ノエル、ギルドへ行く
感想で『説明口調っぽい』、『RPGという表現が微妙』と指摘されたタール村編【2話】の辺りを少し改変しました。
全体のストーリーへの影響は全くないので見なくても何の問題ありません。
それでは本日分です。どうぞ
ノエルが泣き止んだのを確認すると彰はノエルの頭からゆっくり手を放した。
少し寂しそうな顔をするノエル。そんな彼女に彰は笑いながら言った。
「ところでノエル、おなか空いてない?」
「……大丈夫」
すましたように答えるノエル。
しかし、ノエルがそう彰に答えるのと同時に彼女のおなかからグギュルル~という音が聞こえた。
「ハハハ、やっぱ空いてんじゃん」
「……だっ大丈夫」
それでも認めようとしないノエル。そんな彼女を彰は無理やりベッドから連れ出すと、一階の食堂へ向かった。
そしていつも通り適当な席に着いた。
しかしノエルは一向に座ろうとしない。困った彰はノエルに座るように促した。
「……座っていいの…?」
「あたりまえだろ?早く座ってくれ、そうしてくれないと落ち着いて食べれないよ」
「……わかった、アキラ」
ノエルは渋々席に着く。しばらくすると朝食のパンが運ばれてきた。
彰はいただきますと言ってから食べ始める。しかしノエルは何故か食べようとしない。
「どうした?早く食べろよノエル、おなか空いてんだろ?」
「……本当に、いいの…?」
ノエルは彰に奴隷に対する扱いとは思えない扱いをすでにしてもらっている。
なのにこれ以上優しくしてもらっていいのかという思いが彼女を戸惑わせる。
「もちろん、食いたいだけ食えばいいさ」
彰がそう言うとノエルはパンを凄い勢い口に詰め込み始めた。よほどおなかが空いていたのだろう。先に食べ始めた彰より食べ終わるのが早かった。
朝食を終えると彰はノエルと一緒に外へと向かう。
彰は本当なら今日から冒険者として活動するつもりだったが首輪を外すのに体力をかなり使ってしまったし、自由になったノエルがこの先どういう選択をするとしても、服などの最低限の生活用品は必要だったので今日はそれを買いに行くことにしたのだ。
彰がそんなことを考えているとは知らずに彰の後をとことことついていくノエル。
彰はまずは服を買いに行くことにした。女の子だから雑貨屋よりも服屋で本格的に買った方がいいと思ったからだ。
「さて、ノエル、俺には女の子の服とか下着とかよくわからんからこれで適当に買ってきていいよ」
そう言って金貨を2枚取り出してノエルに与える。
「…ッ!?…こんなに、いっぱい…いいの…?」
金貨など初めて見たノエルはそんな大金を貰えないと遠慮する。
「いいよいいよ、どうせ必要になるだろ?」
それから少し抵抗していたノエルもやがて折れてお金を受け取り、中に入って行った。その顔は少し嬉しそうだ。
少しすると中から大きな袋を抱えたノエルが出てきた。大きい袋を両手で抱えるように持っているため視界が狭いのかその足取りはひどく危なっかしかった。
「荷物持てるか?」
「……大丈夫」
そう答えているものの、やっぱりふらふらしていて全然大丈夫ではなかった。
彰はノエルの持っている紙袋をかっさらうと片手で抱え込むようにして持つ。
「……あっ…」
「ふらふらしてんだろ、これは俺が持つよ」
「……大丈夫、なのに…」
ノエルは少し不服そうだったが、それでも彰の優しさが伝わったのか嬉しそうでもあった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「はぁー結構買ったなぁ~」
彰はそうぼやくと椅子を引っ張り出し、そこにノエルを座らせると自分はベッドの端に腰かける。
あの後も彰達は結構な量の買い物をしたが、結局残りの荷物も彰がもってしまった。
そんな感じで他の物もそろえた彰達は荷物を置くついでに宿屋で昼食をとることにし、自分たちの部屋に戻って来たのである。
一息つく二人、そこで彰が話を切り出した。
「それで、ノエルはこれからどうするんだ?」
その言葉の意味が分からず、首をかしげるノエル。
「……?」
「だからさ、ノエルはもう首輪もないんだから俺の奴隷じゃないんだ。だからどこでも好きなとこに行っていいし、好きなことをしてもいい、家族を探すのだっていいだろうし―――」
そこまで行ったとこで彰は気づいた。ノエルが泣いているのだ。
そしてノエルは彰の目を見て震える声で告げた。
「……アキラ…私…捨てるの…?…私…いらない…?」
それを見て慌てる彰。女の子の涙にはとことん弱いのである。
「ちっ違う!そう言うことじゃなくて、俺はノエルは俺の奴隷なんてやらないで自由に生きていいって話を…」
「……私…ここを出ても…行くとこない…そしたら奴隷に…戻るだけ…アキラ…優しい…一緒に居たい…ダメ?」
その姿を見て彰も説得を諦めた。
「ああ、泣くなって、いいから、ここに居ていいから!だから泣かないでくれよ…」
「……ほんと…?」
「ああ、本当だ。改めてこれからよろしくな?ノエル」
彰はそう言うと朝と同じように頭を撫でてやる。
「……ふにゃぁぁ~」
可愛い声を上げるノエル、嬉しそうに激しく自己主張をする猫耳と猫しっぽ、もう涙は止まっていた。
そしてノエルはゆっくりと顔を上げ、
「……まったく…アキラ…ずるい」
と言った。その顔には笑みが浮かんでいた。
そのノエルの笑顔は可愛く、彰は少し見とれてしまった。そして同時にノエルを助けてよかったと心の底から思った。
あの後、そのまま宿で昼食を食べた彰達はそのまま冒険者ギルドへと向かった。ノエルの冒険者登録のためである。
彰が一緒に過ごすということでノエルに自分が冒険者だということを話したところ、ノエルが自分も登録したいと言い出したのだ。
彰も身分証をとして使えるため、元から登録させようと思っていたのでそうすることにしたのであった。
まだ記憶に新しい古びた扉を開けて中に入る彰達。この前と同じくギルドは賑わっていた。
そのまま彰は受付に向かった。そこにいたのはこの前と同じ人だった。
「あら、アキラさんじゃないですか、依頼ですか?」
「よく覚えてましたね、俺のこと」
「そりゃもう魔力100のエンチャンターなのに大量の大物を狩った人として受付では期待の新人として有名ですから」
「マジですか……」
特に目立つようなことをした記憶がなかった彰は少しげんなりする。目立ってもいいことなど何もないのだ。
「それで、本日は早速依頼ですか?」
「ああ、違うんです、この子のギルド登録をしようと思って…」
彰がそう言うと何故か少し残念そうな顔をする受付嬢
「その子ですか?わかりました。ではこちらに記入をお願いします」
「あ、代筆を―――」
と頼もうとした彰のすぐ横からノエルはひょいっと出てくるとスラスラと用紙に記入していた。
「―――はいらないみたいですね、ハハハ」
(ノエルって文字書けたのか…今度教えてもらおう…)
そう思いながら苦笑いをする彰。彰がそんなことを思っている間にもノエルは記入を終えて受付嬢に紙を渡した。
そして用紙に目を通していた受付嬢の視線がある一点で止まり、なんかひきつった笑いをしながらノエルの方を向く、因みに何故かちらちら彰の方を見てくる。
受付嬢は用紙のある一点を指さしながら言った。
「あの~この職業の所の『奴隷』ってどういう意味でしょうか」
「……そのままの意味…私はアキラの奴隷…」
「え、ちょっとまて、ノエル!違いますよ!別にそう言うわけじゃ…」
「……え…やっぱり…」
また悲しそうな顔で俯くノエル。
「いや、違う!そう言う意味じゃなくてだな…」
「……なら…私はアキラの奴隷」
「はぁー、もうそれでいいか…」
彰が諦めて受付嬢の方を向くと彼女は何故か青白い顔をしていた。
「あの…どうしました?」
「ノエルさんは奴隷というけどその首には首輪は無い…ということはまさか性…」
「その先を言うなッ!!何を勘違いしてんのッ!?違うからな、別にそう言うわけじゃないからな!」
「でも奴隷って…」
「それは本当に奴隷というわけではなくてですね…」
「……え…やっぱり…」
「ああ、だからそういう意味じゃなくてだな…」
「ということはやっぱりこんな幼気な少女を毒牙に…」
「ああああ、もうなんだこの無限ループ!俺にどうしろっつーんだぁぁぁぁ!!」
それから彰は何とかその騒ぎを収め、手続きを進めてもらった。
因みにこの後、受付達の間で彰の二つ名が期待の新人から期待の変態になったことは言うまでもない。
「それではこちらがギルドカードになります」
渡されたギルドカードはこんな感じだった。(日本語翻訳済み)
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【名前】 ノエル(14) 【ランク】《F》
【職業】 奴隷
【魔力】 3000/3000 【依頼達成数】《0》
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何気に自分よりも魔力が高いことに落ち込む彰。
ノエルは満足げにそれを受け取る。何故かその顔は少し嬉しそうだ。
「……よかった…これで私…アキラと一緒に依頼…受けれる」
「え、ノエルには登録だけしてもらって依頼は俺一人で受けようと思ってたんだが…」
「……やだ…私も行く」
「えぇ~でもな…」
「……行く…私、獣人…役に立つ」
「ああもう、わかったよ、じゃあこの後装備をそろえるぞ」
「……ありがとう」
なんだかんだ言ってノエルに弱い彰である。そう決めると彰達は受付嬢にお礼を言ってギルドを後にし、武具屋に向かった。
ノエルちゃん可愛さ倍増 (のつもり)でお送りしております。
すいません、ぶっちゃけ『ふにゃぁぁ~』が言わせたかったんです…。
読んでいただいてありがとうございました。




