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付与術師の異世界ライフ  作者: 畑の神様
魔人襲来編
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マリナとエリックの戦い

「我、求むるは魔を滅する電撃―――≪雷光(ライトニング)≫」



 直後、マリナの元から放たれた青白い電撃は彼女の周囲の魔物数体を一度に消し炭にして見せる。


 それは並みの魔法使いでは成し得ない芸当であり、その一撃からだけでも彼女が素晴らしい実力と経験を持つ魔法使いであることが窺えた。だが、幾ら彼女が優れているとはいえ、魔法を放った直後の魔法使いが無防備となってしまうのは防ぎようがない。


 魔物達は魔法発動直後のその隙を狙ってマリナへと殺到する。しかし、



「―――そうはいかないよっ!!」



 その魔物をすかさず、マリナを守るように立つエリックが対処する。


 やって来る魔物を大振りの一振りで牽制。それに怯み動きを止めた魔物達を凄まじい気迫と剣術で屠る。



「はぁぁぁああああああああああ―――!!」



 それはまさに一振一殺、否。一殺どころではない。彼が一度剣を振るえば、周囲の魔物数体が一度に切り捨てられる。

 その姿は正に鬼神のそれであり、エリックのその獅子奮迅の立ち回りからは普段の彼の穏やかな姿は想像することもできない。


 気がつけば、彼らの周囲には魔物の死体の山が築かれていた。


 それは彼らの奮戦の証であると同時に、彼らの消耗の証でもある。加えて、彼らがいくら魔物を倒せども、その数に減るような気配はない。倒しても倒してもむしろ増える一方な魔物達を前に、二人の疲れは既に限界に達していた。最早二人がここで、今この瞬間に倒れたとしても、何らおかしくはない。だが、それでも……



「マリナ、まだいけるか!?」

「愚問よ!! あなたこそ、先にへばらないで下さいね!! 我、求むるは雷禍。その雷撃は我が障害その全てを―――」



 彼らは倒れない。いや、倒れるわけにはいかないのだ。


 守りたい人たちがいる。


 守りたい絆がある。


 そして……守りたい娘がいる。


 ここで彼らが倒れれば、今逃げているはずの村長や村の皆。何より、自分達の娘であるエマ達は確実に蹂躙されてしまうだろう。



「……守るんだ。大切な村の皆を、娘をっ!!」



 エリックが剣を振るう。今の一振りで三体の魔物が上下に両断された。


 確かに、彼らに勝ち目はないのかもしれない。何せ敵は少なく見積もっても数千は居る。とても二人で倒しきれるような敵ではない。それに加え、その中に一体、明らかに常軌を逸した者が一体混ざっているとすれば尚更だ。だが、それでも、この行動に意味はある。


 少なくとも、こうして彼らが二人で魔物達と闘い、その足を止めている間は皆は逃げることができる。命をつなげることができる。


 そうすれば、まだ助かる可能性は残されるのだ。もし、その代償に自分達の命が必要だというのであれば……

 


「―――この命、喜んで捧げよう!! マリナ!!」

「ええ、終わってるわ! 巻き込まれないように気を付けてね!」

 


 エリックが襲い掛かってきたジャイアントコボルトを切り裂きながら告げた問いかけに、マリナは威勢よく答えると、練り上げた魔力を開放した。



「―――≪雷撃の豪雨(サンダーレイン)≫!!」




 響き渡る轟音。彼女魔力によって生成された雷撃の豪雨がその一帯に降り注いだのだ。


 魔物達の悲鳴が響く。数多降り注ぐその雷撃。そのうちの一つでも触れればその瞬間対象は消し炭になる。いや、例え触れなかったとしても、その落下点の周囲に居れば、その余波だけでその身が吹き飛ぶ。


 そんな雷撃の嵐。それが魔物達の集団を襲ったのだ。それはまるで一つの災害のようですらあった。


 これこそがマリナが持ちうる最大にして最強の一撃。


 その威力の代償として、多大な魔力と長い詠唱を必要とする必殺の魔法。


 それこそがこの≪雷撃の豪雨(サンダーレイン)≫であり、これを使えば、ある程度は敵を一掃できる……はずだった。



「ほう、面白い魔法を使うではないか? どれ、少し試してやろうか?」

「―――――っ」

「―――――そんな……」



 そんな、死を伴う雷撃が降りしきる中、明らかに場違いな声が聞こえて来る。


 声の主は、最も人の形に近く、同時に、最も化け物である存在だった。


 そもそも似ているのはおおまかな大きさと姿のみ、その頭からは角が生えているし、肌は黒い。背からは禍々しい黒色の羽が生えている。


 だが、何よりも恐ろしいのはその魔力だった。


 その量は計り知れない。こうして近づかれただけで、膝が笑っている。魔力について乏しいエリックですらこれなのだ。そのあたりにより詳しいマリナに至っては完全に怯えきっている。今彼女を動かしているものは娘を守ろうとする、母としての心に他ならなかった。


 しかし、幾らそれほどの相手と言えど、この魔法が直撃すればただでは済まないはず。そう考えていた二人の希望は―――あっさりと打ち砕かれた。



「―――ハッ!!」

「……なっ!?」 

「……ウソでしょ……私の魔法を、素手で……?」

「ふむ、なんだよこの程度か? 存外つまらんものだな……まぁいい。貴様らにはもう少し楽しませてもらおうか? おい、お前ら、あれは俺に遊ばせろ、いいな?」



 自身の渾身の魔法が素手の一振りで打ち払われた衝撃に、一瞬呆然自失となるマリナ。


 そんなマリナへと、一言でもって魔物を牛耳った男が迫る。


 

「―――させるかっ!!」



 その射線上に立ちふさがるエリック。


 直後、衝突する二人。ギンッという金属音と共に、金属の剣と素手が競り合うという異常な光景が出来上がる。


 

「ほう、その剣、幾ら加減しているとはいえ、我の一撃を受け止めるとは中々のものだな……。いや、それだけではなく、主の技量が卓越しておるのか? ハハハ、面白い! 実に愉快! いいぞ、もっと我を楽しませろ!!」

「くっ……ぐぁ……がぁぁぁあああ―――!! マリナッ! しっかりしろ、マリナッ!!」



 その一撃はふざけていた。たった一度。たった一度それを受けただけだというのにもかかわらず。既に体が悲鳴を上げている。少しでも、少しでも気を抜き、力を緩めれば、たちまち自分は肉塊になる。


 意識を絶やすな、眼を開け、心の炎に薪をくべろ。


 そして、信じろ。自分の相棒を、愛する人を、必ず彼女は立ち上がると!


 思いを胸に、エリックは吠える。



「マリナぁぁぁああッ――――!!!」

「我、求むるは電撃の矢―――≪雷の矢(サンダーアロー)≫!!」

「バカめ! こんなもの避けるまでも……っ!?」



 エリックの声に答えるかのように凄まじい速度で飛来した雷撃の矢を前に、一度距離をとる化け物。いや、この時には既にエリック達にはその存在が何なのか見当はついていた。



「ありがとうマリナ、助かったよ」

「いいえ、それほどでも、あんなに名前を叫ばれたら答えないわけにはいかないでしょ?」

「……ふむ、面白い。ただの雷撃では効果が無いと悟り、ピンポイントで我の目を狙って来るとはな。そこまで精密な魔法のコントロールができる者はなかなかおらぬよ」



 まるで、興味深いものを見るような顔で、薄らと笑みを作りながら二人を見る。化け物に対し、エリックは警戒を一切解かぬままに問いかけた。



「―――貴様、まさかとは思ったが、やはり魔人か?」

「ハハハッ!! いかにも!! 我は魔族三将軍が一人、魔人アドラメレク。あまりにも退屈だったのでな、一つ遊びに来てやったのだよ」



 鋭い敵意を向けるエリックとマリナに対し、まるでそれを何とでもないとでも言うかのように、アドラメレクはそう答えるのだった。

 


 

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