開幕
翌日、闘技場には闘技大会の参加者や、それを見に来た人の大勢が集まっていた。
どうやら、どの参加者がイースフォードへの挑戦権を手に入れるかで賭けも行われているらしく、その受付にあたる場所では大勢の人が列をなしている。
まあ彼らにとってはこの町における一番の楽しみなのだ、こうなるのも仕方がないのだろう。
「へえ~あんなのやってんのか、俺も自分に賭けておこうかな?」
「……別に…お金には…困ってない……」
「そうだね、確かに賭ければ儲けられそうだけどそのためにわざわざあの列に並ぶのはちょっとね……」
「う~ん、まあそれもそうか、正直俺は戦えればいいしな」
そんな話をしていると、周りに女子を侍らせながらイーヴィディルが彰たちのもとへとやってきた。
「どうやら逃げずに来たようであるな! よほど我輩に叩きのめされたいと見える」
「馬鹿言うな、それじゃあ俺はただのドMじゃねぇーか」
「……アキラ…ドMじゃない…バカな…だけ……」
「そうだよアキラはドMなんかじゃないよ!! ……まぁ確かに変ではあるけど」
「そこのお二人さん? 庇ってるように見せて微妙に俺の心抉りに来るのやめようかっ!?」
イーヴィディルなど別に脅威ではないとでも言うかのようにイーヴィディルそっちのけで楽しげに話す3人、その姿に自尊心を傷つけられ、だんだん不愉快になってくるイーヴィディル。
「貴様ら……我輩をさしおいて歓談とはいい度胸であるな……」
額に青筋を浮かべながらそう言ってくるイーヴィディル、彼の取り巻きも
「何無視してんのよ!」「ちょっとあんた達聞いてんの?」などと言っているが、自分達の世界で論争を始めている彰達にそんなことが聞こえているわけがない。
「なるほど……そういうつもりならいいだろう……今の内に精々楽しんでおくことだな!!」
それだけ言うと、彼は彰達から離れいった。
「あ、ヤベ、あいつのこと忘れてた……」
「大丈夫だよアキラ、正直ボクも忘れてたから」
「……忘れては…いなかった…相手はしなかった…けど……」
「いや、忘れてなかったんなら相手してやれよ……」
「……だって…めんどくさい…もん……」
「いや、まあそりゃそうだけどさ……お前らもし俺が負けたら大変なことになるかもしれないのわかってるか?」
と、ノエルの返答に呆れた顔をしながら言う彰。
リンとノエルはそれに対し、顔を見合わせると突然笑い始めた。
「ど、どうしたんだよ二人とも……俺そんな面白いこと言ったか……?」
「大丈夫大丈夫、アキラ心配するようなことは何もないからさ!」
「……心配…いらない…よ……気にしなくても…だいじょうぶ……」
「いや、そう言われるとなおさら気になるんだが……」
「はいはい、そんなことよりも早く闘技場の中に入ろうよアキラ、ふふ」
「……急がないと…失格に…なっちゃう…よ……」
「いや、まあそれはそうだけどさ……」
「いいから、いいから!!」
「……細かいことは…気にしちゃ…ダメ……」
そう言って彰の手を引っ張って闘技場の中へと向かう二人。
(ふふ、心配してないのなんて当たり前だよ。だって……)
(……アキラが負ける姿なんて……想像できない……もん)
彰の手を引きながら、リンとノエルは去来してきたそんな思いをそっと胸にしまった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「はいは~い、会場の皆様、ご注目下さ~い!」
司会の男がマイクを片手に告げると、今までやれ今年優勝するのは誰々だとか、やれ今年のあいつは期待出来るなどと騒いでいた観客達は静まりかえる。
ちなみにこのマイク、別に電力を使っているわけではなく、この世界で採れる拡声石という鉱石を加工したもので、この鉱石は魔力を通した状態で至近距離で音を当てるとその音を拡散させるという特性を持つ。
「それでは皆様、お待たせいたしました、いよいよ予選に出場する英雄達の登場です!」
司会のその声と同時に、わきに控えて居たのであろう選手達が続々と入場してきた。当然、その中には彰達もいる。
「さて、それでは出場する選手の皆様も入場したところで、早速予選のルールを説明したいと思います!」
司会がそう叫ぶと、会場が拍手に包まれる。
「ルールは至って簡単、予選参加者を幾つか、まあ八つ程ののグループに分け、そのグループで競ってもらい、最後まで残っていた二人が決勝に進出することと致します。
そして、勝ち残った人達は決勝トーナメントに出場する権利を獲得することができ、参加者が決定した時点でトーナメント表の組み合わせを作成、決勝トーナメントを戦っていってもらうこととなります」
わかりましたか? と確認をとる司会。
この司会の説明を聞いて参加者たちの多くは一層やる気をが出て来たらしく、気合の入った表情をしている。
「それではこれから予選のグループ分けを発表致します。
ところで出場者の皆様、入場の際にブレスレットを貰ったと思うのですが、一度確認していただけますか?」
司会のその言葉をきっかけに、それぞれ自分の腕に着けた腕輪を確認する参加者達。
そして、司会は出場者達が自分の腕輪を見ているのを確認すると、再び話を始めた。
「実は皆さんのその腕輪の色、それこそが予選のグループ分けとなっております。
その腕輪は本人が気絶したり、試合が始まってから場外に出たりすると外れるようになっており、それを元に審判は失格の判断をしますので、その腕輪は絶対に外さないで下さい。
それでは予選第一回戦は腕輪が赤の人から始めていこうと思うので、他の色のかたは退出をお願いします」
そして腕輪は赤以外の人達は全員が退場し、フィールドには腕輪が赤い人のみが残った。
「それでは皆さん、用意はよろしいですね?
では、予選第一回戦、スタートです!!」
こうして闘技大会の幕が切って落とされた。




