~~赤く~赤く~噴出していく~~
運命の―錯綜の―根源は断ち切られて―――
万男は地井武男に…
天使はホラン千秋に…
悪魔は地井武男に…
ダースベイダーはアイアンマンとテリーマンに…
ラフレシアはプースカ人形に…
合鴨の雛は親鳥の後ろに…
そして…
ユサは…
・・・・・・
ぬちゃっ……
鈍くぬめっと湿った音が流れた…
ユサの振り上げたそれは。
―ボロボロに刃こぼれた菜切り包丁―
すべての錯綜は断ち切られず、相も変わらずユサは万男をいつまでも追跡した。
天使と悪魔…
錯綜しこんがらがった糸。
それが断ち切れないのだから、犯罪は世の中から消えていかないのでしょうね…