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ノエル

お待たせしました皆さん、遂にヒロインの登場でございます!!


それでは本日分どうぞ!

「………んっ……ここは…?」



 少女―――ノエルは見知らぬ部屋で目を覚ました。


 奴隷になってから久しぶりに感じるベッドの温かく、柔らかい感触に戸惑う。窓からは温かな日の光が差していた。



 「……なんで、こんなとこに…?」



 困惑するノエル。そしてあることに気づいた。


 今まであったはずの寒気や酷い咳が一切なくなっているのだ。


 一瞬あの奴隷商の店主が治療してくれたのかとも思ったがすぐに否定した。あの男がそんなことをするはずがないと。


 そしてノエルが現状を確認するためひとまずベッドから出ようと上体を起こすと何かが自分の額から落ちた。


 それは布だった。そしてその布は何故か少し湿っていた。まるで誰かが私のことを看病してくれたようだと思うノエル。そこで気づいた。ベッドの端で誰かが顔を伏せて寝ているのだ。



「……この人が…?」



 怪訝に思ったノエルはその人の顔を頭を少し下げて覗き込んだ。


 彼女はその顔に見覚えがあった。そして昨日のことは寒気などで意識がはっきりしていなかったのでぼんやりとしか覚えていなかったが自分のことを買った人だということはなんとなく思い出せた。



「………御主人?」



 その声でやっとその人―――彰は目を覚ました。


 一瞬、何でこんなとこに猫耳の少女が?と思ったが、そこで昨日のことを思い出し、寝ぼけた頭でやっと状況を把握する。どうやら看病している間に眠ってしまったらしい。



「…ん?ああ、俺いつの間にか寝ちまってたのか…起きたんだな、どうだ具合は?」

「……悪くない…むしろ元気」

「そうか、それは良かった」



 少女の具合がよくなったことに安心し、笑顔を浮かべる彰。



「……治してくれたの…?」

「違う違う、俺はただ単に君の病気と闘う力を強くしただけ、病気が治ったのは君の体が病気に勝ったからだよ」



 そう言って少女に笑いかける彰。


 一方、ノエルは奴隷の自分に向かって優しげに微笑むこの人が不思議でたまらなかった。主人が奴隷に向ける笑みなど厭らしいものや見下すようなものがほとんどだし、病気を治すなんてほとんどない、だから彼女は自分が奴隷で相手が主人ということも忘れ、その人に思わず質問してしまった。



「……あなた、御主人…?」

「まぁ一応そう言うことになるのか?俺は鬼道彰、君、名前は?」

「………ノエル」

「そっか、よろしくな、ノエル」

「……よろしく、御主人」

「なぁ、できればその御主人って呼ぶのやめてもらえないか?」

「……? ならなんて呼べば……?」

「普通に彰でいいよ」



 ノエルは自分の主が何を言っているのか理解できなかった。当然だ。奴隷に自分のことを名前で呼ばせる主など普通はありえないのである。ますます自分の主が不思議な人だと思うノエル。


 ノエルは自分の主を名前で呼ぶのは少し抵抗があったが、自分が奴隷の首輪をされてしまっている以上、逆らえば電気を流されてしまうので名前で呼ぶことにする。



「……わかった、アキラ」

「さて、それじゃあその首輪を外そうか」

「……え…?…なんで……」



 理解できないという顔をするノエルに彰は彼女の目を見て告げる。



「俺はノエルを奴隷にしたかったわけじゃないんだ。ただ病気で死にそうになってるノエルを見て放っておけなかっただけ。

 ここから先の判断は強制じゃなくてノエル自身にしていってもらいたいんだ。それに……」

「……それに…?」

「何より俺が人を強制的に従わせるその首輪が気にくわない、自分の人生は自分で選べるものでなきゃおかしい。だからそれ外すぞ?」



 ノエルはやはり彰が自分を助けてくれたのだということを改めて確認し、同時に自分の主が彼であることに何故か少し嬉しくなる。だが…



「……ありがとう…でも、それは無理」

「なんで?」

「……この首輪には…無理に外すと…死ぬほど強い電流が流れる魔法…かかってる…だから…無理」



 彰の気持ちは嬉しい、しかしこの首輪にかけられた魔法により、この首輪は一度つけられたら二度と外すことはできないのだ。


 それでもノエルは自分の主人が奴隷商のような男ではなく、彼であるだけでも幸運だと思っていた。



「なるほど、だったらその電流が効かなければいいわけだな」

「……え…?…そんなのどうやって…」

「いいから任せとけ、行くぞ!」



(さて、人に使うのは初めてだがたぶん行けるはずだ。何とか首輪の効力が切れるまでもたせて見せる!)



 彰はそう決意するとノエルの方へ右手をかざし、付与術を発動した。



「特性付与―――”雷化”」



 その瞬間、彰には莫大な疲労が訪れる。人の体を”雷化”させるには勝手知ったる自らの体を変化させるよりも遥かに体力の消耗が激しかったのだ。


 しかし、そのおかげでノエルの体はしっかりと雷へと変化し、その体からは雷電が迸っている。



「……なに…これ…すごい」



 その自らの体に起こった変化に驚くノエル。そこに彰が叫ぶ。



「ノエルッ!その状態は長くはもたない、早く首輪を外せッ!!ノエルが触ろうと思えば触れるはずだ。」

「……でも」

「大丈夫だ俺を信じろ!」

「……わかった」



 自分の命を救ってくれた彰を信じることにしたノエルは首輪に手をかけ、一気に引っ張った。


 その瞬間、首輪から電流が流れた。自分の死を覚悟して目を瞑るノエル。しかし、いくら待っても感電する痛みはやってこない。


 いや、そうではない。電流はしっかりと流れている。しかし、ノエルの体がその電流その物を吸収してしまっているのだ。


 よってノエルは死ぬどころかむしろ少し体が活力を取り戻した気がした。


 しかし、それに比例するように彰の体力は失われていく。


 自身の”雷化”ですら全力なら3分も持たないのだ、それよりも体力の消費の大きい他人の体の”雷化”など長く持つはずがない。


 まだ、電流は止まらない。その間にも彰の体からはどんどん体力が消費されていく、このままではあと数十秒持たせるのが限界だろう。


 そして10秒、20秒と経ち、彰の体力の限界が訪れる直前、



―――――電流は止まった。ノエルの手には最早ただの首輪となったそれが残っていた。



 それを確認すると付与術を解く彰。



「……ほんとに…外れた」

「はぁ…はぁ…だから大丈夫って言ったろ?」



 彰の言葉で首輪が外れたことを再確認するノエル。


 気づくとノエルの目からは涙が流れていた。


 彼女は奴隷にされた時から自分の人生を諦めていたのである。


 もう自分に自由は無いのだと、もう人から優しくされることはないのだと……。


 二度と外れることのないその首輪はそのことの象徴だったのだ。


 しかし、それは彰によって外された。


 彼は自分を死の危機から救ってくれただけでなく、自分を苛めてきたその首輪すら外してくれたのだ。



「……ありがとう…ほんとに、ありがとう」



 そう言って泣き続けるノエルを見て困ってしまう彰。



「おい、泣くなって…よかったな、外れて」



 彰はそう言いながらノエルの頭に手を置くとその頭を優しくなでる。



「……あっ…ふにゃぁ~」



 泣きながらも恥ずかしそうにほんのりと顔を赤らめて、少し俯きながら気持ちよさそうに声を上げるノエル。


 彼女の猫耳と猫しっぽは嬉しそうに動いている。 


 その反応を見て、思わず微笑んでしまう彰。


 彰はノエルが泣き止むまでの少しの間、そうして頭を撫で続けていた。






いかがでしたでしょうか?


しばらくはノエルちゃん回が続くかもしれません


読んでいただきありがとうございました。

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