彰vsチャンピオン
「……それでは、闘技大会最終戦、挑戦者アキラVSチャンピオンイーヴァルディ――――――試合開始です!!」
(相手はこの闘技大会の覇者、加減はいらないっ! 行くぜっ!!)
「――――はッ!」
「……?」
(どういうつもりだ? 何故明らかに届かないこの間合いで……面白い、見してみたまえ!)
彰は司会の声が響いたその瞬間にその場で剣を左に薙いでいた。
彼が剣を薙いだ時、傍目には滑稽な姿に移ったであろう。
もしかするとふざけているかのようにすら思えたかもしれない。
だが、彼のその行動はふざけているどころか無意味ですらなかった。
確かに、そのまま彼が剣を振り切ったところで、本来なら剣はただ虚しく空を切るのみであったろう。
しかし、彰は剣を振り始めた直後、“瞬間雷化”を発動。
その刹那の間のみ雷電と化した彰の速度は、一瞬にして二人の間に存在した距離を零へと還元する。
それは見ている者からすれば、まるで彼が消えてしまったかと錯覚してしまうほどだ。
結果、彰のすでに振り出された当たらない筈の斬撃は、一瞬で彰がイーヴァルディの懐に潜り込んだが故に、必殺の斬撃へと変貌していた。
「――――なっ!?」
突然目の前に現れた彰に驚くイーヴァルディ。
だが、そうして狼狽している間にはすでに彰の剣は振り出されている。
(このタイミング……獲ったか? いや……)
確かに並の人間には反応できるものではない、普通であればその一撃は容易に敵を切り裂き、その意識を刈り取ったことだろう。
だが……彰が普通でないのと同じく、敵も普通ではないのだ。
――――キンッ!!
次の瞬間、甲高い金属音が闘技場に響き渡る。
彰の放った斬撃はイーヴァルディの巨大な剣により止められていた。
(くっやっぱりか……!!)
「へぇ~、こんな動きができるなんてやっぱり君は面白いな! これなら私も楽しめそうだっ!!」
そう言うとイーヴァルディはその人の身程はあろうかという巨大な黒剣をあろうこか片手で振り、彰の剣ごと両断しようとしてきた。
「なっ!! おいおい、どこにそんな力があんだよ!!」
圧倒的リーチと馬鹿げた破壊力を持つその斬撃を前にし、しかし彰はその巨剣に真っ向から勝負を挑んだ。
それは周囲から見ればただの愚行である。
イーヴァルディの斬撃に、今の彰の斬撃が相対できないことは日の目を見るよりも明らか。
しかし、彰にはまだこの上が存在している!
(同時特性付与―――剣に"硬化"、身体に"怪力化"!!)
瞬間、剣はその硬度を大幅に上昇させ、彰の体には力がみなぎり始める。
「はぁぁぁぁああぁぁぁ――――!!!」
――――ガキンッ!!
そして、闘技場に再び無骨な鉄の音が響き渡った。
「なっ! まさか我が魔剣の斬撃をそんな剣で受け止めただと!?」
「お、やっと焦った顔しやがったな……てか、それ魔剣なのかよ……だがまあいい、まだまだ勝負はここからだぜ?」
彰はそう言うとイーヴァルディを大きく弾き飛ばし、袈裟懸けに剣を振るう。
イーヴァルディはそれを魔剣でもって迎え撃つ。
再び響く鉄の音。
彰の剣はまたしてもイーヴァルディの魔剣と拮抗していた。
そこからさらに二度、三度と切り結んで行く二人。
彰が上段から斬りかかればイーヴァルディはそれを真っ向から受け止めてはじき返し、続いてイーヴァルディが横薙ぎに剣を振るえば彰はそれを受流しながら次に攻撃へと発展させ、再び斬撃を繰り出す……
そんな一進一退の攻防の中、先に均衡を破ったのは彰の方であった。
彰はイーヴァルディの斬撃を受流したその直後、"瞬間雷化"。
一瞬にしてその背後をとると、そのまま剣を袈裟懸けに振り下ろす。
しかし、イーヴァルディもこの動きに超反応。
このありえない方向からの斬撃に対し、何とか魔剣を当てる。
しかし、それはあくまで当てただけ。
徐々にイーヴァルディの魔剣が押されていく。
「はぁぁぁあああぁぁぁ―――!!」
「くぉぉぉおおおぉぉぉ―――!?」
そして、もう少しで彰がイーヴァルディの魔剣を押し切るかと思われたその時だった。
――――ピシッ
彰の剣が悲鳴を上げた。彰の剣に亀裂がはいったのである。
直後、彰の剣に入った亀裂は瞬く間に広がり、パリンッという音と共に彰の剣は砕け散った。
「なっまじかッ!?」
(まさか"硬化"をかけた剣が折れるなんて……ちょっと無理しすぎた?
まあ、あの剣技は本来は刀でやるもんだからな当然っちゃ当然なのかな……?
いや、強度だけなら西洋剣の方が上だろうし、幾ら無理したっつっても俺の"硬化"がかかってればこんなにすぐには折れないはず……とすると何らかの方法で俺の術が解かれたのか?
だとしてもどうやって……う~む、わからん……)
剣を砕かれた彰は急いでイーヴァルディから距離をとりながら、思考を働かせる。
そこに、イーヴァルディがしてやったりと言った顔で語りかけてきた。
「どうやらその顔、やはり剣に何か魔法をかけていたようだね?
まったく……魔力量が100しかない筈の君のどこからそんな魔法を発動させられるほどの魔力が出て来るのか気になるところだね」
(まぁもっとも、それが魔法かどうかすら怪しいみたいだけどね……)
イーヴァルディは彰が試合中に言っていたことを思い出し、内心そんなことを思いながら言葉を続ける。
「まぁとにかくだ。これでキミの武器は無くなってしまったわけだけどどうする? まだ続けるかい?」
「はっ!! お前は俺の試合を全部見てた癖にもう忘れちまったのか?
俺の戦い方には別に武器は必要ないんだよ。
むしろここからが本番だろ?」
(わからない事をいくら考えてても仕方ない。闘ってればそのうちなあんかわかるだろ!
それに……なんかあいつムカつく!!)
そうして彰は早々に思考を切り上げると、再び、今度は無手の構えをとった。
「ハハハッ!! そうだったねアキラ君、君には武器は本来不要なんだったね。
忘れていたよ! そうだ、そうこなくっちゃっ!! やはり君は面白い!!
もっと、もっと私を楽しませてくれッ!!」
イーヴァルディは恍惚とした笑みでそう叫ぶと魔剣で切りかかって来る。
元々人の身ほどはある剣、そのリーチはすでに剣を持たない彰には大きなハンデだった。
案の定まだ、1m以上は距離があるのにもかかわらず、イーヴァルディの剣閃はすでに彰を射程圏内に捉えている。
しかし、素手となった彰が戦うためにはまず接近する事が第一条件。
そんな絶望的状況を前にして、しかし彰は前へと踏み出した。
迫る魔剣、かの剣は敗北を引き連れて彰へと迫ってくる。
そして、その敗北が彰すらも飲み込まんとしたその直後。
―――――彰は魔剣の攻撃範囲を強引に抜けた。
彰は魔剣の一撃がその身に降りかかるちょうどそのタイミングで"瞬間雷化"を発動。
文字通り、魔剣の攻撃をすり抜けたのである。
「なっ!? 私の魔剣の一閃をすり抜けただとっ!? く、まずいっ!」
イーヴァルディが焦って体勢を立て直そうとするがしかし、攻撃直後、否、攻撃中の、しかも全力で振り切ったその剣を中空で止めることなど不可能。
必然、その無防備な肉体を彰の前にさらすことになる。
そして、彰はこの隙を逃さない!
「行くぜっ!! ≪属性拳闘術≫奥義、“属性連撃”!!」
それは彰がイーヴィディルにとどめを刺した技、今の彰が持つ最大火力の連撃である。
幾らイーヴァルディと言えどもこれを無防備な状態でくらえば無事では済まない。
会場の誰もが、そして彰本人すらも価値を確信した――――その時だった。
―――――絶体絶命なはずのイーヴァルディが不敵に笑みを浮かべたのは。
「――――――がはッ!!」
直後、彰を壮絶な精神負荷が襲った。
そう彰はもっと考えるべきだったのだ。
イーヴァルディが口にした"魔剣"という言葉を……。
―――――《魔剣ダインスレイヴ》が今、彰に牙をむく!




