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付与術師の異世界ライフ  作者: 畑の神様
ウォードラス編
62/93

彰vsレオン、決着

「―――――終わった……かな?」



 彰は自身が放った風の刃が作り出した結果を見ながらそう呟く。


 彼が繰り出した風の刃は、地面を切り裂き、大気を穿ち、レオンの着地点であろう場所に盛大な被害を及ぼしていた。


 今はまだ、風の刃の影響で土煙が立ち上り、良く見えていないが、司会がレオンの気絶を確認し、彰の勝利を宣言するのも時間の問題であるように思われた。



「悪かったな、レオンさん、まあ新技まで見せたんだ、それで我慢してゆっくり休んでくれ」



 彰がその場に背を向けて、イーヴィディル戦に気持ちを切り替えようとした、その時。



―――――あり得ない筈の、声が聞こえた。



「オイオイ、ツレナイネ、折角奥ノ手ヲ出シタンダ。モウ少シ付キ合ッテクレヨ?」



 そう告げるレオンの体は一噛みで敵を葬れるであろう牙と、最早凶器ともいえる長く鋭利な爪を持ち、その体躯は今までよりも一回りか二回りほど大きい。


 さっきまでは人と変わらなかった肌からは、まるで獣を思わせるような毛が生えている。


 彰はこの世界の常識を知らないがために気付くことはなかったが、それはこの世界における、『魔獣ワーウルフ』の姿そのものであった。


 その姿を見て、彰はこの闘技大会において、初めての動揺を見せる。



「―――なっ!? レオンさんその姿はいったい……それに、なんか口調も変だし……」

「アア、コレカイ? コレハ≪魔獣化≫ト言ッテナ、自身ヲ魔獣二変身サセル俺ノコレ以上ハ無イ奥ノ手サ、マァモットモ、コノ姿ニナルト自我ガ不安定ニナルカラアマリ使ワナイナインダガナ、言葉遣イノ変化モソノ影響ダ」

「≪魔獣化≫ねぇ……あんまり強そうに見えないけど?」

「―――ヌカセ、今ニワカル」



―――レオンが人が変わったような口調でそう告げた次の瞬間、レオンは彰の視界から消えた。



「―――なっ!?」



 それはこの大会において、二度目となる彰の動揺。


 しかし、それも無理はない、この世界に来てから、彰自身が敵の視界から消えたかのように錯覚させたことは数多くあれど、その逆の立場を経験したのは初めてだったのだから。


 だが、レオンは彰にできたその隙を見のがさない。


 魔獣化したレオンは、今までの速度の数段は速い速度でアキラの背後に回り込むと、右手に携えた凶器を振り下ろした。



「くっ、速い……!!」



 その爪による斬撃に対し、彰は≪属性拳闘術(エレメンタルアーツ)≫で対抗する。


 彰は即座に自身の右腕に土属性を付与、硬化させた腕で爪の斬撃を受け、そのまま反転。


 体をレオンの方に向けると、雷を纏った拳を繰り出す。


 だが、さっきまでと違い、レオンはもう片方の爪を用いて、雷を纏った拳ごと彰を切り裂こうと斬撃を繰り出してきた。



「くっ……!!」



(く、さっきよりも反応が遥かに良く成ってやがる!!)



 彰は自分の拳を信じ、真っ向からレオンの鋭利な爪に勝負を挑む。


 そして衝突し、拮抗する両者。


 しかし、それは一瞬だけ。


 レオンが雷を纏った拳に対し、的確に爪だけに当たるように対応しているため、電撃が流れず、勝負がただの拳対魔獣の爪となってしまった結果、レオンの爪は彰の拳ごと彼を切り裂いたのだ。



「-――――くっ!!」



 爪で切り裂かれたダメージが精神ダメージに変換され、彰を襲う。


 この闘技大会で初めて経験する大きな精神ダメージに、彰の意識は思わず沈みそうになる。


 だが、それでも何とか意識を保った彰は即座に後退し、距離をとった。



(くッ……これが精神ダメージ、こりゃあ思った以上に辛いな……リンはこんなものをあんなに耐えていたのか……)



 彰は自分のダメージを誤魔化すように、大粒の汗を大量に流しながら口を開く。



「流石は奥の手、さっきまでとは動きも反応も段違いだな……ここまでそんなものを隠してるなんてさすがと言ったところか……」

「オイオイ、何言ッテヤガル。

 サッキカラズット俺相手ニ奥ノ手隠シテ、ソノ上節約シテ戦ッテルヤツニ言ワレタクネェナ」



 レオンは心底不機嫌そうに彰に言い返す。


 彰はそれに対し、また少し申し訳なさそうな顔をして言う。



「悪いね、ちょっとこの次の相手に特大のお灸を据えなきゃいけなくなっちまったからな。

 節約して―――――」

「―――――ソレダ、ソレガ気ニクワネェ」



 しかし、それはレオンの一言に遮られた。


 レオンは苛立ちを含んだ声で続ける。



「オ前ハサッキノ娘ノタメニ勝トウトシテルンダロウガ、アノ娘ガ今ノオ前ノ、タダ作業ノヨウニ戦ウ、オ前ヲ見テ、本当ニ喜ブト思ウノカ?」

「え……作業みたい、だと……?」



 レオンの発言に困惑する彰、そんな彼の反応を見ながら、レオンは続けた。



「アア、ソウダ。ココマデノオ前ハ、良クモ悪クモ、戦イヲ楽シミナガラヤッテイタ。

 シカシ、今ノオ前ハドウダ?

 タダ使命感ニ捕ラワレ、作業ノヨウニ戦イヲコナシ、ツマラナソウニ戦イヤガル。

 ソンナ今ノ、オ前ガ優勝シタトシテ、アノ娘ガ心カラ喜ベルト本気デ思ッテイルノカト聞イテイルンダ」

「…………」



 彰はレオンの怒気を含んだ発言を聞き考え込む。



(そうだ……俺はどうしてこんな戦い方をしてんだ……?

 こんな戦い方は俺の戦い方じゃない。

 相手との戦いを楽しみながら戦う、それこそが俺の戦闘スタイルだったはずだ。

 いったいなぜ……ってそうか、そんなの考えるまでもないな、俺は動揺していたんだろう。

 仲間が、リンがあそこまで痛めつけられたことに、俺は激しく動揺してたんだ……)



―――――そして、彰は静かに立ち上がる。


 その顔は今までのように、申し訳なさそうな顔ではなく、この戦いを楽しもうとする、彰のいつも通りの顔だった。



「悪かったな、レオン。ここまで腑抜けた戦いをしちまって」

「良イッテコトヨ。マァ、ソノ代ワリト言ッテハナンダガ、ココで敗退シテクレ」



 レオンは獣の顔で、不敵に笑いながら言う。


 それに対し、彰も不敵に笑って言葉を返した。



「はは、悪いがそれは聞けないな。

 そんでもって、こちらもその代わりと言ってはなんだけどさ―――――俺の本気を見せてやるよ」

「ホウ、オ前ノ本気カ、ソリャ楽シミダ」



 以前不敵な笑みを崩さないレオン。



「そんじゃあ行くぜ? 特性付与―――“雷化”」



 彰がそう言った直後、彼の体が雷電に包まれる。否、雷電そのもの(・・・・・・)へと変化していく。


 そして、やがて、彰の体はその全てが雷電へと変化を遂げ、雷の化身が顕現した。



「ホウ、ソレガ、オ前ノ本気ッテヤツカ……面白イ、ソノ実力、見セテモラオウッ!!」



 そう叫ぶと、レオンはさらに数段速く、彰へと接近し、その双爪を振るう。


 しかし、その程度の速さでは―――足りない。


 否、そもそもそう言う次元の問題では無いのだ。


 なぜなら、そもそもな話、雷人と化した彰には……。



「―――ナニッ!?」

「悪いな、今の俺には一切の物理攻撃は通用しないんだわ」



 そう楽しそうに笑みを浮かべながら告げた彰は、隙だらけのレオンの鳩尾に当たる部分に正拳突きを決める。



「―――――ガハッ!!」



 雷電のダメージと正拳突きのダメージその両方を受けたレオンの意識は遂に途切れた。


―――――しかし、まだ彼の腕輪は外れていない。



「グガァァァァアアアァァァ―――――!!」



 レオンは自分の自我と引き換えに、倒れることを防いでいた。


 完全に魔獣と化したレオンは、虚空を蹴って進みながら恐ろしい速度で彰へと襲い掛かる。



「なるほど、魔力で足場を作ってんのか……流石だな。でも……」

「グオォォォオオオォォ―――――!!」



 獣雄たけびを上げながら突っ込んで来るレオン。


 その速度は十分に脅威。


 その動きを前にしたものは皆、為す術なく切り裂かれていくのが常道なのであろう。


 しかし―――――彰はその上を行く!!



「―――ただの獣じゃ、俺は倒せない!!」



 彰は雷速で突っ込んできたレオンの真上に移動すると、構えた。



「レオン、お前との戦いはいい戦いだった、だから、俺もお前に全力でこたえよう!!」



 そう言って、彰は力を右拳に集約させる。

 レオンの視線は彰の動きを追っているが、体はそれについてこない。

 今、レオンは彰の前に決定的な隙をさらしていた。

 あとは彰がその拳を振り下ろすだけだ。



(ああ、君になら、私は……)



 その彼にとっては敗北を示す光景を前にして、レオンは笑う。

 そして、彰の拳が振り下ろされるその直前、“ノエルを頼む”と、小さく告げた。

 それに彰は“言われるまでも無ぇ”と、そう答えるように不敵な笑みを浮かべると、



「はあぁぁぁああぁぁぁ―――!!」



 気合の声と共に、自らの右拳を振り降した。


 レオンはその彰の姿を見て、どこか満足そうな笑みを浮かべると抵抗することなく、彼の拳をその身に受ける。

 徹甲弾の如き威力を宿した彰の拳は、問答無用で最後に残っていたレオンの意識を刈り取りとった。


 戦いの喧騒は止み、後に残るは地面に横たわるレオンと、拳を振り下ろしたままの彰。

 動かない二人、しかし、その沈黙を破るように、レオンの腕輪が外れ、地を転がり、カランッという簡素な音が会場に響き渡る。



―――――それはこの激しい戦いの決着、もとい、彰の勝利を意味していた。





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