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S・S 『防災町』(シュール・シリアスギャグ)

さて今月ひと切れ目をご賞味下さい。

「他の天災ならまだしも、こんな大型台風って逃げようがなくて怖いったらないよね?」


大型台風のニュース・・・地揺れ・・・地震であろうか・・・


「長くないか?」


「う・・・うん、こんなの初めてかも・・・」


タルならゆましーにもう一度繰り返させているところだろうが、あいにく今日はいなかった。


ゆっさゆっさと揺れている・・・


「ねえ?ちょっと変じゃない・・・?さっきからもう十数分経過しているし、それに、だんだんと近づいているよ・・・ほら」


耳を澄ましてみる。

彼らは軍隊のような足取りで深夜の街を闊歩しているのだった、巨大台風の予報から一日後、地方を直撃との報道に逸早くリアクションをとったのは○○町の住民、彼らは後に『防災町』の呼び名で一括りにまとめて認識され、即座にクチコミで全国へと伝播していった。

その町の新生児や衰弱した老人を隈なく含む住民のひとり残らずがたったひとつの意志に束ねられて、一心に行動、つまりが移動し避難し遂せたのである。そんな町など前代未聞である。

多大な被害を国へと齎す様な異常気象は年に十回ほどは訪れるが、たった一度の直撃に備え、住居を捨てまでしてそれを全身全霊を賭けた回避、否、最早戦い、と言い切ってしまっても良いくらいの行動性を見せた前例は皆無と言って良かった。

せいぜいひとつの団体(例えば小学校だったり会社だったり)がせいぜい数キロ先へとひと連なりに移動した、というくらいが限度で、それでも最も優秀な部類とされるに違いないだろう。

それなのに!

町はそれ自体、まるで巨大な生き物であるかのように有機的に結びついて・・・国土を這い廻って安全地帯を目指しているその様子は超現実そのもののような気がする・・・


「まるで民族の大移動だな・・・歴史の教科書をリアルに透かしているようだよ・・・」


「まさしくスペクタクルそのものだわ・・・」


冒頭の街ではない!

無論、防災町の行脚の速度が果たしていく列島縦断の経過に沿いながら、それを眺めるギャラリーはだんだんに南下しているのだ。

ここはまた別の街で、それを眺めるひと組の男女は、更に新たに増殖して行くであろうギャラリーの有様を、しかとトレースした、一種の歴然たる『モデル』として機能しているのであった。


つまりがこの見物客は日々増殖しつつあるこの特殊な傍観主義者の『鋳型』であった!


こうして、甚大な被害を齎す事となった前代未聞の巨大台風を受けながら、かつて、そこへと永住し続けた全ての住民たちは、ものの見事に無傷となって、生還というタスキを次代へと繋いでしまった!!


報道や人伝いにより、その奇異なる町の存在の認知度は高まり、賞賛の声が何処からともなく湧き上がり、それは国全体の意識とまで膨れ上がってしまって、『防災町』は神話的なレベルにまで到達してしまった人知のかがみであるという見解こそが、世の本音となって次々駆け巡り、それは知らぬ間に絶大なセンセーションを起こして民衆を焚きつけて、国中に『移民ブーム』が何処其処へと同時発生的に誕生し続けるという異常な状況が現在だった・・・


『町ごと・・・』や、『完全乖離の達成』などのメチャクチャな標語が、善意の象徴と化していて、国内はまるで熱病に浮かされているも同然だった・・・


最早カタチだけとなってしまった無意味な巡礼に向かいゆく彼らは、彼方から彼方まで、拍手喝采のお祭り騒ぎを各地民衆へと与えていくばかりだった・・・


「いいぞっ!アンタラは神の使いだ・・・」


「キャーー!コッチも見て頂戴ヨ~~~!!!」


絶叫や過剰反応の渦だった・・・

それでも、黙々と彼らのひとりひとりは、巨大台風の暴風域を目指して・・・無風という奇蹟を巡って・・・

終わりなき移動を続けていくのだった・・・


無・・・



それを遠くから、鋭い眼光で・・・不気味に監視する気配があった。


巨大台風それ自身!


北上通過を遂せるその寸前で、ピタリと止まって陸のない大海のその上空で、その一挙手一頭足を冷血な視線を送りながらネチネチ舐めまわすかのような粘着質の目つきで、物陰から真っ直ぐに差し込まれるように、相手方の露出願望を挑発するような変質者的な逆撫では!


北極付近で消滅する予定だった巨大台風はクルリと向きを変えて・・・


それがだんだんと近づいてくるものだから、『現代の移民』たる防災町の住民全員は、巨大台風たるストーカーを撒いてしまおうと、その巨大な暴風視点からすれば鼻で笑ってしまいそうな程の狭っ苦しい国中経巡って、縦横無尽なやり口で、ストーカーの魔の手から、すんでのところで逃げ交わしてしまうのだった・・・


さすがは避難のスペシャリスト!と褒めたくなるのは幻のように崩れ去っていく砂の城、残された国民達はそううかうかもしていられずに、寧ろ、口を突くのは苦言以外には無かった!


通過すれば・・・

たちまち破壊し尽くされゆく街という街並の全て・・・

巡礼の足跡に引導されて・・・


よって!

彼らはもはや国家全域からの敵視の焦点であった!

「悪魔め・・・!!」


『反対』を掲げる住人たる住人!

・・・なぜなら。

彼らの侵入を許せばもうお仕舞い。

愛し過ごした市町村は即座に壊滅、家族や仲間は生きて帰ることなど。


プラカードとデモの声!

飛び交う野次、罵倒!!


それに混じって少数派、『台風反対』・・・そんな根本をとう住民も中にはあった・・・


結局防災町の一団は、国を追われて海外へと逃亡した・・・


海外のいたる国々にて・・・


ことごとく追放を被ることとなる運命、何故なら巨大台風のストーカーは世界中どこだって這いずりまわって・・・


とうとう地球外へと追われることとなる・・・


涙。


母なる星地球を去る一団の憂いよ。

シャトルの階段から一瞥する午前の青空は眼に焼き付いて、印象深く残像していった・・・


離陸!


巨大なノアの方舟は、宇宙へと消えてゆき・・・巨大台風それを追って大気圏まで上昇するが、流石にそこにてとうとう消滅してしまった・・・


地上から見上げる空。

シャトルは風のように消えてしまった・・・

気配すら、もう消されてしまい、宇宙深くの彼方へと・・・彼らは溶け込んで、遠く見えなくなってしまった・・・・・・

実際被害に遭われた方々にはご冥福を。

これはあくまで創作です。

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