二話、御土産…御土産?
「青葉」CIC
「真田武一等海曹、ただいま帰艦しました!」
「西園寺千早一等海曹、ただいま帰艦しました!」
敬礼をする武に続いて千早も敬礼する。
「うむ。帰艦を確認した。」
砲雷長である橋本 少佐が二人に返礼をした。
「ところで千早…。」
「はい。」
僅かながらの重い口調の橋本に、今日は何故か敏感に感じ取る千早。
「今回は、無事に帰艦出来たが…」
橋本は眼光を鋭くして千早を見る。
「大事なクルー二人を失うわけにはいかんから、運転は武に任せろ。以上だ。」
「は、はい!以後、気を付けます!!」
千早は、今までで一番綺麗な敬礼をした。
第21兵員室は、千早が寝起きしている部屋だ。
「ただいま~。」
千早が内務室に入る。
「センパイ!お疲れ様です!」
「西園寺さん、お疲れ様です。」
同じ部屋に寝起きする女性水兵2名が、千早に敬礼をする。
「お疲れ~。」
千早は、軽く返してピョンとベットへダイブした。
〝ゴッ☆〟
「フニャ!?」
…壁に頭をぶつけて。
「イテテテテテ…。」
千早、頭を擦る。
「…可愛い!」
何をそう笑顔でいられるんだ、この二等水兵は…。
「大丈夫ですか?。」
「うん。大丈夫…。」
千早は、頭を擦りながらムクリッと起き上がる。
「センパイ、何かあったのですか?ちょっと様子が違いますけど。」
陽気に話しかけてくるのは、同室の女性クルーである山本春奈。華奢な身体で活発。ケガを心配するレベルだ。
「ううん。何でもないよ。」
道交法違反して罰金払ったとは、かっこ悪くて言えない。話し相手が二等水兵という部下であればなおさらだった。
「まあ、何もなければそれでよいですが。」
もう一人の女性クルーが、落ち着いた口調で言った。
「西園寺さんが焦っているのを見ると、何があったか知りたくなるわけですよ。」
彼女は石田琴音。山本と同期で二等水兵だが、常日頃の落ち着きからして、とても19歳には思えない。
「ちょっとゴタゴタがあっただけ。心配してくれるのはありがたいけど。」
「そうでしたか。てっきり、ハラハラドキドキの真田 一曹の運転で疲れているのかと思いました。」
どうやら、武は走り屋が趣味だと広く伝わっているようだ。まあ、出所は様々だが…。
「ま、まあね~。」
千早は、あまり触れまいとそのまま流す。
「ところで西園寺さん、聞きましたか?明日の出港理由。」
「んー?なんか特殊なの?」
ベッドの上で、ゴロゴロしながら答える千早。
「なんでも特務らしくって、本艦は第1艦隊から外れるそうです。」
「ふーん。外れてどうなるの?」
「そこまでは…。でも単独行動を前提ということは、よほどの任務なんでしょうね。」
単独任務、か。別に不安は覚えなかった。ずっと単艦で行動していたようなものだったし。
「東南アジアの方って、今ぶっそうなんでしょ?そこに飛ばされたりしたら…。」
山本の東南アジアのイメージは、怖いイメージが強いようだ。
「まあ晴奈みたいなのが行ったら危ないかもね。」
石田は、自分が持ち込んだライフル雑誌を読みながら山本を言葉でバッサリと斬る。
「琴音ちゃん、その言い方はないよお~。」
山本は、石田の言葉に拗ねる。
“コンコン”
「入るぞ。」
カチャッとドアが開いた。
「あ、橋本少佐。どうされましたか?」
「西園寺はいるか?西園寺一曹。」
「ふえ?」
間の抜けた声で、ベッドから起き上がる千早。
“ゴン☆”
「ぐぇっ!いったぁ~…。」
本日二回目の頭部強打。はぁ、とため息をつく橋本と、笑いをこらえる山本。
「下士官は明日集まりがあるそうだ。場所はCPO室で時間は午前9時。…わかったか?」
「はーい…。いたた…。」
今日は、つくづく運がついてないと思いつつ頭を擦る千早。
「それから、明日の12時に本艦は出港する。準備を整えておけよ。」
「はいっ!」
「わかりました。」
「ほえーい。」
…誰がどの返事をしたかは一目瞭然であろう。
今のところ青葉の女性クルーは8人しかいないので、こうして最上階級者の橋本が連絡役をしているのだ。
「あとは、と。…そうだ、山本。」
「はいっ?」
「原田海曹長が呼んでいたぞ。CPO室にいると思うが…。」
「何かあったかなぁ?すぐ行ってきます。」
『副長より士官全員、士官室に集合せよ。明日の出港について、追加の伝達事項がある。』
和田の艦内放送が入って来た。
「またか。じゃあ私は行くから、山本はちゃんと原田海曹長のところへと行くように。」
「はいです。」
返事を咎めることなく、廊下を走っていく橋本。
「では、私も行きますね。」
山本も原田 海曹長の所へと走っていく。
兵員室には、千早と石田だけとなった。
「あ、そういえば御土産忘れてた。」
千早は、キャリーバックからゴソゴソと中を探る。
「あったあった!はい、これ。」
「ありがとうござ…います?」
石田は一瞬言葉を失った。何故なら…
「いや~琴音ちゃんなら似合うかな~って。」
「こ、これは…コスプレ衣装、という奴ですか?」
どう見てもコスプレ衣装です。本当にありが(以下略
「あと、これ。」
千早は、やや引き気味の石田にある本を渡す。
「あ、ありがとうございます。」
石田は一瞬だが少し笑顔になった。渡された本が、中々手に入らないライフル図鑑であったからだ。
「あれ?もしかして、それが一番気に入ったかな?」
千早は、石田の笑顔を見逃さなかった。
「さ、西園寺 一曹には関係ないことですよ。」
石田は、千早にそっぽを向いてしまう。
「まあ、それは武からの御土産なんだけどねー。」
「え?そうなんですか?」
うしろ姿からでも喜びが隠しきれていない石田を見ながら、、千早は兵員室を出た。
「スー…、スー…」
「ムニャムニャ…」
皆が寝静まる23時。
「…どうしよう。」
石田は、千早から貰ったコスプレ衣装を目の前にしていた。若干オタクが入っている千早が持って来たからには、凄く人気があるキャラの衣装であろう。
着る気にはならなかった。…出来心という不確定要素さえなければ。
「…ちょっとだけなら、いいかな?」
“ゴソゴソ”
石田は、少し紅くなりつつ着替えて衣装に身を包む。
「…やっぱり、恥ずかしい。」
鏡で衣装を着た自分の姿を見ていた石田は、顔から火が出るような赤面顔になっていた。
「メモ?」
石田は、衣装が入っていた袋の中にメモを見付ける。
「…ポーズを決めろ、と。」
ポーズを考えたのか、メモを置いた。
「キラッ☆」
ウィンクをして、右手を横にしたピースにして笑顔を作る。
“ピロリ~ン♪”
「…っ!」
電子音がなった瞬間、石田の表情が恐ろしく冷たくなる。
「…キラッ☆」
千早だ。千早はそう言って、カメラを持って逃走を図る。
本来なら、こういうことをする前に橋本とかが止めるのだが、絶賛爆睡中である。山本?可愛い寝顔で気持ちよさそうに…。
「待ってください。怒らないですから。」
と言われても、石田は明らかに無表情。絶対怒っているに決まっている。
「いえ、ご遠慮しときま~す…。」
千早は流石にヤバイと思い、ドアを開けて兵員室から逃げ出す…。
…と、眼前に武。
「え?千はy…」
「あ、t…」
“ゴツンッ☆”
武と千早が衝突。続いて石田も武に衝突し三つ巴状態に。
“バターン!”
武が下敷きになって、倒れ込む。
「ううっ…。千早と石田 二水?二人で何してんだよ?」
武は、頭ボサボサと掻いて千早と石田を見る。
「千早、お前…。」
「いやっ、えと…、これは私じゃなくて…。」
パニクって言い訳を頑張る千早。
「とりあえず、戻っとけ。副長にでもバレたらヤバイぞ。」
「う、うん。」
武はそう言って、千早を兵員室へと戻らせる。
「ところで、石田 二水。」
「はい。」
石田は武に呼び止められた。
「その格好、千早から貰った奴か?」
「はい。もったいないと思ったのでつい…。」
「そうか。似合っているぞ。」
「!?」
石田は、驚いて一瞬固まってしまった。
「まだ誰もいないから良いが、早く戻った方が良いぞ。」
武は、よろよろと立ち上がって自分の兵員室へと戻る。
後日、何故かろくにモテない男性兵士の間で、コスプレをした笑顔の石田のプロマイド写真が出回っていたそうな。
「西園寺一曹…、今度ばかりは二等水兵である私でも怒りますよ?(ゴゴゴ…)」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ…」