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付与術師の異世界ライフ  作者: 畑の神様
ウォードラス編
50/93

予選第一回戦・ノエル

「き、決まったぁぁぁ~~!! リン選手、バロン選手、決勝トーナメント進出決定です!!」



 司会のそんな掛け声とともに、フィールドではリンが決勝トーナメント出場による歓声を受けている。


 リンとしては今まで忌み嫌われるからと潜んできたため、こういう歓声や視線にさらされたことがないのだろう。嬉しいのか困惑するのか、何とも言えない顔をしていた。


 そして、彰とノエルはといえば、待機の間リンの試合を見ようと観覧席に移動し、その活躍を見守っていたのだった。



「さすがリン、エルフの名は伊達じゃなかったな」

「……いつも…リン…頑張ってた…強いの…当たり前……」



 自分達の仲間が見事な勝利を挙げたことに、自分のことでもないのになんとなく誇らしそうな二人。


 やがて、リン達が退場し、歓声が止んだのを確認すると、司会が大会を進行する。



「いやぁ~素晴らしい戦いでした。リン選手には本戦でも頑張ってもらいたいですね。

 それでは、予選第二回戦に移りたいと思います。青の腕輪している方、フィールドにどうぞ!!」



 どうやら次の試合は青の腕輪の人らしく、それに伴って青の腕輪をつけていたノエルが席から立ち上がる。



「…次は…私の…番……」

「そうだな、頑張ってこいよ、ノエル! 俺はここから応援してるからさ」

「……任せて…」



 そう言うとノエルは階段を降り、選手専用通路からフィールドへ向かって行く。


 するとその途中、試合を終えたリンと出会った。



「ノエルちゃん、修行の成果、アキラにちゃんと見せてあげて!!」

「……うん…行ってくる……」



 そして、ノエルは再びフィールドへと足を進める。


 予選二回戦が今、始まる。

 


◆◆◆◆◆◆◆◆




 フィールドには司会の声に会わせて大勢の参加者が集まっていた。



「さて、どうやら参加者の方はもう集まったみたいですので早速始めていきたいと思います。

 皆さん、用意はよろしいですか?」



 そこで辺りを見回し、問題がないことを確認する司会。



「ではでは!! 大丈夫みたいなので始めさせていただきますよ~!

 予選第二回戦、スタートです!!」



 司会の掛け声で、それぞれ行動を開始する参加者達。

 

 戦い始める者もいれば、傍観する者もいる。

 

 しかし、異変は突然起こった。

 

 様子見に徹していた参加者の内の一人が突然倒れ、気絶したのだ。


 その近くにいた参加者達は一瞬狙撃を疑ったが、それらしき者が見えないがため、戦っているもの達の流れ弾にでも当たったのだろうと判断する。


 しかし、突然の気絶は一人では終わらなかった。


 一人、また一人と様子見に徹した参加者達が倒れ、そしてその全員の額に例外なく同じタイプの矢が突き刺さっているのを見て、とうとう狙撃と気づく。


 彼らは躍起になって狙撃手を探そうとするが、誰もその姿を確認することができない。


 それどころ『見えない狙撃手』の狙撃による犠牲者は増える一方である。

 

 そこで彼らは矢の飛んでくる方向から狙撃手の位置を把握しようとするが、矢の飛んでくる方向には誰の姿も見えず、その上全ての矢は一発ずつ違う方向から飛来してくるため、特定できない。



「クソッ!! 一体全体どうやって狙撃してやがる!! なんで矢の飛んでくる方向に誰もいないんだ!!」



 狙撃手を探す男は周囲を見渡すがやはり狙撃手の位置はわからない。


 それどころかそうして惑わされている間にも次々と狙撃の犠牲者は増え続けていた。



「チクショウッ! せっかく最初は潰し合わせて、参加者が少なくなってから勝負しようと思ってたのに予定外もいいところだぞ!?」



 男はそう叫びながらもなんとかして狙撃手の姿を探し続けるが、しかし……。



「―――――なっ!?」



 彼が驚くのも無理はない、なぜなら、彼が背後に気配を感じ、振り返るとすでに目の前まで矢が迫って来ていたのだ。


 必然、次の瞬間、矢は男の頭を貫いた。



(バ、バカな……いつの間に……)



 物理的ダメージが精神的ダメージに変換され、急激に男の意識が遠のいていく。


 そして、その薄れゆく意識のその最中、男はかすかに、だが確かに見た。


 自分の眉間に向けてボウガンを構えていた獣人の少女の姿を……。




◆◆◆◆◆◆◆◆




「……これで…10人…め……」



 ノエルは今も一人、その矢の餌食にしながら呟く。


 『見えない狙撃手』その正体はもちろんノエルその人である。


 彼女がしていることは単純で、ただ獣人の身体能力を最大限に生かし、高速で移動しながら、正確無比にボウガンの矢を放っているだけだ。


 ノエルは司会が開始の掛け声をした直後、仕掛けるでも、様子を見るでもなく、まず気配を絶ち、周囲者の意識の中から完全に消失した。


 恐らくこの時、参加者、そして観客すらもノエルの姿を彰と普段から見ているリンを除けば殆ど誰も認識することは出来ていなかっただろう。


 彼女は、参加者、ひいては観客の意識の死角に入り込んだのだ。


 人には見えていても、自然と意識していない場所が少なからず存在する、彼女はその死角を獣人としての優れた感覚を利用して見つけ出し、空気に溶け込み、一人ずつ狙撃していたのである。


 これも、速く動いているだけでは捕えられなかった彰に対し、気配も絶つようになり、それが技として身につくレベルまで昇華されていたおかげであろう。


 もっとも、それでも彰には気づかれ、対応されてしまったのだが……。


 ノエルは高速で動きながら早打ちによる狙撃を繰り返し、傍観組を打ち抜いていく。


 なお、戦闘中の奴らを狙わないのは、彼らを狙ってしまうと戦闘中で周囲に気が回らず、狙撃に気づいていない彼らに、狙撃手の存在を教えることになってしまうからである。


 そして、やがて、傍観組は全員ノエルの射撃の餌食となった。


 しかし、戦闘組も流石に異変に気づき、周囲を見渡し、狙撃手がいるとわかると、早速狙撃手を探し始める。


 だが、それでも誰もノエルの姿を捉えることはできない。

 

 まぁ最初から傍観に徹していた人たちですらその姿を見ることはできなかったのだ。


 直前まで戦いをしていた彼らが突然探そうとしたところで見つけられる通りは無いだろう。


 

「……動き、遅い…勘も鈍い…アキラ達と修行した私の敵じゃ…ない……」



 ノエルを探しながらも次々と矢で貫かれ、その人数を減らしている参加者達。


 結局、誰もノエルの姿を捉えることができず、一人を残し、全員が倒された。


 こうしてノエルも順当に決勝トーナメントへの進出を決めたのであった。



 


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