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三話、未確認を確かめに

 テログループの大規模な行動により、世界政府直轄の自治艦隊、通称「影の番人」である潜水艦が奪取されてしまったことにより、世界は混沌としつつあった。

 世界政府が“力”を奪われたことにより、各地でテログループの行動や民族紛争が活発化。本来それを止めるはずの世界政府も、その機能を失っていた…。

 一方で、日本は島国という地理条件などより混乱を免れ、東アジアの紛争鎮静化のために何かと理由をつけては艦隊を各地に派遣していた。



 “ガチャ”

「ふあ~あ…、あ。」

 橋本が士官室のドアを開けると、大滝の大あくびを拝むことになった。

「艦長。」

「あ、すまん。…ゴホン。」

 和田のお咎めに一つ咳払いをし、空気を改める大滝。

 大滝と和田をはじめ、小倉 航海長や三竹 船務長といった主要幹部が顔を揃えていた。他の士官と橋本を加え、久しく「青葉」の頭脳が集結した状態だ。

「長官から、今回の任務について詳細な連絡があった。…副長。」

「は。…今回の任務は、東南アジアで度々目撃されるようになった不明艦の調査だ。」

 目撃場所はフィリピンの東沖が主で、姿の撮影はまだ不鮮明なもののみだ…、と和田がいろいろと並べる。


 発端は一ヶ月前のことだ。

 横須賀、「青葉」艦長室。

“ガサゴソ”

「これは…、違うな。…これも違う。」

 大滝が部屋中を引っ掻き回していた。机の上には書類の山。

“コンコン”

「今立て込んでる。後にしてくれー。」

 ドアのノックに、適当に返す大滝。こっちは忙しいのだよ。

“ガチャ”

 大滝の返事を無視するかのように、ドアが開く音。

「君にも立て込む時があったのかね?」

 ん?と、顔を上げてドアの方へと振り向く大滝。

「あっ、こりゃ、長官殿!」

 長谷川大将、連合艦隊司令長官とわかるや否や、直立不動で敬礼する大滝。

「…まあたしかに立て込んどるな。」

 散らかった艦長室を見渡し、一言漏らす長谷川。

「あ、はい…、まあ…。」

 まさか、書類に押す印鑑をなくしましたとは言えない。

「少し、話せるかね?暇そうだから任務を持ってきた。」

「任務ですか。ああ、その辺にでもお座りになってください。」

 とりあえず、応接セットの椅子に向かい合う二人。

「実は、最近になって不明艦が目撃されるようになった。場所は主に東南アジアだが、正直言って敵かどうかも定かではない。」

「新鋭艦ですかな?」

「と、思われるのだが…。早い話、その艦を調査してもらいたい。」

 テログループ等いわゆる「非政府武装勢力」は、世界各国が所有していた艦艇を中古品として手に入れている。

「ところが、この不明艦はわからないのだよ。元々どこの艦だったのかな。」

「この前のコピー艦みたいなヤツじゃあないんですかね?」

 青葉コピー艦の話題を出す大滝。

「可能性はあるな。ただ問題は出所ではない。」

「と、言いますと?」

 長谷川の顔が曇る。言いにくいことなのだろうか。

「潮92号が捉えたのだが、ソナー記録から53ノットの速力と推測されたのだ。」

「53ノット?放たれた魚雷の雷速と間違えたのでは?」

「確認したらしい。結果は変わらず、52.926ノットという正確な数字まで出た。機器の故障も考えたが、複数回のシステムチェックでエラーは出なかったらしい。」

「もし事実だとしたら、世界最速の艦ですな。ハハハ。」

「笑い事で済めばそれでいい。とにかく、この不明艦の調査をお願いできるか?」

 こういった未確定情報の調査は、通常単独でやることになっている。

(艦隊から解放されるのはありがたいな…。適当に理由をつけて、南の島へバカンスでも行くかぁ。)

「わかりました、謹んでお受けいたしましょう。」

「おお、引き受けてくれるか。ありがたい。」

 すでに心はバカンス状態の大滝。ニヤニヤ顔になっているが、長谷川は気に留めなかった。


 時は戻って、ふたたび「青葉」士官室。

 「…というわけだ。この不明艦の調査の為、本艦は明日をもって第8艦隊へと所属が変更になる。」

「変更…。そこまでの必要性があるというわけですか?」

 小倉が尋ねる。

「基本的に、調査は単艦で行うからな。」

「しかも、今回の任務は特務たる理由が存在する。」

 大滝が、和田を遮って続ける。

「この不明艦だが、想像を遥かに超えたスペックを有しているらしい。」

「?」

 小倉の頭には疑問符が浮かび上がった。

「目撃情報によれば、最高速力はさらに上方修正されて60ノット超。レーザーらしき兵器も搭載しているらしい。」

「未確認だが、ソナーの探知が追いつかないほどの雷速を持つ対艦用魚雷も撃っているらしい。」

「…。」

 驚き、というよりも納得がいかない士官たち。

「まあ正直、今回ばかりは情報の正確さに疑問を投げかけざるを得ないがな。」

「しかし仮に正確な情報だとしたら、かなりの脅威になりますね。」

 橋本が言う。が、それに和田が首を振った。

「いや、そもそも不明艦がテログループや反政府組織の指揮下にあるかどうかも定かではないのだ。」

「どういうことです?」

「何しろ未確認情報ばかりでな。テログループが乗る艦艇が攻撃を受け沈没、というのもあった。」

 インド海軍の駆逐艦も攻撃を受けたとか受けていないとか…。攻撃を受けて帰ってきた艦がいないため、情報が出てこないのだと嘆く和田。

「それを暴くのが我々の任務だ。出港は予定通り、明日の1200。各員遅れなきように。」

「はっ!」

 大滝の締めの言葉に、士官たちの声が続いた。

「よし、それでは解散。」

 こうして、「青葉」士官たちの久々の顔合わせが完了した。


 「青葉」第20兵員室。

 千早たちの部屋から、そう遠くないこの部屋が武の寝床だ。

“カチャ”

「あー。とんだ災難だった。」

 前触れなく押し倒され、頭を擦る武。

「寝ぼけてトイレの壁にでも頭ぶつけたか?」

「なんだ松平、まだ起きてたのか。」

 松平、松平まつだいら 喜代志きよし 二曹が声をかけてきた。まあトイレ行ったのに頭を擦っていれば、誰もが何かあったと思うだろう。

「バターン、て派手な音がしたからな。」

「あー…。」

 今頃、千早は部屋で橋本さんに絞られているんだろうな。

「千早と石田 二水に押し倒されてな。何があったんだか…。」

「ほーお…。美女二人にか。」

「はあ?」

 暗い電灯の下でもわかる、松平のニヤけ顔。

「知らないのか?水兵たちの中じゃあ、ほとんどいない女性クルーは取り合いなんだぞ?」

「単に幼馴染なだけだろう。…石田 二水は違うけど。」

「本当に鈍いヤツだな。」

「鈍くて悪かったな。」

 ベッドに体を押し込む武。

「真田はないのか?恋愛経験とか。」

「ねーよ。」

「西園寺は違うのか?」

「あれはただの幼馴染。」

「いつもベタベタじゃないか。」

「あれは向こうからくっついてくるんだよ。」

「まさか西園寺が…。羨ましいヤツだな、このこの~。」

「えーい、少し黙れ!」

 ムキになるなよ、という松平の言葉に我に帰る武。

「…はぁ。」

「恋愛経験ないやつは大変だな。恋してもされても気づかないんだもんな。」

「お前はわかるのかよ。」

「そりゃあもう。3回玉砕した俺には染み付いてるからな。」

「初めて聞いたわ、そんな話。」

 まあ恋愛相談なら俺に任せろ。玉砕後のケアまでしてやるぞと適当なことを並べる松平。

「…千早、か。」

 幼馴染、という関係なだけで一緒にいるが、恋愛対象としてみたことはなかった。

「…。」

 そういえば、あいつ高3の時に振られてるんだよな。思い出す数年前の記憶。

「初恋ってどんな感じなのかな。」

 と、口に出して恥ずかしくなってしまった。俺は一体何を考えてるんだ。

 布団を被り、目を閉じる武。

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