S・G 『警察官』(シュール・ギャグ)
さて今月ふた切れ目はラッシュで焼きあがる予定ですよ、召し上がれ。
ピイイイイイイッ!
呼び止められたボクは声を失った。
「キミキミイ、いけないじゃないか、街中でそんな格好しちゃあ」
ボクは確かに真昼間からパジャマで歩いていた、で、でも・・・
「公然わいせつ罪で逮捕するぞ!」
「とばっちりだあ」
ボクは確かに真昼間からパジャマで歩いていた、で、でも・・・
「手錠をするからな、いいか?」
「何をする・・・それより。テメエ何もんだ?」
「公然わいせつ罪で逮捕するぞ!」
「・・・」
「・・・あれ?」
何がだよ!
「てかアンタ・・・全裸じゃないか!」
「手錠がない」
ピイイイイイイッ!
「困ったときに鳴らすものじゃないからホイッスルは。ていうかそのホイッスルこそ全裸の何処にしまってんだよ」
パクッ。
「あ、肛門に入れ込んだ。汚ねえ、こっち来んな」
「公然わいせつ罪で逮捕するぞ!」
「アンタの方こそ!ていうかアンタ何?」
「警察だよ」
「嘘をつくな」
「本当だってば」
「嘘だ!昼間っから警棒振りやがって、そんなんだから人生を棒に振るんだ」
「警棒は落としました」
「警官たるもの・・・」
「道に落としました」
「じゃあ落し物なら交番に行きな」
「服を脱いだ時に一緒に落としました」
「・・・アンタねえ、どこの世界に全裸の警察官なんているわけ?」
「・・・」
「アンタただの変質者だろ、そうだよね?」
「違う・・・本官はケーサツ・・・」
「ケーサツ官だよね~?」
ピイイイイイイッ!
「揚げ足を取られたので逮捕する!」
「汚ねえったら!ケツの穴の味覚を堪能してんじゃねえ」
「逮捕ーー!」
「・・・」
「・・・」
「ていうか手錠、ないんでしょ?」
「何故その秘密を知っている・・・さてはスパイ、内部監査か?」
「テメエから聞いたんだよちょっと前に!アンタさあ、アンタこそ公然わいせつもいいとこだからね?ホントにアンタが警察ならば、せめて帽子だけでも着けていようよ?」
「それは・・・」
「何だよ急に困りやがって」
「服を脱いだ時に一緒に脱いだんだよっ!逆に全裸に帽子だけだと卑猥さが増すからな!だってアメリカのポルノみたいになっちゃうから」
「確信犯かお前はっ!」
「ひとつだけお前にアドバイスをしよう」
「この上ない屈辱だよ!」
「この街は狂ってる・・・狂ってんだ」
「アンタを筆頭にな」
「お前、この街の秘密を知っているか?」
「知らねえし知りたくねえよ。だって謎だらけなんだからな、悪いがアンタを筆頭にね!」
「この街はなあ・・・」
「ヒトの話を聞きなさい、もう少し・・・」
「この街はなあ」
「無理だな、聞いてねえな」
「この街はなあ、不思議な街なんだ」
「だからキリがないな、アンタを筆頭にね」
「どういう風に不思議かっていうとな、この街を歩くヒトたちはもれなくケーサツなんだよ」
「嘘いってんじゃねえ、アンタを代表としてもれなく変質者だよ」
「う~む、鋭いな」
「すんなり認めてんじゃねえぞ」
「そう、ケーサツであり変質者である」
「難解なクイズを出してんじゃねえぞ」
「いいや、これは単純明快なのさ!」
「何がだよ」
「つまり・・・この街を歩く者たちはみながみな重罪人なのさ」
「堂々というな!アンタもだろ」
「うむ」
「だから偉そうなんだって」
「そして、みながみな刑罰として警官を任務しなければならないのだよ」
「意味がわからんぞ」
「つまりだ。みながみな、犯した罪をそれぞれに割り当てられて、釈放されるまで街の罪人どもを取り締まらなければならなくなる、それがみなに課せられた刑罰となる」
「なんだそれ?警察イコール刑罰ってコトなのか?」
「そうだ、だから本官が犯した罪である公然わいせつ罪を超える罪人を見つけなければ本官はいつまでたっても警官であり続ける刑を続けなければならないんだ」
「よくアンタボクなんかに声を掛けられたな、その勇気、称えよう」
「じゃあ、変わってくれるか?」
「殺すぞテメエ」
「慎みなさい、口が悪すぎるぞ!」
「誰が全裸のオッサンにパジャマ姿のボクが敵うもんか!」
「悔しいやっちゃな」
「オトトイきやがれ」
「しかしだな、この街ではキミのような口の利き方は気をつけたほうが良さそうだ。なぜならこの街にはとても信じられないような重罪人がゴロゴロウヨついているのだからな」
「お~怖わ」
「うっかり殺すなんて言おうもんならとんでもない罪を犯して警察をやらされているはずの最大の殺人鬼に殺されてしまうかもしれないぞ」
「そいつ殺しちゃってるじゃん、警察の癖に・・・」
「今殺すとか言ってなかったかね?」
グサッ!
ボクは驚愕し、震えるしかなかった・・・
「うへへへへ、ところでアンタ殺人罪で逮捕するぞ?」
やべえ・・・狂気だよぜったい・・・最大の殺人鬼が目の前で殺しなんかやりやがったよ・・・しかも相手は警察だぞ?どうにか逃れなければ。
「いいえ、ボクは殺人なんて犯してませんよ」
「うぃぃぃ、信じられないなあ・・・」
「本当ですよ」
「証拠はあんのかよ?」
タチが悪いったらないな。
「ボクは殺しなんてやっていない、このヒトが見ていました!」
「うぃぃぃ?それって誰のことなのかしらね?」
「だからその・・・そこの警察官です」
「それって・・・もう死んでいるこの人のことかしらね?」
鬼畜だなコイツは、テメエが殺したんだぞ。
「ええ、このヒトが見ていましたとも。そうですこのヒトは死んでいますよ、でもね、しっかりと瞳には映っているはずです、ボクが人殺しをやっていないという証拠現場をね?」
「?」
「このヒトの眼はもう死んでいます、しかし例え死んだとして写っていることには違いありませんから」
「・・・あ、あんた、正気か?」
テメエのほうこそな!
「ああ正気も正気さ。アンタがもし本当に警察ならばボクを逮捕した所でそれは誤認逮捕にしかならないよ、だからボクを無理やり逮捕しようなんてことはやめちまうことだな!」
「ひ、ひええ~~頭のオカシイヒトがいるよ~~!」
だからテメエのほうこそな!
しかしドイツもコイツも狂っちまっているよ、こんな街にいたらほんとうにボクのほうこそ頭が変になっちゃうよ、どうしよう?早く引越しでもしようかな?それにしてもどうしてボクはこんな街に住んでいるんだろう?というかその前にどうして昼間っから散歩なんてしているんだろうか?しかも白昼堂々パジャマでだなんて・・・あのヒトたちに比べるからマシに思えてるだけで、ボクのほうだって立派な変人だってことに気づきそうな気分のボクはとても厭な気分だ・・・もういい。こんな街、飛び出してしまおう・・・
「そ~れ」
ボクは街を区切った境界線を踏み越えていた。
けたたましいサイレン、鳴り響いてくる地面を揺らす大群の足音・・・何かが、近づいて来る、何かの群れが・・・
「逮捕~~~~~~」
ボクの体躯はものの見事に元いた街の方へと突っ返されてしまっていた。まるでラグビーか何かのように、大勢の体格の良い男たちの群れがボクの上に次々とかぶさっていった・・・
「う・・・う・・・」
い・・・息さえ・・・で・・・きない・・・
窒息寸前で男たちは退いた、そして並んでいた。どれだけの人数かわからないくらいの数え切れないほどのヒトダカリ・・・そんな暑苦しい情景にボクは取り囲まれている。蹲りながらボクは体格の良いむさ苦しい男たちをそれぞれ見上げて眺め回した。
ひとりひとりが、国籍不明である、髪の毛や肌の色や顔立ち体格などひとりとしてかぶっているものなどいない。
そして声を揃え一斉に・・・
「不法侵入の罪で逮捕する!」
声の色やイントネーションの異質なそれぞれの声がひと揃いに同一のセリフを寸分のズレもなく言い放つのであった。
そしてボクは、最大の不法侵入者として取り締まりを行う立場へと押しやられてしまっていた・・・
不思議なお味でしたね?