エントリーその2
「それじゃあお姉さん、エントリーお願いします」
「わかりました、皆さんは冒険者ですか?」
「はい、三人とも冒険者です」
「それではギルドカードを出してください」
彰達三人はお姉さんの言う通りにギルドカードを差し出す。
「ありがとうございます、それでは少々お借りしますね」
そう言って三人分のカードを受け取ったお姉さんはそのうちの一枚を水晶のようなものでできた台座にのせた。
すると、カードをのせた台座が輝き、そしてすぐに収まる。
お姉さんはそれを確認するとそのカードをとって次のカード、という感じで同じことを3回繰り返した。
「はい、大丈夫です。
これで皆さんの情報が登録されました。
それではこちらはお返ししますね」
彰達はそれぞれお姉さんからギルドカードを受けとる。
「次に、一応書面の方にも皆さんの情報を残しておきたいのでこちらの紙に名前、種族、ジョブ、魔力量、それと冒険者ランクを書いていただけますか?」
そう言って紙をとペンを渡してくるお姉さん。
彰達はお姉さんから渡された紙にそれぞれの情報を書き入れ、お姉さんに返した。
「はいありがとうございま……え?」
受け取った紙の内容を見て何やら不思議そうな顔をするお姉さん。
「何か問題ありましたか?」
「あの、アキラさん?」
「はい、何か?」
「書類にはちゃんと本当のことを書いていただけますか?
あんなことになって見栄を張りたいのはわかりますが書類に嘘を書くのは……」
「あのーすんません、嘘なんか書いてないんですけど……」
「はぁー、あのですねアキラさん、付与術師ってだけでもなかなかやっていくのが辛いジョブなんですよ。
その上魔力量がたった100しかないんじゃCランクになんてなれるわけないじゃないですか?
嘘は書いちゃダメですよ、嘘は。
わかっていただけたなら早く本当のランクを……」
次々とアキラが嘘をついていると断定して言葉を重ねるお姉さん。
しかし、それを聞いていたノエルがしびれを切らして口をはさんだ。
「……アキラ…嘘なんか…ついて…ない…」
「いやいや、そんなはずは……」
「……そんなに…疑うなら…調べて…みれば…いい」
「……わかりました、そこまでいうなら調べてみましょう、なに、今登録した情報を見ればすぐにわかること……」
そう言って水晶に手を当てて彰の情報を調べるお姉さん。
そして、やがて、お姉さんの表情は呆れ顔から驚愕へと変化した。
「……うそ……本当にCランクだなんて……」
「とにかく誤解が解けたのは良かったね、アキラ」
「ああ、今のは焦った、ノエル、ありがとな?」
「……私…パートナー…とうぜんのこと…気にしなくて…いい」
少し頬を朱に染めながら誇らしげに言うノエル。
「すいませんでした、アキラさん、そうですよね、付与術師ならパーティー次第で強くなることもありますよね……他のお二人はエルフと獣人ということですし」
「お姉さん、まだ勘違いしてるよ?」
「え……それはどういう……?」
「だってこの三人の中で一番強いのはアキラだよ?」
「……アキラ…つよい…二人がかりでも…勝てない……」
そのリン達の言葉を聞いて、それを許容することができず、思考停止状態になってしまうお姉さん。
「エルフと獣人が二人がかりでも勝てないってそれはさすがに……」
しかし、お姉さんはそこまで言ったとこで、ノエルとリンの真剣な顔を見て、安易に否定出来なくなってしまった。
「……まさか…本当に……?」
「リン、ノエル、その辺にしとけ、すいませんお姉さん、困惑させちゃったみたいで、次の説明に行ってもらって大丈夫ですよ」
「……あ、はい、わかりました。
ランクを疑った事、本当にごめんなさい。
それでは大会の説明に入らせていただきますね?」
「はい、お願いします」
そう言うと、お姉さんは仕切りなおすかのように話し始めた。
「この闘技大会はあらゆる種族のあらゆる人々が参加し、自身の力を他者と競い合う事ができる大会です。
皆さんには明日、まずは予選を行ってもらい、そこで残った人達のみが本戦に出場することができます。
そして、本戦のトーナメントで辛い戦いを勝ち抜き、見事優勝できにこぎつけた者のみが、現在の王者であるイースフォードさんへの挑戦権を手に入れることができるのです。」
そこまでをノリノリで説明するお姉さんに対し、彰達はイースフォードという初めて聞く名前に、怪訝な顔をする。
「あの~、すいません、そのイースフォードってどんな人なんすか?」
「え、まさか現王者のイースフォードさんのことを知らないんですか!?」
「……初耳……」
「すいません、ボク達まだこの国に来たばかりなんです」
「なるほど……それじゃあ仕方ないかもしれませんね、イースフォードさんとは現在、少し前の闘技大会で王者の座をもぎ取って以来、王者の座を延々と死守し続けている方です。
なんでも、彼の振るう剣には特殊な力が宿っているだとかなんとか……まあ本当かどうかはわからないんですけどね」
そう言って少し苦笑いをするお姉さん。だが、そこで彰は一つ疑問に思ったことを聞いてみる。
「え、そんなに試合に出ているのにその戦い方が詳しく知られていないんですか?」
そうそれだけ試合に出て、連勝記録を築いているのであれば、その戦闘方法などはすでに知れ渡っているはずなのである。
「それはですね、イースフォードさんとまともに戦える人がいないからなんです。
彼は今までの試合の相手を全て、手の内をほとんど見せることなく、瞬殺してしまっているのですよ」
「へぇ……そんなに強いのか、ぜひとも戦ってみたいな」
「あ、またアキラの変なスイッチが入っちゃったよ……」
「……アキラ…自重…しなきゃ…だめ」
呆れ顔でそう言う二人にすねた感じで言葉を返す彰。
「え~でもそんなに強いなら一回戦ってみたいじゃんかよ」
それを見ていたお姉さんが少し笑ってアキラに言った。
「ふふ、戦えるといいですね、でもそのためにはまずは頑張って大会で優勝しないとですよ」
「あ、そうでした、いや、いっそうやる気出て来たな。あ、話し止めちゃってすいません、続きお願いします」
「わかりました。それでは話を続けますね。
もしもあなたが優勝して、現王者と戦い、倒す事ができれば、あなたが次代の王者となることができます。
王者という立場にはかなりのこの国における権力があり、そのため、沢山の優遇を受けることができるようにもなります、ここまでで何か質問はございますか?」
「沢山の優遇って例えばどんなのがあるんですか?」
「そうですね……例えば、宿屋が無料で使えたり、国中のお店ものがものにもよりますがもらえたり、飲食店で好きなだけ食べる事ができるとかですかね?」
「……お肉…食べ放題…すてき……」
「魔法道具がもらい放題……えへへ」
「いろんな武器がもらえる……いいな、それ」
お姉さんの説明を聞いてそれぞれの妄想に胸を踊らす三人。
お姉さんはそれを少しの間微笑ましそうに眺めてから、話しを切った。
「説明は以上となります、他に何か聞きたいことはありますか?」
「あ、この大会って確か他の種族も参加できるってことでしたけど、実際どのくらい参加しているもんなんですか?」
「そうですね、参加できるといっても、正直、他種族の参加者はあんまりいないですね、今回の大会では他種族はリンさんとノエルさんの他に獣人の方が何人かいたくらいだったかと思いますよ」
お姉さんの他にも獣人がいるという話を聞いて、ノエルが反応する。
「……私以外の…獣人……」
(まあ王都では正直、他の獣人と話す機会なんてなかったからな、この国では他種族の差別みたいなのはほとんどないみたいだからもしかしたら話せる機会もあるかもしれない)
内心でそんなことを彰は考えていたりする。
「それでは他に何かありますか?」
「いえ、もう大丈夫です」
「そうですか、それでは明日は予選ですので、朝早めに闘技場に来てください。それでは御健闘を」
「ありがとうございます、それじゃあ行くか、リン、ノエル」
「うん、そうだね、今日は早く帰って明日に備えようよ」
「……休むことも…大切……」
そうして三人は少し寄り道をしながらも、早めに宿へと引き返したのだった。




