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付与術師の異世界ライフ  作者: 畑の神様
幕間2~王都騒乱~
87/93

緊急事態

「―――ロイ、エレナ、状況を報告しろ」



 騎士団の詰め所に、ジャックの鋭い声が響く。

 その声に、彼の背後に控えていたロイとエレナが即座に答えた。



「はッ! 現在王都内で自我を失った者達による襲撃が散発中、王都全体が疑心暗鬼に陥っています。

 加えて襲撃者は極僅かですが隊内の者からも発生している模様です」

「え~と……、原因については今現在調査している真っ最中なのですけど、自我を失う者達に明確な規則性は見つかっていません。わかっていることは精々城に近い方が被害報告が多いということぐらいですかね……。加えて自我を失う者は増える一方。事態に混乱した人々も疑心暗鬼に陥ってしまっていて自我を失っていない人達の間でも暴動が起きる始末で……正直、お手上げ状態です……」



 つまり……状況は最悪だった。

 元より魔人襲来の一報により、民衆の間に渦巻いていた不安と混乱がこの一件で爆発した形だ。

 外からの恐怖に怯え、内に籠ったのにも関わらず、その内から脅威が出てしまったのである。

 ある意味、この混乱は当然とも言えた。

 しかし……



(あまりにタイミングが的確すぎる……魔人襲来とこの今回の事件、果たして本当に異なる事件なのか……調べる必要がありそうだが……さて、どう動く……?)



 正直、今は情報が足りなさすぎる。

 騎士団がどう動くにせよ、方針も分からず、事態の原因が特定できねば動きようがない。

 そもそも、方針を出すべき立場である国王が引きこもってしまっているのでは事態への対処のしようがなかった。



(それに、城に近い方が発生率が高いという情報は無視してはいけないものな気がする。

 いくら籠られているとはいえ、王に危険が及ばんとも限らん。

 それに勇者がついているだろうから大丈夫だとは思うが、姫様の安否も気になる。

 ここは城へ直接確認しに行くのが得策か……?)


 

 ジャックが事態について思考を巡らせていると、背後のロイから声がかかった。



「……どうしますか、隊長?」

「……そうだね、私はこれより第一、第二小隊を連れて城へ向かう。君達は残りの小隊を連れて都内各所の混乱を鎮圧して回ってくれ。

 喪失者が出た場合は即座に捕縛し、監視すること、これは隊内から出た場合も同じだ。

 相手は自我が無いとはいえ我々が守るべき民衆だ。可能な限り死者を出さないように対処しろ、いいな?」



 ロイとエレナは足をそろえて綺麗な敬礼をするとジャックの問いに答えた。



「了解です、隊長ッ!」

「ではこれよりロイ・バルツァー、エレナ・リンベル指示通り行動を開始します。

 隊長も気をつけて下さいね」

「ああ、君達も無理はしないように、危ないと思ったら自分の命を優先するんだ」

「隊長、それは私達よりもあなたの方に気をつけてほしい事なのですが……」

「そうですよ~、隊長ったらいつもいつも直ぐになりふり構わず無茶するんですから……隊長の方こそ命を大事に! お願いですよ……?」



 二人の心からジャックを心配する様子に、少したじろぐ。

 そこまで酷かったかなぁ、と思うが信頼する部下二人にここまで言われたのでは仕方がない。

 これは一本取られたなぁと、ジャックは二人に苦笑して応えた。



「ははは、そうだったな。気をつけるよ。

 それじゃあ二人とも、後は頼んだよ?」

「「はッ!! お気をつけてッ!!」」



 二人の清々しい返事を背に、ジャックは詰所の広間へ向かう。

 そこでは完全武装の隊員達が出撃の時を待っていた。

 ジャックは彼らの前に立つと、全体を見渡して告げた。



「第一小隊、第二小隊は私についてこいッ!!

 残りの者は以降ロイ・バルツァー、エレナ・リンベルの二人の指示に従って暴動鎮圧に動け!!

 いいか、我々は国を、国民を守るための剣であり、盾である。

 今こそ、その使命を果たすべき時と心得よッ!!」

『ウォォォォォぉぉぉおおお――――ッ!!』

「では、総員行動開始ッ!!」

『はッ!!』



 言うべきことを告げると、後のことをロイとエレナに任せて、ジャックは即座に第一、第二小隊を引き連れて混乱に包まれる王都の中を城に向けて出発した。


 

◆◆◆◆



 

「ナタリー様っ!! ご無事ですか!?」



 ナタリー部屋の窓から城下の様子を伺っていた俺達の耳にドタドタという慌ただしい足音が響いてきたかと思うと、突然ドアが開き、大声とともに鎧を纏った男が部屋へと入ってきた。

 

 異常事態を前に警戒を強めていた俺は足音を聞いた時点で腰の剣に手をかけていたが、男の姿を見て警戒を解く。

 というのも、男の顔が自分の知る者であったからだ。



「っ……なんだジャック、あんたか……驚かすな」

「ジャックっ!? ああ、よかったです。あなたも無事だったのですね」

「ええ、姫様! 姫様もご無事で何よりです。

 そして勇者様も無事で何よりだよ」

「ジャック、そんなことよりこれはなんだ?

 今この王都でいったい何が起こってる?

 件の魔人がもう来やがったのか?」



 この男が無事なことなど元よりわかっている。

 ジャックほどの男がそう簡単にどうにかなるはずもない。

 それよりも今は事態の確認が先決だ。

 どう動くにしても、情報がなければ動きようがない。

 その点、城下から駆けつけたこいつには状況がわかっているはず。

 まずはその共有が優先だ。


 俺が問うと、ジャックはそれもそうだなと、苦笑すると表情を真剣なものに切り替え、報告を始めた。

 その報告によれば、この城下の混乱の原因は魔人そのものではなく、突如として自我を失った者が散発的に現れ、周りの者を襲ったことにより起きている暴動らしい。

 自我消失の詳しい原因はわかっていないが、どうやら精神力の弱い者ほど自我消失に陥りやすいとのことだった。

 現在騎士団の隊員の多くがその暴動の鎮圧に当たっており、ジャックは城に近い方が自我消失者の出現率が高いという情報の確認と、王や姫様など重役の安否確認と、事態への対応策を仰ぐべく、十数名の隊員ともにこの城へ駆けつけたところ、姫の部屋を見つけて今に至るというわけだ。

 彼の引き連れてきた隊員はここに近づくに連れて数人がリタイア、残りは部屋の外で自我消失に陥っている兵士と戦っているそうで、それはここも安全ではなく、また時間的猶予も少ないということを意味していた。



「そうですか、城内がそんなことに……なるほど、そういうことでしたら城内は危険かもしれませんね……」

「はい、ここまでの道中で城に近づくに連れてリタイアするものが増えたこと、そしてこの場内の惨状から鑑みるに原因はともかく城に近い方が危険という情報自体は確かだとおもいます。

 この城が危険な以上、姫様は一刻も早くここを離れたほうがいいかと……」



 これは俺としても黙ってみている訳にはいかない。

 俺はジャックの言葉を遮るように二人の会話に割って入った。



「いや、待てジャック。

 その話が確かなら原因は恐らく城内にあると考えていいだろう。

 なら、ここは逃げるんじゃなくてその原因を叩くべきだ。

 魔人が襲来したこのタイミングでのこの事件、事故とは考えにくい。人の手によるものだとすれば、首謀者も城内にいる確率が高いだろう。

 そして、こちらには敵の考えを見透かせるナタリーがいる。加えてここには騎士団団長と勇者がいるんだ。戦力も申し分ない。なら、叩くなら今しかないはずだ」

「しかし、それでは姫様が……」



 俺の言葉が正しいことはわかっているのか、ジャックは苦い顔を見せながら歯切れの悪い言葉を返す。

 だが、俺としてもこの状況で折れるわけには行かない。

 やるなら間違いなく今だ。

 今を逃せばただでも絶望的なこの状況は手の施し用がないほどに悪化してしまう。

 俺はジャックの決断を後押しするべく言葉を続ける。



「事態は一刻を争うぞ?

 ただでも魔人がここへ向かって来ているという情報が入ってる。もしも今この体勢の崩れた状況にそいつが来れば最悪の事態も考えられるぞ。俺たちは、一刻も早くこの混乱の原因を取り払い、体勢を立て直す必要があるはずだ。そうだろ、ジャック?」


 

 俺の言葉に考え込むジャック。

 しかし、それでも彼の意志は難色を示す。

 何がやつにとって引っかかっているのかはやつ自身の口から語られた。



「……確かにそうだ。勇者様、君の言うことも間違いじゃない。

 いや、むしろ正解だろう。だが、私は騎士団長として、姫様を危険に晒す判断をするわけには―――」

「ジャック、構いません。勇者様の作戦でいきましょう」

「姫様っ!? しかし……」

「良いのです。それにこの事態は危機でありながら私の待ち望んだ好機でもあるのですから」

「ッ!? 姫様……それではやはり……」

「はい、間違いないでしょう。恐らく首謀者はあの者で間違いないと思っています」

「―――おい、勝手に話すな。俺にもどういうことか説明しろ」


 

 これは看過出来ない。

 恐らく二人の間には俺の知らない共通認識がある。

 その情報が欠けているのでは俺だけ情報が不足した状態で動くとになってしまう。

 この場において情報の共有は必須なのだ。

 加えて、それが事件の根幹に関わりかねないものらしいとなれば、聞き出さない訳にはいかなかった。

 

 俺の言葉に対し、ナタリーは意を決したように口を開いた。



「……本当ならもう少し待ちたかったのですが、今のあなたならきっと大丈夫。わかりました。私の知る全てをあなたにお話しします。勇者様……」


 

 そうしてナタリーは全てを語りだした。


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