表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/21

一二話、しばしお休みを…

 「さて行かねばなりませんね。面倒ですが。」

 ここは頼むぞ、と艦橋のクルーに告げる小倉。

「嫌じゃ嫌じゃ~、わしは行かん~!」

「艦長!駄々こねないで下さいっ!」

「だってまたお説教されるんだろ?わしは行きたくない!」

「艦の代表が行かなくてどうするんですか…。私だって嫌ですよ。」

 ああ…、これが「青葉」の艦長なのか…。

「しかも“わし”って。あんたまだ50代でしょ…。」

 大滝と和田のやり取りに、橋本が呆れる。

「ほら行きますよ。何も一人で行くのではないのですから。(グイー)」

「いやだぁ~、わしは部屋帰ってゲームやりたいの~!(ジタバタ)」

 遊んでないでとっとと行け。お前艦長だろ。

“ガタンドタンドーン!”

『ちょっと、暴れないで下さいよ。』

『○×△□~!』

『あ、こら!誰か艦長を捕まえろー!』

 ラッタルの下から聞こえる騒ぎ。

「はー…。でも、あんなことで呼び出す世界政府も問題よね。」

 橋本はラッタルをゆっくりと下りた。


 大滝に限らず、呼び出し喰らって士官連中がゲンナリしている中…。

「これが母への御土産。…こっちは父への御土産。」

「えーと…、8時10分に横須賀駅から出発して…」

「これで荷物はおっけ。…あー鍵どうしたっけ?」

 第21兵員室。橋本抜きのこの部屋は、明日の上陸に備えてホクホク準備の真っ最中である。

「琴音ちゃん、いつも荷物一杯だね。」

「両親にいろいろ買って帰るものですから…。」

 照れくさそうに言う石田。休暇に行くというよりも旅行先から帰ってきたような荷物だ。

「西園寺さんは、ご両親とかに御土産みたいなの持ち帰らないんですか?」

「あ、…うん。」

 石田の何気ない一言に、表情が曇る千早。

(両親…か。)

 そうだよね…。みんな家に帰れば、お父さんやお母さんがいるんだよね…。

「あの…、失礼しました!ご無礼なことをお訊きしたみたいでっ!」

 一瞬にして変わった雰囲気を感じ取ったのか、突然謝りだす石田。

「あ、気にしなくてもいいから。そんなつもりで言ったわけじゃないと思うし。」

「それでも、やっぱりすいません!」

「?」

 何が何だかサッパリわからず、キョトンとしている山本。


 「それじゃあ、また明後日くらいにな。」

「ああ、松平も陸を満喫してこいよ。」

 次の日、CPO室で上陸許可を貰う武。松平と酒田にしばしの別れを告げ、そのまま荷物と共に舷梯を下りる。

「ああ橋本さん、行ってき…」

 と甲板上にいた橋本の顔を見て声を失った。

“ゴゴゴゴゴ”

(うわぁ…、メッチャ嫉妬オーラ出てるよ…。)

 いつもなら埠頭でピョンピョン跳ねている千早が、どうもおとなしいと思ったら…。

「…ま、す。」

 今日も士官だけ呼び出されているらしい。士官連中は、みんな上陸おあずけである。

 士官の冷ややかな視線を受けながら、駐車場へと向かう二人。

「さあて、俺の愛車を動かしてやらないとな。」

「武の運転は久しぶりだね。」

 武の愛車、ランエボへと乗り込む二人。

「よしよし、いい子にしてたか?ん?」

「武、気持ち悪い。」

「いやそんなにダイレクトに言わなくても…。」

 千早のストレートなツッコミにしょげながら、エンジンをかけた。

“グォーン…”

「おう、景気よくかかったな。それじゃ出発するか。」

 そのまま駐車場を出る。交差点を曲がり、横浜横須賀道路へと乗るランエボ。

「エレナちゃん、元気カナ~?」

「友達が出来ているといいけどね。」

「大丈夫でしょ、エレナちゃん可愛いから。(はぁと)」

「…千早が言うと、どうも説得力がなぁ。」

「何よ?乙女心のわからない武に言われたくないー!」

「お前のどこが乙女だよ!?」

「誰にでもやさしい心とか?」

「…ゴメン。訊いた俺がアホだったよ。」

 保土ヶ谷バイパスから東名高速へ。中央自動車道の起伏&渋滞がキライな、武の帰郷ルートだ。

「千早、帰ってから予定あるのか?」

「何で?」

「いや、暇ならドライブでも行こうかなって。」

「一人ボッチは嫌だから?寂しがりやねぇ~。」

「なっ、そ、そういうわけじゃない!」

 割と図星なのね。

「暇ではないかな。…航太のところ、行っておきたいの。」

「航太君のところか。」

 久々に聞いた、千早の弟の名前。

「刑期…、あとどのくらいなんだ?」

「えっと…。あと1年と少しかな。」

「そうか。あの日から大分経ったんだな。」

 あの日。あの日から、弟の航太だけが千早唯一の家族になってしまった。

「…ちょっと、休憩していくか。」

 沈んできた雰囲気を変えるように、サービスエリアへと滑り込んだ。


 “キッ”

「ふぅ。着いた着いた。」

 午後7時をまわった頃、実家に到着した武。

“ガラガラ”

「ヤッホ~。ただいまです義母様~。」

「ちょっ、なんだ義母様って!しかも降りるの早っ!」

 あたふたしながら武も入る。帰っても和めない実家である。

「あら、二人揃ってずいぶん早いお帰りだこと。」

「まあ…、下っ端は遊んでろってさ。」

 適当に返事を返しつつ、室内を見渡す。

「二週間ちょいだもんな。そんな変わったところは…」

 あった。いや変わったというよりも…

「…なんでドラグノフが置いてあるんだよ。」

 しかもテーブルの上に堂々と。

『あー、エレナちゃん帰ってきたー。お帰り~。』

『あれ、チハヤいたのか…。』

 どうやらエレナが帰ってきたらしい。戦犯は間違いなく…

「あ、タケルもいた。」

 居間に入ってきたエレナ。甲斐学園の制服は、意外にも板についている。

「これ…なんで?」

「ああ、射撃部で使ってる。」

 えと、部活で実銃はちょっと…

「てか射撃部なんてなかったぞ?」

「去年できたって。」

「なにその…滑り込み入部みたいなのは。」

 千早が居間に入ってきた。ドラグノフを見るなり、

「それなあに~?」

目をキラキラさせながら訊いてきた。

「狙撃銃。部活で使ってる。」

「へー、今の部活ってこんなのやるんだぁ。」

 やるわけないだろ。いや、やらないで。

「ちょっと撃たせて?」

「千早、感覚薄れてるかもしれないけど銃だぞ?下手に使ったら…」

「うん。人に向けないでね。」

 武の忠告空しく、平然とした顔つきで了承するエレナ。

「あのー、もしもし?」

「チハヤだって軍人だろ?それとも実目標である人に向けてみた方がいいのか?」

「そういう問題じゃなくて!しかもここ住宅地!」

「大丈夫。サイレンサーがついてるから。」

「音じゃなくって!」

「弾か?ヨーロッパ仕様(現実のNATO弾に相当)がよければ…(ゴソゴソ)」

「出さなくていいから!」

“ボゥスン!”

「ん?何だか鈍い音が…」

 ってギャアアア!ランエボ用のスタッドレスタイヤがあああああ!

「チハヤ!」

 エレナが駆け寄った。いよいよ危ないと…

「持ち方が違う。ここを肩に当てて…。」

 止めるんじゃなくて!?むしろやらせてる!?!?

 この後も、7.62mm弾が次々とスタッドレスタイヤに突き刺さる音が響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ