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一四話、任務?いいえバカンスです。

 “コツ、コツ…”

 艦内の廊下を歩く和田。クルーの間では、士官ですら鉢合わせしたくない人物ダントツ一位である。

“コンコンッ”

「和田、入ります。」

 艦長室のドアを軽くノックし、ドアを開ける。

“ガチャ”

「艦長、現地の泊地から…」

 で、和田が見たのはサーフボードを持った大滝。

「…それ、何ですか?」

「何って、見ればわかるだろ。サーフボードだ。」

「そんなことはわかってますよ。何で今持っているんですか。」

「何でって、休暇中にやるからだ。」

「いや休暇は先日終わりましたでしょう?」

「それは横須賀での休暇だろう。」

 というか、あんたサーフィンなんてやってたのか。

「あのですね、グアムに何しにいくかわかってます?」

「何しにって、バカンスに決まってるじゃないか。」

「決まってません!我々は不明艦を探しに行くんですよ!?」

「それまでバカンスだろう。」

 グアムなんて、そうそう行けるものじゃないからな。完全にバカンス気分の大滝。

「艦長!我々は軍人なんですから、上層部からの任務を全うするのが…」

“ガチャ”

「しっつれいしまーす!かん…」

 珍しくハイテンションで入ってきた橋本。うっかり和田と鉢合わせ。

「橋本 少佐!その手に持っているのは何だ!」

「何って…、水着ですけど?」

「み、みずっ…!?そんなものを持ってくるんじゃない!不謹慎だ!」

 困った顔をする橋本。

「ああ、気にせんでいい。どうも副長は仕事がしたいらしい。」

「はじめから仕事でしょう!ですから…」

“ガチャ”

「かんちょー!グアムにボートが借りれる店が…」

 今度は三竹が鉢合わせ。服はなんとアロハシャツ。

「三竹ぇ!なんて格好してるんだぁ!」

「何って、アロハシャツですが?」

「三竹、お前何やってんだ!…アロハシャツはハワイだろ。」

 大滝の言葉に、アッハッハと笑う三竹。

「そーでしたな!こりゃ失礼。」

「な、な、な…!」

 艦長室、一人だけムキになる和田。


 青葉は一連の事件の調査を受けた。数日で終わると思っていた調査は一週間、一ヶ月と延びてき、青葉の動かぬ毎日が続いた…。

 もっともクルーにとっては、久しく長期の休暇がとれたこともあり悪いことばかりではなかった。激務続きの青葉に休息がもたらされたとも言えよう。

 そんな中、不明艦についての新たな情報が舞い込んできた。グアム島周辺で、それらしき艦が目撃されたというのだ…。


 「まあそれでグアムに行くことになったらしいよ。」

 第21兵員室。山本の「何でグアムに行くの?」という質問に答えているところだった。

「グアム行ったら…、サンサンの太陽の下で海を楽しんで~、優雅に食事して~。」

「もーセンパイったら。すでに心はグアムですねっ。」

(グアムで射撃やりたい…。)

 どうやら士官のみならず、グアムのバカンス気分は下士官兵にも伝わっているらしい。

“ガチャ”

「おーい喜べ!プレアの予約が取れたぞ!」

 入ってきた橋本の言葉にワァーイ!と山本が喜ぶ。

「よく取れましたね、あの有名店。」

「日本海軍の名前を出せば一発よ。敵を知り、己を知って戦えば百戦危うからず!」

「橋本さんもやるぅ~!」

 さすが、世界最強の日本海軍。予約2年待ちの有名店も何のその。

 …こんなとこで使っちゃダメだろ。


 もちろん、武たちもグアム行きの夢を膨らませていた。

「ここがたぶん泊地になるだろうから…。」

「タクシーでここまで行ってさ、こっからは歩いて行くしかないな。」

 武と松平で協議中である。

「真田、松平。こっちはオーケーだ。予約取れた。」

「ちゃんと確認しただろうな?酒田はたまに信用できんぞ。」

「大丈夫だって。海外経験豊富な酒田様にまっかせなさーい!」

「海外経験豊富なんて初めて聞いんだが…。」

 こちらは三人揃ってスキューバーダイビングである。なお三人とも未経験、チャレンジャーである。

「たまには綺麗な海を見て和みますかぁ。」

「まーそうだな。珊瑚礁を下から見ることなんて、もうないかもしれないしな。」

 海軍軍人おはいえ、毎日の激務でとても海なんか眺めていられないのである。眺めることができるのは、真っ暗な夜間見張りの時だけで、当然のごとく何も見えない。

「ところで…、前回のようなパターンはナシだからな。」

「ないから心配するな。…え、期待してたのか?」

「するわけないだろ。」

「も~、正直になっちゃえよYOU~。」

“ゴン”

 酒田の頭を軽くゴツき、兵員室を出た。


 そして、出港当日。

“ボォーッ!”

 青葉の汽笛が、心なしかいつもより響き渡って聞こえる。

「総員、帽振れーっ!」

 下士官の掛け声で、艦舷のクルーたちが一斉に帽子を振り始める。

『総員、ただちに艦内へ。繰り返す、ただちに艦内へ。』

「へ?」

 まだ埠頭からろくに離れていないのに退避命令?

“グッ!”

「うおっ!?」

 艦の突然の加速に、武は危うく倒れそうになった。ガスタービンの力強い音が聞こえてくる。

「わっわっ!」

 どんどん加速していく青葉。テレグラフをチラリと見れば、

「え、最大戦速!?」

 どうやら艦橋の士官(どうせ大滝が主犯だろうが)は、一刻も早くグアムへ行きたいらしい。波で民間船舶が転覆しそうになっているのもお構いなし。

「わー、速い速ーい♪」

「ちょっ、西園寺さん危ないですっ。」

 例に漏れず、キャッキャと喜んでいる千早。思わず石田が艦内へと引きずり込む。

「帽子落ちた帽子!」

「もう諦めろ。数年後の海底調査で見つけてもらえ。」

「あれ、矢部 一水がいないぞ!どこ行った!?」

「海に落ちたんじゃねーのか?呼んでみろよ。」

 士官も士官なら、下士官も下士官な艦である…。


 横須賀の海軍司令部。

「ほほう…。腕は落ちていないようだな。」

 長官室の窓から、出港していく青葉を見つめる長谷川。

「しかし、あれでは周りの船舶が危険です。」

「なに、大滝君なら大丈夫だ。」

 心配する参謀へと振り向き、ニッと笑う長谷川。

「海軍きっての操艦技術の持ち主であり、艦長としての技量も優秀。…一艦長では惜しいくらいだな。」

「確かに、例の潜水艦を世界で唯一沈めているのも大滝 大佐でしたね。」

「うむ。…ああそうだ、米駆逐艦の事件の情報は入ってきているか?」

 長谷川の言葉に、胸ポケットからメモを取り出す参謀。

「アメリカの実験駆逐艦の件ですね。」

「青葉を上回るほどの能力。それを持ちながら、不明艦の犠牲になったと聞いているが。」

「ええ。レールガンや高性能の武器システムを搭載した最新鋭艦らしいのですが、ハワイの南を航海中に撃沈されたとのことです。」

「アメリカの最新鋭艦となれば、下手な艦ではあるまい。とすると…。」

「やはりテロリストの所有艦ですかね?しかし、それにしては行動範囲が広すぎるような…。」

 不明艦は東南アジアで確認されて以来、西はインド洋から東はハワイ近辺にまで目撃情報が出てきていた。

「いや、俺のところには連中も襲われているような報告がきている。まだわからんな。」

「テロリストは、最近海上行動を活発化してますね。もしかしたら、向こうも不明艦を探っているのかもしれませんね。」

 結局、今ここに至っても正体のわからぬ不明艦。

“コンコン”

『長官、第二艦隊司令から連絡が入っております。』

「わかった、すぐに向かう。」

 机上の帽子を被る。長谷川にはあまり似合わない制帽だ。

「情報収集には、引き続き全力を挙げてくれ。」

「は、了解しました。」


 こうして、グアムへと発っていた青葉。

 だが、この航海が青葉の運命を大きく左右することになるとは…。

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