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一六話、我々は決して降伏しない

 「目標…?」

『そうです。我々最後の目標は、日本海軍の巡洋艦青葉です。』

 低めの声が艦橋へと流れた。

「我々…。連中は一体何者だ?」

「日本語ということは、日本人ですかね?」

 ざわつき始める艦橋。

「貴官の名を問う。」

 大滝が口を開いた。間が少し空く。

『…北島きたじま、とだけ申し上げましょう。』

 誰も聞いたことのない名だった。

『大滝 艦長。』

「…なんだ。」

『投降して下さい。』

 投降、の二文字。このようなことを要求してきた相手は初めてだった。

『ただちに全乗員を退艦させ、青葉から離れて下さい。我々の目標は青葉であり、乗員ではありません。』

「艦を捨てろというのか。」

『あなたが優秀な艦長であるならば、その熟練された乗員を失うことによるダメージが想像できるでしょう。』

「まるで本艦が負けるような言い方だな。」

『我が艦は、この世界のいかなる戦闘艦をも遥かに凌駕しております。負けることはありえません。』

 声のトーンが全く変わらない。それほど艦のポテンシャルに自信があるのか。

『5分だけ差し上げましょう。オーバー。』

 通信が切れる音がした。


 武と千早にも、その緊張感が嫌になるほど伝わってきた。

 青葉CICに下りた大滝。橋本から、先の戦闘分析から得られたデータの説明を受けている最中だった。

「不明艦は魚雷攻撃によって潜水艦を仕留めました。これが魚雷の軌跡です。」

「真っ直ぐじゃないか。無誘導なはずはないと思うが…。」

「驚くのは雷速です。終末速度は500ノットを越えていました。」

 もちろん、この時点で雷速500ノットに達する魚雷など存在しないはずだった。

「ふむ…。トップスピード80ノットで、500ノットの対潜魚雷、か。」

「おそらく、さらなるオーバースペックの兵装を持つと推測できます。…まともに撃ち合うのは不可能です。」

 まともに、と付け加えるのが橋本らしかった。完全不可能とは言いたくないのだろう。

「レールガンの有効射程が…」

「25キロです。確実性を考えるのであれば20キロ程度かと。」

「現在の相対距離は50キロか。…ハープーンは当たると思うかね?」

「そこまでは想像しかねます。全弾撃って、一発当たれば良い方であると考えるべきかと。」

 チャートテーブルの前で考える大滝。

「後は戦いながら修正していくしかないか。…通信長。」

 艦橋の通信長を呼ぶ大滝。

『はい、こちら通信長。』

「俺はCICで指揮を執る。回線を不明艦に繋げてくれ。」

『了解しました。』


 さて、こちらは不明艦のCIC。

 青葉をはじめとした現代艦艇と、それほど変わらぬ室内だ。薄暗い照明の下、いくつかのスクリーンが設けられている。

「ヤンネ 艦長、青葉より通信が入っております。」

 クルーの言葉に、首を縦に振る人物。北ヨーロッパ系のような顔立ちだ。

「キタジマ 副長、君が出てくれ。」

 英語で命令を下すヤンネ。傍にいた人物が受話器を取った。

「…北島です。大滝 艦長ですね?」

 日本語で応対する北島。こちらは明らかに日本人に見える。

『そうだ。先の降伏勧告について、本艦の決定を通達する。』

「素早い回頭、感謝します。…それで?」

 少々、不思議なCICの光景だ。ヨーロッパ系、北アメリカ系、中国系…。様々な顔立ちの人物がディスプレイと向かい合っていた。

『本艦は降伏しない。いかなる犠牲を払ってでも、本艦は決して降伏しない。』

 力強い大滝の台詞がCICに聞こえた。

「では我々と戦う、と。」

『青葉クルーの誰一人として、降伏を望む者はいないのだ。』

「そうですか。犠牲が増えるのは残念です。」

 受話器を置く北島。英語でヤンネに伝えた。

「降伏勧告は受け入れませんでした。」

「そうか。では、始めるか。」

 北島が戦闘用意を告げる。

「この世界で最強の艦か。その実力、見せてもらおう。」

 二ヤリと笑うヤンネ。目には自信が満ち溢れていた。


 「艦長!」

 クルーのいつもと違う声に、大滝が振り返る。

「リンクが…、次々切れていきます…!」

 大滝と橋本が見たときには、すでに交信できる僚艦はいなくなっていた。

「どういうことだ?妨害電波か!?」

「…!グアム島がレーダーから消えました!現在座標、特定不可能!」

『CICへ艦橋!霧のようなものが発生!視界不良!』

 これも不明艦の仕業なのだろうか…?

「不明艦、増速します!距離32キロ!」

「ちっ!対水上戦闘、用ー意!」

 大滝が怒鳴った。柴原と戦ったとき以来の声だった。

「対水上戦闘、用意!」

「目標アルファ、方位0-8-5、速力50ノット!接近しつつあり!」

 橋本が復唱する。一気に戦闘モードとなった青葉CIC。

「艦橋へCIC。航海長、復唱せずに操舵に集中せよ。」

 復唱不要を命令する大滝。これは回避速度を少しでも上げようとする大滝の考えなのか。

『航海長了解です。』

「対空ミサイルは迎撃に備え!何が来るかわからない!」

「アイサー。」

 イージスシステムに接続し、ミサイル菅制ツールを呼び出す武。

(スタンダード…よし。ESSM…よし。)

「使えるものは全部使うからな!短魚雷とアスロックも準備せよ!」

 珍しい大滝の怒鳴り声だったが、もう驚く者は誰もいなかった。相手は80ノットを出すようなオーバースペック艦なのだから。

「目標アルファ、増速しながら接近!距離30キロ!」

「レールガン、25キロ地点で撃て!初速最大!」

「ハッ!前部レールガン発射準備!キャパシタ充電開始!」

 橋本の声で、レールガンが動いた。水平線に潜む影へと照準を定める。

「対空レーダーに感っ!…ミサイル4、接近中!」

「ただちに迎撃せよ!チャフ展開用意!」

 武のプログラムが、VLS内のESSMを次々と活性化させていく。

「ESSM、発射準備よし!」

「迎撃始め!」

 橋本の声、武の指に力が加わる。同時に青葉の後部甲板から4本のESSMが姿を現した。

“シャアアア…”

 空中で身を翻すと、まだ薄暗い空へと姿を消すESSM。

「ESSM展開確認!命中まで25秒!」

「目標アルファ、さらに接近!距離25キロ地点に到達!」

「レールガン、発射!」

 57ミリの砲弾が放たれた。

“ヒュウン!”

 いつもと同じく、装薬を使わないレールガン独特の発射音。

“ザン!”

「第一弾、回避されました。急回頭を行った模様!」

「射撃続けろ!」

「アイサー!レールガン、連続射撃開始!」

 “ヒュウン!”

 さらに砲弾が不明艦に向け飛んでいった。マッハ14にも到達する超高速弾だ。

 …が、

「ダメです!回避されました!目標アルファ、270度ターン!」

「にっ、270度!?」

 橋本が驚きの声を上げる。大滝も信じられん、という表情だ。

「第三弾、回避されました!信じられない機動性ですっ!」

「艦橋へCIC!取舵一杯!…後部砲塔からも浴びせろ!」

 グッと傾く青葉。

「ハープーン攻撃準備!4発同時に弾着させろ!」

「アイサー!ハープーン、攻撃準備に入ります!」

 今度はハープーンのプログラムを開く武。

「方位0-8-8、距離20キロ…」

「ESSM、全弾命中!迎撃成功!」

 いつもなら一息つける時間。だが今日に限っては、そんな余裕など何処にもない。

「後部砲塔、射角に入りました!射撃用意よし!」

「交互に発射せよ!57ミリを叩き込んでやれっ!」

 大滝の力のこもった声。後部のレールガンが砲弾を放ち始めた。

“ヒュウン!”

“ザァン!”

「目標アルファに当たりません!」

 なんて艦だ…、と橋本がこぼした瞬間だった。

「ソナーに感!魚雷5ッ!」

 酒田の声が響いた。

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