彰、デートに付き合う
先日のあの事件を何とか解決した彰達は仲間も一人増え、安定した冒険者生活を―――――
「ふふ、ボクの魔法で黒コゲにしてあげるよ! 我、求むるは灼熱の炎―――火球!!」
リンがそう唱えると彼女の目前にいたオーガが一体が燃え上がり、炭となって消えた。
「おい、リン! 何でもかんでも燃やしつくすな! 証明部位がとれないだろ!」
彰はオーガを一体の体を両断しながらリンを叱る。
「ええーそんなー! 燃やし尽くさない方が難しいよ~」
「……リン…わがまま言わない…」
リンにそう答えながらも、ノエルはオーガの急所に正確に矢を打ち込んでいく。
「そんなこと言われても……あ、我、求むるは灼熱の炎―――」
「やめろリン! しれっと詠唱を開始するな!」
「―――――火球!!」
彰の声を無視して魔法を発動するリン。するとその炎に巻き込まれて、近くにあったオーガの死体までもが消し炭になった。
「ああああ!! せっかく倒したオーガの死体がぁぁぁぁ!!」
―――――送れていなかった。
というのも、どうやらリンの魔法の火力が強すぎて、死体を残さずに焼き尽くしてしまうのだ。
さすがはベヒーモスを後に何も残さず焼き尽くせる程の魔法の使い手である。
困った彰が今までどうしていたのかと聞くと運次第で焼け残ったのをギルドに持って行ってたらしい、道理でランクが上がるのが遅いわけだ。
そうしてリンの加入により、パーテイーは安定するどころか、むしろ少し混乱していた。
「はぁ…はぁ……なんか普通に狩るより疲れたな……」
「……辛い戦い…だった…」
「あーもう! 悪かったよ! でも、そこまで言わなくたっていいじゃないか! ボクだって努力はしたんだよ、努力は!」
「その結果が俺とノエルが倒したオーガの死体まで焼き尽くすという結果か……」
「うっ……ごめんなさい……」
「……リン、素直で…よろしい」
そんな会話をしながらオーガ討伐の依頼を達成した彰達は報告をしにギルドまで戻って来た。
あと、一つ言い忘れていたがリンは彰達と行動するようになってから、あのローブを着なくなった。
本人曰く、『アキラとノエルちゃんがいるからもう大丈夫』とのこと。
正直、リンの素顔は普通に美しく、一緒に行動することになって、同じ宿屋で過ごしている彰としてはふと会うたびにドキドキしてしまって全然大丈夫ではなかったりする。
「んじゃ、報告してくるからギルドカード貸してくれ」
「はい、これ」
「……よろしく」
彰はギルドカードを受け取ると一人、受付に向かった。最近は報告は彰の仕事になっているのである。その姿はまるでパシリのようだった。
「あら、アキラさん、大丈夫ですか、なんかやつれてますよ?」
「ハハ、気にしないで下さい、あの、それよりもこれを……」
受付嬢にそう軽く答えると、彰はオーガの討伐証明部位の入った袋を渡した。
「あ、はい。わかりました。少し確認しますね?」
そう言うと袋を開けて確認を始める受付嬢。
いつもならここで黙々と確認するのだが、今日は何故か受付嬢が話しかけて来た。
「そう言えばアキラさん、聞きましたか? 勇者が召喚されたって話」
「勇者?」
「ええ、何でも最近魔物の活性化とか、ティターンの出現とかいろいろあったじゃないですか?」
(まぁ、ほとんどあなたが解決したんですけどね……)
と、内心受付嬢は思っているが声には出さない。
「ああ、そうですね。でもそれと勇者が召喚されたことに何の関係が?」
「それがですね、これらの事件は魔王が復活したことが原因みたいなんですよ。
それで、その魔王に対抗するために、王都では勇者を召喚したという話です」
(なんか、王道物の異世界トリップ物みたいな話だな……)
「それ、本当なんですか?」
「わからないです、まだ詳しい情報が来てないので、でも火のない所に煙は立たぬと言いますし……」
「そうなんですか、でもなんでそんな確証のない話を俺に?
ギルドが裏をとれてない情報を流すのはまずいんじゃ……」
「ただの暇つぶしですよ。はい、アキラさん、確認終わりましたこちらが報酬の銀貨5枚とギルドカードです」
彰はなんとなく納得できない顔をしながらもそれらを受け取ると二人の所へ戻ると、それぞれにギルドカードを返して、ギルドを後にする。
「さて、依頼も終わったがまだ宿屋に帰るにゃまだ早いし、どっか行こうと思うがどっか 行きたいとこ有るか?」
「はーい、はーい、じゃあボク、服とか見に行きたいな!」
「服って、ついこの間、買ったばっかじゃんか……また新しいの買うのか?」
「ふ、ふん! 女の子は身だしなみに気を遣うもんなんだよ!」
「ついこの間までフード付きのローブしか着なかった奴が何言ってんだか……」
「そ、それは……あの時は事情が……ふん! もう知らないもん!」
「おいおい……悪かったって、機嫌直せよ……」
「……え、な、なにを………………むぅ…」
そう言いながら彰がなんとなくリンの頭を撫でると、彼女は顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
そのまま少しそうしていると、ノエルが無表情ながらも、どこか不満そうな顔をして彰に近づいてきた。
「ど、どうしたんだ……ノエル?」
「……ん…」
彰がノエルにそう問いかけると、ノエルは無言で自分の頭を差し出した。
(何なんだろうか……もしかして自分も撫でろってことなのか……?)
彰はノエルの行動をそう解釈すると、空いている方の手でノエルの頭を優しく撫でてやった。
「……うにゃぁ~……」
そう満足そうな顔で小さな声を上げながら猫耳と猫尻尾を気持ち良さげに動かすノエル。
そこで彰はノエルにも行きたいところがないか聞いてみることにする。
「ノエルは行きたいところあるか?」
「……アキラと一緒なら…どこでもいい……」
「そっか、じゃあ、とりあえず服屋に行くか……ところで、これ、もうやめていいか? いろんな意味で周りの視線が痛いんだが……」
彰の言う通り、ギルドから一歩外に出ればそこは人通りの多い街中である。そんなとこでエルフと獣人の少女と一緒にいるだけでも目立つのに、その上撫でているとなれば奇妙な趣味の男として注目されない筈がなかった。
「……だめ、このまま行く……」
「しょ、しょうがないね! こ、こんな恥ずかしい格好を…ノ、ノエルちゃんだけにさせるわけにはいかないから…ボ、ボクも付き合ってあげるしかないね!」
「……私は…別に…気にしない……」
「―――とノエルは言っているが……」
「も、もうッ!! 細かいことは気にしないでさっさと行ってよ!」
「いや、俺的には全く細かくないんだがな……」
「い、いいから、ほら! 早く早く!!」
「ああ、わかったよ! 行けばいいんだろ! 行けば!」
「……アキラ…遅い……」
「はい、はい、わかりましたよ……」
結局、彰は諦めて、撫で続けていることによる腕の疲れを必死に我慢しながら、服屋の方へと歩き出すのだった。




