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B・S 『腕利きスナイパー/退治の気後』(ベタ・シリアスギャグ)

シェフの特製ピザが焼きあがりました。

記念すべき1枚目の1切れ目のトッピングは、ベタシリアスギャグでございます。

さて、では、熱いうちに召し上がれ。

 スコープが切り取った世界の映像は特別で、そんな僅か数秒間だけが澄み切っているのだった……

 どんよりとしている。恐らく、同業者のすべてのなかで、私くらいぼんやりと弛んだ意識の日常を渡っているにんげんはいないはずである。


 私はスナイパーだ。一等腕利きの……

 腕利きである私がなぜこんなにも澱んだ毎日のもと、緊迫と危険に晒された任務の遂行の連続という毎日を落ち度なく過ごすことができているのだろう……否、それこそ、私が、腕利きであるからこそ、なのであろう。つまり、いついかなる悪条件コンディションにあろうとも、私は失敗しないのだから……

 皮肉な逆説が私をあざ笑っている、粘り気が多くまとわり着いて離れぬ沼のようなものに……しかしパッとしない鬱蒼な気分を一瞬の矜持が一掃させ、しかしまた、日常からの暴露と糾弾は私の意識をすぐに引き戻してしまう。

 つまらない日常が続いてゆくばかりだ……


 さて、本日もまた……澄明な刹那の……御出座おでましという訳か……ジャンキーの針、のような数瞬…………

 …………ん? イテテテ。スコープを覗きながら無意識に右の目を擦ろうとスコープに指をぶつけてしまう、小指を角にぶつけたような痛みがずうんと重く走ってしまった。

 そんなことよりも。……これは不意打ちだった……痛みは案外しつこかった、しかしそれ以上に……どうしても気になるほうが先に来てしまい集中力は著しく削がれている……気にかかる不意打ちと……びりびりと痺れはじめた鈍痛の感覚とで……狙撃どころではなくなってしまう……一等腕利きの私ならざる情態に……水で薄められたような怒りが胸のあたりに溶けだしてもやもや渦巻いているようで……。つまり、今回の暗殺の相手のすぐ隣りに、どすんと厳めしい巨大な体躯をはびこらせている……あの愚鈍な化け物が……屈辱は私の体じゅうを経めぐって……イライラの渦が……ズキズキと針のむしろのような厭らしさを、結晶となって血流に運ばれては、神経に届いてイチイチ私を不快にさせているのだ……。スコープ越しの景色を歪ませて私はいま酩酊している……なぜ……お前がここに出現しているのか……? 隣にいる狙撃相手とお前は関係を持つのか? それとも無関係なのか……? どっちだ……どっちなんだ…………


 バキュウウウウンン。


 頭を抑えて奴は倒れこむ……数名のSPが駆けこんで銃を構えあちこちに忙しなく振りかぶって狙いを定めようとしている……コッチに目線が!

 ……マ、不味マズイ……気づいたに違いない……コチラを指差しているような気がする……逃げよう…………


 バスに乗り込んで……アレはなんだと考える……隣に居た、妖怪みたいなヤツ。

 今日私は獲物を逃した……あれ以来……2度目だった。

 あの時と同じことを意味していた、つまり、唯一狙撃できなかった相手がソイツで、しかも本日また、ソイツのせいで……きっとソイツのせいで……私はふたたび、失敗をしたのだ……同じ理由で。過去と今、成長のなかった事実から迫られ、ぶつけどころのない憤りを抱えているしかなくて。


 あ。


 あの時、私は驚いてしまったのだ。あまりにもショッキングなビジュアルのせいで……そして今回の不意打ち。何故だ? という思いが強烈すぎて、まるで双子のように、ショッキングな因縁として……同じ驚きが……研ぎ澄まされるべき私の領内へと、邪魔者となって無粋に割り込むので、怪物に対して私は同じ過ちを犯してしまった……という……


 本能的に指が下車のランプを点灯させていた……こんな所で……

 しかし、任務や命の危険より先に追うべき獲物が……私は座席からヤツを発見していた、ヤツはもう街に溶け込んで消えていた。逃してしまった…………



 ふうっ。任務の失敗!

 ネクタイを解く私……

 

 ドン!


 誰だ、ドアを叩く音!

 のぞき窓から覗けば……


 はっ。


 ガチャリ!

 鍵を締め忘れていたというのか! 否、そんなはずは……


 ヤツが現れた……近づいてくる、握られたネクタイ。

 近眼なのか? 咄嗟に、握られたネクタイでその現れた化け物のデッカいくび周りを締め上げようと考えていたその時……一瞬の気の迷いが……この、ネクタイを汚したくない、という。これは死んだ……殺されて死んだ妹の形見……私に気づいた化物は、ズルズル気色の悪いナメクジみたいな足取りで巨大な下半身を揺らして、だが、反して素早い速度で……逃げてしまっていた。

 もうとっくにヤツはいなくなっていた。



 次の依頼。ソイツ……化け物からの。

 殺したい……しかし大勢のガードマンがヤツを取り囲んでいる。

 今回の狙撃相手は、ソイツ……妹を殺した、2度も失敗の屈辱を浴びせられた相手(2度目は失敗の直接的契機であった)その妖怪みたいな化け物の、そのライバル。


 スコープを覗く……胸にこだまする怒りがスウッと消える、丸く縁どられた世界はすべてクリアーだった。いつものように……シュン……シュン……シュン……な、なぜだ……

 …………1……2……3……当たらない、腕利きであるはずの私の銃弾が、掠りもしないなんて……しかし……暗殺のプロとしての矜持……今度こそ、一気に! 淀みかけていたの世界がギュ~とひとつに絞られて、澄明へと還っていた。

 射殺映像イメージが脳内に宿る……確信いける

 覚醒と呼ぶべきか? 狙撃が成功する場合、自ずと脳内に宿る常があった。成功の、先行映像……凝縮された歓喜、予知夢だった……その……白昼夢を破ったのは…………!

 殺しかけて、幻覚を拭って……寸前でトリガーは引かれずに済んでいた……シュン……シュン……シュン……自分を目がけて飛んできた弾丸をぎりぎりで避ける……狙撃相手……今回の依頼主である妖怪みたいな怪物の、そのライバルは私自身だった。


 逃亡。逃げるしかない……街の人間がことごとく化け物だった!


 い……いもう……と……


 のっそのっそ……緩慢な動作、巨大なナメクジみたいなヤツが……その大群が……しかし緩慢な動作に反して、移動距離はワンモーションでもの凄い距離を稼いで…………なんども……? なんども殺されていた? …………妹。街にいる大量の……化け物の全員が……妹を殺した相手…………妹は……何回も、何回も……あの化け物たちに殺されて……私は……私は…………ヤツら全員をすべて逃した、一度も成功していないスナイパー……


 弾!

 屋上を見あげる。自分がいる! 自分が、私を見下ろしている。

 また弾丸が……別の屋上にまたひとつ、自分が。

 あの自分が私ではなくて……私は……化け物だった…………逃げまわる……やはり意想外の素早さを、ワンモーションで…………私は妹を殺した化け物で、かつて私であった複数の自分達から狙われている身……


 街を汚す化け物の体液ペンキ、即座に渇けば、衝撃的ショッキング淡紅色ピンク

 街じゅうたる街じゅうを……凄まじい自己主張マーキングで塗りたくっていく。

 うようよと……ナメクジみたいな巨大な腹で、ワンモーションで相当な距離を稼ぎながら……複数の屋上から、複数のかつての自分に……追われている……私は化け物…………


 …………羊水?

 水中で眼を開いているとでもいうのか…………胎児の記憶が……呼び覚まされたとでもいうのか…………二つの胎児…………私は生き残り…………妹は死に…………養分のすべては、私が…………水子の妹…………臍の緒が胎児だった妹の首を締めつける…………私だけが生き残り……臍の緒が……切られた…………

退治の気後れ=胎児の記憶

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