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付与術師の異世界ライフ  作者: 畑の神様
ウォードラス編
60/93

決断、そして第二試合

「リン……たっく、無茶しやがって……」



 彰はベットに横たわるリンを見ながら、そうつぶやく。


 あの後、彰によって素早く治療室へと運ばれたリンは、常駐していた治癒術師に治療を受けたものの、リンの精神ダメージはかなり酷く、まだ目を覚まさないでいた。



「……でもアキラ、リンはアキラのために……」



―――こんな状態になるまで頑張ったんだよ、とそう続けようとしたノエルの口を彰が遮る。



「大丈夫だノエル、そんなことはあいつの戦いを見てれば痛い程に伝わってきたさ。

 でも……だからこそ、俺は自分が許せない。

 俺がもっとリンを強くしてやれてれば、俺がもっと早くあいつを……イーヴィディルを倒してれば、こんなことにはならなかったはずなんだ……」



 彰は自分を戒めるようにギリギリと歯噛みをし、握り拳を限界を超えて握りこむ。



「……アキラ……」


(そんなの……アキラのせいじゃないのに……)



 しかし、ノエルには自身に憤る彰の姿を前にして、その言葉を告げることができなかった。


 なぜなら、この場において、その言葉を彰に言ってあげることができるのは、今床に伏しているリン、ただ一人だからだ。


 ノエルがそれを言ったとしても、そこには本人の気持ちが伴わないのだ、たとえ本人がどう答えるか、すでにわかっていたとしても……。


 彰は眠るリンの傍らで、語りかけるように続ける。



「こんなことでお前の気持ちが晴れるとは思わないけどさ、せめてもの償いとして、お前の仇は俺がとってやるよ。

 だから―――リンはそこでゆっくり休んでてくれ」



 意識の無いリンに、それでも、伝わると信じて、自身の想いを語った彰は、ノエルの方に振り替えった。

 

 「ノエル、リンも一人じゃ寂しいだろうからさ、ここで付き添ってやってくれると助かる」

「……わかった、任せて、だからアキラは試合、頑張ってきて……」

「ああ、それこそ任せろ、俺にはもう―――負けられない理由ができた」



 彰はノエルにそう言うと、立ち上がってフィールドへと向かって行った。


―――――その心に、静かに、しかし激しく燃える“決意”という名の炎を宿して……



◆◆◆◆◆◆◆◆



「さてさて、一日を通して続けられてきたこの闘技大会の決勝トーナメントも準決勝一試合と決勝、そして現王者へのチャレンジ戦を残すのみとなりました!!

 そして、この戦いの結果如何で、決勝戦への出場者が決定します!!」



 先程の試合を見ていて、気持ちが少々盛り下がってしまった観衆達の気持ちを再び盛り上げるかのように声を張り上げる司会。


 その成果もあってか、観衆達は再び盛り上がりを取り戻し始めていた。



「さあ、この戦いを制して、決勝へと駒を進めるのは果たしてどちらの選手なのでしょうか!!

  それでは早速、登場してもらいましょう!!

  まずは、獣人としての類い稀なる身体能力を二回戦にて発揮して見せたベテラン戦士―――レオンだ!!」



 その掛け声をきっかけに、レオンは片側の出口から悠然と歩いてくる。


 彼のその歩く姿からは誰もが歴戦の戦士の風格というものを感じさせられた。


 司会はレオンの入場を確認すると、続いて彰の入場の掛け声をかけようとし―――しかし、漂うその気配に息をのんだ。


 

「…………」



 司会には特に戦闘経験などは無い、しかし、そんな人物にすら明確にわかるほどの圧倒的な気配がそこにはあった。


 その気配の前に司会は一言も発することができない。


 そんな司会の回復を待たず、彰はもう一方の入り口からゆっくりと入場する。


 彼の放つ見る者を黙らせるほどの気配、その根源にあるものは彼の強い“決意”。


 その強い“決意”を前に、司会だけでなく、観衆もその言葉を失った。


 そこに居たのは一つ前の試合までの真剣ながらも、どこか余裕を見せていた彼ではない。


 自分のために必死に戦い、敗れて行ったリンに、せめてもの償いとして、自身の“優勝”を捧げると、決意した男の姿がそこにはあった。


 その気配を前に、会場内の人々が皆一様に黙する中、彰の眼前に立つレオンだけが沈黙を破り、口を開く。


 

「君がノエルの師匠、アキラか……。

 なるほど、確かに素晴らしい実力の持ち主らしい、君が師匠なのならば、ノエルのあの強さも納得がいくというものだ。

 この戦い―――――存分に楽しませてもらおう」



 レオンは不敵な笑みを浮かべて言う。


 その表情は、これから起きる戦いを本気で楽しみにしていた。


 “彼女をあれ程までに育てた師匠……その実力はいかほどのものなのか……”と。


 しかし、そんなレオンを前にし、彰は申し訳なさそうに頭の後ろをかきながら言った。



「あ~、いつもだったら俺も楽しんで試合をしたいところなんだが……悪いな。

 今日は楽しむよりもちょっと優先しなきゃならないことが出来ちまったんだ。

 だから申し訳ないけど―――手加減はできないぜ」

「ふっ―――望むところ……」



 彰のあくまで上から目線な発言を聞き、レオンは一層笑みを強くする。


 向かい合う二人、その二人の創り出す張り詰めた雰囲気の中で、誰も言葉を発することは叶わなかった。


 だが、その法則に当人達は当てはまらない。



「―――司会、試合開始はまだか?」

「え……あ、はい!! ただいま!!」



 レオンのその言葉で、司会はようやく本来の自分の使命を思い出す。


 

「えーと、それでは闘技大会決勝トーナメント、準決勝第二試合、レオン選手対アキラ選手―――」



 そして、遂に、熟練の獣人対異世界人の戦いの幕が……



「―――――試合開始です!!」



―――――今、ここに切って落とされた。



 


 

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