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VSティターン(後編)

「おっしゃ、じゃあ―――作戦開始だ!」



 その声と共に彰は”高速化”をかけると巨人のもとへと疾走する。


 対して巨人は目が見えないながらも彰の気配を感じ取ったのか、即座に彼に反応、復活したその右の剛腕で彼を襲った。


 しかし彰は止まらない、その破壊の権化たる剛腕から逃げるのではなく、むしろ自ら向かって行く。


 そしてその剛腕が彰を襲う。だがそこにすでに彼はいない。


 彰は巨人の剛腕が自身を襲う直前、瞬間雷化で超加速、巨人の攻撃をすり抜けて、一息に巨人の懐に入ると飛翔、攻撃をかわされ無防備な右腕を軽々と切りおとした。



「―――***********―――!」



 叫ぶ巨人、直後重力により落下する彰。


 その彼を巨人の左腕が襲った。しかし、空中で落下している彰に為す術はない。


 いかに彰といえど、空中では腕に対抗できない。流石に焦る彰。



「くっそ!疲れるからまだ使いたくなかったが……」


 そこで已む終えず、彼は自身の体に付与術をかける。



(特性付与―――”雷化”)



 瞬間、彼の体は雷に変化し、自身が認可したもの以外の物理干渉を一切受け付けなくなる。


 彼の体をすり抜ける剛腕、そのまま彰は地上に着地するとそのまま左腕も切りおとした。



「―――***********―――!」



 後退する巨人、しかし彰はそれを許さない。



「―――させるかよ―――!」



 彼は一足で彼我の間を詰めるとそのまま巨人の右足を自身の剣で串刺しにし、地面と連結させると同時、その剣に付与術をかける。



(特性付与―――”重量化”)



 直後、剣の重量が増加し、巨人の右足が地面に完全に縫いつけられた。



「―――リン、ノエル、今だッ―――!」

「了解!」

「……待ってた」


 その声を聴いたノエルはボウガンを構え、リンは詠唱を開始する。



「我、求むるは灼熱の矢―――火炎の矢(ファイアアロー)



 詠唱により巨人の腹部の辺りに炎の矢が飛来し、着弾、しかし、その程度の魔法では巨人には通用しない。だが、



「……十分」



 それはしっかりとノエルの狙う的としての役割を果たした。


 そしてノエルはそれにしっかりと狙いを定め、引き金を引いた。


 その刹那、巨人に向かって放たれる矢、しかし、そのままではただの矢だ。当たったところで巨人に大したダメージは無いだろう。


 だが、それに彰は付与術をかけた。



「―――くらいやがれ! 特性付与―――”巨大化”ぁぁぁ―――!」



 彼が矢にその術をかけるや否や、矢に変化が起こった。


 矢、そのものが大木のように巨大化したのだ。


 そのまま矢は大気を切り裂きながら巨人へと向かって飛んで行き、吸い込まれるかのようにリンの示したティターンの核の位置へと吸い込まれていった。


 その光景に勝利を確信する一同、しかしリンは作戦の失敗を悟った。



「ダメだよ!矢が完全には刺さってない!このままじゃ奴はまた再生しちゃう!」



 そう、矢はティターンの核に届いたが、破壊するには至っていなかったのだ。


 よって矢が作り出した結果はその威力によりティターンを少しの間怯ませることのみだった。


 皆がその結果に絶望する。だが、ノエルはその中でただ一人、落ち着いて状況を見ていた。


 なぜなら彼女にはわかっていたのだ。


 それがわかったのはこの一週間、彼と共に生活し、共に戦ったが故にお互いの手の内を知り尽くしていたノエルだからこそである。



「……だいじょうぶ」



 絶望をその顔に浮かべるリンにノエルは自信を持って告げた。彼女のその自信の裏にあったのは彼ならやってくれるという絶対的な信頼であった。


 確かにノエルができたのは核へと繋がる楔を立てる(・・・・・)ことと、わずかな隙(・・・・・)を作ることのみだ。


 しかし、それでも彼には十分すぎる。何故なら彼―――彰にはその一瞬さえあればその彼我の距離を無にすることができるのだから。


 そしてその時、その場にいた者達は確かに見た。


―――――それは一人の男の背中。


 男の拳は岩石のように固く握られ、その上体はまるで自身の持つ力を最後の一滴まで絞り出すかのように後方へと捻られている。


 また、彼のその鋭い視線は彼女―――ノエルが立てた巨大な矢という名の楔、その一点に向けられていた。


 そして、突然、彼は笑った。まるで強敵と会えたことを喜ぶかのように……。


 その笑顔は無邪気に遊ぶ幼い子供のそれであった。



「なかなか面白かったぜ!お前ッ!!」



―――――彰がそう叫んだ直後、彼は溜めに溜めたその全身の力を一気に爆発させた。


 戒めから解き放たれたかのように彼の拳が力強く動き出す。そしてその右拳に集約された彼の全身全霊の力はノエルの立てた巨大な楔へと余すことなく伝えられる。


―――――瞬間、楔は爆ぜた。


 受けた力、その全てをを引き継ぐかのように射出された楔はティターンの核を何の苦も無く貫いていった。


 自身の核を失ったティターンはゆっくりと後方へと倒れ、そして少しづつ消えて行き、やがて跡形もなく消え去った。



「倒した…の……?」



 リンがそうつぶやくとその現実を徐々に一同は認識し、助かったという喜びと共に歓声が巻き上がった。





◆◆◆◆◆◆






 ティターンを倒した彰達は他の者達に激しく感謝された。


 さっきまでリンのことを罵っていた者達もティターンに比べればエルフなど些細な問題だったらしい。


 一同は試験を中断させることにし、ひとまず洞窟を出てギルドへと向かうことにした。


 ギルドへと向かう道中、リンが彰に話しかけて来た。



「キミは一体、何者なの?」

「何者もなにもただのFランク冒険者だぞ?」

「……わかった、質問を変えるよ。どうしてキミは奴隷の首輪を外したんだい?」



 リンは正直、なんでそんなに強いのか?、どうやって首輪を外したのか?、などと他にも聞きたいことはたくさんあったが、その中でもあえてこの質問にした。


 彼からは獣人やエルフに対する偏見を一切、感じられなかった。リンはそれが気になったのだ。



「どうしても何も、まず、俺はノエルを奴隷にしたくて買ったんじゃない、ただ病気にかかってたあいつを助けたかっただけだ。だから外した」

「それだけ?」

「あとはノエルにも言ったが俺は人を無理やり従わせようとするのが気にくわなかった。人生は他人に決められるもんじゃないからな」



 その返答の中、彼が何気なく獣人を人として扱っていることにリンは驚いていた。


 そう、彼の中では獣人だろうとエルフだろうと同じ人間なのだ。


 それに気づいた時、リンの顔からは自然と笑みがこぼれた。



「―――そっか……そうなんだね、アハハ」



 突然笑い出したリンを怪訝な顔で見る彰。



「ハハ、ごめん、何でもないよ。さ、早くギルドに戻ろうよ、アキラ。ボク先に行ってるね?」



 そう彰に言うとリンはさっさと一人で先にいってしまった。



「……リン…変な人」



 と、今度はノエルが彰に声をかけて来た。



「ノエル、今日はお疲れさん、大活躍だったな!」

「……アキラほどじゃない…私はただ…矢を放っただけ……」



 そう淡々彰に答えながらもその顔はかなり嬉しそうだ。



「ハハ、照れてんのか?」

「……照れてない…」

「また、見栄張りやがって……可愛いな奴だな、ノエルは」



 彰がそう言った瞬間、ノエルの顔が一瞬でボッっと耳まで真っ赤になった。



「ッ!?……か、かわいいなんて…」



 そう言ったきり、ノエルは俯いて黙ってしまった。



「あれ、どうしたんだノエル? 具合でも悪いのか……まさかッ! 病気が再発して―――」

「―――ち、違う! 気にしなくていい!……先に行く!」



 と、珍しくノエルにしては焦って答えるとそのまま俯いてそそくさと行ってしまった。



「まったくなんなんだ、二人とも……」



 彰はそうつぶやくと自分のペースでゆっくりとギルドへと歩いて行った。






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