彰vsレオン
両者の内、先に動いたのはレオンの方であった。
レオンは彰の先手を取るように地を強く蹴って彼へと向かう。
レオンには、アキラのここまでの戦いぶりや、ここまでの身のこなしなどからノエルよりも強いということはすでに察しがついていた。
故に、ノエルとほぼ互角の勝負を繰り広げた自身が勝つためには、常に後手で回ってはいけないと本能的に理解していたのだ。
「君相手に手加減など不要、最初から全開で行かせてもらおう!!―――――≪超過駆動≫」
瞬間、彼の体は物理の枷から解き放たれ、その速度は音を超える。
しかし、その代償として、体中が悲鳴を上げるが、そんなことは今のレオンにとっては些細なこと。
そして、レオンは音速を超える速さで彰に肉薄すると同時に二刀を抜刀、恐ろしい速さでアキラに斬りかかってくる。
―――――否、斬りかかったはずだった。
「―――――≪瞬間雷化≫」
「―――なっ!?」
彰は音速を超える速さで迫って来たレオンに対し、雷速で対応して見せる。
それは音速対光速の戦いに他ならない―――!!
必然、軍配は彰に上がり、彼はレオンが斬りかかってきたその一瞬に彼の背後をとっていた。
(馬鹿なっ!! ≪超過駆動≫を使った私が速さで負けるなどあり得るのか!?
違う、そうじゃない!! 今考えなければならないのはそんなことではなく、ここからどう対応するかだ!!)
「うぉぉぉぉぉおおぉぉぉ―――!!」
背後をとると同時に、レオンを上回る速さで抜刀、逆袈裟に斬りかかって来た彰の剣を、レオンは≪超過駆動≫を連続使用。
会場中に響き渡るほどの叫び声を上げながら彰の剣に対応。
ギリギリのタイミングで右手の剣を合わせる。
「―――くっ!」
(何て衝撃だ……このままじゃ押し切られるっ!!)
そう直感したレオンはそのまま体を回転させ、左手に持つ剣で自身の右手の剣を押し込むかのようにその後ろから剣戟を加え、そのまま剣ごと彰を斬りにかかった。
二対一では流石に敵わず、吹き飛んで行く彰の剣。
(これで少しは……まて、私が切ったのは剣だけではなく、本人もろともだったはず!!
本人は一体どこに……)
見失った彰を探そうと、ほんの一瞬とはいえ、レオンの視線が彷徨う。
そして、
「―――――お探し物は俺か?」
そんな声が、すぐ下から聞こえてきた。
「―――なっ!! 馬鹿な!?」
(私の視線が吹き飛ばされた彰君の剣に向いたその一瞬に懐に入り込んだのかッ!?
いや、違う、幾ら彼でも咄嗟にそこまでの反応は難しいはず……。
ならば結論は一つ、あの剣は私に吹き飛ばされたんじゃない、彼が意図的に吹き飛ばしたんだ!!)
そこで、レオンはひとまずの危機を乗り切ったと、勝手に信じ、警戒心を緩めてしまっていた自分に気づく。
「まず―――――」
「もう遅い!! 特性付与―――“怪力化”ぁぁぁああ!!」
「かッ――――――!!」
彰の強化された一撃をその身に受け、弾丸のように吹き飛ばされるレオン。
だが、レオンも伊達に場数を踏んではいない。
彼は彰の剣戟が当たる直前、咄嗟に≪超過駆動≫を使い、超反応。
自ら剣閃の方向に飛ぶことで、何とかいくらかの衝撃を逃がしていた。
しかし、それでもこの一太刀のダメージは少なくない。
開始早々にも関わらず、すでに身体を動かすことは億劫。
過負荷による本人へのダメージは変換しない結界故に、度重なる≪超過駆動≫の連続使用で体はボロボロであった。
「悪いな、レオンさん……いつもならもうちょい長く楽しむとこなんだが、今はなるべく消費を抑えたいんだ。
でも、最大限の敬意を払って、俺のとっておきの一つで一気に決めるからさ、それで勘弁してくれ。
だから……これで終わりだ」
彰は申し訳なさそう、否、残念そうな顔でそう告げる。
「―――行くぜ? みせてやるよ俺の新技、≪属性拳闘術≫を……」
それだけ言うと、彰は試合を決めに、動いた。
迫る彰に対し、レオンはボロボロの体ながら、冷静に対応を考える。
(エレメンタルアーツとはいったい……とっておきと言っていたが、見たところ彼に大きな変化は見られない、ここはひとまず、無難に対応し、様子を……はっ!!)
そこまで考え、レオンは自身の致命的な過ちに気づく。
そう、それはこの戦いの始めに自分が本能的に理解していたはずの事……。
(しまった……いつの間にか私が後手に回ってしまっている!! このままではやられるッ!!)
そう気づき、ここに来てやっと攻勢に出ようとするが、しかし、遅い。
自身の体を動かすことの億劫さ故に、無意識に後手に回ろうとしたその一瞬。
それだけあれば、彰には十分すぎた。
≪瞬間雷化≫を使い、瞬時に距離をレオンとの間にあった距離を殺すと、彰は右ストレート繰り出す。
そして、
(―――部分属性付与―――“炎”!!)
彰の右腕は炎を纏い、レオンに襲い掛かるっ!!
「くッ!? 手に炎を纏っただとッ!?」
レオンは場数を踏んでいるはずの自分が初めて見る現象に驚きを隠せない。
だが、レオンは迂闊に触れることすらできないその攻撃を、重い体を動かし、半身で避けて見せた。
しかし、紙一重で避けたが故に、彰の腕が纏っている炎の余波をくらってしまい、顔をしかめる。
(まさか体に炎を纏うとは……流石はノエルの師匠と言ったところか……だが、これで!!)
大技を放った直後、その隙を狙い、レオンは攻撃をしかけようとする。
だが……
「おいおい、レオンさん、俺のとっておきはまだ終わってねーぞ!!」
そこでは、左腕に二つ目の属性、雷を宿した彰が次撃を放とうと左腕を構えていた。
「―――なッ!?」
その光景に、レオンは再び驚愕する。
しかし、これはレオンに限らず、彰を良く知り、その付与術の存在を知っている者でも驚いたに違いない。
なぜなら、付与術という技は本来、一つの物に二つの付与はできない筈だからだ。
しかし、今の彰は左右の腕で別の属性の付与を可能にしていた。
これは彰のこの世界に来てからの修業の成果の賜物である。
彰は自身の体を今までよりもさらに微細に、しっかりと理解することにより、自らの体を左腕、右腕、左足、右足と、いくつかの部分に分別して付与することを可能にしたのだ。
もっとも、できるのは明確にイメージしやすい属性付与のみで、イメージが難しい特性付与はまだ実現できていないが、それでも十分。
そして、彰がそれと、自身の格闘術を融合させてできたのがこの≪属性拳闘≫。
彰の持ち前の体術だけでも脅威に値するのに、そこにあらゆる属性の嵐、これは誰にとっても脅威であろう。
そして、その矛先を向けられているレオンはそれでも、限界の体に鞭を打ち≪超過駆動≫を駆使して、この窮地を乗り切ろうとする。
レオンは雷撃を纏った拳を目にした瞬間、≪超過駆動≫を発動、咄嗟にバックステップで距離をとるが、しかし、間に合わない。
叫ぶ間もなく、雷撃の拳を受け、吹き飛ばされるレオン。
(く、意識が……いや、それだけじゃない……体が痺れて……まずい、まだ何か来る!!)
レオンがそう直感した通り、彰は一気に勝負を決めにかかる。
(部分属性付与―――“風”!!)
「はぁぁぁぁぁああぁぁぁ―――!!」
彰は今度は風を纏った足で、空中に強烈な蹴りを放つ。
彰の強烈な蹴りと、風の属性が合わさった結果、そこに風の刃が顕現し、レオンを切り裂かんと襲い掛かった。
(今度は風の刃だと!? くっ、体が痺れて思うように動かん……このままでは私の負け、か。
已む終えん、これを使うと自我を保つのが困難な故、なるべく使いたくなかったが、彼に勝つにはこれしかない!!)
―――――そして、レオンがそう覚悟を決めた次の瞬間、彼を彰の放った風の刃が襲った。




