表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/21

五話、夜に女子二人が男子二人に…

 「ということで、今回は演習のレベルを上げてみたわけだが。」

艦橋で主要幹部を見渡しながら、反応を探る大滝。

「艦橋は大変なことになってたな、副長。」

「は、お恥ずかしながら。」

見れば何があったのか、顔を腫らしている和田。

「…プッ」

思わず吹いた橋本。ギロリと睨みつける和田だが、三竹も笑いをこらえている表情だ。

「CICはどうだ?砲雷長。」

「は、はい、えーとですね…。」

残念、笑いをこらえるので精一杯だ。

「ああ、私が代わりに。」

これは無理だと判断した三竹が声を上げる。

「処理が追いつかない部分が多々あったかと。対水上戦においては対空迎撃で手一杯になっておりました。」

「そうか。対潜戦闘の方は?」

「統合対潜戦闘装置を使いきれていないようです。あれがフルに使えれば、改善の余地があると思われますが…。」

六九式統合対潜戦闘装置とは、対潜用のいわばイージスシステムである。千早が文句垂れている通り、まだまだ問題が山積しているようだが…。

「ふむ…。」

艦長椅子で腕組みをする大滝。

「まあ、今回の任務は潜水艦相手ではありませんから…。水上目標の処理能力向上に絞ってみてはいかがでしょう。」

「長い目で見る必要もあるからなぁ…。それがいいかもしれん。」

小倉の意見具申に、一応の肯定を見せる大滝。

「今回の演習レベルの上昇は、不明艦を意識したものですよ…ね?」

橋本の質問に、首をゆっくりと縦に振る大滝。

「つまり、艦長は本艦が不明艦と戦闘をする可能性があるとお考えですか。」

「“仮に”どこかの非政府武装勢力の艦だとしたら、当然のごとく無力化の命令が飛んでくるだろうしな。」

とはいっても、今回は多数目標の同時対処と目的がズレてしまったな。

「フィリピンまでは、あと6日ある。少しづつ演習を厳しくしていくとしよう。」

「各員、指導を徹底するように。」

和田が締めくくり、首脳幹部たちが頷いた。


 「…それで、ゆっくりと後ろを振り向くと、」

石田が無表情かつ抑揚のない声で言葉を並べる。

「…また血まみれの女の人っ!」

「きゃあああ~!」

「うわああああ!」

急に上がった石田の口調に、悲鳴を上げる山本&橋本。

 夜、千早たちの部屋。部下だの上官だの、そんな面倒な関係はどこへやらのこの部屋で、誰が始めたのか怪談が語られていた。

「そんなに怖かった?」

千早がキョトンとした目で山本を見る。

「ええぇ、怖いですよ。」

橋本がウンウンと頷く。やはりエリートでも一般人並に怪談は怖いらしい。

「私もそこまで怖いとは思わないんですけどね。…あ、西園寺さん。」

時間ですね、行きましょうか。と石田がケロッと言う。

「うん、夜間見張り行ってきまーす。」

手を取り合って震えている山本と橋本を尻目に、部屋を出て行く千早と石田。

「お、おい待て。ななな、何か楽しい話はないのか?」

「そう言われましても…。遅れちゃうんで、失礼します。」

「や、ちょっ、怖いか…」

“パタン”

二等水兵と少佐、恐ろしいほどかけ離れた階級差だが、石田は冷静に橋本を振り切った。

 「やっぱり、西園寺さんは強いですね。」

「そお?ああいう話が怖いとは思ったことはないケド。」

赤い艦内照明の下、廊下を歩く二人。小さな千早と大きな石田のコンビは姉妹にも見える。

 “ガチャ”

扉を開け、艦外へと出る。砲身のないレールガンが鎮座する前甲板だ。

「ご苦労様。交替よ。」

「一曹、お疲れ様です。」

先に出ていたクルーを艦内に入れ、右舷を望む千早。

「…。」

夜間の見張りなど正直ヒマである。じいっと水平線を見つめているしかない。

「は~あぁ…。あ、そうだ。」

ちょっと面白いことを考えた。たしか武と酒田は、艦尾の見張りだったはず。

「琴音ちゃ~ん、ちょっといーい?」

千早は左舷側の琴音を呼んだ。


 同時刻、艦尾のヘリ甲板。

「…月。」

「きつね。」

「…ね、ね。…ネコ。」

武と酒田。こちらはしりとりの真っ最中だ。よほどヒマと見える。

「コルセット。」

「…トマホーク。」

「それさっき言っただろ。」

「え、うそ。じゃあ…、トレンチ。」

えーと…。チで止まる武。

“コンコン”

んっ?と音の方向へと視線を移す武。

「私よ私。」

「なんだ千早か。何か用?」

「ちょっと言わなきゃならないことがあって。」

改まっている千早なんて珍しい。思わず、

「…どんな用件?」

と乗っかってしまった。

「…あのね、実はさっき見たの。」

「何を?」

「…女の人を。」

「は?」

なんだなんだ?と酒田が寄ってきた。

「誰だよ、それ?」

「わからないの。…もしかしたらね、」

「もしかしたら?」

酒田が訊き返す。

「…この艦に憑いている幽霊かも知れない。」

「え。」

ホントかよぉ~、と笑い飛ばす酒田。一方、武は

「ないない。ありえないから。」

棒読みで視線をズラしている。明らかに怖がっているようだ。

「…でも見たんだよ。」

「いつだよ?」

「…今。そこに。」

…二人は後ろを振り返った。

 白い着物?に長い髪。明らかにこれは…

「うああああああああ!?」

「○×△□@#$%¥~!?」

悲鳴を上げる酒田。

「…プッ。」

アハハハハッとついに笑いが堪えきれなくなってしまった千早。

「こんなもので上手くいくとは…。」

「へ?へ?」

混乱を極めている酒田の前で、幽霊?が着物を脱いだ。

「え?…あっ、石田二水か。」

「どうも今晩は。上官がこれでは、部下はついてきませんよ?」

ウフフッと笑みを浮かべる石田。冷静に指摘され、面目丸つぶれの酒田。

「おーい、何かあったのかぁ?」

悲鳴が聞こえたらしく、クルー数人がやってきた。

「何でもなーい!誤認よ誤認ー!」

走ってくるクルーを追い返し、大事になるのを防いだ。

「し、しかし…、この暗さだとキクな…。」

「酒田 二曹、そこで腰を抜かしている暇があったら手伝ってくださいよ。」

「手伝う?これをか!?」

「そんなわけないでしょう。」

千早があわてて担架を持ってきた。石田の指す方向へと目を向ける。

「あ…。」

見れば武がカンペキに伸びていた。

「こいつ、こんなに弱かったっけ?」

「武はね、けっこう怖がりなの。ここまでとは思わなかったけど。」

ズリズリと担架に引きづり上げると、

「ハイよろしく。」

「…俺?」

「文句言わない。上官命令よ。」

「普通は担架って二人で運ぶものだけどなぁ…。」

しかも脅かしたのそっちなのに…。なんか色々と矛盾しているような気もするが。

「あーもー担架いらん!」

結局、担いで医務室まで武を運んでいく酒田。

「…さて、戻りましょうか。」

「でもよく成功したね~。」

「真田 一曹、大丈夫なんですか?」

大丈夫よ、あれくらいなら。と、信頼性に欠ける笑顔を見せる千早だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ