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付与術師の異世界ライフ  作者: 畑の神様
タール村編
7/93

記憶喪失?

 


 彰がマリナ達に連れられリビングに行くと木製の机に椅子が4つあり、そのうちの一つに人の良さそうな顔をした男の人が座っていた。



(あっもしかしてこの人がマリナさんの夫かな?)



 そう考えた彰はとりあえず自己紹介をすることにする。

 やはり第一印象というものはその人のイメージを形作ってしまうもの、ここで気を抜くわけにはいかないのだ。



「は、初めまして、俺の名前は彰です。

 助けていただいてありがとうございました」

「これはこれはご丁寧に、私はマリナの夫でエリックだよ。

 元気になったみたいで良かった」

「だいぶお世話になってしまったようで……本当すみません」

「いやいや気にしないでくれ。困ったときはお互い様だよ」



 丁寧な言葉使いと優しい口調からマリナの夫であるエリックも優しい人のようだ。

 自分を拾ってくれた家族がいい人ばかりの家でよかったと、彰は少し安心する。



「はいはい、話はその位にしてとにかくご飯にするからアキラも座って座って!」



 ご飯を持ってきたマリナにそう言われて初めて彰は自分が立ったままで自己紹介していたことに気づき、エリックの隣の席に着く。

 因みにエマはとっくにアキラの正面に座ってヨダレを垂らしかけながら待っていた。

 マリナは持ってきたスープとパンを一人一人の前に置くと、自分もエマの隣に座る。



「お腹空いちゃったわね。早速食べましょうか」



 そう声をかけるとマリナ達は思い思いに食べ始める。

 彰もそれにならって食べ始めようと食器に手を伸ばしたところで、自分が言わなきゃいけないことを言い忘れているのに気付いた。

 やはり食材とそれを作ってくれた方への感謝は忘れてはいけない。



「いけね、言うの忘れてたな。

 “いただきます”っと、これでよし、さて、どれから食べようかな?」



 さて、これで思い残すことはないと彰は今度こそ食器を手に取り、食事を食べ出そうとするが……。



「あれ、どうかしました?」



 それを見ていたマリナ達が手を止めて不思議そうな顔をしているのに気付き手を止めた。

 自分は何か不思議なことをしただろうかと、彰は思案するが思い当る節は何もない。

 彰が首を傾げていると、エマが元気のいい声で質問してきた。



「アキラお兄ちゃん、それなーに?」

「……それ?」



 エマに質問されるが皆が不思議に思うようなことをした心当たりのない彰には“それ”が何なのかわからない。



「今の“いただきます”ってやつのことよ、アキラ」



 マリナにそこまで言われて彰はやっと気づく。

 ここは異世界だということを失念していたのだ。



(そうか、ついいつもどおりやらなきゃと思ってやっちまったけど、この世界じゃ食べる前に『いただきます』って言う習慣はないのか……さてどうしようか……)


 

 彰は慌てて即興で言い訳を考える。

 風習とかにしておけば都合がいいだろうか?

 ゆっくり考えてる時間はない。



「え、あーこれは俺の故郷の風習で、食べ物とそれを作ってくれた人達に感謝するっていう意味があるんです」



 彰は困った挙句、少し遠回しに風習ということにして説明する。

 不審に思われないか? 本当にこんな理由で納得してもらえるのか? と、かなり不安になる彰だったが、



「そうなのか、アキラ君の故郷にはとてもいい風習があるんだね。

 どれ、私もひとつ“いただきます”」

「エマも! エマもする!“いただきます”」

「それじゃ私も“いただきます”」



 と、みんながいただきますを言い始め、納得してもらって安心する反面、少し困りながら食事を食べ始める彰であった。



◆◆◆◆◆◆





「さて、ご飯も食べたしそろそろいろいろ話してもらおうかしらね?」



 あれから彰達がご飯を食べ終えるとマリナは電光石火の速さで食器を片付け、質問攻めにする用意を即座に整えてきた。

 場を完全に整えられてしまっては逃げだすにも逃げ出せない。

 それを見た彰は、慌てて逃走を図ったものの、『お兄ちゃん、どこ行くの?』とあっさりとエマに捕まってしまい、こうして問い詰められているのだった。



(うーん、こりゃ困ったな……話すのは別に構わないんだけど信じてもらえるのかね?

『突然元居たとことは違う世界に飛ばされて一週間森の中を彷徨ってました! てへぺろ☆彡』

 ……うん無理だな。絶対無理。

 俺だったら速攻殴り飛ばしてるわ……どうしよう、いやまじで……)



 悩んだ末に、彰はあの作戦を使うことにした。

 それはそう、歴代の異世界トリップ主人公たちが総じて使ってきたあの伝説の作戦……その名も……



「あっあの、えーとですね。

 ……俺は……そう! きっ記憶喪失! 記憶喪失なんですよ! だからなんも覚えてなくて……」



――――そう、伝説の記憶喪失作戦である。


 これさえ使えばお気の毒に……などという感じでそれ以上の追及をシャットアウトする魔法の言葉、それこそが“記憶喪失”なのである!!

 これさえ使えば、どんな状況でも何の問題もなく……



「でもアキラお兄ちゃん自分の名前とか、故郷の風習とか覚えてたよ?」



 いかなかった……と、彰は落胆する。

 まさかこの作戦で最初に立ちはだかる障害が無垢な少女だとは思いもしなかった。

 彰は想像以上のエマの鋭さに早くも作戦の失敗を予感させられる。



「そっそれはあれだよ、言葉は忘れてないのと同じで、名前とか、身に沁みついてた習慣とかは記憶喪失になっても忘れないものなんだ! ハ、ハハハ……」



 ここまで見てもらったことで言うまでもないだろうが彰は嘘がつけないタイプである。

 基本的にバカなのだから仕方がない。

 そしてマリナとエリックが黙ってジッと彰を見ていることに冷や汗ダラダラ、脇汗もダラダラの彰である。



(や、やっぱり無理があったか?)



 というか、無理しかないということに彰は気づかない。

 これで騙されるのは幼児くらいのものだろう。

 ……いや、下手すれば幼児でも難しいかもしれない。

 そんな嘘とバレバレの言い訳を聞いていたマリナはしかし、大きなため息を吐くと、諦めたように言う。


「……はぁー、わかったわ。

 何か事情があるみたいだしそういうことにしといてあげましょう。

 あなたもそれでいいわね?」

「まあ悪い子じゃないみたいだしマリナがそう言うなら構わないよ」

「あっありがとうございます……」



 マリナ達がいい人でよかったと彰は心底安心した。

 マリナはそうと決まればと、言った感じで立ち上がると、そこにいる全員を見て言う。



「まぁとりあえず、いろいろ落ち着くまで家に居ればいいわ。

 どちらにしろ今日は外ももう暗いし」

「うん、そうだね。そうするといいアキラ君」



 これからどうしようかと困っていた彰にはありがたすぎる提案をしてくれるマリナとエリック。

 丁度今彰の方から同じことを頼もうと思っていたのにまさか相手の方から提案してくれるとは思っていなかった彰は遠慮と驚きの混じった声で返した。



「えっいいんですか?」

「いいんだよ。その代わりちゃんと働いてもらうからね」

「じゃあ、すいません。お世話になります」



 そのくらいは居候するからには当然の義務だろうと二つ返事で彰は了承する。



「えっアキラお兄ちゃん家に住むの!? やったー」

「おやおや、そんなにうれしいのかい? エマ」

「うん、エマね、アキラお兄ちゃんにいっぱい遊んでもらうの!!」

「そうかそうか、それは楽しみだね、エマ」



 どうやら遊ぶことに関して彰に拒否権は無いらしい。

 でもそれくらいなら問題ないかと、彰はこれからの生活に思いを馳せて笑みを浮かべる。

 とにかく、こうして彰の当分の居候先が決まったのだった。



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