表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
付与術師の異世界ライフ  作者: 畑の神様
幕間2~王都騒乱~
88/93

真実

 


 話はナタリーの母、エイダの時代まで遡る。

 エイダは元々平民の生まれで、平凡な生活を送っていたところをその美貌を理由に現在のアルバート王に囲われ愛人となったことをきっかけに才覚を発揮、王妃にまで成り上がった才女だった。

 その才覚と言えば、王であるアルバートも頼り切りになる程で、民衆からの支持も熱く、権力者としての立ち回りも上手かった。

 彼女が王都に与えた影響は数しれず、まさに王都におけるブレインに等しい立場を有していた。


 そんな彼女が妊娠して、ベッドに伏せった時、事件は起こった。

 彼女の様態が日に日に悪くなっていったのだ。

 アルバート王はこの事に焦りを抱き、あらゆる手を尽くしたが、目立った効果は見られなかった。

 加えてブレインであったエイダが病床に伏せってしまったことで、アルバート王は頭を抱えることになってしまう。

 そんな時、現れたのがモーリスという得体の知れない男であった。

 

 彼はエイダが病床に伏せったことで起きた混乱の中で突如として王の前に姿を表し、瞬く間に政治に参入して行った。

 最初こそ彼のことを疑い、探りを入れる者も多かったが、彼が本格的に政治に参入して行くにつれて、いつの間にかそうした人はいなくなっていた。

 

 そうしてアルバート王は政治の一切を謎の男モーリスに放り出し、エイダの治療のために尽力したが、結局、改善が見られないままエイダは出産の日を迎え、彼女は自身の娘を産み落とすのと引き換えに帰らぬ人となってしまった。


 ブレインであったエイダの死後、政治を担ったのは宰相となったモーリスその人だった。

 エイダという支えを失ったアルバート王はモーリスに頼り切るようになり、モーリスは王都の実権をにじることになる

 かくしてモーリスは瞬く間に王都を掌握してしまったのだ。


 しかし、モーリスにとっての誤算が一つだけあった。

 それはナタリーの存在だ。

 彼女は生まれつき目が見えないことと引き換えに、他者の心の声を聞くことのできる力を持っていた。

 これを恐れながら、利用しようとしたモーリスは彼女を城に幽閉し、その力を利用してきたのだ。

 とは言え、実はモーリスのナタリーに対する能力の認識と、実際にナタリーの持つ能力には大きな違いがある。

 それはモーリスはナタリーが心の表層しか見れないと思っているが、実際にはナタリーは他者の心が丸裸にできるという点だ。

 モーリスは彼女の前では上手く立ち回り、隠し事をしているつもりだったが、ナタリーには呪術によりエイダを弱らせたこと、自分が障害を持つように呪いをかけたこと、モーリスが企んでいること、その内心の全てが筒抜けだったのだ。


 しかし、これがバレれば未だ弱い立場である自分は間違いなく殺される。

 故に、彼女は信頼する者一人にだけその事を告げ、自身の味方となれる強者が現れるのを待ち続けた。

 無害な自分を演じ、利用されているのを知りながら知らない体をし、城に幽閉される生活に耐え続けた。

 そうして後に勇者が召喚される。

 召喚直後の彼の心を読んだナタリーは失望したが、ある日を境にその評価は希望に転じた。

 故に、彼女は彼に近づき、時が満ちるのを待っていたのだ。

 彼が力を蓄え、強者となるその日まで……。



◆◆◆◆



「これが私の秘めてきたことの全てです、勇者様……」

「……なるほど、ナタリー、お前の考えはわかった。

 今回の事態の裏にモーリスが絡んでいるであろうこともわかった。

 だが、俺はまだモーリスの企みの内容を聞いてない。

 奴の企みとは何なんだ? あいつは一体何を企んでいるんだ?」


 

 ナタリーの眼に嘘はない。

 話だけを聞けばとても幼い少女が背負ってこれるような話とは思えないが、俺は既にナタリーという少女を知っている。

 彼女は強い。

 力ではない……心が、だ。

 そんな彼女ならいづれ来る時を信じ、母の仇に利用される演技をすることくらいやってのけるだろう。

 そこに疑いはない。

 だが、肝心の敵の考えがまだ開示されていないのでは全面的な協力、また、この事態への対処も行えない。

 しかし、そんな俺の内情を察した。否、読んだ(・・・)かのように彼女は言葉を返した。



「焦らないで下さい、勇者様。それを伝えるにはまず、あなたに彼の正体を知っていてもらう必要があるのですよ」

「お前、また俺の心を読んだな?」

「だからいつも言っているじゃないですか。読んだんじゃなくて、聞こえちゃうんですよ、ふふ」

「お前な……はぁ……」



 ……こいつ……、いや、正直なところ俺にも分かっている。

 彼女は俺にいつもこうやって告げるが、本来このやり取りは彼女にとってのリスクに他ならなかったはずなのだ。

 もしも俺がモーリスの手に落ちていれば、彼女の隠してきた事実がモーリスに露呈していた可能性が高い。

 つまり、このやり取りこそが彼女の信頼の、期待の証なのだ。

 それに応えてやる義理など俺にはない。

 だが……少しだけ、応えてやってもいいかという気になっていたのは確かだ。



「聞いてやるから……早くしろ」

「ふふふ、まったく勇者様は素直じゃないんですからっ~~」

「ははは、そうですね。彼は本当に素直じゃない。今のは心を読めない私にもわかっちゃいましたよ」

「ああ、もうやかましいっ!! いいから早く奴の正体も企みもさっさと教えやがれ!!」



 まったく、二人して俺のことをなめた目で見やがって、この事件が解決したら絶対に痛い目見せてやる。

 決めた、今決めたぞ。絶対やってやる。

 とはいえ、それは後だ。

 今はひとまず話を聞いて、事態を何とかするのが先だろう。

 俺は自分の思考を片隅に避け、彼女の話に耳を傾けた。

 


「ふふふ、分かりました。ではまずは彼の正体から行きましょう。

 宰相モーリス、彼の正体は―――魔人です」


 

 魔人……その言葉に少し驚いたが、直ぐに納得する。

 最初はこの国を疎む他国の者の可能性も考えたが、それにしてはモーリスは自由に動きすぎている。

 あれは奴の上に指示する誰かがいるという感じの動き方ではなかった。

 そもそも、現在この王都に明確に敵対する国や種族は魔族をおいて他にないとなれば、むしろ当然の結果だった。

 そして、それが分かれば奴の目的が何なのかも必然的に見えてくる。



「ッ!? ……なるほどな、王都を狙っている魔人は一人ではなかったわけか。

 そうすると、奴の企みってのはこの王都の掌握か、滅亡ってところか?」



 そう、つまりはそういう事だ。

 恐らく、俺を召喚したのも勇者である俺をいいように手駒にするためだったに違いない。

 後に脅威となり得る勇者を掌握してしまえば、最早魔人に対抗する術は無くなってしまう。

 狡猾で悪質な手だ。もっとも、俺を負かしたあの男の存在は奴にとっても想定外だったようだがな。

 どうやら俺の考えは的を射ていたらしく、ナタリーが感心した表情で言葉を返してきた。



「流石は勇者様、その前者で間違いありません。もっとも、今回は何か予定外の事態の発生により目的を変更したようですが……」

「姫様、それはまさか……」

「ええ、そう言う事です。異なる魔人の出現、これは彼にとっても予想外だったのでしょう。それ故に、彼は目的を掌握から滅亡に切り替え、こんな策に打って出た。つまり、魔人も一枚岩ではないという事です」

「なるほどな、どうせ滅ぼされるならこの機会にあっさり滅ぼしちまおうというわけか……だが、それなら宰相モーリス、奴を叩けば……」

「……この事態はひとまず収まる……という事ですね、姫様?」



 俺の言葉を引き継ぐようにジャックがナタリーに問いかける。

 ナタリーはその質問に首肯すると、力強く応えた。



「ええ、そう言う事です。モーリスの居場所は心を、悪意を読み取れる私になら分かります。

 ジャック達には道中襲いくるであろう自我消失者の対処、勇者様には―――魔人モーリスを討っていただきたいのです。お願いできますか?」

「姫様の命とあれば、謹んでお受けさせて頂きます」

「……お願いも何も、今やらなければ魔人二人を同時に相手取らなければいけなくなる。

 それを避けるのならば、今やるしかないだろう……安心しろ、やってやる」

「ありがとうございます。二人とも……では、」

「ああ、決着をつけに行こう。準備はいいかな、勇者様?」

「誰にものを言っている? さっさと行くぞ」

「ははは、言うまでもなかったみたいだね。じゃあ行くとしようか」



 そうして俺達はこの事態に決着をつけるため、ナタリーの部屋を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ