B・G『擬態』(ベタ・ギャグ)
はい、今月3切れ目のピザですよ、召し上がれ!
彼女が手を振っている、真っ赤なビキニに冴えた白い肌、完璧な眺め…
プールが揺れている、水面に見覚えのあるまなこが二つ浮かんでいる。ムードが壊れそうだ、俺はプールサイドを回り込んで、彼女に近づいて行く…視界を遮るソレを避けようと…しかし、それはピッタリと俺の視線をマークして、俺と彼女、楽しい盛りの二人に割って入るのだった。
ひと目もはばからずイチャイチャしてくる彼女…
「見てるから」
「え~、誰も見てないってば~」
「いや見てるし!」
この至近距離で!
プールサイドに立つ俺と、プールでひとりで戯れるビキニの彼女…排水の着いたプールの縁に擬態して、寝そべったソイツは俺たちを凝視する…
ソイツに見慣れた俺だけが、この広い市民プールの客の中で、この異様な生物の存在感を認識していた。ソイツはプールの排水の溝までも克明に表現しているがゆえ、こんな接近を許してさえもまだ素人目には気づかないのだ。じゃあ何だ…俺はプロか?
第一さっきのは何なんだ?ソイツは水に浮かんでいたんだった…まなこ以外に見分ける方法はなく…しかも、ソイツが眼を閉じてしまおうものなら、その瞼にはバッチリ環境色が貼られてある…
よって溶け込んだ風景とソイツを見分ける方法など…プロの俺を持っても不可能である…ましてや素人になんて…
水だぞ!透明だぞ!!
一体どうなってんだテメエの内臓…
内蔵までも擬態するのか、はたまた、限りなく透明に近い表現を肌の表面が成しうるのかはさておき、いずれにしたって俺にとってはムードもへったくれもない…
高校2年生…待ちに待った彼女との水着デートだってのに…
「ふう~」
「何?ツマンナイ?」
「いやいや…そういうんじゃないんだ…」
「じゃあどういうの?」
せっ生物め~!!本当は彼女に説明して俺の濡れ衣を晴らしてやりたい所だが、しかしここは抑えよう。こんなやつの存在を認知したら卒倒しちまうだろうし、万が一彼女がUMAに対して研究熱心であったパターンだとするなら、もうデートそっちのけで夢中になるに違いない…そんなの嫌だ、せっかく、ムードに酔えるまたとないチャンスなのに…
どうにか上手いい訳をして、彼女とプールで遊ぶ流れへと持っていく…ナイス、俺…話術…!
「な~に~?指立てて…あんた馬鹿?」
「いやいや…心の声が…」
「もしかしてエロいこと考えてたでしょ?」
なぜだか嬉しそうに笑っている…結構おんなって淫乱だな…俺もいい女をゲットしたもんだぜ。
「ねえ、もしかして巨乳ゲットだぜってニヤけてんの?」 え…自分で言う…?た…確かに…君は学年では結構大きなほう…だけど…さあ…自分でいうほど…
「冗談に決まってんじゃ~ん…な~に間に受けてんの~?巨乳は紗季レベルじゃないと違うったら~。あんたって結構うぶなのね?」
キャバ嬢みたいだ…俺…間違えた…?
そんなことはさて置き、俺はどうでもいいソワソワした気分で落ち着きがなかった…そう、ソイツが水中に還元されたのだ…パシャパシャと波打つ立体表現をものともせず完全に造形して、まるで誰ひとりその溶け込んだ存在には気づかないのだ…生物は、カッパのように…背泳ぎをしながらプールを横断していた…
「ねえねえ…目を丸くして~なあに?巨乳でも見つけたあ?」
「いや、別に俺巨乳じゃなくて手に収まるくらいが好みだから…例えば君みたいな…」
しまった…何言ってんだ俺!
「え~…やらしい~~」
よかった…選んだ彼女が淫乱で…お陰で修羅場は避けられそうだ…
「ねえ?お腹空かな~い?」
「ああ、そうだね…昼飯食べに行こっか?」
ジャバ~~!ジャバ~~!ジャバ~~! なんでお前も上がるんだ!
「うはっビッショビショじゃんプールサイド!」
「そ…そうだね」
テメ~どんだけ体積かさばってんだよ! く…空気…プレデター? 空気にまで擬態しやがって…テメエはどこまで忍者なんだ?
バシャバシャバシャ!
「きゃっ、なにすんのよ~」
コイツ…!
「も~うかっわいい!」
ありがとう!
「なに食おっか?」
「そうだな…チキン?」
そうだねーーーーーーチキーーーーーーーーンンンンン!!!!!!
「じゃあ行こっかフライドチキーーーーーーン」
・・・・・・「いらっしゃいませ~~」
なんでカーネルに擬態!
「ねえねえ何にする~?」
ッセーフ…気づいてなかったのかな?
「じゃあサンドのセットふたつ」
「はい、サンドのセットがお二つですね?」
「そうそうカーネルサンダーも二体だしね?」
やっぱバレてたーーー…汗
「あれ?減ってる…」
「撤去してたよさっき…」
テッメー…近づいてきやがるぜ…
「なんで?てかなんで二体あったんだろうね?」
なんだよ鼻ヒクヒクさせやがって…こっち来んな!
「ああ…あれカーネルの弟だから…」
サッ。 ガタッ!
「えっ?今イス動かなかった?」
イスが三脚…不自然極まりねーぞ四人掛けなのに…
「隣で工事やってっから…揺れが凄いんだよこの店…」
「ねえねえ…なんか気配感じない…?」
いよいよ君もプロに近づいたな…感じるぞ…ヒシヒシと留まらぬほどにな…
「なんかクーラーの効き悪くな~い?」
そりゃそうだ…熱々のフライドチキンにヤツの鼻息…こりゃクーラーじゃなくてファンヒーターだぜ…「やれやれ…早いとこメシ済まして、ゲーセンでも行こうぜ…」
「うん…その前に…トイレ…」
「あ…行ってらっしゃ~い…」
こういう時は女の子だからちゃんとデリカシーを気遣うんだったな…失敗したぜ…これからの課題だな… てか…なんでテメーは座ってんだ彼女の席によ~~!!お見合いみたいになってんじゃね~か!そんで食ってんじゃねえ彼女の食べ残しのチキンーー!
「ただいま…アレ?」
「で…でっかいチキンに擬態した!!」
「キャーーーーーーーー!」
その瞬間俺の記憶が走馬灯のように俺の周囲を駆け巡って行った…そして…俺は全てを理解した…俺は国を跨いだエージェント…国家規模の暗殺計画を遂行するために、記憶を消去し、高校生のカップルというニセの記憶を刷り込まれ…機関の中枢へと潜り込む長期計画の只中であった…しかし…相棒であるはずの彼女は裏切り者で… つまりこれは、私がこの状況に気付いてから死の瞬間を迎えるまでの僅か数秒間だ。 擬態した生物の拳は鋭い刃物へと様変わりして…俺の首元を激しくかっ裂いてしまった……
何やら聴き馴染みのあるフレーズが混じっていましたね?期間限定です。