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S・S 『秋の音の情景に…』(シュール・シリアスギャグ)

3切れ目もリズムよく、Link Link…

 リンリンリンリンリン…

 

 ああ…秋か……


 どうやら部屋に迷い込んでいるようだ…この季節、涼やかに感じられるのは部屋の窓から舞い込む夜風だけではなくて。


 リンリンリンリンリン…


 ああ…秋、部屋へ響き渡るのは…涼やかな…鈴のおと……リンリンリンリンリンリンリンリンリンリン……


 僕は本当に好きだった。部屋の外からも…

 

 そして愛らしく部屋に迷い込み…秋の気配とその情景を穏やかに物語る…切なく、儚げな、それでいて凛とした色濃い季節の深まりを…小さなイノチの叫び声。


 余韻…

 静まった部屋はしんという音さえ耳に刺さるほど無音の沈黙に充満して。


 それでも、僕の鼓膜の深い奥、奥の奥の最奥に…そのおとは響き渡る…そして波紋のように広がって…いつしかそれらはシンフォニーとなって僕の肉壁へと洪水した……


 想う…そして次々思い出す…少女の笑顔…柔らかい声…甘く…僕の胸を握りつぶすほど鷲掴みしてしまう神秘的な表情を……


 本当に好きだった…思い出に生きる少女、永遠という記憶の世界で、未だに野を駆け戯けつづける美しい彼女…永遠に少女のままで…歳も取らずに…コドモだけが許される無限の安逸の大地を駆けていた……


 鈴の音……


 僕を記憶の世界へ引き摺り込んで…それでも僕は…もう大人になってしまった青年は…君と一緒に…その野山を駆け回ることは出来なくて、ずっと傍らで、眺めることだけが僕の精一杯の楽しみで、願いだった。


 重い病。

 あの冬、突然死んでしまった君の面影、僕の記憶は永遠に、元気だったあの秋の君のすがた、体温、声と気配を、閉じ込めてしまった虫かご。


 ずっと好きだった…

 それまでも…

 それからも…

 ずっと…

 …ずっと。


 鈴の音。


 部屋へと舞い込んだ鈴虫が僕は愛おしくて、秋ごとに、僕にこの世の外から便りを運んでくれる小さな配達人へと、僕は大きな感謝と愛着を返していくのだ…


 鳴ってはやみ…また鳴りはじめ…繰り返し…


 いつまでも…いつまでも…あの美しい…最愛の記憶と情景を…忘れてくれるなと…涼やかで柔らかい…神秘的なその歌ゴエは…僕の小さな部屋…風呂付き1Kの僕のネグラのために…軽やかに揺らし…囁いてくれるのだ……


 無音…

 また鳴りやんだ。小さな、声の主は何処へ迷い込んでいるというのか?

 突然の衝動が胸の奥にちいさく芽吹いて、僕はその疑問を解消しようと腰を上げていた…


 生活の部屋は少し散らかっていて、読みかけの本や食べっぱなしのスナックの袋や、物陰というものはいくらでもあって、その小さな声の宿主の隠れ家は、探し回ることが億劫になるほど、数え上げればキリが無かった…


 何処かへ置き去りにされたケータイが探し当てるのに徒労してしまうのと同じで、やはりその手掛かりとなるものは……


 音。

 ふたたび鈴の音は鳴り響く…部屋の奥…それはキッチンか…それともユニットバスのほうなのか…

 僕は部屋を移動した……


 パチッ!

 

「!」


 ユニットバスの電灯を着けた途端目の前に大きく塞がる物体が僕の視界を不快に遮った。


「誰だ!」


 …おっさん。

 おっさんは裸で背中と半ケツを見せた状態で丸まっており、あろうことかユニットバスの便器の上へ、しかも、蓋を締めた使用前の状態で、つまりその薄い便器の蓋の薄氷の上に、重そうな裸体を蹲らせた状態で、まるで見返り美人のように顔だけが半分こちらを覗いている……


「不法侵入じゃないか!110番されたくなかったら今すぐ出て行け!」


 …無言。

 憂いを帯びた表情が何故か神秘的でさえあった。

 おっさんは全裸で見返り美人のまま、こちらに視線を合うか合わぬかの微妙なラインでさ迷わせ…不覚にも情緒的ですらあった…


「変態かアンタ!髪も薄くなってるじゃないか、変態だろあんた!男性ホルモンが盛んだと、それに応じて髪の毛は抜けていくというじゃないか!」


 それにしても。 

 頑なに崩さぬ黙秘権。もうこうなったら、警察を呼ぶしかないだろう、それに、こんな不審者常習性を持たれていつ現れるとも知れん。それより法的に、対策をとっておいた方が今後の身のためだろう…


 僕は110番をした。

 夜分にかかわらず、近所の交番からすぐに駆けつけてくれるという。


「おっさん!ケーサツを呼んだからな、もう逃げようったって逆に逃がしはしないぜ!アンタも万事休すだな!」


 それでも!

 これほどの危機であるというのに。

 全裸のおっさんは便器の上で、微かに震えているように見えるばかりで…


「寒いのか、寒いんだろっ!」


 …何にも言わねえ…一体!

 その時僕は確信した。


「…狂人……」


 僕とおっさんは視線を合わせた!

 おっさんのまなこは真っ白で不気味だった!

 狂人が迷い込んで、不運にも僕のユニットバスへ…

 ジリジリ…ジリジリ…僕とおっさんの息も詰まるような睨み合いが続いた…殺意すら漂う…危険な…物言わぬ戦いが…沈黙の世界を…増々膨らませていく……そして。


「!」


 音…

 僕は…

 何がなんだか…わからなくなる……


 リンリンリンリンリン…

 …秋…

 …少女…

 …永遠の…記憶の…情景…


 リンリンリンリンリンリンリンリンリンリン……


 全裸で便器に蹲った狂人のおっさんが…

 …僕の季節を…

 …永遠の記憶の恋人を…

 …唯一の場所を…世界を…人生の…

 …たったひとつの宝物を……


 こともなげに中年の裸体が…加齢臭が…

 …僕の大切なモノへとズケズケと侵入して…破壊つくされていく……ああ……!!!!



 ガチャ!


「ケーサツで~す…何だアンタは!…なんだ鈴虫か……」 

あ~りんりんって感じですかね?

シェフはれに推しですがあ~りんも好きです。

さあ、本日24時までに焼きあがるでしょうか?

勝負のピザ屋さんです!

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