B・S 『カニみそ!』(ベタ・シリアスギャグ)
さて、一ヶ月ぶりのピザ。
一切れ目はベタ・シリアスギャグでございます。
「お~い皆んな気をつけろ!車内にカニみそがいるぞ!!」
マサシク神出鬼没!
見た目はまんまカニみそ・・・それがどこかへ潜んでいるのだ。
誤って踏んでしまえば刺激に反応してぶくぶくぶくぶく瞬く間にカラダを増殖させていく謎の怪奇生物!
コンビニに突如現れたカニみそを踏んづけてしまった悲劇は今や語り草、ソイツはみるみる間に増殖していった、気づいた頃にはもう遅い・・・見渡す限りカニみその沼!コンビニいっぱいに広がっておりぬたぬたと足を取られた客はあっけなく転倒して灰色のなまぐさい吐瀉物に溺れてしまった・・・じめじめと湿気を嗜好するカニみその習性で穴という穴を見つければ、好んでそこへと逃げ隠れ、当然転倒した哀れなコンビニ客の口腔めがけて侵入していった・・・・
その惨劇!
死者が出たのは言うまでもないが被害はそれに留まらず、カニみその収束を待ち元通りに復元されたコンビニは、しかし世
にも強烈な生臭さを永遠に刻みつけ、ビルごと丸ごと使い物にはならなかったという!
「お~い!食堂車にいるぞ!」
「何言ってんだ・・・グリーン車だぞ!」
断っておくがカニみそは一匹である、しかしその度肝を抜く俊敏性は神がかっており、加えて忙しない行動パターンを持つ、ひと部屋に留まっている時間がホンの僅かなためにその数は限りないものと思われるのだった。
「きゃあ!カニみそ踏んじゃったわ!」
「何だって」
「うああっ!!」
「おい!カニみそは増殖したか!」
「犬死になんてゴメンだーー!ああああーーーー!!」
ガタン・・・うぎゃっ!!!
カニみそに溺れるよりも言うまでもなく新幹線から飛び落ちる衝撃の方が遥かにマシな死に様である・・・
そして生身の体で特急から飛び降りて生きている人間がいるとするならば、すちーんぶ・せーがるくらいのものだろう・・・
「ごめ~んショートケーキ!!」
「こんな一大事に変なもん踏んでんじゃねえ!!」
車内は圧倒的にカオスだった・・・
「おい!停電だ!!」
電気回路へとカニみそが侵入して その生臭い液で機械をショートさせてしまったらしい。
ガタ~ン、シュ~・・・
緊急停止!!
締め切られた窓・・・
停車した電車において、カニみそは脱出する可能性が非常に高い、よって窓は締め切られた。
ちなみにこの過酷なシチュエーションは、法律に則ったもの。先日自宅の洗面所にて突如急死した、カニみそに殺された大臣により法案は発案された。
その法案はカニみそ対策のために事細かな条件を様々なシチュエーションを想定して厳しく規定したものだった。
今回の場合、電車に突如現れたカニみそが侵入したせいで電車の照明が落ちてしまった結果電車を緊急停止せざるを得なかった場合車内の窓を隈なく締め切らねばならない・・・とここまで指定しているものだったが、電車業界にいる者たちにとってはもはや常識。
それどころか、締め忘れられていた客室の小窓を乗客の保育園児が締めたほどである。
法案の効力はもはや絶対的であり、それを破った者には重い罪を課せられた。
目には目をという言葉があるが、これはそれより遥かに大きな罰であった・・・
何故ならカニみそにより齎される死を防止するための、度を過ぎた執拗なまでの法律。
その刑こそが究極の見せしめであって、食用である元来のカニみそをこれでもかと大量に食道から流し込まれて窒息を待たねばならぬという恐怖の無残な死刑を課せられるのだ・・・
増殖し始めたらどこまで膨れ上がるのかは時の運。
例えば独身男の住んでいる貧乏アパートの四畳半の一室で現れたカニみそを、その男が不運にも踏んでしまった場合に、たった一人の生命の被害で済んでしまうのであればラッキーなくらいで、ソレが止めど無くぶくぶくと増殖した結果、そのとある街全体まで膨れ上がってしまい、甚大な人命ともども街全体を破滅させてしまったという前例もある。
下手をすると人命は地球より重いというかつての名言は、一人の命を救えなかったがために地球規模にまで影響を及ぼしてしまいかねないという、驚異なるカニみその襲来を予言していたのかもしれない・・・
よってカニみそという生命や世界の秩序を左右する破壊兵器の『取説』として君臨するカニみそ法は、そのマニアックかつ膨大な内容であるにもかかわらず、人々には根深く浸透していた。
もはや教育現場において九九に先立つものであった。
よって九九はとうとう義務教育から外されてしまい、『カニみそ数え歌』のほうが義務化された・・・なんとも狂った世の中だ。
ちなみに法律の立役者たる元大臣は因果応報というべきか、自宅の洗面所に突如侵入したカニみそに殺られたのだ。
歯磨きをしようとチューブを絞った時彼は、密かにチューブへと侵入していたカニみそを歯ブラシの毛に絞ってしまい、のみならずカニみそで歯を磨いた結果招かれていった無残な死に様であった。
不運にも締め切られた車内・・・
そこはもう墓場であった。
時は熱帯夜・・・
暑さ・・・湿気・・・汗・・・脱水症状・・・・・・
しかし皆が皆窓を開けようとするものはいない。
その上熱量だけではない・・・
カニみその放つその強烈な悪臭が充満していく・・・
「うげーークセーーー」
「死ぬーーー!」
「開けてくれー!死臭かよーー!!」
地獄だ。これはまるで反転したゾンビ映画ではないか?
その体積を増殖させていくという一匹のモンスターを、密室の外側からではなくて、その内側より外へと出させないようにドアを締め切って味わいゆく恐怖!
逆ゾンビ状態!!
カニみその篭る部屋は、腐乱死体の置き去りにされた、死体現場の様に臭かった。
人々が・・・やがてバタバタと死んでいった。
そして・・・
一人の青年が立ち上がる。
「おかしいと思うぞ!」
正義感。
彼の暴走はもう止められない。
「開けろ!」
薄明かりのなか皆は青年を見る。部屋にはロウソクが焚かれていた。
「開け放て!そうしないと・・・」
「そんなことをしたら、私達全員が法律で裁かれてしまう!」
「しかし・・・!」
青年は大声で叫んでいた!
「死んでいくのを見過ごしには出来ないんだよ!!発狂して俺が開け放ったと証言すればいい、密室においてカニみそのニオイに充満し、それにより発狂したものが窓を開け放った場合、カニみそ法第103条第3項第4号、罪は開け放ったその一名にのみ課せられる、これを使えばいいんだ!!」
彼の言葉に皆は圧されて静まり帰っていた。
反論するものは誰ひとりいなかった・・・
内心、皆の心は彼に開け放って欲しかったのだ。
他人の命などもはや関係なかった、この激臭を吸い続ける地獄に耐え兼ねていたからだ。
「もういい!開けちまうぞ・・・」
ガラガラガラガラ・・・
その瞬間、車内に生き残る皆の脳内には、車外の野道の暗闇へと霧散して風に乗って消えていく、カニみそのニオイの粒子のひと粒ひと粒が、見えていたに違いない・・・
それは、或いは、カニみそを吸いすぎた故に起こされた幻覚だったのかもしれない。
青年が開け放った窓からは、突如地球全体へと一挙に広がっていたカニみそが流入して・・・
車内の乗客全員は・・・ことごとく溺れ死んでいた。
地球は壊滅していた・・・・・・
この報告は事実である。この報告を読んでいるあなたの部屋にカニみそはいつともなく現れているかも知れない・・・
道端でうっかり踏んだイヌの糞みたいな悲劇にならない事を願うしかないだろう。
ちなみにこの報告は、車内に残された監視カメラの記録用のマイクロチップにより復元されたものであり、フィクションは一切含まれない。
(この物語はフィクションです。事実無根であります。)