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付与術師の異世界ライフ  作者: 畑の神様
幕間2~王都騒乱~
89/93

障害

遅れてしまってすいません!!

どうぞ!

「って、勢いよく出発したのはよかったんだけどね……」

「これは……ちょっと……」

「ちっ、次から次へと湧いて出てきやがる。邪魔くさい奴らだ」



 悪態をつきながら俺は周囲を見渡す。

 俺達の周囲には大勢の自我喪失者が群がってきていた。

 意識もなく、左右にふらふらと揺れながら近寄ってくるその姿はどこか元の世界のゲームに出てくるゾンビを彷彿とさせる。

 加えて、自我というストッパーが無くなった彼らは肉体の限界まで力を引き出しており、力も異常に強くなっているという点までゲームのゾンビに酷似しているとなれば、もういよいよといった感じだ。

 ゲームと異なる点と言えば、ゲームの中の奴らは容赦なく殺していくのに対し、今回は洗脳されているだけなので殺すことができないということぐらいだろう。

 俺は目の前まで迫ってきた自我喪失者……長いな、もうゾンビでいいか。

 自我喪失者(ゾンビ)を剣の腹で殴り飛ばすと、ナタリーへと問いかける。



「おいナタリー、まだ奴は遠いのか!? このままじゃ埒が明かないぞ」

「おそらく、この先のお父様の部屋にいると思います。そこから邪悪な気配を感じますので、ですが……これはまいりましたね……」



 見渡す限りに群がる自我喪失者(ゾンビ)は正に壁の如し。

 今はジャックの手下と俺達でなんとか対処出来ているが、なかなか先へ進めない。

 このままでは最悪問題の奴らの元へたどりつく頃には既に疲労困憊の状態になってしまう可能性もあった。



「おいジャック、何か策はないのか?

 こいいつら、いくら倒そうとも大本を絶たない限り止まりそうにないぞ?」

「……そうだね……こうなれば止む負えないか……仕方がない。ここは僕達騎士団が足止めをするから君と姫様で先を進んでくれないかな?

 君が元凶を倒せば、この騒ぎも収束するはずだ。頼めるかい?」

「おまえ……」

「ジャック、いけませんッ それではあなた達が……」

「姫様、失礼を承知で言わせていただきます。我々を見くびらないでいただきたい。

 我々は国を守り、民衆の盾となる騎士、誰かのために命を懸ける覚悟などとうにできております」



 毅然と答えるジャックの瞳には一欠けらの迷いも無い。

 それは周囲で戦っている彼の部下も同じだ。

 彼らは真実これまでも国を守るために体を張り、命を懸けてきたのだろう。

 そんな彼らに今更そうした心配をするのは野暮であったのかもしれないな。

 その決意はナタリーにも伝わったのか、彼女はジャックの言葉に何も返せず、悔しそうに歯噛みをする。

 そんなナタリーの姿を見て、ジャックは苦笑するように言葉をつづけた。



「姫様、勘違いなさらないでください。

 別に私たちはここで死のうとしているわけではありませんよ。

 私達はただ……託すだけ。

 私達の命を、思いを姫様と、そしてそこの勇者様に委ねるだけです。だから―――ここは私たちに任せて先へ行ってください」

「ジャック、あなたは……わかりました。

 あなた達の決意、無駄にはしません。

 私からは一つだけ―――絶対に死なないで下さい」

「はッ! 任務、承りました。私たちは決して死なないと、ここに誓います。

 では、時間がありません、突破口は我々が開きますので、さぁ、早くッ!!」



 ジャックはそう叫ぶと、部下たちを指揮し、一点突破により自我喪失者(ゾンビ)達の包囲網に風穴を開ける。

 その空間は数秒後には再び塞がってしまうであろう、というほど狭く、小さい空間であったが、俺とナタリーだけならかろうじで突破できそうだ。

  

 

「わかりました。さぁ勇者様、先を急ぎましょう」

「俺に命令するな。言われなくてもわかってる」



 俺はそう投げやりに返事をすると、ナタリーの手を引いて空間に向けて走り出す。

 ナタリー曰く、悪意の根源はここさえ抜ければ既に目と鼻の先にいるらしい。

 なら、この先に待ち受けるのは魔人との決戦だ。

 俺はこれまでで成長した自分の力を試せる機会に気分を高揚させながら、自我喪失者(ゾンビ)達の間を駆け抜ける。

 その背中に、



「―――姫様のこと任せたぞ、勇者様」



 そんな声が聞こえてきたが……ふん、そんなことは俺の知ったこっちゃないな。

 俺はただ魔人と戦ってみたいだけだ。

 その過程でこいつがどうなろうと知ったこっちゃない。

 そう……知ったこっちゃないんだ。だが、こいつには俺の立場の後ろ盾としてまだまだ役に立ってもらわなきゃいけない。だから、その……なんだ、まぁ死なない程度には守ってやるがな。

 


「ふふふ、勇者様は本当に……素直じゃないんですから!」

「ッ~~~お前また……もういい、黙って走れ」



 俺は自我喪失者(ゾンビ)の包囲網を抜けると、俺の顔を見てにやにやするナタリーの手を引っ張って彼女の示す方向へと走っていった。


 …………ナタリーの手は少し震えていた。


 ったく……どっちが素直じゃないんだか……。



◆◆◆◆



「ここです、勇者様。ここから邪悪な気配が色濃く発されています。

 おそらく、モーリスはこの中に……」

「ここか……」



 ナタリーの誘導に連れられてたどり着いたのは王の部屋の前だった。

 俺の記憶が正しければ、ここにはここ最近この国の王、つまりはナタリーの父親であるアルバート王が引き籠っていたはずだ。

 ナタリーの言う悪意の根源が、モーリスが本当にこの中にいるのだとすれば、おそらく、アルバート王はもう……。


 俺は扉に手をかけると、ナタリーに確認するように声を投げかけた。



「ナタリー、中に入るが心の準備(・・・・)はいいか?」

「……ええ、大丈夫です勇者様、行きましょう」



 彼女もきっと俺の言葉の意味を理解していたのだろう。

 そう、モーリスが、魔人がアルバート王の部屋にいるということは、最悪の事態も想定できる。

 つまり、既にアルバート王が亡きものにされている可能性もあるということだ。

 その意味も含めて一応声をかけたのだが……いらない心配だったか。

 そもそもこいつは一定の距離内なら心の声が読めるのだ。

 その範囲は定かではないが、もしかするとこいつにはもうアルバート王の安否もわかっているのかもしれないな。


 とにかく、彼女の意思は確認できた。

 俺は視線を前に戻すと、意を決したように手に力を入れてドアを開け、中へと入っていく。

 煌びやかな装飾が施された広大な空間の奥には天蓋付きのベッドがあり、そこには膝を抱えて項垂れ、何かをつぶやき続けるアルバート王の姿と、その傍らに静かに佇む宰相モーリスの姿があった。


 宰相モーリスは俺たちの姿を見ると僅かに驚きの顔を浮かべると、これまた予想もしていなかったとでも言うかのように声をかけてきた。



「……おや、どなたかと思えば勇者様たちでしたか。

 いやぁ、ご無事なようでこの老骨も安心いたしました。

 陛下を心配して来ていらしたのでしょうがその心配はございません。

 心はともかく、体は無事そのものです。どうか勇者様方は陛下は私に任せて、騒ぎの収拾と来る魔人への準備に専念していただければと……」



 そうして、頭を下げ、慇懃に礼をするモーリス。

 本当によくやるものだ。

 ここまで白々しい態度をとられると軽く感心してしまう。

 どうやら伊達に王都に紛れ込んでいた訳ではないらしいな。

 だが……既にネタは割れている。



「白々しい芝居はよせ、モーリス。

 お前の正体も企みもこちらは全て把握している。

 無駄は省かせてもらいたいな」

「…………。 勇者様、いったいあなた様が何のことをおっしゃられているのかこの老骨には見当も―――」

「無駄ですよ。私の前でいくら謀をしたところで、意味などありません。

 いい加減あきらめたらどうですか、モーリス。いえ、ここは―――魔人モーリスと言ったほうがいいのでしょうか?」



 モーリスの言葉に被せるようにナタリーがその事実を言い放つと、それまで慇懃に礼をし、感情の読み取りにくかった奴の表情が歪み、射殺すような殺意の視線がこちらへと向けられた。



「……そうですか、アナタでしたかメスガキ。アナタ、ワタシを謀っていましたね?」

「ええ、そうです。私はあなたに自身の能力で読み取れるのは他者の心の表層だけだと偽ってきましたが、本当は私の能力はあらゆる者の胸中を丸裸にすることができます。

 ですから、私は最初から全て知っていたのですよ。

 あなたが衰弱に見せかけて母を呪殺したことも、この王都を乗っ取ろうとしていたことも、厄介な私を殺そうとしていたことも、あなたが魔人であることも全て……」

「なるほどそういうことですか。その上でアナタはワタシに自分の利用価値を示すことで、殺されることを回避し、ワタシに対抗できる戦力が現れるまで上手く立ち回っていたというわけなのですね……つくづく不愉快なメスガキめ」

「不愉快で結構です。もはやこちらの戦力は整いました。

 観念しなさい。あなたの陰謀もここまでですよ、モーリスッ!!」



 ナタリーは本性を現したモーリスへ向けて力強く言い放つ。

 しかし、モーリスはナタリーの発言に嘲笑をもって返答した。



「……ククッ、ククク、カアハハハハハハハ―――ッ!!

 そこの勇者如きがこのワタシを倒しうる戦力ですと? 笑わせるのも大概にしてほしいものですねぇ?

 そんな小物如きがこのワタシに相対できる訳がないということがなぜわからないのでしょう?

 ふっ、やはり聡いとは言え所詮は劣等種のメスガキ、その程度の浅知恵が限界ということなのでしょうね」



 ……言ってくれるじゃないか。

 流石にここまで言われては俺も黙ってはいられない。

 俺はそのふざけた考えを改めさせてやろうと、腰の剣に手をかけ、一歩前に踏み出そうとするが、



「お、おい……モーリスよ……いったいどういうことなのだッ!?

 何を言っている……ッ!? 説明だッ!! 我に説明するのだモーリスよッ!!」



 そこに、横槍が入った。

 アルバート王その人だ。

 先ほどまでベッドの上で膝を抱え、無様に震えていた奴が声を荒らげさせながら傍らのモーリスへと縋りついている。

 その姿は実に滑稽だ。

 奴はきっとわかっている。いや、わかってしまった(・・・・・・・・)

 奴が、モーリスが魔人という事実を、奴を傍らに置き続けたアルバート王自身が得心してしまったのだ。

 それでも、奴はその事実を認めたくないがため、非常な現実から逃れたいがために、モーリスに否定の言葉を求めている。

 ……これが滑稽じゃなければなんなんだろうな。


 そのアルバート王の問いを受けて、モーリスは王をまるでごみでも見るかのような視線で見ると、言った。



「……煩わしいですね。こうなってしまえばもうアナタは用済みなのですよ愚物めが。

 せめて最後くらいワタシの手駒として働いてから死んでください」



 モーリスはそう告げると、縋りつく王の頭を片手で鷲掴みにし、持ち上げた。



「~~~ッ!? モ、モーリスよッ、何をするッ!?」



 中空で必死に頭を掴む手を引き離そうともがくアルバート王。

 しかし、魔人の膂力の前に対抗できるはずもなく、痛みと苦しみにひたすら叫ぶことしかできない。

 当然、そんな抵抗で魔人であるモーリスの心が揺らぐはずもなく、モーリスは冷徹な目でアルバート王を蔑むように見ると、鷲掴みにした手からアルバート王に魔人であるモーリスの穢れた魔力を流し込んだ。



「あ、ぐあ、ぎゃああああああああああああああああああああ」

「ヒャハハハハハッ!! なかなかいい声で鳴くじゃないですかッ!!

 アナタは王としてはただの愚物に過ぎませんでしたが、どうやら玩具としてワタシを楽しませる才能はあったらしいですねぇッ!! さぁッ!! さあさあさあさあッ!! もっと、もっとその甘美な悲鳴でこのワタシを楽しませるのですッ!!」

「ぎゃああああああ、や、やめ、たすけ……ぐぎぎぐぎごぐうっぎごがががががががががが」

「お父様ッ!? どうなさったのですか!? 答えてください、お父様ぁッ!?」



 悲痛な父のうめき声を耳にしてナタリーが悲鳴を上げる。

 ……悪趣味な奴だ。いや、過去の俺を考えれば俺が言えた義理ではないのかもしれないが、それでもそう思ってしまう。

 奴はあれを本気で楽しんでいる。

 人が死ぬような苦しみを受けてあげる悲鳴を聞いて、心の底から愉悦に浸っている。

 それはまるで奴という存在の歪みを示しているかのようだった。

 



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